慕情届かねど   作:芦田 夏糸

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サクラは悩み、苦しんでいる様です。


 


第二話

古びた手紙から始まったこの奇妙な出会いは、サクラの思っていた以上に大きな影響を及ぼしているかも知れない。

 

 

少年はサクラの背を越して、青年へと成長していた。

別れたあの日から、たった一週間。

その間で過去を大きく飛び越えてしまったようであった。

 

それからあの日を境として、会えなかった日を埋めるように青年はサクラとの時間を過ごす。

サクラも急に過去へ飛んでしまう事が多くなり、新たな悩みになるまでになっている。

 

一人になると、高い確率で。

[いつの間にか]過去の地に立っているのであった。

 

 

 

 ・ ・ ・

 

青年となった彼は昔と変わらずにサクラへ接し、何気ない会話を楽しんでいる様子であった。

しかし、肝心のサクラは戸惑いを隠せずにいる。

 

彼は、似ていた。

成長した彼を初めて見た時は、どうなるかと引け腰になってしまう程。

 

サクラは、あの戦場を思い出す。

彼は五影を退け、戦場へと現れた。

数ある忍達を、相手にも成らぬと嘲笑う者。

戦法は大胆且つ、的確で非の打ち所の無い、闘い方は舞うかの如く美しく、同時に恐怖を煽るものであった。

 

乱世を駆け抜けた彼の実力は、同じ乱世を生きた先人達と、並みの忍と比べモノにならない凄腕の忍達しか立ち向かえない強さだった。

 

その者の[生き写し]なのだ。

 

(でも、まだ[若い]わ)

 

サクラの知る、[その人]よりどことなく幼さが有るのだ。

癖の強い、固い質の髪の毛もそれ程長くなく、肩までしかないのだ。

[その人]は腰まで髪を伸ばしていた筈。

 

(こう、何と言えば良いのかしら?ペロッと?ツルン?…童顔って言いたいけど。老け顔とも取れるわね。もしかすると、今の彼は私と歳が近かったりする?)

 

サクラの考えは、巡りに巡って元の位置に戻る事を幾度となく繰り返していた。

兎に角、色々と衝撃的過ぎて纏まらない。

マジマジと見詰めては唸真剣な眼差しで観察するサクラに、青年は笑いを堪える事が出来なくなった。

くつくつと喉仏を震わせながら、口元を黒い手袋をした手で隠す様にし笑う。

 

そして口元を隠していた手を離したかと思うと、サクラの目の前でヒラヒラさせる。

気は確か、かと冗談混じりに言いたいのだろう。

長い指に、大きな掌。

器用そうなその手に、魅力を感じずには居られない。

女性は無意識に男性の指を見て[判断]すると言う。

あれが書いてあったのは、女性ファッション紙のQ&Aだっただろうか。

器用で正確な動きをする[手]で、男性の持つ遺伝子の優劣を決めるのだとか。

 

まさか、と。

半信半疑だったその話は本当かも知れないとサクラは身を持って実感した。

今も尚、彼のすらりとした指から目が離せないからだ。

一動作に優雅さを感じさせる。

 

例えその動作が、サクラを馬鹿にしていたモノだとしても。

 

「お姉さん」

 

 -大丈夫か?

 

昔と同じ様に、青年はサクラに話し掛けた。

まだサクラの事を[お姉さん]と言うのだ。

それに、あの時の、再開したばかりの時は、どうやら格好付けてあんな態度をしていたらしい。

 

 -一族の前では大体アレで通している。

堅苦しいが、此方は舐められたくないんでな。

 

此処には居ない者達を嘲笑う様に、青年は鼻で笑った。

長い前髪が澄ました顔を隠している。

サクラが自分の横顔を見ている事に気づき、ニンマリと笑った。

 

 -…中々格好良かっただろ。

 -それを自分で言ったらお終いよ…、あー緊張して損した!

 -緊張する程、色男に見えたか。

 -止めてちょうだい、それ以上言ったらその綺麗なお顔を打つわよ。

 

こうも、自分の容姿の良さが分かっている人間程、憎たらしいモノはない。

サクラは今後の人生に活かすため、心に刻み込んだ。

 

毛並みの整っていなかったボサボサの雛は見事憂わしくも逞しい黒鳥へと成長を遂げたが、サクラに対する態度は変わる所か[厄介]になっていた。

これもまた、一つの[成長]である事は確かだ。

その一つの[成長]がサクラを悩ませる。

 

「ちょっとっ!」

 

サクラの肩を抱こうとしたと黒手袋を、ぺしりと強く叩き落とした。

予想以上の痛さに、青年は驚きながら手を退きもう片方の手で、叩かれた手を労るようにさする。

 

「手厳しくはないか」

「普通よっ…」

 

こうも容姿の良いと、例え幼少の頃から知っている身としてもドキリとしてしまうのだ。

無言の肩を抱かれた時には、驚いて悲鳴を上げてしまった程。其れからと云うもの、お触り禁止を通している。

彼は不満そうにして、その態度を隠そうとはしない。

寧ろ、何が不満だと聞いてくる始末だ。

 

