今回はとても難産でした
それではどうぞ
第5話 真実を語る者
お楽しみください
アルフの思考は完全に硬直していた。それ故見知らぬ男と両面鏡越しに対面していても呆然としている。本来の目的であった胡散臭い男から開心術で思考を読み取るという事を完全に忘れ座り尽くす。
対面に居るアルバートとリリアナも同様に硬直していたのがせめてもの救いだろうか。
しかしそれでも先に我にかえったのはアルフでは無かった。アルフが気付いた時にはアルバートたちは既に平静を取り戻してこちらを見て何かを思案しているようだった。
アルフは未だ収まらない動揺を隠しいつも通りの支配者然とした表情を被りこれ以上失態を重ねない様にと増えた疑問をぶつける。
「……貴様は俺を見て母の名を口にした。何故マグルの貴様らが母を知っている。いやマグルではないのか。まあいい、とにかく答えろ」
一応はそれは質問ではあったが詰問を通り越して命令ですらあった。抑えきれない衝動が魔力となって放出され威圧感が増す。鏡は自分の姿を写さない故に知る由も無いがその時のアルフの瞳と髪は明らかに発光し黄金に輝いていた。
それを見たアルバートとリリアナはやはりアルフに自らの親友であるセレスの面影を思い出し嫌でも血縁を想起させた。
『君の考えた通りだよ。僕たちはマグルじゃない魔法使いと魔女だ』
「やはりか。それで?」
『何故知っているか、か。特に深い理由は無いよ。ただホグワーツで寮こそ違えど友であったという事だけだよ』
アルバートの言葉ひとつひとつに嘘がないか目を見て探るが精神がまだ落ち着いていないからか開心術は上手くいかない。精神への侵入が阻まれたことからして余程荒い発動だったのだろう。
『確かに疑わしいのは分かるよ。ただちょっと開心術はやめてほしいかな』
「……やはり無駄だったか」
『うん。その歳で開心術を使えるのは驚きだけどね。それよりも今度は僕たちが君に聞いてもいいかな』
「答えるかは別だが聞くだけ聞いてやろう」
『ありがとう。それじゃあまずは君の名前を聞きたいな』
「……アルフ。アルフ・オルドリッチだ」
答える必要は無いのだがそのままでは拉致があかないので渋々答える。それはアルバートから見ても明らかであったがその質問によってかつてセレスが赤子を抱いて名前を教えてくれたのを思い出した。
『ならアルフと呼ばせてもらうけどいいかな』
「好きにしろ」
『ありがとう。君の名前を聞いて思い出したけど僕たちは君が幼い頃に会ったことがあるんだよ。覚えているかい』
「いや、悪いが覚えてないな」
アルフの優先順位の中では自分や身内は相当上位に位置するが頂点では無い。アルフの最優先事項は
故に母の友を名乗るアルバートには初対面であの出会い方としては驚くほどに心を許していた。
アルフは顔にこそ出していないがアルバートの記憶に興味津々で隙あらば開心術を持って覗こうとしていた。無論今は精神を落ち着かせているので普段通りの開心術を使えるのだがアルバートがそれに意識を向けるのを察すると解除し閉心術を躱す。
『おや、もうこんな時間だ。君もそろそろ寝た方がいいよ。続きはまた今度機会があったにしよう』
ふと時計を見たアルバートはそう言ったがアルフとしては徹夜程度どうという事はない。それに今は睡眠欲よりも母との思い出を聞き出したいと思う気持ちの方が強い。
狙っているのか妙に胡散臭いところのあるアルバートだが根は善人らしく子どもに夜更かしをさせることに忌避感があるらしい。
ふと耳を澄ませればドタバタと騒音が発生したのを捉えた。音の響き具合からして恐らく上層階からのものだろう。
女性がスピカを止めようと何かを喋っているのが聞こえるがスピカはそれを意に介さず階段を下る足音が響く。
居間の扉が開けられるのを察したアルバートは両面鏡をさっと扉の前からは見えない位置に滑らせた。やはりこの男こういった事の手際が良さ過ぎる探られたら痛い腹でもあるのか。
『……ねぇ叔父さん。私の鏡知らな___え?』
