遊戯王GX-至った者の歩き方-   作:白銀恭介

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久遠は、トラゴエディアを倒し、因縁に決着をつける。

そして、話は『これから』へと変わっていく。


そうして、闇へと沈む一歩を歩く

『ならば、これでお前の問題は解決というわけだな』

「ええ、USアカデミア校長のマッケンジーに何年も前から憑依していた『トラゴエディア』と名乗るデュエルモンスターズの精霊を倒しました。ただ……俺には精霊を確認する術はないのでマッケンジーから本当にそれが消えたかは判らないままです」

「それについては、私の方で確認しておくのデース。知り合いに精霊を見ることのできる少年に心当たりがありマース」

「……すみません。よろしくお願いします」

『そういえば、本人の容体はどうなのだ?』

「あの後、ペガサス会長の手配で極秘裏に病院へと搬送してもらいましたが、別段外傷らしきものはありませんでした。未だに意識は戻っていませんが、極度の疲労が見えるということで、2、3日で目を覚ますだろうというのが医師の見立てです」

 

 深夜のアカデミアでの戦いから一晩明け、久遠はI2社を訪ねていた。

 目の前にはI2社の会長、ペガサス・J・クロフォード。そして部屋に設置された大型ディスプレイに映し出されているのは、KC社社長、海馬瀬人。そこに久遠を加えた3人が、この会議に集まった全てである。

 集まる者が限定されたということ自体が、この会議の特異性を体現しているかのようだった。

 

『結局のところ、今回の件で俺は全くの蚊帳の外だった。事後の報告くらいはきちんとしてもらいたいものだがな』

「とは言っても、実のところ俺も良くわかってないですよ。表面上、今回の俺の『敵』は播磨とマッケンジーだったんですから。精霊に関しては結局のところ『トラゴエディア』って名前しか判らなかったんです」

「その、トラゴエディアに関してですが、ワタシなりに調べてみたのデース」

『ふぅん、それで何かわかったのか?』

「いや、さすがに昨日の今日でわからないと思うんですが……」

「数年前、エジプトにある古代遺跡の発掘部隊のメンバーの中に、突如発狂し、姿を眩ませた探検家が居たのデース。その男が姿を眩ませる前に名乗った名前が」

『その名前だというわけだな?』

「そうデース」

「…………マジですか、I2社すごいな」

 

 僅か数時間に過ぎない中、良くそこまで情報を絞り込めたものだと、久遠は驚きを隠すことができない。そして、それを当然のことのように受け止める海馬にも。

 

『それでだ、ペガサス。お前のことだ、既にその遺跡が何なのかまで掴んでいるのだろう?』

「モチロンデース。そういう海馬ボーイこそそんな聞き方をするということは予想がついているのではないデスカ?」

『いい加減海馬ボーイはよせ、ペガサス。……クル・エルナだな?』

「正解デース。かの盗賊王と同じ、千年アイテムの贄として死んだ村デース」

『奴は、そこの生きのこりだと? 3000年は前の話だぞ?』

「3000年前の魂が現世によみがえる。その現象をユーは最も近くで目の当たりにしてるはずデース」

『……それもそうだな』

「ちょっとまってください。話しについていけないですよ。いったいどういうことなんですか?」

 

 あまりにとんとん拍子に進む話しに、置いてけぼりを食らう久遠。たまらず説明を求める。

 

『ふぅん、キサマには一から説明してやらんとならんか』

「そうデスネ。久遠ボーイは、あの戦いを知らないのでシタネ。」

『キサマもデュエリストならば武藤遊戯という名を聞いたことくらいはあるだろう?』

「……当然、知らないわけがないです。有名人中の有名人じゃないですか」

『どこまで知っている』

「武藤遊戯。デュエルモンスターズの創世記から第一線級の決闘者にして海馬社長の生涯のライバル……って昔言ってましたよね、確か。デュエリストキングダム、バトルシティの優勝者で、バトルシティの時には神のカードを集めることに成功した3人の『伝説』の一角。その経歴から『決闘王』と言う人も多いです……実際に会ったことがないので知ってるのはこれくらいです」