サクラは自分の足を見る。

不満ではない。

しかし、それを返してしまえば訂正する事も難しい。

何とか上手くかわせないかと、その答えを手探りで探していれば、いつの間にやら手を握られていた。

ハッとした表情で青年を見上げれば、彼は流れる川へ顔を向けている。

こう云った所で、さり気なさを演出しているのが腹立たしいったらこの上無い。

 

(私が過剰に反応してるだけかも…)

 

溜め息を付きたくなるが、今は本人の前だ。

何とかそれを静める。

 

少年の頃は本気であっても、彼だって身体と共に心も成長している筈だ。

只、揶揄われているだけかも知れない。

少年の頃も初なサクラを散々揶揄っていた。

この態度はその延長に過ぎないのだと、自分に言い聞かせる。

 

(それに、もし[あのマダラ]だったら有り得ないじゃない)

 

その可能性と、隣り合わせである関わりの中で思う事がある。

本当に彼が成長したら[その人]に成るのだろうか、と。

平行世界と云う単語が頭を過ぎる。その考えがあれば、苗字、名前が同じで容姿が瓜二つである事であっても。

[青年]と[彼]は別人と捉えても良いからだ。

そうすれば、サクラだって[余計]な事で悩まなくとも済むのだ。

 

(何から逃げてんのよ。私)

 

自分を慕ってくれている少年に、いや青年に失礼だとは思ってはいる。

 

サクラは知っているのだ。

少年の頃に別れたあの日。

彼の手は熱く、サクラを想い瞳の奥で炎をくすぶらせていた事を。

 

熱い思いを全身で受けたサクラ。

少年の身を焦がす思いを最後に共有した。

 

あの時は、

そう、あの時は。

 

しかし、黒曜石の思わす真っ直ぐな彼の目を見返す事が出来ない。

 

「…なぁ、三日後はここに来れるか」

「えっ…」

 

あの日が頭に過ぎる。

此処に来ない方が良いと言われたのなら、自分はどうなって仕舞うだろうか。また会えなくなるのだろうか。

一瞬、サクラに不安が押し寄せるが、何を悩んでいるのだと馬鹿らしくなる。

 

(会えなくなったなら…それはそれで良いじゃない…。この人も、[日常]に戻れるんだし)

 

大体[未来]から来ている自分と隠れて会っている事が可笑しいのだ。

彼もそれに気が付いている事だろう。

しかし、彼は諦めない。

 

サクラは自分の[本心]を押し殺し、平然を装う。

 

「来れる、とおもうけど」

「俺と遠出しないか」

 

一瞬サクラの頭がフリーズする。

 

「む、無理に決まってるじゃない!」

 

 -それに貴方、こんな頻繁に出掛けて怪しまれないの?

可笑しいでしょう!弟くんにも怪しまれてるわ…!

 

こう言えば思いとどまるかも知れない。

サクラは自分を卑怯者と罵りながら、逃れるように言った。

しかし、青年は何を今更と鼻で笑う。

 

「一人で出歩くのはいつもの事だ。もう他の奴等も、慣れて何も言ってこないしな…」

 

言った後の横顔が寂しく見えたのは、果たして気の所為か。

その表情を見て、サクラは握られた手を握り返したくなったのは、気の迷いか。

そう、だからサクラも話に乗ってしまったのだ。

 

「どこに行くの…?」

「鷹狩りをしながら、紅葉を見に行かないか」

 

 -静かな。良い場所を知っている。

 

鷹、と聞いてサクラはその姿が思うように描けずにいたが、何となく[お高い]イメージは持っていた。

猛禽類は寿命が長く、飼うと維持費もかかる事を手紙を他里に届ける鷹匠部隊[空班]にいる友人に聞いた覚えがある。

 

「へぇー、鷹狩りなんて、良い趣味してるわね」

「どんな意味を含んでいるか、深くは考えないが。[褒め]として受け取っておこう」

 

サクラに了解を得た事に満足したのか、嬉しそうな表情だった。

それをホッとして見ている自分と、しまったやられたと肩を落とす自分が居ることにサクラは矛盾を感じずにはいられない。

 

 

 

(引けない所まで来てしまった、って訳ね…)

 

結局は強く握られた手を、振り解けないのだ。

 

 

 

 

 

 

調べ物をしても無駄だと分かり、資料室にも古書部屋にも籠らなくなったサクラに、いのは不信感を募らせていた。

パタリと止んだその熱心な行動と引き換えに、奇行が目立ち始めたのである。

 

部屋に一人で居ることを、極端に恐れたり。

妙にいじらしくなってみせたりと。

それに、見える場所にワザとらしくキスマークが付いていたりするのだ。

観まいとして目を泳がせるナルトに、いのは同情していた。

いつも通りを装うサスケにも、気の毒にさえ思う。

 

いのの知っているサクラはそんな事を許す筈がない。

自分にも厳しく、他人にも厳しい筈の彼女が、男に現を抜かすなど。

今まで無かった。

 

(何よ、本当に[人が変わった]みたいじゃない)

 

サクラと同じ班員達同期生が変わった変わったと言ってはいたが、まさか、ここまでとは。

 

(これも、男が出来た所為だって言うなら。別れろって言ってやらないと!)

