ソロボーイとゆるふわきゃんぷ   作:赤備え

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時々庭でB6君を使ってYAKINIKUを食べてます。安い肉でも美味しく感じちゃうから不思議。


ソロボーイと野クル

すっかり凍りつくような肌寒い季節になってしまい身を切るような風が吹き付けてくる中、学校へ続く坂道を歩きながら俺はマフラーに顔を深くうずめながら手元の『ゼロからはじめる米軍式キャンプ飯~ナイフ一本で獲物を狩れ!~』を読んでいた。

 

父の転勤が突然決まり生まれて16年間住んでいた滋賀から山梨へ桜が咲き乱れる季節に転校してきて今はもう11月も終わる頃、半年経っても俺には友達が一人もできていない。

 

慌ただしく山梨まで引っ越してきたが慣れない土地での生活に全く馴染めず、おまけに滋賀に住んでいた頃から友達が一人もいない極度の人見知りで最初は話しかけてきたクラスメイトも今は俺に全く興味を失くし完全に空気扱いされている。というかこの間朝のホームルームで点呼されて返事したのに何故か気付かれず欠席扱いされそうになるくらい常にステルスでモモな状態なのだ。

 

まぁ、別に俺はそれでも構わない。元々人と関わることが苦手だし、なにより自分の趣味を優先させたかったっていうのもある。

 

週末は何をしよっかな……そんなことを想いながら本を読んでいると後ろから地鳴りのようなダッシュする音が聞こえてきたかと思うと振り向く暇もなく俺の背中に何かが突っ込んできた。

 

「うおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

なすすべもなくその何かと一緒に倒れ、硬いアスファルトへ盛大に顔面をぶつけてしまった。

 

「ご、ごめんなさい!!大丈夫ですか!!!???」

 

謝るより前にどいてほしい。さっきから背中に柔らかいマシュマロのような触感が伝わってきてるんだけどこれは一体……。

 

 

「……い、痛いからちょっとどいてくれないかな……?」

 

「あ、ごめんなさい!!」

 

やっと下敷きから解放されて一体何がぶつかってきたのかと思い起き上がり後ろを振り向くと案の定俺と同じ本栖高校の制服を着ている女子高生だった。

ピンク色の髪色をして活発そうなイメージをうける。どこかフニャフニャとした感じがしていてトマトが大好きな丸いピンクの奴のようだ。

 

「あ、鼻血が出てます!これ使ってください!!」

 

ピンク髪のJKはポケットからハンカチを差し出してきた。いや流石にJKのハンカチを使うのはちょっと……それになんかいい匂いするぞこれ。

 

「ダメです!!ちゃんと拭かないと!!」

 

いきなり俺に顔を近づけたと思ったら優しく俺の垂れた鼻血を拭ってくれたっていうか近い近い!ハンカチ以上になんか甘い匂いするんですけどなんなのこれ!?

 

「じ、自分で拭くから!」

 

仕方なくハンカチを受け取り血を拭っているとピンク髪のJKはふと俺がさっきまで読んでいたキャンプの本が落ちているのに気づき拾い上げた。

 

「あの、本落としまし…………」

 

本を拾った瞬間途端食い入るように表紙を見ているようだが一体どうしたんだ?特別珍しい本という訳でもないどこの書店でも売ってるごく普通の本だ。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「キャンプ好きなんですか!?」

 

グイッと再び顔を鼻先が触れるくらい近づけてきた。だからそれやめろって!そういうの免疫ないから心臓に悪いんだよ!

 

 

「い、いや。まぁ……」

 

俺は突然瞳の中を星一杯にして嬉しそうに詰め寄ってくる女の子に若干、というかかなり気圧されていた。今どきのJKって初対面でもこんなフランクな感じなの?コミュ力の固まりじゃん。

 

「キャンプ好きな人が野クルのメンバー以外にいたなんて……!これは千明ちゃんに知らせないと!」

 

なんだなんだ、急に何か企んでいるような顔になってるけどなにをする気なんだ。

 

「あ、私各務原(かがみはら)なでしこっていいます!あなたの名前は?同じ学年!?クラスは!?」

 

「と、豊郷悠介(とよさと ゆうすけ)。所属はB組で○年だけど……」

 

「同じ学年だったんだ!それに隣のクラスなんて……今まで知らなかった!!」

 

そりゃあ各務原さんと合ったのは今日会ったの多分初めてだからだと思うよ。

 

