亨と耀が学校に登校したのは、丁度二限目終了を告げるチャイムと同時だった。休み時間の少し気の抜けた雰囲気の中に、二人はしれっと紛れ込んで、そのまま三限、四限と授業を終えた。
「だああ、お腹減った。亨、弁当あるー?」
「あるけど、お前にはやんねぇ。俺の弁当だ」
「いいじゃん。あんたは全く必要ないじゃん。ってか、
「俺だって普通の飯も食うわ。食いてぇなら、自分で用意しろよ」
はぁ、と溜息を吐いて同時に頭を抱える。耀の自由気まま過ぎる言動に亨はいつも悩まされている。大抵のことを予定通り、推測通りにすることができる亨だが、耀はその対象外なのだ。
「えー。だって亨の作るの、美味しいんだもん。私が作るとなぜか暗黒物質になるからなぁ……」
「それは、お前のセンスだろ。いや、お前の性質と言うべきか。――って、お前、それ」
「んあ?ほうひはの(どうしたの)?」
口の中に沢山の白米やら何やらをかきこんでいた耀。その手には亨の弁当箱が。中身は既に空っぽ。
そうして、二人はプロローグに戻るのだった。
昼休みの半分を用いた鬼ごっこは耀の逃げ切りで終結した。当の耀は中庭の中心にある木に登り、木々の間に隠れていた。
「ふぃ……、逃げ切った逃げ切った。うん、やっぱり亨の料理美味しいなぁ。その後に運動しないといけないのは、お腹が痛くなるけど、まぁ、しょうがないかぁ」
逃亡中に買っていた炭酸飲料を飲み干して、木の上からダイレクトにゴミ箱に投げ込む。
「あっ、ミスった」
空のペットボトルというのは存外、風に流されやすい。ビル風に似た原理で吹いた風に流されてペットボトルはゴミ箱から外れる。しかし、それらは不自然な起動を辿って、そのままゴミ箱にホールインワン。
「ありがと」
呟きながら木から飛び降りる。途端、上向きの風が吹き、とん、とスキップのように降り立った。
「何から何まで」
ふんふん、と鼻唄混じりに廊下を歩く。西校舎と東校舎をH型に繋ぐ渡り廊下を通って教室に。当然、そこにはついさっきまで鬼役をしていた亨がいる。いつものこと過ぎるので亨の怒りも既に収まっている。何食わぬ顔で「遅かったな」、と宣っていた。
「ねぇ、亨。私考えたんだけどさ、亨が私の分のものを作ればいいんじゃないの?」
「なんでだ!?」
「え、だって、どうせこうなるじゃん。それに、いつも家でご飯食べてるしさ、もう一緒じゃん?」
「…………。はぁ、まぁ、いいか、どうせ、そんなに材料費もかかんねぇし。そも論、金銭に関して言えば問題ねぇしな。毎回食われるよりは、マシか」
「ま、どうせ、亨の分も私が食べることになるんだろうけどね」
「太るぞ?」
「太りません~。私はそういう体質なんですぅ~」
「まぁ、お前はアレ使うのにエネルギー大量にいるもんな」
「そういうこと」
と、そんな会話の合間にも、耀のお腹からは可愛らしい音が。
「燃費悪ぃな、お前。頼むから餓死とかすんなよ?」
言いながら亨は鞄の中から焼きそばパンを放り投げる。
「大丈夫。最悪、アンタに似た方法でエネルギー摂取するし」
「さいでっか」
そんなこんなでチャイムが鳴って、それぞれが席に着く。そう、これはたったそれだけの話。