今日も今日とて。   作:不皿雨鮮

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唐突に始まる過去編。どう考えても変。

 それは一年前のことだ。

 三月の上旬。寒さはまだまだ厳しく、歩道も車道も白い粉がまぶされている。呼吸をすれば息は白み、手先はかじかんでいる。

「ここか」

 洋館の前で少女は呟く。綺麗な金髪は夕日に照らされて輝いているが、それを見ている人は誰もいない。一体なぜ、こんなところにそんな少女がいるのかと疑問に思う人もいない。ほんの少し道をズレれば人々が行き交う商店街があるというのに、その洋館の周囲はまるで呪われたかのように人の気配がない。

 少女が抱える特務の性質上、形式上、とりあえずここは訪問しなければならなかった。だが、どうしてもあと一歩、インターホンを鳴らすことができなかった。緊張と警戒、そして恐怖の混合物。そうこうしている間に、一時間は経っていた。

「ん、お前誰だ?」

「うひゃぁっ!?」

 突然声を掛けられて、少女は驚きの声を漏らす。

 ガシャンと門に背中を着け、声の主を確認する。特徴的なのは金髪。染めているらしく頭皮に近い部分は地毛の黒が見えていて丁度プリンのようになっている。学校帰りのようで、学生服を身に纏いリュックを背負っている。片手にはコンビニのレジ袋があり、ペットボトルや安価なスティックパンが少しだけ見えていた。

「だ、誰っ!?」

「こっちの台詞だ」

 はぁ、と溜息を吐きながら少年は少女の足元から頭のてっぺんまで軽く一瞥する。少女の容姿にどうやら心当たりがあったらしく、少年は得心のいった表情を漏らした。

「ああ、お前がアビーか」

「ッ」

 あっさりと雅は名前を看破した。

「代々受け継ぐニックネームはローズ。バラの茎のような棘で絡みつく『監視者』の命を持つ『ラヴ』の家系の一つ、であってるか?」

 その通り、という返答の代わりにローズは尋ねる。

「貴方は西条雅ですね?」

「いかにも。お前達風に言うなら、俺は眷属ってやつか? 『ラヴ』曰く、厳密にはそうじゃないらしいが」

「……貴方、『ラヴ』と話したことがあるんですか?」

 自分の素性が知られていることや、こうもあっさりと対象と出会えたことよりも、そのことの方がローズにとって驚きだった。吸血鬼。大昔が生きる化物。どう考えてもコミュニケーションが取れるとは思えなかった。ローズの頭の中には『ラヴ』という存在に、そういうイメージが根付いていた。

「そうだが? なんだ、お前ら、実は全然『ラヴ』のこと知らないんじゃねぇの? 『監視者』なんて言うから、あいつの面白い話とか聞けると思ったが、期待外れみたいだったな。やっぱり、くだらねぇ」

「なっ!?」

 雅は驚くローズの顔を見ることさえせず洋館の中に入っていく。

「ま、待ちなさいよ!」

 扉が閉まる直前、雅は一言、ローズに言い捨てる。

「帰れ」

 その言葉は酷く冷たい。まるで氷漬けになったように、ローズは上げた手を降ろすこともできずにその場で立ち尽くしていた。

 

「酷いね、雅。一応は、私の()なのに」

 扉を閉めたところでそんな声を掛けられる。扉の上、少し面食らったものの、すぐに笑みを見せる。雅の眼の前の吸血鬼『ラヴ』は、少しばかり不満気な様子だった。

「珍しいな、お前がここまで来るなんて。……云百年も違ってたなら、もうそれは赤の他人だ。血の繋がりなんてねぇだろ」

「吸血鬼なんだから、血の繋がりが少しでもあれば気にするよ?」

「くくっ、吸血鬼ジョークか? だが、もしもお前が本気であいつを(こども)と思ってるなら、『監視者』なんて止めさせるべきだ。お前を嫌って姓も名も変えた癖に、未だにあんな血族の端っこにガキに『監視者』なんて役目を追わせるんだろ」

 吸血鬼の家系と呼ばれることに怯えて、姓も名も変えた。しかし、それでも『ラヴ』に恐れて分家筋の人生を縛り付ける。その浅ましさはもはや滑稽を通り越して哀れみさえ感じてしまう。

「実は、あんまり気にしてない」

 平然と、何食わぬ顔で『ラヴ』は言ってのける。しかし、雅が驚くことはない。そうだろうと推測していたからこそ雅は「もしも」という仮定を付けていたのだから。

「だろうな。お前はあまりにも無関心が強い。……だから、訳分かんねぇんだよなぁ」

「何が?」

「なぁ『ラヴ』、どうして俺を選んだ? 血液型はA型、何かに優れているという自負もねぇ。平々凡々な俺を、どうしてお前は選んだんだ?」

 血が特殊という訳でもない。人間性もまたありふれている。西条雅という存在は雅だけだが、雅と同じような価値の人間は多くいるし、雅よりも優れた人間なんてその倍はいるだろう。多くのものに無関心である『ラヴ』に、どうして自分が見初められたのか。それが雅には分からなかった。

「…………」

「『ラヴ』?」

「…………」

「……ああ、そうか。どうして俺を選んだんだ? ()()

 レイというのは、『ラヴ』が雅にせがんだニックネームだ。「ラヴ」はテニスやピンポンで零を指す。だから読みを変えてレイ。そんな安易なニックネームだが、『ラヴ』はそれが気に入っているらしいのだ。

「なんとなく、かな」

「そんなことだと思ったよ」

 ほっとするような、しかしどこか残念な。自分の平凡性を認められたことの安心感と実は何か吸血鬼目線でならば他人よりも少し特殊で優れたものがあるのではないかという期待が雅の内心で入り混じっていた。

「さて、どうしよう?」

 少しの間のあと『ラヴ』――又の名をレイ――は言う。

「何がだ?」

「ローズ、ずっとあそこで止まってる。……多分、気絶してる」

「はぁっ!? なんでだ!?」

「多分、雅を見てショックを受けたんだと思う」

「俺そんなに酷い顔か……?」

「違う。それもそうだけどそうじゃなくて。雅の言葉」

「今かるーくけなしやがったな。血やんねぇぞ?」

「ミヤビ、カッコイイ、本当…………?」

「疑問形になってんじゃねぇか! ってそうじゃなくて!」

「ここに入れたら?」

「いいのか?」

「……別に。合わないだけだし、会わなければいいから」

「お前の家だろ。お前が気を遣う必要なんてどこにもねぇんだ。どっかに閉じ込めるでも構わないしな。お前が不自由になるなら、俺はあのままにしておくぞ?」

「じゃあ、誘拐という体で」

「拉致だな、どちらかと言えば」

「……どうでもいい」

「はいはい」




始まって3話で過去編って、一体どうなるんだこれ。そして亨と耀が再登場する日はいつになるのか。そして彼らの「――――」とは!? 俺が一番知りたい。

2018/03/12
変更前「学校帰りらしく、リュックを背負っている」
変更後「学校帰りのようで、リュックを背負っている」
らしく、が続いた為。
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