「あの!突然ですけど悠介君は野クルに興味ありませんか!?」

 

いきなり下の名前で呼ぶとはどんだけフレンドリーだよ……。母親以外に初めて呼ばれたぞ。

 

「野クルっていうのは……?」

 

「キャンプをするサークルです!!」

 

説明がざっくりだなぁ。

 

「とりあえず私たちのサークル活躍を見学してください!放課後にまた迎えにいきますから〜!!」

 

そう言うと俺の返事も待たずに全速力で坂道を走って行ってしまいあっという間に姿が見えなくなった。

 

まるで嵐が過ぎ去ったかのような怒涛の展開に呆然とするしかなかった。まぁ入部するかしないかは置いといて少し話を聞くくらいなら別に構わないと思い直し、再び本を読みながらゆっくりと坂道を歩いた。

 

 

 

 

「悠介くんいますかー!!」

 

睡魔と戦いながら全ての授業が終わり、気怠げに背伸びをしていたらいきなり俺の名前を呼ぶ大きい声が教室中に響いた。

「誰あの子?」

 

「この間転校してきた女子じゃね?」

 

「悠介ってぼっちの豊郷のことだよな」

 

「もしかして彼女か?」

 

クラス中が突然現れた女子……各務原と俺を交互に見ながらヒソヒソと話している。

 

これまで目立たずにぼっち生活を送ってきたが各務原さんのせいでクラスメイトが変な誤解をして無駄に注目される羽目になったが、これ以上俺の薔薇色なぼっち生活と心の平穏が乱されない内に慌てて鞄を持って各務原を廊下に押し出した。

 

「廊下で大人しく待ってるという選択肢なかったのかな……」

 

「?何かマズかった?」

 

やだこの娘天然だわ……!普通誰とも接点を持たないぼっちにいきなり下の名前で呼ぶ女子が現れたら誰だって不審がるしぼっちだった男が実は彼女持ちだった!なんて噂が広まったら各務原にも迷惑をかけてしまう。

 

「この各務原なでしこ!悠介くんを野クルの部室へ案内する為に参上しました!!ささ、いざ往かん!!」

 

そういうと俺の手を右手で握りしめ全速力で走り始めた各務原さんに抵抗する暇もなく連行されていく途中、ギョッとした顔で大勢の生徒に見られて俺の中で平穏という大きい壁がバラバラと崩れ落ちる。さらば安寧。こんにちは混沌。そして着いた場所は校舎のすぐ隣にある部室棟だった。

 

「ここに野外活動(やがいかつどう)サークルの部室があるんだよ!」

 

部室練の中は1階がスポーツ系、2階が文化系に分かれているらしく、各務原さんが所属している野外活動サークルの部室は1階のどん詰まりにあった。窓からかなり離れた位置にあり部室前辺りは夕方ということもありかなり薄暗い。

 

「あきちゃんあおいちゃーん!!!入部希望者連れてきたよ!」

 

一言も言っていないのになぜか俺は入部したいことになってるが事実を捻じ曲げすぎだろ。歪曲の魔眼の持ち主なのかな?

 

なでしこが扉を開けるとそこはとても部室とは思えない狭さをしていた。細長い床だが無駄に天井は高い。壁には四角の箱がズラリと設置してありアウトドア関連らしき本や薪などが収納されているのが見えた。

 

「なぬ!?新しき部員だと!?」

 

部屋の中央で体育座りをして本を読んでいたメガネをかけた女子が勢いよく立ち上がった。大きなおでこがツルッと光り、長い髪を両サイドで纏めたツインテールにしている。どことなくポジティブでパッションなアイドルの声に似ているような気がした。

 

「ん?待て……なにゆえ君たちは手を繋いでいるのだ?もしや新人部員ではなく彼氏か!?」

 

よく見ると各務原さんはまだ俺の右手をしっかり握って放していない。さっきは余裕がなかったが今冷静に考えるとこれは勘違いされてもおかしくはないシチュエーションではないか。

 

俺は今更恥ずかしくなり慌てて手を放す、各務原さんもさすがに羞恥を感じたのか頬を赤く染め必死に否定した。

 

「ち、違うよー!今日の朝発見してきたキャンパーさんだよ!!」

 

「へー、この学校に私たち以外にキャンプ経験者の生徒おったん?初耳やわ」

 

