慕情届かねど   作:芦田 夏糸

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 夏糸です。

どうやらこの少年、願掛けとして水切りをしている様です。


 


第三話

 

 

まただ。

 

気がつけば、知らない川辺の近くにいた。

サクラは額に滲んだ汗を拭う。

今度はどんな目に合わせられるのだろ。

 

幻術でもなく。

転移忍術でもない。

 

師の綱手は[夢]だと言って笑った。

 

(参ったわねぇー…)

 

 -こんなリアルな夢を続けて見たら、精神が磨り減っちゃいそう。

 

額に手を当て、熱があるか調べる。

体の不調では無さそうだ。

 

あの手当てをして少年は大丈夫だろうか。

多分、この近くに、戦った場所が有る筈だ。

この川を辿れば、もしかすると。

そう思って、サクラは川沿いに歩き始めた。

 

川の和流を聴きながら、サクラは散歩気分で悠々と歩く。

自分の夢の中を散歩していると云うのも、可笑しな話だ。

 

(あ、居た居た)

 

ダボダボの黒い着物を着た、癖の有る黒髪が大きな岩の上でしゃがみ込でいた。

少年はコチラの気配に気づいたのか、黒曜石の瞳を丸くしてサクラを見ていた。

まるで、狐に摘まれたような顔だ。

 

「おい、アンタ!」

「あら、また会ったわね」

「あ、…ああ、そうだな。って違う!何で急に居なくなった!」

「[居なくなった]?なによ、それ」

 

サクラは首を傾げた。

自分は机に突っ伏して目が覚めたのだ。

それを、夢の登場人物が[どこへ行っていた]など、聞いてくるのも可笑しな話だ。

 

大岩から飛び降りて、少年がサクラの元へとやって来る。

黒く塗った刀の鞘を石と石の間に突き刺し立たせた。

そこへ同じく黒い羽織を被せる。

 

「変なヤツ」

 

 -変な着物着てるしよぉ

 

サクラの前掛け式の白いエプロンの端を指先で摘み、持ち上げてパタリと手を離した。

指の腹で質を確かめる様にしていたので、どうやらサクラの服が珍しい様だ。

 

サクラの胸元程しかない少年は腰に手を当て、鼻で笑った。

小さいのに随分と態度のデカイ奴だ。

 

(何か、この小生意気な感じ、引っかかるなぁ)

 

何処かで相手をしたような、してないような。

 

「なぁ、聞いてんの?」

「え?何か言ってた?」

「・・・じゃあいい」

 

少年はサクラに背を向け、河原で何か探すように腰を折り曲げた。

どうやら、平たい石を探しているようだ。

 

「探し物?」

「あー…。投げやすい石を探してんだよ」

 

 -こう、水面を上手く弾けて飛ぶようなさ。

 

アンダースローで投げる格好をして見せた。

水切りの石を探しているのだと理解する。

 

「コツとしては、腰を低くして。腕はしなる様に伸ばすんだよ。石に勢いを付ける形で、前のめりに成りすぎるのは駄目だ。後ろに下がり過ぎるのも駄目」

「詳しいのね。好きなんだ、水切り」

「…好きとかじゃねぇよ。願掛けだ」

 

(願掛け?)

 

少年の思いつめた顔を見て、サクラは何かを感じ、受け取った。

願掛けには石が必要なのだと彼は言う。

 

「私も、一緒に探していい?」

「良い石だったら、使ってやらない訳はないな」

 

上からの物言いに、サクラは苦笑した。

素直に有難うと言えば良いものを。

生意気な少年の、癖の強い髪を鷲掴みにして、クシャクシャにしてしまいたい。

 

「これ?どうかしら」

「滑らかじゃない。ほら、コレに似たやつを探せよ」

 

 -これを渡しておく。俺は無くとも探せるからな。

 

少年は手にしていた平たい、彼の云う[良い石]をサクラに渡す。

サクラは石に手を滑らせる。

平たいその石は、滑らかな触り心地だ。

これなら、水の抵抗も減らせるだろう。

 

「よく見つけたわね」

「そんな物、探せばあるぞ」

 

(懸命に探してるのに、興味無さそうに言って…。素直じゃないのね)

 

二人はしゃがんで丁度良い石を探す。

天高く上がってたい日は、西の山へと隠れようとしていた。

もうそろそろ、引き上げ時だな。

少年が腰を上げると、隣にいたサクラが大きな声を上げた。

 

「ああ!これなら良いんじゃない!?」

 

差し出された石は、少年が渡した石と同じ形で、渡した石よりも滑りが良かった。

うん、これなら。そんな表情で、少年が満足そうに頷いた。

御眼鏡に適ったようだ。

 

「良いのを貰った。渡したヤツはやるよ」

「別に、私は水切りしないわよ?」

「しなくとも、礼の変わりだ!受け取っておけ」

 

返そうと、胸元近くに持っていた石を手で押し返された。

持っていろと言う意味なのだろう。

 

 -足の…ありがとうな。

 

ボサボサの髪に隠れて口元が見えなかったので、確かめようが無いが。

ポツリと小さな声が聞こえた気がした。

 

 ・ ・ ・

 

目の前の親友がゲラゲラと見た目に合わない高笑いをした。

金色の、高い位置で結った髪が尻尾の様に揺れる。

周りもお喋りで夢中に成っている女性客ばかりなので、それ程彼女の高笑いは気にならない。

 

手に持っている銀色の匙を器用に回して、サクラの目を見て言った。

 

「けっこー面白い夢を見てるわねー」

「何言ってるの、いの。丸一日、平たい石を探したのよ」

 

 -小生意気な文句を言われながらね。

 

小豆の粒が残っている餡子をすくい上げ、口へと運んだ。

口を動かすことに集中していると、いのはニヤニヤと笑って、サクラに追い討ちを掛ける。

 

「でも、夢の中」

「そ、夢の中よ」

「それにしても、楽しそうに言うじゃない」

 

 -満更でもないでしょ?

 

全く、いつもこの手の話には鋭い。

思い返してみても、それなりに楽しかったので、そうなのだろうか。

 

「まぁ、面白かったわよ。色んな形の石を見るのだってね」

「そこは楽しそうじゃないわ。その夢に出てくる謎の少年とのやり取りが楽しそうだって、言ってるの」

「そう、かしら…ねぇ」

 

夢の中の少年を思い浮かべる。

 

ちょっと目つきが悪い。

癖の強いボサボサ髪の少年。

同じ班員である、初恋の人に少し似ていた。

纏めると、ざっとこんなもんだろう。

 

「その子さ、結構好みだったりする?」

「まっさかぁー。だってこのくらいよ」

 

 -このくらい。

 

胸元を手でフラリとさせる。

それを見たいのは あら、意外と小さいわね。 など返した。

態度がデカイ割に、背はそうでもない。

 

「でも、成長したらイケメンかも」

 

 -唾付けておきなさいよ!

 

手で口元を隠して、ワザとらしく言った。

サクラはそのノリに乗ってやった。

 

「夢の中でぇ?」

「救われないわー」

 

そして二人は一緒になって爆笑するのであった。

 

 

 

家で紙を見ると、また、字が[増えて]いた。

 

 

 『不思議な人だ。』

 

 

 

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