今日も今日とて。   作:不皿雨鮮

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そう簡単に雅は決断をしない。それは過去の経験に基づく。

「なるほどな。大体事情は分かった。……それで、どうして今なんだ。何故、このタイミングでお前は俺に頼んできたんだ?」

 例えば、今すぐにでもぶっ潰したいというのならば雅の存在を知った、その時点で接触を図るだろう。逆に、何かを計画しているのならば、当然、雅達と接触するのにだって、余計な混乱を招かない為に慎重に行動するはずだ。

 だが、今、このタイミングというのはそのどちらでもない。それも接触の仕方も唐突で、少しばかり雑だった。

「元々は、もう少し後にするはずだったんです。ですが、状況が変わりました。丁度、今朝」

「ほう?」

「三ヶ月後、土御門家は、とある怪異達を暴れさせる予定だったんです。分かりやすく、典型的な日本の怪異。鬼を。私はそれを利用し、活用し、土御門家を崩壊させる予定だった。ですが、その計画が丁度今朝、失敗に終わったんです。鬼、人間共に全滅という事態によって」

「…………」

「全く、何が起こったのか分かりません。ただ、一つ決定的なのは、怪異も人間も、共に最初から存在しなかったことになっているんです。まるで存在を抹消されたかのように。覚えているのはそれに関わりがあった人間だけ」

 少しの間があって、晴香は続ける。

「想定外と言えば想定外ですが、むしろ好機です。土御門家の目的は失敗し、再び計画するのに少しだけ時間が掛かります。その隙を、私は突きたい」

 なるほど、と雅は呟く。

「それで、今日唐突にって訳か。なぁ、その返事、今すぐじゃなくちゃ駄目か? 少し考えたいんだが」

「……三日。それくらいなら、待てます」

「了解。なら、二日後だ。二日後、今日と同じくらいの時間に、教室に来い」

「分かりました。良い返事を期待しておきます」

「どうだろうな。ま、とりあえず、送ってってやるよ」

 もう一度、雅は柏手を打つ。たったそれだけで晴香の家の前に移動していた。十階建てのマンションの、二階だ。既に闇が世界を支配しており、この世ならざるもの達の独壇場となっていた。

「……どういう、理屈なんですか、これ」

「猫騙しだよ。あれは、あの拍手によって人間の思考を停止させる術だけど、その応用だよ。お前にとっちゃ、一瞬の出来事だが、実際には十数秒の間隔が空いている。十数秒もあれば、空間転移くらい楽勝だろ?」

 と、雅は笑う。が、晴香にとっては笑えた話ではなかった。

 思考を停止させる。

 十数秒で空間転移が可能。

 どれも物理法則や呪術法則を凌駕したものだ。流石は、規格外の化物、吸血鬼だ、と頬を引きつらせる。

「そ、それでは。……本当に、お願いします。よく考えてください」

「ああ、考えておくよ。……だが、その前に一つだけ質問させてくれないか?」

「なんでしょうか?」

「土御門家とは、生まれたその時点で縁を切られたって言ってたよな。じゃあ、なんでお前は土御門家の情報を知っている? お前、まだ隠してることあるだろ?」

 言葉と同時に雅が放ったのは、ある種の殺気だ。返答次第では、殺すぞ、という類のもの。

「ッ」

「ああ、残念ながら答えを聞くまで返すつもりはないぜ? 俺は気が長いんだ、幾らでも待ってやるから。だから、答えろよ」

「……ッ」

「おやぁ、何か隠し事でもあったのかなぁ? おかしいな、俺に協力して欲しいって懇願してきた割には、何かを隠すなんて余裕があるんだな、お前」

「信じてくれたんじゃ、ないんですか?」

「んなことは一言も言ってねぇけど?」

「そんな! 貴方の家で、確かに……ッ」

 雅の淡々とした口調に、晴香は雅が屋敷で言った言葉を思い出す。

 

 ――よかったじゃねぇか、これで少なくとも二人の信用を勝ち取れたって訳だ。

 

「ッ。そういう、ことですか」

 確かにあの時、二人の信用を勝ち取ったのだろう。ローズとレイの二人の信用を。あの時、晴香を疑っていたのは雅だったのだ。

「で、答えは?」

「……私には、兄がいました。私のことを助けてくれた人です。そして私に土御門家の技術を、中身を、土御門の全てを教えてくれた人です。兄は、土御門家を嫌悪していました。だから、それがバレて殺された。……土御門家を潰したいというのは復讐なんです。私と、そして兄の為の。これで、いいですか?」

「ああ、まぁ、その言葉は信じてやろう。この状態で嘘を吐けるなら、相当のものだからな。……とりあえず二日くれ。ちゃんと、判断してやる」

「……ありがとう、ございます」

 今度は、猫騙しを行うこともなく雅は帰路に就く。その中、屋敷が視界に入ったくらいで、スマートフォンを取り出し、とある人物に連絡する。

「……ああ、俺だ。一人、教えて欲しい人間がいる。ああ、そうだ。土御門晴香について、教えて欲しい。あらいざらい、全部、な」

 




まどろっこしいよねぇ。早く決めろって感じだよね。
けれど、そんなあっさり信じたり、決めたりする訳がないんだ。
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