アルバートが扉の前に立つスピカにもう寝なさいと言い含めるがスピカの視線はアルバートの目では無くその斜め下辺りに当てられていた。
それを訝しんだアルバートは僅かに視線をずらしてそこを見ると驚愕のあまりに喉から変な声が出そうになった。スピカの視線の先にはアルバートが確かに見えないよう隠した筈の面が見える程度の角度を付けられた両面鏡が鎮座していた。
妖精師ではないアルバートには見える筈も無いがその目と喉を持つアルフには鏡を引っ張る妖精が見えた。それを辞めさせようにも既にスピカが扉を開けていたので声を出したらどのみちバレていただろう。
妖精師の才は目や喉のみではない妖精に好かれやすいことも才の一つだ。高位妖精は自らを見える者に対して好かれようと動く。恐らくはスピカの私物を取り返そうとしたのだろう。
『なんで鏡がここにあるの?それにどうして叔父さんがそれを使ってるの?』
『ああ、……うん、ちょっとね』
「ここまで露呈しているんだ。諦めて説明してやったらどうだ?魔法使い殿」
『それはそうだけどね、……その言い方だと悪意を感じるんだけど⁈』
「ああ、もうこんな時間では無いか!では俺はお前の言う通りに就寝するとしよう」
『いや、ねぇ、ちょっと、待って。君にも説明してほし__』
「ハッ、ではな。せいぜいその良く回る口で弁明でもするがいい」
アルフはそう言い残し両面鏡の交信を一方的に切断した。
スピカの私物を勝手に持ち出したアルバートは姪当人の乱入に大いに慌て思わずアルフに助けを求めるほどであった。しかし多少なりとも信用は出来るようになったとはいえ胡散臭い口調で散々振り回された事は忘れていない。
故に助ける筈が無かった。意趣返しとしてはあまりにも小さいと思うが慌てた姿を見て鏡を停止させた後は笑いを止めることが暫く出来なかった。
その日もスピカはオルドリッチの城を訪れアルフらと会談を楽しみ、その後アルフによるスパルタ式魔法授業を受けていた。
アルフの授業は周囲から万能の天才と言われるだけあって非常に教えるのが上手で、何か魔法か装置で頭に直接情報を叩き込んでいるのではないかと思うほどだった。
だが教えるのが上手すぎて気付けば時間は経っているし終わってみると疲れが追い付いてどっと身体が重くなる。
「もうこんな時間か。それで今日は昼をどうするんだ?ああ、スピカが来た時に食事の準備はしておくように言ってあるぞ」
「え……、じゃあお言葉に甘えていただこうかな」
スピカがそう告げるとアルフがどこからともなく取り出したベルを鳴らすと屋敷妖精が姿現しで現れ特徴的な高い声で喋る。
「何か御用でしょうか御主人様」
「昼食をここで取るからスピカの分も運んで来い」
「承知致しました」
命令を下された屋敷妖精は再び姿現しで何処かに消えるがその時ふと気になることを思い出した。オルドリッチ家が魔法界の王家の直系だということを。それにこんな城で出される料理が家庭料理ではない事は確かで、出される料理は城の装飾に相応しい格式高い品なのだろう。自分はそんなテーブルマナーが必要な品は食べた事が無いので当然テーブルマナーなんてナイフとフォークが沢山ある事くらいしか分からない。
「ねぇ、私テーブルマナーなんて知らないんだけど……」
「ああ、気にするな。どうせそうだろうと軽い物を作らせておいた」
ちょうどその時扉が開かれワゴンで運ばれて来るが料理がクロッシェで覆われており何が入っているか分からない。アルフは軽い物と言っていたけど物の認識が同じなのか不安になってきた。
食事の為に物を片付けていた場所に音を立てず静かに料理が置かれクロッシェが外される。
その皿に鎮座して居たのは野菜や肉や玉子をパンで挟んだ物、つまりサンドウィッチだった。
どうやらこれは自分とアルフとの認識が一致したようで一安心だ。
「なんだサンドウィッチかぁ。……あ、おいしい」
「サンドウィッチは軽い物の代表的な料理だろうが。何が出てくると思っていたんだ」