『……ふぅん、一般的にはその程度の知識か』

「では、遊戯ボーイにの中に眠るもう一つの魂、『名もなきファラオ』のことは知らないのデスネ?」

「…………?」

 

 『名もなきファラオ』

 それは武藤遊戯を知る者にとっては、至極当然の知識。

 デュエリストキングダムで相対したペガサスも、終生のライバルとして認めた海馬も。

 他にも、幾度となく相対した敵然り、苦楽を共にした仲間然り。

 

 しかし、久遠はその輪の中にはいない。表向きにしか、その戦いの歴史を知らない。

 

 

「遊戯ボーイの中には、もう一人の魂が宿っているのデース。その正体こそ、3000年前のエジプトの歴史に残らなかった『名もなきファラオ』なのデース」

「……初めて知りました。……しかし、何というか、あまりにも……」

 

 似すぎている。

 最早、それは言葉に出す必要すらないことである。

 ペガサスも、画面の向こうの海馬も、それを察してか何も言わない。

 

「3000年前のエジプト……デュエルモンスターズの伝説と精霊の一角が同じものを起源としている……ってことですか」

『いや、お前が考えている以上にこの問題は因縁めいている』

「? それがさっきの『クル・エルナ』につながるわけですか?」

『ああ。名もなきファラオの治世の象徴として7つの道具が用いられた、とされている』

「『千年アイテム』。久遠ボーイなら一つくらいは知ってるでショウ?」

「……そうか、『千年眼』(ミレニアム・アイ)ですね?」

「そうデース。その昔、私に宿っていた超常の力の一つをもたらした道具。それが千年アイテムなのデース」

『それだけ超常の力を得ようとするなら相応のリスクが伴う。史実に拠れば、一つの村を丸ごと贄にしたとされている』

「それが……クル・エルナ」

『そうだ。生き残りなどほとんど居なかったという。今回の件も、その生き残りが精霊となって引き起こした事件なのだろう』

 

 沈黙。

 改めて3000年にわたる因縁にさらされてきたと知り、大きな話だったのだと今更ながらに自覚する。

 

 表面的にしかその歴史を知らないが故に、その歴史の中に渦巻く想いの形の有り様を、彼は知らない。

 そして、目の前にいる海馬瀬人とペガサス・J・クロフォードはそれを『歴史』ではなく、『体験』として持っている。それゆえの違い。

 『名もなきファラオ』の話をしている時の彼らの心の底には、それによる複雑な感情が渦巻いているかのように見えた。

 

「でも、生き残りがほとんどいなかったってことは、今回奴を倒したことで一段落って話には」

「ならないでショウネ」

『ならんだろうな』

 

 揃って否定されてしまう。

 

「…………確信があるんですか?」

『遊戯……名もなきファラオの封印に際して、千年アイテムも封印された。しかし、そこに宿る悪意までなくなったわけではない』

「千年アイテムの一つに、その最後の生き残りの悪意が未だに封印されているのデース」

「…………」

『今すぐどうこうということはないかも知れんが、今回のことがきっかけにならんとも限らん』

「…………そういう……話なんですね」

『最早、お前も当事者の一人だ。覚悟はしておけ』

 

 今更ながら、とんでもない話に片足を突っ込まされてしまったのだと自覚する。

 それでいて、そこから抜け出す術を見出すことができない。

 

 重苦しい雰囲気が続く中、それを打ち破る言葉を発したのは画面の向こうにいる海馬だった。

 

『まあ今どうこう言っても始まらん。それはさておこう。久遠、今回の件がひと段落したわけだが、お前はどうする?』

「え? どうするとは?」

『そもそもお前がアメリカに行こうといい出したのも今回の事件が発端だろう? その事件がひと段落した以上、お前には日本に戻るという選択肢もあるはずだ』

「モチロン、このままアメリカで活動し続けるという方針でも良いと思いマース」

「……………………考えていたことは、あります」

 

