慕情届かねど   作:芦田 夏糸

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 夏糸です。

小さな恋心は痛くって、甘酸っぱくて。

切ないんですよね。
思いが通じないし、通じさせる手段を知らないのですから。

 


少年編
第一話


 

ペイン襲撃後、流れる様に第四次忍界大戦へと移行した為。

木ノ葉の修復作業は半分程しか終わっていない。

中には襲撃や大戦中に滅亡してしまった少数一族の社や、屋敷跡地は問題に上がった。

修復し残すか、否か。

 

中でも、南賀ノ神社の件は揉めに揉めた。

 

一族の生き残りであるサスケが戻ってきた事によって、取り壊したかった建造物の跡地も回収出来なくなったからだ。

神社が建っている位置は、木ノ葉の里の中でも一等地だ。

あの広い境内を平地に出来れば、利益を得ることが出来る。

 

しかし、サスケはそのつもりはなく。

小さくとも神社を立て直すと言った。

 

彼は社よりも、地下にある物を守りたかった様だ。

そこにはうちはの者の中でも、写輪眼を開眼している者しか開けない隠し扉があるらしい。

そして、重要な事が記されている石碑があるのだとか。

サクラは直接、彼に聞いた訳では無いので良く分からない。

 

だが、サスケの考えている事は何となく分かった。

彼は自分の利益よりも、自分の後に続く[世代]の事を考えて石碑を残したいのだと。

 

 ・ ・ ・

 

 -痛ってぇ!!

 

大きな柱に足を取られ、芸人も真っ青になって雛壇から滑り落ちる程。

見事にすっ転んだ火影候補を、一族の生き残りの少年が冷ややかな目で見ていた。

 

「邪魔しに来たなら帰れ」

「ちょっと、サスケ君言い過ぎよ」

「そうだってばよ。ボランティアには優しく!」

 

 -だから、手伝いに来たヤツが仕事を増やしてどうするんだと言ってるんだ。

この、ウスラトンカチが。

 

相変わらず素直で無い戦友に、サクラは苦笑いをするしかない。

どんな言い回しでも、捻れて伝わってしまうのが彼の性格だ。

直しようがない程に馴染んでしまっている為に、注意をしても無理だろう。

自分さえも気づいていないのだから。

 

この場合、 怪我には気をつけろよ。 と略した方が良いだろう。

 

「日が暮れる前に、埋まったものを取り出すぞ」

 

サスケは足元に落ちていた瓦礫の破片を手に取り。

遠くへ投げた。

 

 ・ ・ ・

 

サクラは辛うじて残っていた社の一部である書庫の中に入り、まだ読める秘伝書のチェックをしていた。

 

どうしたらこんなに埃が溜まるのだろうか。

理由は分かりきったもので、もう管理をする者が居ない事を表していた。

 

埃の雪を被りながら、天井高く詰まれた本の山を一冊、一冊捲り調べてゆく。

紙に書かれた四角い箱にチェックを記入すると、大きなクシャミをした。

 

いつ終わるか分からない作業を丁寧にこなす。

一歩進めば本、二歩進んでも本。

良くもまぁこれ程詰め込めたものだ。

 

サクラは推測するに、クーデターを目論んでいたうちは一族は自滅覚悟で木ノ葉に挑むつもりだったのだろう。

自分達の知る限り、持ちたるもの全てを神聖な南賀ノ神社の書庫に詰め込んだ。

大体、こんなもんだろう。

 

ミシミシと鳴る床を歩きながら、サクラは一冊手にとった。

うちはらしい高度な火遁について、細かく書かれている。

これは重要な参考に成ると、サクラは報告するつもりだ。

悪しき物とし、燃してしまうよりも、後世に残す価値のあるものだと思ったからだ。

 

(流石ね…)

 

古い一族ならではの考え方や、術の発動方法。

集団戦に、一対一の心理戦。

サクラはそれ等を噛み締めるようにして読みふける。

 

(いけない!これを読みに来たんじゃないの!)

 

頭を振りかぶり、本を元の位置へと戻した。

一歩踏み出し、人差し指で押してやると、足元に固い感触を感じた。

木とは違う質のそれ。

 

「…?」

 

四角い、何かを見つける。

それは床に埋め込まれている形に見えた。

 

何か重要な物かも知れない。

隠される様にして本が積まれているのだから、予想は半分程当たっているだろう。

 

床に異様な違和感を感じたサクラは、瞬時にチャクラを練り上げ拳に力を漲らせた。

腰をドッシリと構えて重心を低くし、何百、何千と云う紙束を、掛け声と共に持ち上げた。

 

「どっせい!」

 

ゆっくりと、バランスを崩さぬよう。

そろり、そろりと山を退かす。

紙山から顔を出し、違和感の正体を見ると意外な物だった。

 

(わっ!何この扉)

 

 -…隠し扉?

