ソロボーイとゆるふわきゃんぷ   作:赤備え

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眼鏡少女の決意と試験結果

【大垣千明目線】

 

……なんでこうなったんだ?私は手をほんの少し伸ばせば触れられるほどの距離でシュラフに包まってる隣の豊郷をチラリと見た。

 

目をカッと見開いたまま頰を真っ赤に染めているのを見るとやっぱり女子と二人きりで寝るのは恥ずかしいようだ。そりゃ当たり前だ、私もすげー恥ずかしい。

 

 

15分前

 

「じゃ、じゃあ俺のテントでこの三人の中の内一人が俺と一緒に寝るってこと……?」

 

「……そういうことになる」

 

私は重々しく頷いた。『今所持してる激安テントで三人でも寝れるだろ!』とロクに調べもせず楽観視していたけど明らかにスペースが足りなくてどうしても二人が限界だとさっき知った時は相当焦ったぜ……。

 

「ど、どうするん?誰か豊郷君のテントで寝んと一人外で寝ることになってまうで」

 

「し、死んじゃうよ〜!」

 

イヌ子となでしこの言う通り11月下旬のこの季節、夜は氷点下まで下がる中外で寝たらカチコチに固まった死体が発見されるだろう。

 

「……仕方ない。事前に調べなかった私に責任があるし、ここは部長である私が涙を飲んで豊郷のテントで一晩をすごそうではないか……」

 

「あ、アキ……!?初めて部長っぽい発言したな……!カッコええで!」

 

「千明ちゃんかっこいい……!!」

 

ははは、そんなに褒めるのはやめたまえ。私は当たり前の事を言ったまでだよ。イヌ子はちょっと余計な一言多いぞ〜。

 

「なんで俺と一緒のテントに寝るのが罰ゲームみたいになってんの??」

 

豊郷のツッコミを無視して私はテントからシュラフを取り出して豊郷のテントの中に放り込んだ。

 

「まぁまぁ、しょうがないから一緒のテントで寝てやる。光栄に思いたまえ!」

 

「清々しいまでに上から目線の発言だね……」

 

豊郷にはこうしていつも通りの態度で接しているけど内心心臓が破裂するんじゃないかっていうくらいバクバクと早鐘のように鼓動している。異性と同じテントで寝るなんて人生で初めてだしそんなこと一生無いと思っていたからこんなゲームみたいなイベントを目の当たりにして平静としていられるなんて無理だっつーの!

 

 

 

現在

 

「……し、しっかし、豊郷の持ってるキャンプ道具ってどれも高級なものばかりだよな〜」

 

気まずい空気に耐えきれなくなった私は無理矢理話題を振って恥ずかしさを誤魔化すことにした。

 

豊郷の所持しているキャンプ道具はどれも学生の身分じゃ絶対買えないような値段が高くベテランのキャンパー達が使っているものばかりだ。テントの天井にぶら下げてあるランタンもキャンプ好きなら一度は聞いたことがある有名ブランド『ハイランダー』のリモート機能付きランタンで6万くらいはする。私も持ってるけどあくまで防災用として家族で共有してるから学生でしかも個人所有しているのはかなり珍しい。

 

「ああ……父方の祖父がキャンプ好きでインドアな俺にも好きになってほしいって言って買ってくれたんだよ。でもずっと押入れに置きっ放しだったんだ。その、キャンプする勇気がなくてね……」

 

「ソロキャンプもダメなのか?」

 

「キャンプ場に誰か一人でもいたら話しかけられるんじゃないかと不安だから行かない。それに道具を見てるだけで満足しちゃうんだよ」

 

とんでもなくネガティブだなこいつ。だけど買っただけでキャンプに行った気分になってニヤニヤするのは少し分かるかな〜。六百円の薪をサークル用に買ったけどそのまま使わず置いてるし。……いやこれは単に使うのもったいないから保存してるだけだ。我ながら貧乏性だと思うけどいつか使おうとは考えている。マジでいつか使うから、大事なことだから二回言っておくぞ。

 

「……今日初めてキャンプして分かったことがあるんだ。自分の作った料理を家族以外の人に美味しいって喜んでくれたり他愛のない会話をまったりしたり……キャンプって、実際にやってみるとこんなに楽しいんだって驚いた」

 

「……」

 

