今日も今日とて。   作:不皿雨鮮

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俗に言う本編という奴です。
話をようやく進めます。


「すみません、雅先輩。お時間を取らせてしまって」

 そう言うのは雅よりも一つ学年が下の少女。糸目で、笑みはどこか胡散臭い。とはいえ、この学校に最も胡散臭く怪しく、そして最強の人間を知っているのでこの程度、雅にとってはどうってことはない。

 夕焼けの光が窓から差込み、光陰のコントラストは普通の教室でさえも怪しさを演出していた。

「別に構わないが、しかし、俺に用だなんて、変な奴だな、お前」

 時を遡ること数時間前、昼休みに雅の教室へ少女はやって来て、放課後にこの教室で待っていて欲しいと言われたのだ。当然、そんなことは初めてだ。告白でもされるんじゃないか、と周囲の生徒にもてはやされ、ローズはどこか不機嫌だったがそれはともかくとして。どうして自分なんかを、と雅は疑問に思っていた。

「そんな! 雅先輩は私達の中では結構有名なんですよ?」

「そうなのか?」

「ええ、だって珍しいじゃないですか。()()()()()()()()()()()()、って」

 少女の言葉と同時に雅は後ろに回り込み、常備している小型のナイフの刃を少女の首に触れさせた。たらり、と一筋の血が流れる。

「っ、物騒ですねぇ、乙女の肌に何をするんですか」

「流石にこの程度じゃ、慌てねぇか。それで、何の用だ、化け狐が」

「あははは、流石に見抜いていましたか。とはいえ、純然たる妖狐という訳ではないんですけどね、私は」

 言って少女はぴょこん、と狐耳、そして尻尾を顕す。物理的には視えないが、多少の霊感や目を持っていれば分かる。一度、少女の目の前に刃を見せてから雅は再び席に着いた。さっきのは単なる、俺は殺すことに躊躇いなんてないぞ、という警告だ。

「狐憑きか、初めて見るな。何せ、こちらとら本物の怪異と触れ合ってんでね。当然、相対するのも本物ばかりだ」

「ええ、噂はかねがね。私の式達から聞いています」

「式神……使役するタイプ、ってことは呪われたって訳でもなさそうだな。憑きモノ筋の家系か?」

「そんなところです。狐とは縁の強い家系でしてね。何しろ、私の家系で一番有名な人の母親は妖狐ですから」

「母親が妖狐、だと? ってことは、お前は……」

「ああ、そう言えば自己紹介が遅れましたね。私は土御門(つちみかど)晴香(はるか)と言います。以後お見知りおきを」

「土御門って言えば、安倍晴明の子孫か。ってことは、陰陽師。しかし、自らに怪異が憑いているというのは皮肉だな」

 陰陽師とは元は占い師、しかし陰陽五行思想に則って怪異を祓うという祓い屋の中の最大派閥でもある。噂によれば祓い屋の組織の幹部の大抵は陰陽師だとか。そして土御門家は伝説にして最強の陰陽師安倍晴明の子孫だ。つまるところ、怪異と敵対する存在。そんな一族の人間が怪異に憑かれているというのは、皮肉だ。

「これは自業自得なんです。昔、少しありましてね。コレのせいで一族からは勘当されてしまいました」

「…………」

「どうかしましたか? 私の不幸な人生に同情でもしてくれましたか?」

 よよよ、と大袈裟な泣き真似をする晴香に、嘆息を漏らして雅は問う。

「俺にそれを話してどうなる? お前は今、私のバックには何もありません、って自白しているようなものだぜ?」

「ええ、だからですよ。私には何の後ろ盾もありません。だからこそ、私を利用しませんか、と言っているんです。勘当されたとはいえ、私は陰陽師として優秀な人間だと自負しています。そして、私には完全記憶能力がある。これの意味することが分からない貴方ではないでしょう?」

「交渉って訳か?」

「はい。その通りです。いえ、どちらかと言えば懇願ですかね。私の全てを差し上げますから、たった一つだけ、手を貸して欲しいのです」

「全て、ねぇ。そういう大袈裟な取引ってのは、むしろ不信感を与えるんだぜ?」

「しかし、事実ですから。私は、私の全てを差し上げます。お金も、持っているモノも、知識も、何なら処女だって捧げてもいいくらいです」

「ぶっ!? お前、何言ってるのか分かってんのか!?」

「勿論。ああ、もう一つ。私の命さえも、好きなだけお使いください。悪魔と契約する機会もあるでしょう。その時の取引として、私なんかの命でよければ」

「…………」

「…………」

 雅も晴香も、無言のまま相手の目を見据える。相手の真意を探り、企みを看破しようと。数秒にも数時間にも感じられる沈黙の後、雅ははぁ、と息を吐き出した。

「まぁ、どちらにせよ、だ。残念ながら今の俺は肩身が狭くてね。好き勝手に動くことができない有様だ。だから、さ」

 言って雅は、晴香の眼の前でパンッ、と両掌を合わせ。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()

「……へ?」

 思わず、と言った風に晴香は戸惑いの声を漏らす。同時に晴香の左側、首元にかぶり付く少女の姿が。レイが歯を立てて吸血したのだ。

「ッ!? ――ァ!!」

 悲鳴を必死にこらえて晴香は吸血が終わるのを待った。何せ、右のこめかみには拳銃が突き立てられている。引き金には既に指が掛けられ、ローズが冷酷に見下ろしていた。その眼は明らかに、人を殺したことのある眼だ。

「ふむ、やはり肝は据わってるな。あの状況でよくもまぁ、我慢できたもんだ。普通、恐怖で意識を失うもんだぜ」

「……色々、あったんですよ、昔に」

「へぇ。で、レイ、どうだ?」

「うん、『奴等』の気配は感じられない。嘘の味もしない。この子は、本気だよ」

「……ッ、血って、そんなことも分かるんですか」

「血っていうか、その中の遺伝子だな。遺伝子ってのはある種の記憶媒体だからな。レイはそこからお前の記憶や意識、意思なんてものを読み取ることができる。まぁ、ともかくだ。よかったじゃねぇか、これで少なくとも二人の信用を勝ち取れたって訳だ。話を聞こうぜ」

「……もう一人の信用は、どうやって勝ち取ればいいんでしょうか」

 言って晴香はちらりとローズの方を見る。未だに拳銃は突き立てられたままで、微動だにしていない。

「ローズ、とりあえずそれは降ろせ。お前の早撃ちなんざ、普通の人間は避けれないさ」

「それもそうですね。では、とりあえず話くらいは聞きましょうかね。その後、殺すかどうかは考えることにして」

 にこり、とローズは笑って自然と雅の左隣を陣取る。しれっと、いつの間にかレイは雅の膝の上に座っており、雅はレイの頭に顎をおいている。

 一家団欒、というのはこのことだろうか、と状況には似つかわしくないことを一瞬、晴香は思う。が、即座に思い直して、自らの身の上を語る。

「私は、土御門家をぶっ潰したいのです。その為に、協力してください――」

 




まぁ、怪異とかが出てくるなら、陰陽師が出てくるよね。そして陰陽師が出てくるなら、安倍晴明と土御門家は絶対出てくるよね。
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