それでは第2話プロローグ 運命の出会い。
どうかお楽しみ下さい
スピカ・ブラムフォードは自分のことを一部を除けば何処にでもいる平凡な少女だと思っている。
両親が既にいなくて親戚の家に預けられ育てられようと。いや別にそれが嫌なわけではない。叔父と叔母の間に子どもがいないからか実の子のように可愛がられている。当然納屋に閉じ込められたり食事を少なめにされたり召使いの様な扱いを受けたこともない。
この様に珍しい経歴だが自分以外に聞いたこともないのは住む町が小さく田舎だからでもっと都会の方に行けばいくらでも居ると思っている。
スピカの自分の数少ない特徴として他人には見えないモノが見えたり癇癪を起こした時には何かが起こったりする。癇癪はともかく妖精とかが見えても人前では存在に気づいてないフリをして構っている時も周りには気をつけていたつもりだった。
しかし家の近くの公園で妖精と喋っているところを近所の子どもたちに見られて以来変なヤツというレッテルを貼られてしまい徹底的に無視されている。
子どもとは無垢であるからこそ悪魔たりうる存在で、自分たちの理解出来ないモノは視界から弾き出す潔癖とも言える排他的な性質を持つ。
元々スピカは友達がいなかった為、たいした損害を受けていないが叔母達がそれを不審がり始めたのをスピカは察していた。
普段の溺愛具合からして表面化したら抗議しに行くくらいのことはするだろう。その気持ちは嬉しいがダメなのだ、こういうのは子どもだけでどうにかしないで親が入ってくると余計に捻れて話がごちゃごちゃになった挙句更なるレッテルを貼られる羽目になるのだ。
などと公園のブランコで色々と考えていたスピカだったが、その思索は打ち切られることとなった。その下手人は今も服の袖を引っ張っている。
手のひらに乗るくらいの大きさで綺麗な蝶の様な羽根をたたみこちらをジッと見つめる妖精は、確かに愛嬌を感じるが彼らの所為でこの状況に陥っていると考えると憎たらしくも思う。
「ねぇ、キミたちのせいで私は友達が居ないんだよ。キミたちが私の妄想じゃなくて実在するならさ、友達になってくれそうなヒトのところでも連れてってくれないかな」
愚痴を聞かせるくらい許されるだろうと、いつのまにか増えていた妖精を見つめる。
すると妖精たちは、なにやらよく分からない言語らしきもので会話を始める。英語ともフランス語とも日本語とも違う言うなれば妖精語とでもいうのか。
妖精語で話し合いが終わったのかスピカの髪やら服の袖やらを引っ張り誘導しようとする。
妖精の力はたいしたことないので抵抗しようとすれば出来るだろうが、もしかしたらと淡い希望を抱かずにはいられなかった。それに何もなくても今日一日が徒労に終わるだけだと誘導に従う。
誘導に従って歩いてると町外れを抜け、丘の上に建つ古い屋敷に近づていた。
その屋敷は幽霊屋敷と評判で小人を見ただとか、窓から覗いた絵が喋っていただとか、ローブの集団が出入りしていたりと様々な噂の立つ屋敷だ。
そんな噂がたつくらいで妖精なんかが実在するんだからひょっとしたら悪魔か魔法使いでも住んでいるのかな、なんて冗談半分に思いながら門をくぐる。
屋敷の庭園はかつては美しかったのだろうが、今は荒れ果てており噴水は枯れ蔦が巻き付いている。
庭園には妖精たちにとって好奇心が刺激されるものがたくさんあるのか、距離の割にその道のりは険しかった。
ジグザグに進まされたかと思えば来た道を真っ直ぐ戻ったり植木の下をくぐらされたりで、いつ屋敷に入れてくれるのだろうかと困惑しながらも進んで行くと、荒れ果てた庭園には場違いな程に豪華な意匠の門があり、よく掃除されているかの様にその周りだけ整っていた。
門の向こうは不思議なことに霞んでいて見通すことは出来そうにない。
そんな不思議な門を呆然と眺めていると、妖精たちはスピカの背を押し門を指差す。
「ここからは一人で行けって事?」
と、尋ねても妖精語で喋っているから返答を理解出来ないが身振り手振りでそうだと言っている様に思えた。
意を決したスピカは足を進め門をくぐる。すると目を開けて居られないほどの強い光に呑まれる。
やがて光が消え目が開けられるようになり瞼を上げると目を疑う様な光景が広がっていた。