「だから、俺を野クルに誘ってくれた各務原や何も文句を言わずに俺の仮入部を喜んでくれた犬山、そして今日キャンプに参加させてくれた大垣には感謝してる。本当にありがとう」

 

「……!」

 

私は慌てて豊郷の顔から目を逸らした。いや、こんなど直球に感謝されるとは思ってもいなかった。

 

それに……その笑顔はダメだ。私には真っ直ぐ見れないって。特別なことしてないのにそんな純粋に感情を向けられると何も言えなくなるじゃん……。

 

「?どうした?もしかして何か気に障ったこと言っちゃった?」

 

「な、なんでもない!」

 

なんだか顔がすごく熱い。ああもう!やっぱ男と一緒のテントってやっぱ寝れねーって!こんなこと志摩リンとか斎藤が知ったら絶対からかってくるに決まってる!知られないためにイヌ子となでしこに身延まんじゅうで口止めしとくか。

 

「……野クルは本当に居心地の良い場所だよ。でも、俺は正式に入部するのはやめておくよ」

 

「え?」

 

突然の入部辞退に私はただ呆気にとられるしかなかった。

 

「やっぱりさ、俺みたいな根暗でぼっちなやつが部員だと周りからの評判下がるだろ?それに、女子だけの中に男子の俺がいたらみんな気が休まらないだろうし……。俺がいたら迷惑かけちゃうよ」

 

……なんだか沸々と怒りが湧いてきた。評判?迷惑?何を言ってんだ。私は夕食の時料理を作る豊郷から他人の私達の為に一生懸命美味しいものを作ろうって言う真摯な気持ちを感じ取ったし、私達が美味いって言ったら嬉しそうに微笑んでたじゃん。そんな下らない理由で辞めるなんてこの部長が許さん!

 

「迷惑なんかじゃない。いいか、これだけははっきり言っておくぞ。自分の気持ちに嘘つくな。私は豊郷に入部して欲しいって思ってる。それはイヌ子もなでしこも一緒だ。さっきの夕食の時に幸せそうに食べてた私達を思い出してみろ。あんな美味い料理作れるってすごい事なんだ。男だからって理由で豊郷を拒絶なんか絶対しない!覚えとけ!」

 

「大垣……」

 

私は言いたいことを全部言いきった後豊郷に背を向けて強引に目を閉じて眠ることにした。

 

何でこんな感情的になってしまったのかは十分理解している。私が素直にすごいと思った料理という特技を持つのに豊郷がそれを含め自身を貶しているのは評価した私が馬鹿にされているように感じたからだ。

 

豊郷はもっと自信を持っていいんだ。あんなに美味いキャンプ飯なら毎日作って欲しい。

 

ってなに告白みたいなこと考えてるんだ私は!違う違う!!そんなんじゃねー!これは豊郷の飯が美味すぎるせいだ!!

 

ふぅ……そう言えば入部試験として飯が美味いかどうかって試してたんだよな。まぁ、そんなもんとっくに答えは出ている。後は豊郷が考えを改めてくれるかどうかだ。

 

徐々に眠気が来て意識が深い底に落ちる前に豊郷が「ありがとう」と優しい声で私に語りかけた、そんな気がした。

 

 

 

午前7時

 

「う、う〜ん……」

 

鳥のさえずる声と尋常じゃない寒さで目を覚ました私はまだ眠気が残る中眼鏡をかけてから隣を見た。シュラフはもぬけの殻で豊郷の姿はない。トイレか?

 

眠い目を擦りながらテントから出ると既に焚き火台には薪がセットされていてパチパチと爆ぜる音を立てながら燃えている。焚き火台の横に置いてあるハイチェアに豊郷はカップに注がれた湯気がユラユラと出ているコーヒーを飲んでいた。

 

「……おはよう」

 

私が声をかけるとゆっくりと私の方に顔を向ける。穏やかで何かを決心したような顔をしていた。

 

「おはよう」

私は隣のテントで寝ているイヌ子となでしこを起こさないよう静かに豊郷の隣にあるチェアに座った。霜が降りていたのかお尻がじんわりと濡れていくのを感じる。

 

「綺麗な朝日だな〜」

 

思わず口にするほど山々から顔を半分覗かせている太陽はまるでダイヤモンドのように煌めき、私達を照らしている。

 