 それで語られるのは、久遠の覚悟の証。

 彼なりの、これから先の歩き方。

 

 

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「行きましたネ」

『ああ。しかし、あんなことを考えていたとはな』

「考えようによっては、彼はまた、最悪の選択をしているようにも見えマース」

『日本でまだ播磨の件が片付いていないだけに、安易に戻ることもできないとは思ったが、まさかこうも明後日の方向に考えているとは思わなかったぞ』

 

 久遠が去った会議室。 

 残されたペガサスと海馬が今立ち去った少年について話す、

 その話題は、先ほど行った久遠の選択肢。

 

「まさか、裏社会へ行くことを望むとは…………」

『自分だけの力が必要だと奴は言った。確かに俺たちの庇護下にいつまでも甘んじていたがために、播磨から己を守れず、ここまでややこしい事態に巻き込まれた。今回はデュエルでカタがついたからいいようなものの、これからもそうだとは限らん』

「焦りすぎているというのもあるとは思いマース。『久遠帝』として表の世界で生きていくこともまた、一つの『力をつける』行為に他ならないのデース。裏社会へと踏み入れようというのは、手っ取り早く力を得られる半面、破滅のリスクも格段に高まるのデース」

『わかっている。だからこそ、呆れているのだ』

「しかも、『久遠帝』としての活動は続けつつ……」

『今までよりもさらに困難な道だと気づかんわけでもあるまい』

「聡明な子デース。それが判らない久遠ボーイではないでしょう」

 

 遠く離れた異国の地で相対しながら、2人は4年前のことを思い返していた。初めて会った時から変わらない。誰よりも平和を望むがゆえに、誰よりも危険な道へと躊躇なく踏み込んでいく、そんな危うい少年の姿を。

 

『仕方があるまい、結局、俺たちの方にも即座に全てを片付ける方法があるわけでもない。播磨の件を含めて、慎重に動かねばなるまい』

「そうデスネ。彼の方は、私が全責任を持ってサポートしマース。裏でも表でも、久遠ボーイが望むままに生きられるように」

『日本の方は俺に任せてもらおうか。奴の周囲を守ってやることを含め、俺の方でカタをつけておく』

「珍しくやる気デスネ」

『ふぅん、ああも啖呵を切られればな』

 

 

『このままじゃ、守られてるだけじゃ、恩人である貴方達に何かがあろうとした時に、報いれない』

 

 久遠はあの時、確かにそう啖呵を切ってきたのだ。

 齢にして二人の半分にも満たない子供にそうまでも言われたのだ。その志に報いてやるのは、やぶさかではない。

 

『2年……か。言葉にするのは容易く、失うにはあまりにも長い時だ』

 

 それは、彼が提示した『力をつける』ための時間。

 失うことを覚悟した時間。

 

「見守りまショウ。それしか、私たちには出来ないのデース」

『ああ、そうだな』

 

 諦めることを宣言した彼を、『大人たち』は尊重する。

 その先に、歪でも希望があることを信じて、願って。

 

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「終わったのですか?」

 

 会議室から出た久遠を待ち構えていたのは、那賀嶋。

 どうやら、会議の内容を聞くわけにはいかなかったものの、こちらの動向が感知できる範囲に待機していたのだろう。

 

「あ、うん。おわったよ」

 

 久遠は答える。

 手元の時計を確認すると、会議が始まって2時間。相当時間ここで待たせてしまったようである。

 

「そうですか……これで、とりあえずは大きな問題も晴れた、とみていいのですね? まだ私には事の発端も、結末も何も聞かされていませんが」

「あーー…………えーーっと……」

 

 確かに今回のことに限定すれば終わったといえるが、厳密にはそうではない。またさらに厄介事へと足を突っ込もうとしている。

 

「……終わっていないのですか?」

「…………すみません、また厄介事は続くことになると思います」

「はぁ……そうですか」

 