まず目に映ったのは綺麗に整えられた庭園で、一目で普通ではないと理解出来た。まず水路の流れが逆さまで下から上に流れている。更に少し離れたところでは一本の角を持った美しい白馬、つまりユニコーンが番で戯れていた。
そして少し視線を上にやると仰天のあまり腰を抜かしそうになった。
視線の先には豪華絢爛たる白亜の城が存在していてスピカを見下ろしている。神話の世界に紛れ込んだかのようで、自分は既に死んでいてここは楽園なんじゃないかとすら思うほどだった。
ふと耳を澄ませると楽器の音色が聞こえて来た。明らかに自然の音ではない音色に惹かれてふらふらと音源の方に向かう。
やがてぽっかりと開けた広場に出た。それを見たスピカは思わず目を見開く。目に写ったのは無人のまま音色を奏でるバイオリンやらフルートやらトランペットなどの楽器の集団と、その中央に座ってグランドピアノを奏でる人物の横顔だった。
神話の如き庭園での演奏に恥じない腕を持つ演奏者は想像していたよりずっと幼く自分と同じ程度の年齢に思えた。見えた横顔は非常に整っていて芸術品のような顔立ちだった。
やがて曲が終わると演奏者は余韻に浸っているのか目を瞑り天を仰いでいた。スピカがどうやって話しかけようかともたついている間に、演奏者は姿勢を戻す。木陰から顔を出していたスピカは演奏者の黄金の瞳と自分の目が合ったのを悟った。
スピカは顔を青くし、相手の演奏者は僅かに目を見開いたかと思うとポケットから20センチ程度の木の棒をこちらに向け立つ。
同じくらいの歳の子どもが木の棒を武器の様に構えるというのは一見微笑ましく思うかも知れないが、少なくとも今はそうは思わないとスピカは冷や汗をかきながら後ずさる。
演奏者の服はそれ自体が美術品として価値のあるだろう服で、それが男物らしいと気付くことは出来たが演奏者の顔はモデルか女優として出ていても違和感が無い程に綺麗だが自分の直感が男だと告げている。にわかには信じ難いがこういう時の直感は当たるのだ。
「それで貴様は何処の者だ。ダンブルドアの手の者か?それとも死喰い人か?いやそれよりもどうやってここを見つけた?」
尊大な口調で少年はスピカに詰問する。普通の子どもがそんな態度なら苦笑モノだが、支配者然とした態度や強い光を持つ黄金の眼を前にすればむしろその態度が当然だと思いこまされてしまう。
そんなことを考えていると少年の目に冷やかなモノが灯ったのを感じたスピカは慌てて口を開く。
「ダンブルドアとか死喰い人とかが誰かは知らないけど私はスピカ・ブラムフォードよ。ここには妖精に連れてこられたの。ここがあなたの城だと知らなかったとはいえ、勝手に入ってしまってごめんなさい」
少年の目が自分を探るように見ているがそれを責めることはできない。妖精に押されたとはいえ勝手に立ち入ってしまったのは自分だから。だが自分だったらこんな事を不法侵入者に言われても到底納得できないだろう。どうすれば信じてもらえるのかと考えると胃が痛くなる。
「……成る程。嘘は言っていないようだな」
意外にも少年は荒唐無稽な話をあっさり信じてくれたようで木の棒を下ろしポケットにしまう。
「え、信じてくれるの?自分で言うのもアレだけど大分可笑しな話だったよ?」
「開心術という。目を合わせることで心を読み記憶を手繰ることが可能な術だ」
「開心術?ということはやっぱりあなたは魔法使いなのね!」
「貴方は、と言ったが貴様も魔法使いだろう」
「えっ、私も?」
「そうだ。妖精に好かれる事はマグルでもあり得るが妖精語を聞き取れるならば魔法使いだろう。そもそも我等の城を知覚出来る時点で確定だがな」
「そっか、私が魔法使いか……」
自分が魔法使いだと急に言われても到底信じられるものではないが、心の奥底ではストンと嵌るイメージがあった。
すると急にどうでもいいことが頭をよぎった。
「あっ、そうだ。名前を聞いてなかったわ。あなたの名前は?」
「名前など聞いてどうする」
「いいから、いいから。ほら早く」
グイグイと押していくと鬱陶しかったのか深い溜め息をついて一度しか言わんからよく聞けと前置きす。ひょっとしたら雰囲気や態度の割に押しに弱いのかもと考えていると不機嫌そうに目尻がつり上がった。考えている事が筒抜けみたいだ、まだ開心術とやらを使っているのだろうか。心までプライバシーを侵害するのはやめてもらいたいものだ。
「オルドリッチ家が98代目当主アルフ・オルドリッチだ」
