翌日。依頼者である土御門晴香を置いてけぼりにして行われた、土御門家からの宣戦布告。それを晴香が知ったのは、その日の夕方。つまり、雅が晴香の依頼を受けるかどうかの答えを聞く時だった。
「ッ、土御門家から、刺客が送り込まれていたんですか!?」
「まぁな。全員、向こうに返したがな。肉体だけ」
売られた喧嘩を買った。土御門家を完全に敵に回した。そんなことを雅はまるで今の天気を言うくらいの感覚で答える。晴香はその神経が分からず、内心でぞっとする。だが、それをおくびにも出さないのは、それよりも考えるべきことがあったからだ。
「でも、一体どうして、雅先輩のところに……」
「お前だよ。生贄の首に鈴でも掛けてたんだろ。お前が復讐を依頼した人間を殺す為に。なんせ、土御門家の内情を知る者が協力をするような相手だ、それはつまり土御門家にとって脅威になり得る。そういう人間を炙り出すなんてことを、お前の家はお前を利用してやってるってことだ」
「ッ。そんなの」
「狂ってんな。けど、それくらいが丁度いい。そのくらいの相手じゃねぇと、張り合いがねぇからな」
「……じゃあ、受けてくれるんですね」
「ああ。それで、だ。少し提案なんだ」
「構いませんよ。私は、土御門家が潰せれば、それでいいんです」
「そこだ。土御門家を潰すっていうのが、お前の希望だな?」
「……はい」
「だけど、それだけじゃあつまらなくないか? それに、だ。土御門家の持つ情報を失くすってのは、随分と惜しい。お前から得られる情報だけではなく、俺は土御門家本家の、何ならば当主レベルの存在しか知らないような情報すらも掠め取りたいんだよ」
「強欲、ですね」
「ああ、強欲だ。人間ってのは基本、強欲だろう? 俺はその欲を、肯定しているんだ。欲ってのは人類が発展する為のエネルギーだ。呪術も、魔法も、科学も、妖術も。何もかも、人間の欲から発展されたものだろ? ならば俺は人類の為に、俺はその欲を肯定する」
「…………」
「まぁ、ともかくだ。完全にぶっ潰してしまうのは、少しばかり俺は不本意だ」
「じゃあ、どうすれば先輩は心地よく私の復讐に賛同して頂けるのですか?」
「なに、簡単な話だよ。土御門家が持つ情報だけを抜き取って、お前の気に食わない土御門家の人間を消していく。――土御門家を乗っ取るんだよ。お前が、土御門晴香が、土御門家の当主に成って、全てを終わらせるんだ。どうだ、最高じゃねぇか?」
「……そんな、の」
土御門家を、自らのものにする。もしもそれが可能ならば、それはつまり日本の呪術界で絶対的な力を得るということを意味する。そんな馬鹿げた話を晴香は信じるつもりはなかった。そんなことは不可能だ、と晴香は冷静に判断したからだ。
「できません。物理的に不可能です」
「できるさ。呪術的にできる。全員をぶち殺して、お前が新しい土御門家を創るんだよ。作り直す。いいじゃねぇか、絶縁された人間が腐敗しきった家を立て直す。そういう美談にすればいい。復讐譚も、最後にはそんなことになればいいんだ」
「……綺麗事です」
「綺麗事がどうした。世界は綺麗ごとに満ちているだろ。だったらどんな汚いことも、綺麗ごとにしてしまえばいい。世界がそれを求めているんだ。お前のどんな醜い復讐譚だって、語られてしまえば美談だ。――土御門晴香の美談を語りたいんだよ、
ちょっと投稿期間が伸びます。