雅と土御門晴香の邂逅の翌日。雅の屋敷の周辺に蠢く人影があった。頭が一つ、手が二つ、足が二つ。それらが繋がっているから人影と形容するが、しかし、それが人なのかどうかは定かではない。
影があるだけで、そこに実体は確認できないのだ。
隠形術。陰陽師が使う、認識阻害の術。
「……んー、土御門家ってのは、案外、頭が悪いのかねぇ」
という雅のボヤキ。まぁ、つまるところ、相手側の隠形術は効果を成していない、という訳である。
「雅、気を付けなさいよ。私達の間でも、土御門家は敵に回さない方がいい、って言い含められているし」
丁寧語を崩して、素を見せているローズが、少しばかり緊張した面持ちで告げる。土御門家の嫌な話は、晴香から聞いている。自らに対抗する勢力を虱潰しにしていく。その手が、
「敵に回さない方がいい、か。それじゃ、もう手遅れだ。完全に、土御門家は俺達の敵だ。予想通り、な。ったく、念の為に亨に聞いておいてよかったよ。あいつら、生贄さえも利用し尽くしてやがる」
「どういうこと? っていうか、亨って、あの亨?」
「そ。その亨。あいつは情報屋みたいなものだからな。この世のもの全ての情報を、あいつは握ってる。過去も現在も、未来もな」
「……何者なの、亨って」
「さぁ、一種の怪異みたいなものさ。それが人間という実体を持って生まれた。いや、人間の姿をした怪異。いや、怪異であり人間でもある。いや、…………。面倒臭ぇ、とりあえず、亨は、亨だよ。あいつは死ぬまで亨のままだ。それをどう利用するか、或いはどう利用されるか。ま、その辺りはなるようになるとしか言いようがない」
「よく分かんない」
「分からなくていいんだよ。俺も正直、あいつについては半分も理解してない。とりあえず、そうだな、必要以上に関わるな、とだけ言っておく」
「そう。――それで、アレ、どうするの?」
「ん? もう何もしねぇさ。既に対処は済んでる。どうせ、あれは土御門家の中でも雑兵だ。或いはもっと下、どっかから金で雇われて簡単な技術だけ教えられた、陰陽師もどきだろ。んなの、血祭りに上げるに決まってんだろ」
にたり、と残酷な笑みを見せながら雅は言う。
雅の意図を理解して、ローズはぞくりと、背筋を凍らせながらも、笑う。
流石は、
「俺達を、敵に回したことを後悔させてやる、東洋魔術代表、土御門家さんよ」
同時に起こったのは存在の消失だ。
隠形で隠れていた数百人と、数千体もの怪異達が、同時に消失した。
悲鳴すら上がらず、はたまた彼らには何が起きたのか理解する時間すらなかった。突然、消失したのだ。
だが、それは晴香が言っていた鬼と人間の消失とは意義が違う。そこには血痕や、彼らが来ていた衣服、獲物が転がり落ちている。彼らがいたという情報は世界から消えてはいない。
そう、ただただ、彼ら自体が消えただけ。正確には、殺された直後に転移されただけ。場所は、土御門家が有する土地全域。
「さぁて、一年ぶりの戦争だ。狼煙は、盛大にしねぇとな」
「ということは、晴香の依頼を受けるってこと?」
「まぁな。利用され尽くす立場だった奴が、俺を利用し、敵をやっつける。協力してやろうじゃねぇか、面白ぇ」
「……そう」
こうして、雅率いる西洋魔術と土御門家率いる東洋魔術の、魔術戦争は幕を開けた。
さぁさぁ、戦争だ。ならば敵のメンツを揃えなければね。
……揃えなければね。(苦悩)