「よろしくね、アルフ」
「何だ?急に馴れ馴れしいぞ貴様」
「それ、その貴様ってやめてよ。私にはスピカっていう名前があるんだから」
「迷い込んだ侵入者風情が烏滸がましい。名前を呼ぶまでもない、貴様で十分だ」
さっきから言葉のキャッチボールをデッドボールでしか返して来ないな、きっとこいつも友達が居ないに違いない。と自分の事を棚に上げて内心毒突いた時に目的を思い出した。なんで自分がこんなところに来たのかを。
それを実行しようとして直前で急に恥ずかしくなり口を閉じてモジモジするということを数分繰り返しようやく覚悟を決めその言葉を放つ。
「なら私と友達になって下さい!」
予想外の発言にアルフは驚きのあまりきょとんとした顔になる。そして意識が復活し口を開く。この間僅か数秒だがスピカにとっては無限に等しく思えた。
「くっ、ふふふっ、ふは、何を言い出すかと思えば、友達になって、だと?、ふふっ、本当に面白いな
やけに大きく感じる心臓の鼓動を抑えながらなんて返すのかと思っていたら、一世一代の覚悟を大笑いしてくれやがった。
笑われたと気付いた時に、かぁっと顔が怒りと羞恥で赤くなるが、僅かに残った冷静な頭でアルフの言葉を反芻する。
どう聞いてもYESの言葉には聞こえないが、先程のやり取りを思い出す。名前で呼んでと言った自分に対しアルフは侵入者を名前で呼ぶわけが無いと断ったが、今アルフが笑った時に自分を名前で呼んでいなかったか。それはつまりそういう事なのかと僅かな希望に縋るようにアルフを見る。先程までの支配者然とした態度ではなく、目尻に涙を浮かべ笑うその姿は年相応だった。
「笑った事は謝罪しよう。そんな事を言われたのは初めての事だった故に思わず笑ってしまった」
そしてアルフは僅かに頭を下げた。それは本当に僅かだったが多少なりとも性格を理解したスピカだからこそ気付いたものだ。
直ぐに頭を上げスピカに目を合わせじっと見つめる。
「それと此方からも言わせてもらうがスピカ・ブラムフォードよ。どうか俺の友になってはくれないか?」
そう言ったアルフは右手を差し出した。自分にはアルフがなんと言っているのか頭に入ってこなかったが、それを理解した時にじわじわと笑みがこぼれた。
「こっ、こちらこそよろしく」
そして小さな声で告げ右手に右手を重ねる。
しばらく互いに固まったままだったがやがてアルフが手を振り払って懐中時計を取り出す。
「時間は二時半過ぎだが大丈夫なのか。腹が空いているようなら食べていくといい」
ここなら料理人を雇っているのだろうし、その腕は一流といってもいいのだろうから出される料理に興味がないわけでは無い。
しかし私は家を出る時に昼食は要らないなどと言付けて無いので、叔母たちは私の帰りを待ちまだ食べていないだろうと予想がつく。直ぐにでも帰らなければ良心が痛む。
「悪いのだけど直ぐ帰らないと行けないの。だから食事はまた今度誘ってもらえるかな」
言うや否来た道を振り返るがどうやって来たのか全く道程を覚えていなかった。縋るように振り返るとアルフは右手を差し出す。
「手を乗せろ。正門まで案内しよう」
差し出した手に触れるとスピカは物凄い感覚を味わった。身体が洗濯機にでも放り込まれたかのような、ジェットコースターを更に強化したかのような感覚だった。昼を食べる前でよかった。何かを食べた後だと確実に吐いていただろう。流石に吐くのはごめんだ。
「着いたぞ。……吐くなよ」
「こ、これは?」
「これは姿現しというものだ。瞬時に何処でも行ける」
目の前には巨大な扉があった。だが自分が通って来たところとは違うようだと思っているとアルフが教えてくれた。
「スピカが通って来た門は許可が無くとも通行出来るが正門は違う。許可が無ければ存在すら知覚できない」
スピカが正門に向かって行くと門がひとりでに動き人ひとり通れるだけ動いた。
門をくぐると屋敷の正門前にいた。振り返ると門と扉が二重にぶれて見えていた。扉が見えるという事は許可されたという事なのだろう。
既に扉は閉め切られていたが別れを告げて無かったなと思い扉越しに告げる。
「じゃあまたねアルフ!」
この2人の出会いこそは予言された運命だと今は知る由もなかった。
タイトルは主人公の方は兎も角ヒロインの方は中々秀逸だったと思います
ちなみに桎梏←これ