慕情届かねど   作:芦田 夏糸

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 夏糸です。

どうやらこの少年、相当な負けず嫌いの様です。


 


第四話

 

(ッ…!早いッ!)

 

後ろをとられた事に気が付かない程、少年は素早かった。

否、素早いだけではない。

サクラよりも年下である筈の少年は、技術も体力もサクラより格上だった。

 

「読みが浅かったなっ!」

 

 してやったぞ。

少年の心の声が聞こえてきそうな、生き生きとしたその一言と共に、サクラを後ろから羽交い締めにして、首筋に小刀を当てる。

しかし、それで参ったと言う肝ではない。

 

「馬鹿に、しないで!」

 

肘で少年の腹部を強打、した筈だった。

が、足を掛けられ後ろへとバランスを崩してしまう。

世界が回って、三半規管が一瞬自分の役目を忘れた。

背に衝撃を喰らい、肺に溜めていた空気が一気に外へ逃げ出した。

 

打ちどころが悪かったのか、眩暈を覚え、ノイズが掛かっていた。

漸く視界が正常に戻った頃に全てを理解した。

 

(また負けた…)

 

サクラの柔らかい腹に馬乗りになった。

少年がニヤリと笑って、サクラの顔を覗き込んで、勝ち誇ったように言った。

 

「俺の勝ちだな」

 

 -13勝10負だ。俺が二歩も先を行ってるぞ。

 

「全く、可愛くないんだから。ほら、和解の印で終よ」

 

上に乗っていた少年はつまらなさそうに腰を上げた。

サクラは土埃を上げて、手箒で服に付いていた土や草を払う。

 

そして中腰になり、人差し指と中指を少年へ差し伸ばした。

二本の指を絡ませ、印を結ぶと少年は何が気に入らなかったのか分からないが、投げやりにワザとらしく腕を振った。

何とも乱暴な和解の印だ。

 

「コラ!ちゃんとしなさい!」

「へいへい」

 

 -もう!組手で勝ったのに、今度は何に不満があるのよ。

 -なんもねぇって!

 

頭の後ろで腕を組、そっぽを向く。

子供らしいが、少し我侭だ。

 

分かって来た事が二つある。

一つは、どの里にも属していない事。

これはサクラの推測が混じっている。少年から直接的に聞いた訳では無いのだ。

然りげ無く、忍五大国の話をすれば 面白い、考えだな。 と、今初めて聞いた顔をしていた。

チャクラを正確に練れ、中忍レベルの火遁を扱える者が、有名な隠れ里を知らない等、今更あるのだろうか。

 

もしかすると、彼は認識されていない閉鎖された里で育ったのかも知れない。

だが、それはハズレだろう。

火の国を知っていた。火の国と、木ノ葉の里はセットと言っても過言ではない。

 

 『「木ノ葉』…? お姉さん、そこから来たのか』

 『まぁ…そうね』(ちょっと説明為難いけれど)

 『不思議な集落の名前だな』

 

集落とは、コチラも聞き慣れない。

まるで一族単位で暮らし任務を請負い、戦場を駆け抜けた戦国時代の様な物言いだ。

これはサクラの夢で有る筈が、サクラの知らないモノで溢れている。

夢は記憶からの再構築とされているが、どれもこれも、触れた事のない話題ばかりなのだ。

謎は深まるばかり。

 

そして、もう一つ。

この少年。

どうやらサクラに甘えてこの様な行動に取るらしい。

 

何度も会い、親しくなるに連れ、彼から話してくれた事があった。

彼は五人兄弟の長男で、何れは家長となるべき者なのだと言う。

末っ子を一等に可愛がっており、兄弟の話になると早口になって、嬉しそうにするのだ。

彼には母は居ない。

いや、厳密に言えば[居たが、生前も離れて暮らしており、末っ子を産み落として亡くなった]と言うのだ。

少年や、その少年の兄弟も母の温もりを知らないで育った。

 

(一番驚いたのは、この時代に[乳母]って人が居る事ね)

 

本当にいつの時代の事なのだろうか。

サクラは昔、ハマって読んでいた戦国時代の小説を思い出す。

あれが影響して、この古めかしい夢を己に見せているのか。

 

少年は事あるごとにサクラに自慢してみせた。

まるで子供が母親に褒めてもらいたいが為、[披露]しているかの様だ。

 

何故こんなに、自分に懐いたのか。

サクラ自身も分からない。

少年に聞いても、彼の性格上教えてはくれないだろう。

 

 

「組手強いのね」

「大人にも勝てるんぜ」

 

クシャりと笑って見せる少年。

岩の上に腰掛けて、二人は他愛もない話を語る。

汗をかいた後はグダグダとしている内に、サクラはまた木ノ葉へと戻れるのだ。

 

彼との勝負は何が切っ掛けで始まったのか、覚えていない。

最初の頃、サクラが優勢で、少年は悔しさに顔を歪ませていた。

しかし、どうやらこの少年はセンスがいいらしい。

サクラの繰り出す攻撃のパターンを瞬時に読み取り、それを逆に利用する様な作戦を練ってくる。

少年は心理戦までもを使ってきた。

組手で全力を使ってくるなんて、

 

 -こんなに頭の使う組手、久しぶりだわ!