 

 -何も、ダメ男に合わせてアンタまでダメにならなくとも良いんだからね!

 

いのは強い思いを胸に、姉弟子と立ち話をしていたサクラの腕を掴み、シズネから連れ去りの了解を得てサクラを廊下の曲がり角まで連れ出す。

サクラは終始、何故こうも親友が怒っているのか分からないとばかりに、目を瞬かせていた。

 

「ねぇ!サクラ、あんた[例]少年と付き合ってるの?」

「まっさかぁ!何よ急に…」

「良い?ちょっと尋問っぽいけれど、私の言ってる事に答えなさい」

「い、いの?」

 

親友の気迫に押され、サクラはたじろぐ。

そしてその質問をどう返そうかと頭をフル回転させた。

 

「あんた、夢を見てたって言ったわよね。それも、少年が出て来る夢」

「ええ、見てたわよ」

「最近は見てるの?」

「見てないわ」

 

戸惑いを表に出さぬよう、出来るだけ堂々と振舞おうとサクラはいのの瞳を睨みつけるようにして、逸らさずに答える。

 

「その少年と、猛烈アタックの少年は似てる?」

「何その質問。可笑しくない?」

「可笑しくなんかないわよ。良いから正直に答えなさい」

「…似てるわ」

 

本当の事を言えば[本人]であるが、夢と現実がごちゃごちゃに成っているとは思われたくない。

サクラは似ているとだけ返した。

 

「でも、違う人物。なのね?」

「だって夢が現実になるわけないじゃない」

「…そうね。じゃあ、この質問は終わり。次よ」

 

 まだ続くのか。サクラは気を引き締める。

ここで下手な事を言えば、女の勘が尖いいのに何か掴まれてしまうのでは無いかと思うのだ。

先程の質問も、ドリキとしてしまった。

 

「あんた、最近男が出来たわね」

「なっ!何よそれ」

「私の目は誤魔化しきれないわよ」

 

 -最近、あんた[女]の匂いがするのよ。それに重なるように、[男]の影もね。

あんたに相当お熱みたいじゃない。

首元見れば分かるわよ。自分のモノだ、ってアピールがハッキリ言って目に毒なのよ。

 

サクラはギョッとして首を手で押さえ、隠した。

気づかなかったのか。そう言いたげないのの態度にサクラは動揺を表に出しそうになる。

付き合っている訳でもなければ、それ以上でも、それ以下でもない。

コチラは只合っているだけなのだ。

 

「合って、話をするだけ。そんな関係じゃないわ」

「あらぁ?アンタはそう思ってても、相手側はどうなのよ。下手したらもう自分の女だと思ってるかも知れないわよ?」

 

 -だから[そんな事]するんでしょう!

 

「そんな!そんな訳ないじゃない!」

「何怒ってるの…」

 

鎌をかけにきたいのが得意げに笑ってみせた。

自分の誘導尋問に引っかかり始めた親友の焦りを感じ始めたからだった。

 

「少年も可愛そうよねぇ。イケナイお姉さんに遊ばれて、今度は何?色気ムンムンの男に鞍替え?」

「変えてなんかいないわよ。それに、どちらも関係ないわ」

「断ったの?きっぱり付き合えませんって両方に言った?」

「・・・言ってない」

「じゃあ!駄目じゃない!どっちも脈アリだと思ってたらどうする?サクラ、あんた二股よ!?」

 

違う、その人達は同一人物であって。

それに、そんな関係ではない。

 

サクラは全てを話したいと。

誤解を解けたならなど現実逃避をしたくなった。

 

自分でも分からないのだ。

何故あの時代に飛んでしまうのか。

あの青年が自分を気に入って、そして、どうしたいのか。

自分はいつまでこんな事を続けようとしているのか。

 

答えが無い。

見つからないのだ。

 

青年の正体も。目を逸している。知っているかも知れないと云うのに。

その思いにさえ、気づかぬフリをする。一度、受け止めたかのようだったのに。

 

逃げてしまいたい。この場から。

誰かに全て話したい。理解して欲しい、この苦悩を。

 

「…分からない」

「サクラ、今、なんて、」

「分からないわよ!そんな事!」

 

言い逃げるようにしてサクラは走り出した。

いのが大きな声で呼び止めようとしているが、無我夢中で走る。

 

神のみぞ知る答えと、突然[非日常]。

 

 

 

(私だって、どう返せば良いのか分からないの!)

 

 

 

果たして、サクラの握っているカードには[正解]はあるのだろうか。

 

 

 

 『俺は修羅の道を歩まねば成らん。』

 

 

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