■残影の荒野、フィールドボスを討伐後(シロ編、18話以降)
ーーー現実世界。
昨日はイツキのスコードロン《アルファルド》へお邪魔して、彼とフレンド登録をおこなった。
そこにシロの意志があったかどうかは、別として。
学校帰りのましろは、学生用鞄とは別に大きな荷物を持って固まっていた。
目の前には母親の勤務場所。そして、その受付ロビー。
今日も母に頼まれ、必要な荷物を持って来ては、不要になった荷物を持って帰る使命を果たさなければならない。
しかし、このまま建物に入らずUターンして帰りたい。とましろは考える。
原因は受付のお姉さんと楽しそうに会話をしている人間である。
約1週間ほどまえ、「伊月」と名乗る男性から話しかけられた。
その伊月が、またロビーの受付にいるのだ。
(えっ、何でお姉さん顔を赤らめながらあの人と会話してるの!?)
2人は仲がよろしいようで、
恋人同士と言われてもおかしくない雰囲気を感じられる。
「あら、ましろちゃん。こんにちは」
受付のお姉さんがましろに気付いて、挨拶をした。
「こんにちは。今日もお願いします。」
荷物を預ける為に必要事項を書く間も、2人は楽しそうに会話をする。
「はい、こっちは主任から預かった荷物よ。」
「ありがとうございます。」
これで、ここでするべき事は終わった。
さっさと帰ろう。
ましろは足早に外へ出ると、ため息をついた。
「あれ、ため息をつくほど嫌なことがあった?」
ましろが後ろを振り返ると、笑顔で手を振る伊月がいた。
*********
「何でついてくるんですかっ!?」
「それは偶然だよ、偶然。」
ましろは憤りもあってか、勢いあまってテーブルから身を乗り出す。
場所は研究施設から歩く事、最寄りのカフェ。
とりあえず、ここで話そうか。と提案したのは伊月である。
2人がけのテーブルに座り、
ましろが声を荒げたので、店内にいる人間が痴話ケンカか?と様子を見る。
「僕は定期的にあの会社に薬品や機械を搬入したり、営業のお仕事で来てるんだよ。
だから、ましろちゃんをストーキングしてるとかは決してないから。」
「それは理解出来ます!と言うか、どうして私の名前知ってるんですか!」
自ら名乗った覚えはない。
「それは、あの受付の女性を買収したというか…ね。」
(どうりで私がいつ来るのか、筒抜けなのか!)
「ねっ、じゃありません。これ以上出るとこ出ますよ!」
「分かってる。ただ、君とちょっとお話がしたいだけなんだ。」
「私は話す事ありません。」
キッパリと断言するましろに、苦笑いをする伊月。
「お待たせしました。」
そこへ、2人が入ってすぐに注文した飲み物を店員が運んで来た。
伊月の前にブラックコーヒー、ましろの前に紅茶が置かれる。
ましろは落ち着く為に、ひとくち口にする。
「君の、お母さんについて…聞きたくてね。」
「母ですか?」
「うん。僕は会社の事情で、少し前からあの研究所を担当する事になったんだ。
神谷主任はとても気難しい人だとは前任者から聞いていた。」
「そうでしょうね。…だから、その娘である私から母の詳しい事を聞きたかったんですか。」
「話が早くて助かるよ。もちろん、お礼はちゃんとする。」
「お礼の内容にもよりますけど。」
伊月がここでニヤリ、と笑う。
「なら、決まりだね。」
あれ、このやり取りどこかで…と思うましろだった。
「母は、他人を仕事が出来るか、出来ないかで判断する人です。」
「なんとなく、それは感じたかな。」
「後は…甘いものに目がないです。」
「甘いもの?」
「そう、甘いもの。」
ましろは小夜子がいつも気に入っている和菓子のお店を教えた。
「何かトラブルがあった時に使えるかも。」
「はは。…あとは、どんな事聞きたいですか?」
「そうだね。君と神谷主任はそんなに仲が良くない?」
伊月のこの質問に、ましろは言葉に詰まる。
「仲が良いとか、悪いとかの問題じゃないです。」
「と、言うと?」
「んー。簡単には説明できない事が色々あるんですよ。」
「今はこれ以上聞かないよ。…次までに、質問を用意しておくね。」
「次があるのか…。」
「今日のお礼もかねて、美味しいケーキ屋にでも案内するよ。」
「あっもちろん、ここも…」
ましろは伝票を伊月の方へ寄せる。
「ははっ。大丈夫だから安心して。」
「ごちそうさまです。」