復讐者ーーー憎悪の産声   作:海郷

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() 少女の独白

 生あるものは輪廻の舞台で儚く廻り、やがて果て逝き天へ召される。

 

 それは明白な真理。

 

 この世全ての残酷と……強者への肯定。

 

 

 

 

 

 私の……親友。

 

 私の……家族。

 

 私の…………全て。

 

 奪われる事すら、この世界は肯定する。

 

 力とは……正義。

 

 正義とは……欲望

 

 欲望とは……自己肯定。

 

 力無きものに示す正義など無く、権能など無く……傅く事すら許されない。

 

 

 

 

 力が……欲しい。

 

 

 

 

 私の全てを捧げましょう。

 

 命ある限り踊りましょう。

 

 千の骸を積みあげ、幾数の業を背負おう事も厭わない。

 

 その先に……奴の首があるなら。

 

 私の悲願(復讐)はただ一つだけ。

 

 

 

 

 私は、同年代の子供より数段、おつむの出来が良かったらしい。

 

 産まれて数週間で言葉を理解した。

 

 三つの時にはもう読み書きを勉強してた(教えて貰っていた訳ではなく、独学だが)

 

 五つの時にはもう既に本の虫だった。

 

 算術は、高等法院の学徒が修める程のものを九つで終了できる程度まで理解した。

 

 史学は、十を数える頃には宮廷の学者と、古代文明崩壊の見解について討論してた。

 

 武芸は平凡だったが、作法や舞踊などは一度習えばすぐに出来た。

 

 そして、それを王家の……自らの家族に過剰に悟らせるのを避けた。要するに手抜きをしてり、釘を刺したり……酷い時はお金を渡したりも、兎に角色々だ。

 いつしか……ああ出来るな、って思っても、戯れ程度か、全くやらない。70が私の全力で真面目と、ずっと言い聞かせてた。

 

 お父様達から見れば、私は十才にして才能溢れる娘の範疇に収まっていた。

 何故そうしたかって?何故優秀であることを秘匿したか?

 

 恐ろしかったから……ただそれだけ。

 

 算術を見てた教師の、信じられないものを見る眼。まあ、ちんたらと問題は解いていたが。

 

 歴史学者に自分の見解を話した時に見た、恐怖が多分に混じった異物を見る眼。私の真意の半分しか話してはいないのだが。

 

 異常な程飲み込みが早い女児に対する怪訝なものを見る指南者の眼。欠伸を何とか抑えて、二、三度質問したのに。

 

 

 あんな眼を家族にまで向けられたく無かったのだ。私は、みんなを愛していた。これでもかとそれを表現した。それが、みんなが望むルーだったから。

 

 優秀過ぎるが故の……排斥。不相応な知識を溜め込んだが故に、私は全身を這い回る様な恐怖に囚われた。絶え間無い不安に眠れない夜が多くなった。それが六つの時だったか。

 

 私は必死に平凡な優秀を演じた。

 

 空虚を悟らせてはいけない。無垢な自分を曇らせてはいけないのだ。小説や絵本で、女児というものを必死で研究して実践していった。

 そのおかげか、私の周りからの目は優しいものだった。

 色々なものに興味を持って走り回り、殊更に大きな声で、空気にこれでもかと、元気を振りまく様な子供に成れたと思う。

 虚しくは、無かった。

 

 もう一度言うが、私は家族を……家族は愛していた。

 

 愛していたが故に……隠したのだ。

 

 あんな目を……家族にまで向けられたくなかったのだ。

 

 私の大好きなお父様。いつも見上げる様な竜達の骸を引いて帰ってきた。お父様の土産話をいつも楽しみに待っていて、いの一番に抱き上げて欲しくて、いつも私が最初に出迎えだった。

 

 お母様と一緒に編み物や、お茶会をしながら今日の出来事を話すのが、一番の楽しみだった。優しくて、物知りで、実はとても強い人だったお母様。褒めて欲しくて、勉強のフリもサボらずにやっていた。

 

 アレクお兄様に肩車してもらったり、稽古をつけてもらうのが大好きだった。いつもお父様みたいになりたいって言っていたその背中は、次第に大きく、力強くなっていった。

 

 ローズお姉様は自分にも他人にも厳しい人。でもその分周りの人をとても気遣う優しい女性だった。実は可愛い小物が好きで、一緒にお忍びで城下の商店をよく冷やかしていた。

 

 クリフ兄様はとても穏和なひとだった。でも、実は怒らせると一番怖い。

 一度私が中庭の木にふざけて登った時には、蛸の様に顔を真っ赤にしてお説教された。その後に何も言わずにぎゅっと抱き締められたのも覚えている。

 

 全てが脳裏に浮かぶ。昨日の出来事の様に幸せが思い出せる。

 

 もう、戻ってこない幸せ。

 

 シルフィ……奪われた最初の幸せ。

 無数の鴉に引き千切られる瞬間まで、この見え過ぎる眼は全てを捉えてしまった。

 

 壊れて……しまったんだと思う。

 

 私は……幸せを侵されるのが何よりも、怖かった。それでも私は、幸せを抱えないという選択肢を選べ得ない。

 

 私は……全てを壊し、燃やし、奪った奴を、ユルセナイ。この手に奴の首を持つまでは止まることは決してない。

 

 

 

 コロセ、と私が叫ぶ。

 

 コワセ、と躰が動く。

 

 ウガテ、と弩に謂う。

 

タノシメ、と心が軋む。

 

 

 

 私の全ては……

 

 復讐……そして悦楽で出来ている。

 

 

 

 

 

「ねぇルー?お母様からのお願い」

 

「お母様?」

 

「貴女はきっと奴を凄く怨むわ、それはどうしようもない事」

 

 それでも、復讐の中でも構わない。

 

「貴女には、夢を見つけて欲しいの……貴女は私達の子供だから、きっとどんな事だって出来るわ……だから、だから……」

 

 貴女には笑顔でいて欲しい。

 

 それが、私からの……お願い。

 

 

 右眼は……悦楽に染まる翡翠。

 

 左眼は……復讐に燃える真紅。

 

 翠紅の双眸抱きし狂人。

 

 

「異色眼の大蛇」

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