「暁!月読!依頼はまだか!?」
そう言いながら翼さんがまたベランダから入ってくる。
何でこの人いつもベランダから入ってくるんだろう?
玄関だと応対しないってわかってるのかな?
「また、嵐が来た…」
「フッ!風の鳴る翼を嵐に喩えるとは…やるな!月読!」
うん。今のやり取りのどこに褒める要素があったのかわからないけど、本人が満足そうだし、そっとしておこう。
何でこう会話が一方通行なんだろう?
こっちの話は通じてるのに向こうが何言ってるかわからないって理不尽だよね。
「今は依頼受けてないデス」
「今日はお仕事いいんですか?」
「ん?ああ、今日はオフだ。まったく、剣たるこの身に無知蒙昧な偶像を演じろとは緒川さんも言ってくれる」
ああ、そういえば最近バラエティ番組ばっかり出てるね。
…ていうか面白珍回答は演じてる訳じゃなくて素でしょ!?
後輩相手だからって何盛ってるの!?
「しかし依頼は受けていないのか…では探しに行くぞ!」
「あ、依頼人の目星は付いてるから大丈夫です」
私は鞘走る防人を止める。
「何?そうなのか?して、相手は?」
「響さんです」
「デデデデース!!?」
切ちゃんが面白いリアクションをしてるけど防人の対処の方が面倒なので今は放っておく。
「立花?困り事とは無縁に見えるが…むしろ他人の困り事を解決する立場というか…想像がつかんな…」
「実は先週未来さんを放置してたせいで未来さんに拘束されてるんです」
私は響さんの今の状況を掻い摘んで防人に説明する。
「そうか…しかし小日向も心配性が過ぎるな。相判った、この防人の剣が力を貸そう!」
こうして、切ちゃんと私、他1名による響さん救出チームが発足された。
***
「では、響さん救出に向けた作戦会議を開くデース…」
あの後、不承不承ながら了承した切ちゃんが作戦会議の議長を務める。
切ちゃん…やる気無いのが露骨だよ?
響さんの件は私達にも責任あるから解決してあげないとだよ?
そういう意味では、今回の防人の助力は渡りに船。
先送りにして自分達だけで解決するよりずっと楽なはず。
そもそも、依頼人がいないって理由でこの人が大人しく帰る訳無いし…
「ふむ…まずは小日向と話をしない事には始まらんのでは無いか?」
あれ?防人が普通の事言ってる?
「そうデスね。未来さんの言い分を聞いて、お互いの意見を擦り合わせすれば…」
「フッ!通じないなら通じ合うまでぶつけるだけだ」
あっ、良かった気のせいだった。
ちょっと議論が脳筋方向に行ってるからこのあたりで止めないと…
「ちょっと待って?ほとんど無策で行くって聞こえるけど、勝算はあるの?」
「思い付きを数字で語れるものか!!」
えぇ…堂々と思い付きって言われても…
そう言えばこの台詞、司令が大元らしいけど、血は争えないってことなのかな…
でも相手は
「なら、クリス先輩とマリアも呼んで数で訴えるのはどうデス?」
うん。悪くないし私もその案は考えたんだけど…
「今、未来さんがああなってるのは、先週の響さんの行動の結果。なので最悪、クリス先輩が刺されるから却下」
「ん?
あれ?この人もしかして大前提をわかってないのかな?
「愛、デスよ」
「なぜそこで愛っ!!?」
うん。わかってないみたいだね…
この人本当に頼りになるのかな…?
***
「調ちゃんに切歌ちゃん?と…翼さん!!?今日はどうしたんですか!?」
結局、具体案が無いまま、未来さんの前まで来てしまった…
防人が「私に任せておけ」って言ってたけど大丈夫かな…?
せめて切ちゃんの命だけは助けてもらおう…
「なに。今日はオフだからな。ひさびさにゆっくり小日向と話がしたいと思って足を運んだ次第だ」
あれ?防人語は?
というかこの人こんなに優しい顔出来るんだ?
「え!?え!?そんな…それならわざわざ来なくても呼んでくれたら…」
未来さんが目に見えて動揺している。
普段の言動で忘れがちだけど、相手は多忙を極める歌姫だから、これが普通の反応なのかな?
…そういえば、未来さんは元々ツヴァイウィングのファンだって言ってたね。
未来さんは響さん絡み以外、至って普通の感性の人だから、憧れの人と話してるって感じなのかな?
「私の都合に合わせるのだから、私から伺うのが礼儀だろう?」
うん。本当にこの人誰?
食器を愉快なオブジェにする人と同一人物とは思えない。
***
「それで…話っていうのは…?」
未来さんの提案で家にお邪魔する。
響さんは外に出れないため、ふて寝してるらしい。
「ああ、立花の事だ」
瞬時に未来さんの顔が険しくなる。
怖い。
「翼さん
未来さんが声を荒げて言う。
ん?「も」っていうことは他にも誰か交渉した人がいるってことかな?
「ああ、些かやり過ぎだ。小日向もわかっているんだろう?」
「!!それは…でも…こうしないと響が何処か遠くに行っちゃいそうで不安なんです!!」
うん。わかってたけど愛が重い。
これは他人が何言っても無理じゃないかな?
「しかし小日向?お前は立花にとっての『陽だまり』だろう?立花が帰る場所はお前以外に誰にも務まらんよ」
「それでもっ!不安なんですっ!響がいなくなったら…私」
うん。もう正直胃もたれしそうなくらい重い。
さっきから切ちゃんも私も空気だし帰ってもいいんじゃないかな?
ていうか翼さんがこんなに頼りになるとは思わなかった。
これは嬉しい誤算。
「案ずるな、小日向。そのための剣だ。立花に振り掛かる危難は全てこの防人の剣が払って見せよう」
なぜそこで剣っ!!??
未来さんはストレートに言うと響さんが浮気しないか心配なんだよね?
え?ほんとに何で?
未来さんもよくわからないって顔してる。
あっ!やっぱりこの人愛の方向性を勘違いしてる!
この人的には危険な任務につく響さんの身を案じてる未来さんって感じかな?
そうだけどそうじゃないよ!
あれ?でもこの台詞…聞きようによってはまずくない?
「そうですか…響を誑かしてたのは翼さんだったんですね…?」
ヤバい!切ちゃん!ウトウトしてる場合じゃないよ!
警告メロディーだよ!
「誑かす?小日向、何を言っている?」
「真っ先に来たクリスだと思ってたけど…翼さんだったんですね…」
他に来てたのはクリス先輩だったみたいだけど、誤解は解けてなかった?
え?クリス先輩の安否は?
というかこの状況はまずい。
「未来!私が悪かったからさ?もうやめよ?」
もう祈るしかない。
そんな状況の私達を救ったのは響さんの一言だった。
「でも!でも!響ぃぃ!!」
「うんうん、不安にさせちゃってごめんね?」
雨降って地固まるかな?
だいぶ命の危険を感じたけど…
ちなみにクリス先輩は生きていたけど、しばらく未来さんの名前を聞くだけで震えて逃げ出すようになっていた。
何があったかは怖くて聞けない。
防人と言いつつのひびみく。
防人の台詞を面白おかしく書いてますが、防人は一番好きなキャラだったりします(笑)