「コーヒー飲む?」

 

「かたじけない、いただくでござる」

 

「大垣ってキャラがブレブレだよな……」

 

苦笑しながら豊郷はバーナーの上に乗っけているクッカーを取り、コップにインスタントコーヒーの粉を入れてお湯を注いだ。

 

「角砂糖は何個入れる?」

 

「百個入れてくれ」

 

「甘すぎるだろ!想像したら胸焼けしてきた……」

 

「うそうそ、二個入れて」

 

鋭くツッコミを入れてくれる豊郷をからかって満足した私はアツアツのコーヒーにふー、ふーと息を吹きかけて少し冷ましてから少しだけ口を付けて飲む。口の中に甘味と苦みが広がって眠気が少し飛んだ後身体がポカポカと暖かくなってきて思わず溜め息をついた。

 

「はぁー、近所のスーパーで安売りしてるインスタントでもこうしてキャンプしながら飲むとむちゃくちゃ美味しく感じるのはなんでだろうなぁ」

 

「焼肉店で食べるキムチって家で食べるより数倍美味いのと似てるな」

 

「それある!私も家族と焼肉食いに行った時あまりにキムチが美味しかったからスーパーで大量に買ったんだけどすぐに飽きちゃって今は冷蔵庫を占拠してるぜ!豊郷にも分けてやるよ!」

 

「俺は残飯処理係じゃないから遠慮しとく」

 

こうして豊郷と喋っていると自分でぼっちと言っていた割にはペラペラと異性である私と普通に会話できてるし何より楽しそうに話してんじゃん。根暗なんてこれっぽっちも感じないしやっぱり自分を卑下しすぎだ。ちゃんとコミュ力あるぞ、だって会話してて私はすごく楽しいし。

 

「さーて、突然だがこれから豊郷隊員カッコカリの試験結果を発表する!」

 

「え?」

 

「ジャガジャガジャガジャガジャガジャガ……パパーン!昨日のビール煮込みの評価は百点満点中百点!おめでとう!これで今日から君も野クル探検隊のメンバーだ!」

 

「……」

 

私を見つめたまま硬直している豊郷を私は黙って見つめ返す。

 

決めた、豊郷は絶対入部させる。こいつと一緒にするキャンプは楽しい!なにより料理が美味い!貴重な人材を黙って見過ごすほど私は甘くない!自分のわがままだって分かってる、けど拒否しても無理矢理入部させるからな!

 

「……ハァ、なんだか真剣に考えていた俺がバカみたいだな」

 

やがてクセ毛だらけの髪をクシャクシャと手で掻きながら豊郷は溜息を吐いた。やっぱり入部しない気持ちは変わってないのか……?

 

「この学校に転校して半年経つけどさ、こんなに同学年の生徒と話すのなんて初めてだよ。なんでかな……大垣と各務原に犬山、お前たちと一緒に話すのって、その……案外嫌じゃなかった、というか本当は嬉しかったんだよ。お前らって裏表がないっていうか素の自分をさらけ出してもそれを素直に受け止めてくれるっていう感じがしたんだ。だから……」

 

豊郷は一度言葉を区切ると目を閉じて深呼吸した後、今までで一番清々しいニカっと満面の笑みを浮かべ私の聞きたかった言葉を吐き出した

 

 

 

「入部、します。新人隊員ですがご指導ご鞭撻のほど宜しくおねがいします」

 

 

 

「……!うむ、そうと決まれば今日からビシバシとコキつかっていくから覚悟しろよ!」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

イヌ子やなでしこ、斉藤や志摩リン、そして今日新しく入部した部員と一緒ならより一層楽しいキャンプができるだろう。斉藤と志摩リンにも紹介しないとな。

 

「よし!では早速任務を与える!イヌ子となでしこを起こした後、美味しい料理をまた作ってくれ!」

 

「人使いが荒い部長さんだなぁ」

 

さてと、次は本格的にキャンプ場でキャンプしよ、場所はどこにすっかな。そんな楽しい予定を考えながらすっかり冷え切ったコーヒーを飲み干した。

 

 




誤字脱字が多いと思いますがどうか宜しくお願いします。

あとなでしことかイヌ子視点のお話も書こうかなーと思ってます。志摩リンと斉藤さんの出番は次話になるかな……。
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