 深いため息。これは相当呆れてる時に彼女が返すリアクションだ。これまで何度となく見てきた光景である。

 

「久遠さん」

「はい?」

「残念ですが、お暇を頂戴したく」

「そう、ですか……」

 

 予想していなかったわけではなかった。

 『久遠帝』のマネージャーが彼女の業務である。KC社のスタッフである彼女からすると、これから久遠が首を突っ込もうとしていることは明らかにその範疇から超えてしまっている。

 そうなれば、彼女が手を引くのもまた、仕方がないことである。

 また、理解者を失ってしまうのか……と寂しさこそあるものの、それを覚悟の上で進むと決めたことである。

 

「いつまで、ですか?」

 

 もう彼女が居なくなってしまうのであれば、本格的な活動はそれからになる。これからは、そのための準備を一人で進めなくてはならない。

 今から進もうとしている道に、手を引こうとしている人を巻き込むわけにはいかない。

 

「そうですね。来週から2週間くらいですから、今月一杯でお願いします。本社の許可はもらっていますので」

 

 2週間強、それだけの時間で、どれだけのことができるのだろうか。今まで頼って来ていた目の前の事物が居なくなるだけで、たったそれだけのことで不安が押し寄せてくる。

 

「……………」

 

 

「ですので、それまでは学生生活を満喫していてくださいね? USオープンが終わったばかりなのですから、しばらくは大したイベントもないでしょうから」

「わかりました」

「あと、細々とした仕事はあるので、忘れないでください。詳細はこちらから連絡はしますので」

「わかりま…………ん?」

 

 そこまで来て、初めて疑問を覚える久遠。

 久遠は、『厄介事』に首を突っ込むといった。それに対して那賀嶋は『暇を出してほしい』と言った。そこまではいい。

 来月から、本格的な活動が始まることになるだろうということも判った。これもいい。

 話が合っていないのは、ここから。『だから僅か2週間しか時間がない』と焦る久遠と、その2週間程度を『気楽に過ごせ』と言って来ている那賀嶋。これが致命的に噛み合っていないのである。 

 居てもたっても居られず、聞くことにする久遠。

 

「えっと……那賀嶋さん」

「何ですか? 私が居なくなって不安ですか?」

「いや、確かに那賀嶋さんが居なくなるのは不安っちゃ不安ですけど、そうじゃなくてですね……。一応確認なんですけど、今月一杯で俺のマネージャを辞めるって話じゃなかったですか?」

「私がですか?」

 

 キョトンとしている那賀嶋。あ、これは中々珍しい表情だなと思う久遠を余所に、那賀嶋は『ああ』と一人で納得したような顔をしている。

 若干の不安げな久遠の姿を見て、困ったようなそれでいてうれしそうな顔もしている。

 久遠としては気が気ではないのだが。

 

「そういうことでしたか。確かに言葉足らずでしたね。すみません。私が言っているのは、『来月から』暇を頂戴しますというわけではなく、『来月まで』暇をいただきますという意味です」

「ま、紛らわしい。そういうことだったんですね。ようやく話がつながりました」

「道理で不安げな顔をしていたわけです。まあ、私としては久遠さんの珍しい表情を見れたので大分満足ですが」

「酷いな」

 

 悪戯に成功したときのような、判りにくいながらも楽しげな表情を見せる那賀嶋。こういうときは、必ずからかわれるような気がしているのは、あまりに頻繁にそれが発生するからだろう。

 しかし、続いたのは彼女の優しい言葉。

 

「こっちに来た時も言いましたが、今更手を引くなんてありえないです。どんな道を貴方が選んでも、それをサポートするのが私の仕事ですから」

「KC社クビになっても?」

「多分、そうしたら私の生活くらいは貴方が守ってくれるのでしょう? それに、もうあまりそういうのは気にしなくてよくなりますしね」

「? まあ、そうですけど」

 

 若干意味がわからない部分こそあれ、彼女の言葉に熱いものがこみあげそうになってくる。

 それを誤魔化す意味でも、半ば無理やりに話題を変えようとする久遠。

 