箱の上に座っていた少女が床に立ち、興味深そうに俺を見つめる。少したれ目で眉毛が沢庵みたいに太い。ほんわかとした雰囲気を纏っていて一緒にいるとこっちまでほんわかしてしまいそう。こういう母性溢れる女性に対してバブみを感じるとはこの事か。

 

「各務原さん?俺入部するっていってないよ?ちょっと話を聞きに来ただけだから」

 

「え!?入部しないの!?」

 

分かりやすく涙目になりながらシュンとうなだれる各務原さんを見ると罪悪感という風船が俺の心を圧迫してくる。いやこれ普通に心が痛むんですけど。

 

「まぁまぁ、まずは詳しい説明聞いてから決めるってことやろ?まずは自己紹介しとこか。ウチは犬山(いぬやま)あおい、で、こっちが部長の大垣千明(おおがき ちあき)や」

 

「おっす!よろしくな」

 

「豊郷悠介です……、あの、少し気になったんですけどサークルっていうことは『部』ではないんですか?」

 

「ああ、今所属してるのは私とあおいとなでしこの3人だけだからな。『部』に昇格するには最低4人いないと駄目なんだよ」

 

なるほど、ということは何故こんな用具入れのような狭い部屋が部室なのか説明が付く、要するにまだサークルだからしっかりとした部室を与えられていないんだな。

 

「『部』になったら正式な部室を与えられるだけじゃない、今の私たちに必要不可欠な物……部費が発生するんだ!だから4人目のメンバーが誰か入ってくれればなーって、しかもキャンプ経験者の人がいいなーなんて思ったりしてるんだよなぁ~?」

 

わざとらしい演技をしてチラチラと俺を見る大垣には悪いがキャンプ経験者というのは少し誤解してるな。

 

「キャンプ歴ってどのぐらいなん?テントとかシュラフってどこのメーカーの使ってるん?」

 

「……あの、非常に言いにくいんですけど、その、実際にキャンプ場でキャンプしたことないんです」

 

「?キャンプをしたことがない?キャンパーじゃないのか?」

 

首をかしげる大垣さんに俺は申し訳ない気持ちで一杯になりながら真実を告げる。

 

「その、一応テントやシュラフの道具一式は揃えてるし知識も一通りあるんですけど、一回も使ったこと無くて……庭で焚火グリルでキャンプ飯作って食べてキャンプをしてる気分に浸ってるだけなんですよね。キャンプ道具一式を鑑賞してキャンプの妄想してるっていうか」

 

「「それ実質キャンプしたことないってこと『やん』『じゃん』!!!!!!」」

 

ですよね~。

 

「えぇ!?キャンプ経験者じゃないの!?」

 

各務原さんはまず人の話をしっかり聞いておこうね。

 

「自分みたいなにわかが入っても迷惑かけるだけですし……だから入部はやめておきます」

 

「ダメだよ!」

 

その時各務原さんは何故か悲しそうな顔をしていた。

 

「キャンプしたことなくても、妄想するくらい好きってことだよね?だったら一回体験してみようよ!キャンプを!」

 

「せやで~。せっかく道具も揃えてるのに使わんのもったいないやろ?」

 

「でも……」

 

そもそも俺は極度の人見知りなんだ。今も口にだすのが精いっぱいな状態なのに大勢に混じってキャンプなんかできる訳がない。

 

「よし!じゃあこうしよう。豊郷、仮入部しろ。そこでキャンプ体験してそんでやっぱり自分には合わないな~と思ったらそのまま辞めても全然大丈夫だから」

 

「大垣さん……」

 

かつてこれほどまで自分に対して親身になってくれた人なんていただろうか?いや、いなかった。今まで俺に話しかけた人間は上辺だけで話していたがこの人たちは本音で話してくれている感じがヒシヒシと感じる。なんなんだろうこの気持ちは、不思議と嫌な気分はしなかった。

 

「……分かりました。じゃあ、仮入部させてください」

 

「いよっしゃ!そうこなくっちゃあな!……存分にキャンプの面白さ教えてやるからな!そして正式メンバーになれ!部費のために!」

 

大垣さん本音ダダ漏れすぎじゃないですかね……。

 

「やったー!じゃあ早速どこのキャンプ場にするか決めなくちゃ!」

 

ピョンピョンと兎のように飛び跳ねる各務原さんは心底僕が仮入部してくれたことに喜んでくれているのが伝わってきて自然と笑顔になる。本格的に入部するのはこのメンバーとキャンプしてからゆっくり決めていこう。

 

 

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