 

隠し扉である事は確かだ。

真鍮が打たれた鉄製の重々しい扉が、床の一角に構えているではないか。

サスケに報告しようかとサクラは周りを見渡し、悩んでいると書庫の入り口から風が吹いた。

 

サクラの好奇心が疼く。

 

(ちょっとだけ、ちょっとだけ)

 

封をするように、札が何十枚も貼られたその扉は何か重要な物を閉じ込めているに違いない。

それを助け出すだけだと、自分に言い聞かせて好奇心を正当化させた。

 

慎重にチャクラのメスで封を斬っていく。

札は書かれていた術式が薄く消えてしまう程にボロボロに成っていた。

そのお陰で、綺麗に切れる。

 

全ての札を切った。

さて、重要資料とのご対面だ。

サクラはお宝を目にしたコソ泥の様に手をすり合わせ、重い鉄製の赤錆た扉に手を掛けた。

細かい錆を撒き散らしながら、扉が長い年月閉めていた口を開く。

 

小さな黒塗りの箱だ。

手を伸ばし両手でその箱を持ち上げ、光ある世界へと連れ出した。

赤い紐で結ばれたそれを、サスケの許可無しに開けてしまった事も好奇心の所為だ。

 

(よし!・・・はぁ?)

 

拍子抜けだった。

 

中身は重要な秘伝書でも無く、巻物でも無かった。

小さな薄汚れた一枚の紙だ。

 

「こんなのアリ?」

 

 -厳重なのはフェイクだったの?

 

その可能性も充分ある。

トラップか何かあったのかも知れないが。

長い年月の所為で発動しなかった事も考えられる。

 

だが、うちはに限ってそれはないだろう。

本当に重要な物が入っていれば、第二、第三のトラップを仕掛ける筈だ。

 

小さ紙を広げると、不思議な字が目に飛び込んできた。

 

「何て書いてあるのかしら?」

 

逆さに読んでも、横から眺めても、蚯蚓と蛞蝓が追いかけっこをしている様な物は解読できない。

仕方ない。サクラはそれを成るべく精密に写し書き、師匠の綱手に見てもらう事にした。

紙をサスケに見せ渡すと、どうでも良い物と判断したのか、サクラに綱手に見せろと投げやりに言って、持っていた紙をサクラに渡した。

 

「落書きか何かじゃないのか?」

「すっげぇ…何て書いてあるのかさっぱりだ」

 

サスケは興味無しで、本当に厳重な扉の中にあったのか疑う始末。

ナルトは引き気味で紙をマジマジと見てはお手上げ状態。

 

コレでは駄目だ。

もし、コレが重要なモノだったとしても、この二人だと破棄してしまうかも知れない。

早速火影邸へと行き、綱手に移し替えした物を見せた。

 

「随分と下手くそな字だな」

 

 -私が幼かった頃も、これ程下手ではなかったぞ。

 

(この字、そんなに下手なんだ…)

 

サクラの思った通り、古文で書かれた物であった。

サクラも多少は読める。

が、しかしこれは論外だ。

汚い以前に、サクラの読める物より古いのだ。

相当古いらしく、綱手も懐かしがる位に。

 

「叔父に何度も叱られながら、書物をしたもんだ…」

「あのぉ、それで、何が書いてあったんですか」

 

すると咳きあげる様にして綱手は大口を開けた笑った。

一体、何が可笑しかったのだろう。

 

「『お姉さんへ』だとさ」

「え…『お姉さん』?それだけですか?」

「そうだ、それだけだ。一族の誰かに宛てた手紙か何かだろう」

 

 -しかも、書きかけのな。

 

綱手が言うには、その一言のみで他には何も書かれていないそうだ。

あの厳重な式と扉に守られた中身がコレと来た。

拍子抜けも良い所だった。

 

「何でしょうかね?」

 

シズネも首を傾げて紙を覗く。

蚯蚓と蛞蝓の追いかけっこの正体は『お姉さんへ』と言う謎の言葉。

サクラは一様写書きを綱手に渡し、本物の紙の方はサクラが保管する事になった。

サスケに渡したら捨てられて終わりだろう。

 

古汚いその紙を訝しげに見やり、サクラは腰元のポシェットに仕舞い込んだ。

 

 

 『お姉さんへ』

 

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