「ところで、休みとるって話ですけど、旅行でも行くんですか?」

「ええ、ちょっと日本に」

「え? わざわざアメリカに来てまで? なんだってそんなことをわざわざ?」

「報告は必要でしょうから。ついでに日本中を回ってこようと思います」

「…………何かまた話が微妙にかみ合ってない気がしてきたんですが」

「ええ、私もそんな気がしてきました」

 

 しばし考え込む様子を見せる那賀嶋。

 事実の整理とそれを判り易く伝えるマネージャーとしてのスキルは大したものがあるのだが、どうもぞこに自分が絡む、つまりは主観が入り込んだ世界だと途端に整理がつかなくなってしまうらしい。

 頭をひねりながら、ようやく肝心かなめのことに思いついたのか顔を上げ。

  

 

 

「あ、私、結婚します」

「遅いよ!? それ今更って言うか大前提の話じゃないっすか!!」

 

 予想の斜め上の発言をぶち込んできた。

 今度は逆に混乱してしまったのは久遠の方。

 

「え、何、結婚!? まだアメリカ来て一ヶ月経ってないのに!? そいつマジ大丈夫なのかよ!? そもそも日本人かどうかもわかんねぇっ!? つーか急すぎんだろ!! そもそも、旅行って新婚旅行兼ねてんのかよっ!!? うああああああああぁぁぁ、頭ん中がまとまんねぇ~~~~~っ」

「落ち着いてください、久遠さん」

「誰のせいでこんなに混乱してると思ってんすか!!?」

「そんなに慌てるとは正直予想外でしたが、まあいいでしょう」

「よかねぇよ、せめて詳細くらいは教えてくれよ!」

 

 しっちゃかめっちゃかである。

 もう先程まで居なくなる、居なくならないどうので揉めていたのが、全て吹き飛んでしまった。

 狙ってそれをやっているのだとしたら、那賀嶋という女は、主の精神すらサポートできる超敏腕マネージャということになるが、ただの、ド天然だというから、ある意味で最もタチが悪い。

 こういう部分は一生敵わないのだろうなと、混乱しながらもそれだけは判った。

 

 

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「で、いつ出会ったんですか?」

 

 久遠の尋問。もとい、質疑応答の時間が始まった。

 心を落ち着けるには、相応の時間がかかったが、何とか持ち直すことができた。

 当の那賀嶋はと言うと、もう落ち着いた様子に戻っている。

 

「こちらに来て……4日目くらいでしょうか」

「USオープン真っ只中じゃないすか!? ってことは……日本人じゃ」

「ありません。アメリカ人です」

「そいつ大丈夫なんでしょうね?」

「大丈夫でしょう、社会的地位はある人です。久遠さんも知ってる人ですし」

「俺が知ってることが何の気休めになるんですか。つーか、俺が知ってて、アメリカ人……で、社会的地位がある人」

 

 考え込む。

 しばらくして脳裏に浮かんだのは、大会社I2社の会長にして、デュエルモンスターズの創設者。

 確かに、年の割には浮いた話がなかった人だったが。

 

「まさか、相手はペガサス会ちょ――」

「違います」

 

 食い気味に否定された。

 そういえば、あの人には亡くなりはしたものの、生涯を誓いあった女性がいたか。

 一度冗談みたいに酔った時に泣きながら話してくれたことを思い出す。

 割と鬱陶しかったので、なるべく深酒させないようにしようと思った思い出の1ページだ。

 

 しかし、あの人でないとすると。

 

「…………となると、俺が知ってる人なんて、ほとんどいないですよ?」

 

 正直、心当たりがない。ペガサスではないとなると、知り合いはマッケンジーくらいになるが、さすがにあの状況で結婚どうこうという話にはなりえない。

 混乱する久遠を尻目に、得意げな表情をしている那賀嶋。

 

「仕方ありません。久遠さんにはぜひ当ててほしかったのですが。彼の名前は『シャスティン・ライト』です」

「………………………………誰?」

 