やはりこの城に仕える料理人は一流の腕を持つのだろう。どれも素材の味が活かされておりとても美味しい。ただ一つ疑問に思うのは肉だ。挟まっている肉は自分の記憶の中では食べたことの無い物だ。その疑問を察したのかアルフが教えてくれた。
「スピカはこの肉を食べたことは無いだろう。これはドラゴンの尾の肉だ」
「ド、ドラゴン⁈」
ドラゴン。ドラゴンと言ったか。衝撃的過ぎて思わずサンドウィッチを落としそうになる。……前言撤回だ、物の認識が違う。
流石魔法界。流石魔法使いだ。食事一つ取って驚かされるとは思わなく、もうこう言うものだと諦めるしかないようだ。
「今日は叔母さんに勉強会って言って出てきたからこっちの方も教えてくれる?」
「マグルのか。まぁいいだろう。どの程度かは食べ終わったら伝えろ」
サンドウィッチを食べ終わった後に数学や科学のよく分からないところを伝えてそこを教わっていた筈なのに気付いたらもっと先の予習までさせられていた。
知恵熱で頭から湯気が出そうな程疲れた身体に鞭を打って帰路に着くがふらふら歩く自分を見かねたアルフが姿現しで近所まで連れて来てくれた。いつも吐きそうになるのを堪えるのだが今回はそんな体力など無く吐いた。
家に帰って来たが夕食を食べるが食事中も疲労で意識が飛びかけたりして叔母さんと叔父さんに心配された。その後シャワーを浴びてすぐベットに飛び込むと意識が薄れていった。
眠っている中誰かが部屋に入って来るのを見た気がしたがどうせ夢だろうと寝返りをうった。
あまりに早く寝過ぎた為か体を起こし時計を見ると短針と長針が頂点を過ぎた場所で重なっていた。
この時間帯ならまだアルフが起きている筈なので再び眠気が来るまで話し相手になって貰おうとベットから出る。
しかしベットから出て部屋のどこを捜そうとも両面鏡は出てこない。持ち出した覚えはないがもしかしたら下のリビングにあるかもと部屋を出て階段を下る。下る途中で叔母さんが上がって来た。
「スピカ?今日はもう寝たんじゃないの。こんな時間に何をしてるのよ」
「目が覚めちゃって。このくらいの鏡知らない?私の部屋に置いてあった筈なんだけど……」
「鏡なら明日でもいいじゃない。今日はもう寝なさい。ほら」
「ちょっとだけだから。すぐ戻るから、リビングで探すね」
そう言ってリリアナの横をスルリと抜けたスピカの耳は後ろで焦って止めようとするリリアナの声を聞いていなかった。
リビングの扉を開けるとそこには叔父のアルバートがいるが座っている態勢からは不自然な程こちらに正面を向けて居る。
それを訝しみながらも取り敢えず聞こうと口を開くが驚きで止まってしまう。
「……ねぇ叔父さん。私の鏡知らな___え?」
何故ならアルバートの後ろから妖精が手を振りながら現れ両面鏡を引きずって来たからだ。そして驚きはそれだけではなくて、鏡はアルフを写していた。
「なんで鏡がここにあるの?それにどうして叔父さんがそれを使ってるの?」
「ああ、……うん、ちょっとね」
『ここまで露呈しているんだ。諦めて説明してやったらどうだ?魔法使い殿』
「それはそうだけどね、……その言い方だと悪意を感じるんだけど⁈」
『ああ、もうこんな時間では無いか!では俺はお前の言う通りに就寝するとしよう』
「いや、ねぇ、ちょっと、待って。君にも説明してほし__」
『ハッ、ではな。せいぜいその良く回る口で弁明でもするがいい』
通信を切ろうとするアルフに普段飄々としている叔父さんが慌てて引き留めるがアルフはぴしゃりと跳ね除け消えた。
「……ねぇ叔父さん?本当にどういうことなの?私意味が分からないんだけど」
「もうスピカが色々知っているから言うけど僕たちは魔法使いなんだ」
「えっ。叔父さんはマグルじゃないの?達ってことは叔母さんもなの?」
「うん、そうだよ。……でも今日はもう遅いから明日にしよう」
「このくらいなら何ともないわ。大丈夫だから今話してよ」
「とても大切な事だからこそちゃんと話したいんだ。絶対明日話すよ。だから今日は寝るんだスピカ。いいね?」
「……分かったわ。お休みなさい叔父さん」