■25.5話 いたずらごころの後
ピッ、ガシャンッ
オフィスの休憩所にある自販機で買ったブラックコーヒーを片手に、窓から外を眺める、伊月。
「先輩も休憩ですか。」
声をかけられ、振り向くと、『鈴木』と書かれた社員証を首から下げる男性が立っていた。
「今来たところだよ。鈴木君は午後から外かい?」
「ええ。部長と打ち合わせに行くんですよ。」
いつもと変わらない、仕事の話をする。
「そういえば、先輩…」
鈴木と呼ばれてる男が小声で、伊月に話し出す。
「この前の休みの日、先輩を見かけましたよー。可愛い彼女さんと一緒でしたよね!」
「気付いたなら、声かけてくれてよかったのに。」
「さすがにデートの邪魔は出来ないっすよ。さすが伊月先輩ですよねー!年下の彼女さんいて羨ましいですよ。」
「ああ、ごめんね。鈴木君の言っている女性は彼女じゃないよ。」
「まじっすか。じゃあ今度、良かったら紹介してくださいよ!」
どこまで本気で言っているか分からないが、伊月の目が少し鋭くなった。
「ははっ、機会があれば。それより、君の提出した請求書の額がまた間違っていたよ。」
「うわっ、すみません…。すぐ直して再提出します!」
「部長にどやされる前にお願いね。」
男が去って、伊月はまた外を眺める。
ーーー彼女を他の男に紹介なんて、しないよ。
伊月は昨日の事を思い出す。
GGO内でイツキがシロにとってしまった行動を。
カフスを彼女に付けてあげて、顔を見ると気まずそうにしていた。
何となく、額に触れる位の口づけをした。
誰よりもそんな行動をとった自分が驚いたのだ。
「そんな表情をしてると、もっとイタズラしたくなるな…なーんてね。」
気付かれない為に咄嗟に出た、言葉。
結果的に、彼女の怒りをくらう形になってしまったが。
それはたいして問題ではない。
何より不味いのはツェリスカ達にこの光景を見られていた、ことだ。
人前で自分の感情をさらけ出すなんて、ほとんど無かった。
特にGGO内では、近寄る人間にはうまく嘘の情報を混ぜて、楽しく遊んでいた…つもりだった。
どうも最近の自分は調子が狂うな…と考えている伊月の携帯が震える。
『神谷 ましろ』とディスプレイが表示され、メール画面に切り替わる。
「昨日のことで、沢山言いたいことがあるので時間をください。」
と書かれていた。
伊月は嬉しい気持ちを抑えて、会える日時を添えて
「君にはまだ伝えてなかった事もあるから、ちょうど良かった。」
という内容の返事を送った。