次の次には原作に入る予定ではいます
それではどうぞ
第3話 非日常の日常
どうかお楽しみください
自分の住む町をスピカは忙しく走っていた。3時過ぎに学校が終わるやいな放たれた矢の如く駆け出し、家に帰って来たと思えば自室のクローゼットから いつか友達が出来たら遊ぶ時に着ていく用 と称していたほぼ初めて袖を通す服に着替えると休む暇なく家を飛び出した。
それを見ていた彼女の叔母のリリアナと叔父のアルバートは初めて見た姪の行動だった為か、きょとんと目を点にした後互いに顔を見合わせ優しい顔をした。実の子が居ない彼らではあるがその時の顔はまさしく子を愛する親の顔だった。
ずっと友達が居なく孤独だった姪にようやく友達ができたのかと成長に感動し、まだ見ぬ相手の子には感謝の気持ちでいっぱいだった。可能ならば今すぐにでも飛び出し追いかけてその子に礼でも言いたい程だった。
だが仮にこっそり付いて行こうとしてもそれは無駄だっただろう。何故なら相手はマグルではなく魔法使いだからだ。それに加えスピカが向かう場所はただの邸宅ではなく魔法使いの住まう城であるからだ。
休まず町の外の幽霊屋敷まで走って来た為か息切れが激しく鉄柵に手を掛け息を整える。
やがて息が整うとそれを見計らったかの様なタイミングで荘厳な雰囲気の城門が開かれる。つい先日アルフと友誼を結んだ際に城を訪れる許可を得たスピカのみがこの城門を知覚することが出来るのだ。
城門をくぐるとそこにはひとりの少年とその横には小人が立っていた。
その少年の歳の頃は13歳程度で灰色の髪と淡い蒼の瞳をこちらに向けて居たがそれ以上にスピカの目は彼の服装に捕らわれた。
彼は現在ではテレビか本でしかそうお目にかかれないだろう執事服を着ていた。服に着られている様な不恰好さは無く日常的に着ているのだろうと推測出来る。おそらくというよりもほぼ確実にここで雇われているのだろう。そして小人はコウモリのように長い耳と大きな口と目という特徴的な外見で服は枕カバーに穴を開けただけに見える質素すぎる格好だった。
と、ここでスピカは自分が次に来訪する日時を指定していなかったことを思い出す。相手は富豪や貴族以上の存在だということを失念していた。このままでは門前払いもありえるかもしれない。
「急な訪問すみません。私はスピカ・ブラムフォードという者なのですが__」
これ以上心象を下げない為にも丁寧に話を進めようとするがスピカの名前を聞くとやはりという顔と共に手で止められる。
「ええ、貴女の事は存じ上げております。
「貴女様が萎縮なされる必要なんて有りませんよ。貴女様はご主人様のお客様でいらっしゃいますゆえ」
萎縮する必要は無いとは言われたがこれ程までに謙られた体験なんてない為かえって緊張してしまう。それに何を言っても態度は変わってくれないだろうので我慢するにしても最初に自分が心配した事態にはならない様なのでそれは一安心だ。
「それよりも
「は、はい。よろしくお願いします」
「それでは私の肩に手を置いてください」
スピカがクロードの肩に手を置くと小人は長い指をパチンと鳴らした。すると前回アルフの手により味わった事のある凄まじい揺れを感じた。
姿現しで現れた場所にアルフは居なかったがここはどうやら客間らしい。スピカとクロードを連れて来た小人はすぐに消えてしまった。おそらくアルフを呼びにいったのだろう。
豪華なテーブルの前まで案内され引かれた椅子にそっと座るとクロードはティーセットを取り出しカップに紅茶を注いだ。
テーブルや椅子は勿論のことカップに至るまでが高級感あふれるアンティークでうっかり傷でも付けたらとんでもないと身動き一つ取れない。
スピカの萎縮した姿を見てクロードは口調を崩しフランクな語調になる。
「それにしてももっと早く来てくれても良かったのですよスピカさん。貴女が帰ってからというと