 -はぁ?これが普通じゃないのか?

 

組手で死人が出た場合はどうする気なのだろうか。

それ程までに、少年との組手は激しいものなのだ。

 

「お姉さんも結構イケてると思うぞ」

「少年くんもね」

 

二人は互いの名は教え合ってはいない。

サクラは夢の中の人物に自己紹介をしても、などと思っていたし。

少年は何か言えない事情があるのか、口を割ろうとはしなかった。

 

(もうそろそろ、目が覚める時間かも)

 

サクラは立ち上がり、軽やかに岩の上から飛び降りた。

目の前で消えてしまう事は説明のしようが無いので、それは避けたかった。

次にこの夢を見た時に、厄介なのだ。

夢の登場人物はしっかりと覚えているらしく。一丁前に『どうして』『何故』『どうやった』と聞いてくるのだ。

 

少年はサクラの後を追おうとはしない。

追ったとしても、彼女は目を離した隙にそこから居なくなっているからだ。

それは サクラが[目覚めた] と云える現象だった。

 

「じゃあね、少年くん」

 

少年が声のする方を見ると、既に彼女の姿は無かった。

 

 ・ ・ ・

 

ナルトは不満だった。

気になる少女、サクラが何かを熱心に調べ物をして居る為だ。

調べ物をすると、目つきが変わるのは何時もの事。

そこまでは良い。

しかし、熱心過ぎてコチラが心配になってくる程なのだ。

 

[中央資料庫・零番資料室]

 

任務を終えた後は、あそこに篭ってしまうのが大半になっていた。

聞いてみれば、木ノ葉創立前の土地や生存していた一族の事まで。

零番資料室の全てを読み尽くしてしまう勢いだと、シズネが言っていた。

資料庫を管理している特別上忍も驚くばかりである。

 

あそこにある資料は膨大な数だ。

それを数週間で半分以上だ。

何故このようになってしまったのか。

 

ある日突然サクラが叫んだ。

 

『分かったの、分かったのよ!』

 

七班のミーティング中に、勢いに任せて立ち上がった所為椅子が倒れても、興奮状態の彼女は気にしない。

呆気に取られるナルトやサスケ、それに、らしくないと一言付け加えたサイ。

ヤマトは不在で、カカシは未成年が見れない本から顔を上げ眠気眼を見開き教え子を見た。

 

何が分かったと言うのだろうか。

付いていけない隊員を余所に、サクラは一人盛り上がっていた。

 

気になったのか、サスケが珍しくサクラの親友であるいのに探りを入れた。

いのはベラベラと喋るかと思いきや、サクラの事になると相手がサスケでも詳しい事は話さない。

匂う話の部位を引き出そうとすれば、特有の黄色い声を上げてヒラリとサスケをかわすのだ。

 

『いくらサスケ君でも、親友の事は売れないなぁ~』

 

それが全てだろう。

 

「サクラちゃん。また資料庫かよ」

「みたいだね。何を調べてるかは分からないけど、」

 

 -彼女が過労死しないか心配だ。

 

もう見慣れてしまったサイも、出会った当初は今にも倒れそうな顔色をしていた。

色白を通り越して、向こうが透けそうな程に。

サスケはサイの意見に見える形では同意してはいないが、思っている事は同じだろう。

 

「サクラがこうなったのも、南賀ノ神社で謎の紙を拾った事からだってね」

「おいおい、それはちょっとちげぇよ」

 

 -大体あの紙になんの意味があるんだってば。[蚯蚓と蛞蝓]だぜ?

 

[蚯蚓と蛞蝓]と云うワードにサイは、黒く大きな瞳をころりとさせて首を傾げる。

あの文は見てみないと分からないだろうな。サスケはサイの表情で思った。

サクラの師である綱手も、紙は只の切っ掛けでしかないと言っていた。

歴史の面白さに目覚めたのだろうと。

 

「でも、何か違うんだよな」

「何がだい?」

「[夢]の話と[歴史]に何の継りがあるんだよ」

 

ナルトは顔を顰めて、うんうんと唸る。

長椅子の背もたれに凭れていたサスケは目を瞑る。

自分の言いたい事は、この二人が解消してくれそうだった。

 

 ・ ・ ・

 

その日、サクラは目を輝かせていた。

乱立させていた仮説の一つが当たりかも知れないその興奮に。

 

紙にまた新たな一文が加わったのだ。

夢を見る度に、増えてゆく。

最初はじんわりと滲んで、染みにしか見えないが、それは夢を見ると徐々に形になっていく。

 

その意味は分からないが、それも今調べ中だ。

いつか読める日が来るだろう。

 

 

 『何時も何処から現れて、何処へ消えるのか分からない。』

 

 

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