 答えを聞いた歯いいが、心当たりがまるでない。

 名前を聞いたのすら初めての人物だ。

 

「ごめん、那賀嶋さん。俺、そんな人心当たりがないんだけど」

「……ああ、そうですね。貴方には『ジャスティス・エビル』と言った方が判り易かったですか」

「あいつかよ!!」

 

 USオープンのデビュー戦で対決した世界ランク2位の【変異カオス】使い。確かに知っている。社会的地位もある。だが……

 

「えーっと…………那賀嶋さん、幾つでしたっけ?」

「25です。あと、女性に歳を聞くのは……」

「いや、今はそういうのいから」

 

 というか、そういうの気にするタイプだったのか、と初めて知る。

 意外と知らないこともあるものだ。

 

「ジャスティス、確か30代後半じゃなかったっけ?」

「37歳ですよ、久遠くん」

「一回り違うじゃん!?」

「おかげで、娘ができました」

「しかも子持ちかよ!? ……俺が言う筋合いの話ではないと思いますが、いいんですか?」

「全然問題ありません。12歳の子供の扱いには慣れてます」

「12歳って、俺と同い年っすか!? つか、慣れてるって俺の話じゃないだろうな!?」

「あ、いい機会だから、久遠くんも一緒に暮らしますか?」

「ヤだよ!! 相手の娘、いきなり若い母親ができるんだろ? それに加えて得体のしれない同年代が一緒に暮らすなんて聞いたら卒倒するだろ!?」

「…………じゃあ、養子縁組……」

「もっとヤだよ!! 義理とはいえ、ジャスティスの息子なんて気まずいにもほどがあるわい! なんでそうも飛躍すんだよ!」

「なら……義理ですが娘と結婚しますか?」

「できるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ぜいぜいと息を荒げる久遠。それと対照的に飄々としてる那賀嶋。

 慌ただしいイベントや、自身の命すらかかった戦いを経てなお、一番疲れたような気がしてきた。。 

 

 そこで――はっとする。

 そうか、こうして他愛のないことで疲れられる日常に、戻りつつあったのか、と。

 顔を上げると、那賀嶋さんがこちらを優しい目で見ている。

 

「貴方や、社長がどんな世界にいるのかは、私には全てを知るすべはありません。ですが、ずっと思い詰めていた貴方が、こうして笑顔を見せられるようになったことは、素直にうれしく思います」

「那賀嶋さん……」

「そして、貴方がどんな道を選んでも、私は、貴方を支えるのが仕事です。そのことだけは、忘れないでください」

「…………ありがとう」

「いえいえ。あ、養子縁組でも娘との結婚でもいつでも言ってくださいね?」

「そこはマジだったのかよ」

 

 それが、志を新たにした久遠の契機。

 何も変わらないことなんてない。進もうとしているのは、修羅の道であり、破滅へと進もうとしているのかもしれない。

 失ってきたものは多くあった。いまだ取り戻そうとして足掻き続けているものもたくさんある。

 それでも、ここまで歩いてきた道によって久遠が得てきた物はあって、そこから先の道もまた繋がっていると知った。

 

 ――だから、これでいい。

 

 もう、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――物語は新たなステージへと変わっていく。

 

 ――己の力の無さを知り、『覚悟』を持った神倉楓

 

 ――己の力だけでどうにもならないことを知り、さらなる闇へと歩を進める鷹城久遠

 

 ――その物語は、未だに終わりを見せない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、2年半の月日がたった。

 




時は過ぎ、高校入学を間近に控えたデュエルアカデミア

そこに挑む、新たなる挑戦者たち。

アカデミアに残った神倉楓は、そこで二つの再開を果たす。

一人は、二年前、思い出の地で再開を約束した友人、遊城十代

そして、もう一人は、戻ることを約束した、鷹城久遠

長きにわたった別れが再び交わるとき、物語は新たに進み始める。



次回「挑む者、戻る者。二つの再会と一つの挑戦」
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