「え、そうなのですか?」
正直に言ってそわそわしていたアルフと言われてもそれが全く想像出来ない。これがクロードの嘘だと言われた方が余程信じられる。
すると客間の扉が開け放たれる。そこに立っていたのはアルフだった。早足で部屋に入って来たアルフはまずスピカとは対極の席に座る。急に入って来たアルフにもクロードは驚く事なく椅子を引いた。
「ようこそスピカ。4日と半日振りだがどうやら元気そうだな」
「久しぶりねアルフ。門をくぐったらクロードさんとかが居たからびっくりしたよ」
スピカがクロードの名前を口に出すと綺麗な顔をしかめ普段より1オクターブ低い声で質問された。その声には頼むからそうではないと言ってくれと言いたげな声色だった。
「……例えばの話だが此奴から何か言われてないか?」
「私が帰ってからのアルフはずっとそわそわして何度も来ていないか確認してたって聞いたけど」
「多少浮き足立っていた事はこの際認めよう、だが此奴の話は九割九分が戯言だ。真に受けるなスピカ」
「おや?可笑しいですね
「はっ、何を言うか。それらは他の馬鹿共の写真もろとも焼いて処分してやっ__」
自らの失言で事実を明かしてしまったアルフは怒りと羞恥で頬を紅潮させ大きな音を立て倒れる椅子から立ち上がりクロードに詰め寄る。
「本当に余計なことしかしないなお前は!紅茶を淹れたならさっさと出て行け!」
「実は一枚だけ難を逃れた写真が部屋の隅に落ちていたのですが持って来ましょうか?」
「八裂きにされたいのか⁈さっさと失せろ!」
今のスピカの位置からはアルフの背中しか見えないがそれでも僅かに肩で息をしているのを見るに怒りと羞恥で真っ赤な顔をしているのだろう。
気持ちを落ち着かせたアルフは倒した椅子を元に戻してスピカの対面に座り直す。
「それで今日はどうした」
「いや特に用があって来た訳じゃないんだけどね」
「それならちょうど良い。いずれホグワーツで学ぶ事になるだろうがお前に魔法を教えようと思うのだがどうする?」
「アルフが魔法を教えてくれるの?それなら色々知りたいな」
「いいだろう。お前が魔法の才があるのは分かっている。まずは理論から学んでもらう」
壁に向けて杖を振ると一部が黒板になりスプーンがチョークになった。
「では準備はいいな。まずは変身術からやるとするか。いくぞ__」
黒板には無数の式が書いてある。しかしそれは数学のものではない。変身術の魔術理論と魔術式だ。
アルフとて初日でここまで教える気は無かったのだが思っていた以上に飲み込みの早いスピカに気を良くしてペースは加速して言ったのだった。
授業が終わった頃にはスピカの頭はショート寸前の状態で突っ伏せていたがそれも無理はないだろう。なにせ変身術などという初めて見る学問の上教科書やノートの類いは一切無く全てが板書か口頭であった。
「そろそろ夕刻だ。帰った方がいいだろうな」
「アルフのスパルタ授業の所為で少しここに来たくなくなったよ……」
完全に燃え尽きてテーブルに突っ伏しているスピカにアルフは溜息をついた後少し待っていろと言って部屋を出て行く。しばらくして戻って来るとその手には二枚の鏡があった。
「此れは両面鏡という物だ。対の鏡同士で会話が可能な魔法道具だ。此れならばここに来れなくとも会話は出来るだろう」
「ありがとう。電話みたいなものなのね」
「そうだな。鏡だから割らないよう扱いには気をつけろ。後は使用中は周りに気を配れ」
アルフは適当なテーブルクロスを手提げバックに変え両面鏡を中に入れてスピカに渡した。
いざ帰宅しようとなった時の事だがスピカは道がわからないのでアルフの手を借り姿現しで正門前まで来た。姿現しの衝撃に未だ慣れないのでギリギリまでスピカは姿現しを渋っていた。
「それじゃまたね」
「ああ」
というか両面鏡って簡単に言うと持ち運ひできるテレビ電話ですよね