『うわあああああああああああああああああああああ!』
黒闇の宇宙で挙がる数多の悲鳴。真っ赤な炎の花が戦場に咲き乱れる。
『くっ、くるなぁ!くるなぁ!!?』
120mmマシンガンが唸り、けたたましく弾を放ち続ける。銃口の先…紫の竜の形をした存在がヒラリヒラリと弾丸を躱わし、紅白の機体を近接武装の射程に捕らえた。
ピリリリリリ…!
頭部が開き、緑の線が走る。掌で形成された黄色い光の刃が機体の胸部へと迫り、パイロットは死を覚悟した。
『ちょっ……せぇえええええええええええええええええええええええええいいいいいいいい!!!!!!!』
突如として振り落とされた一太刀のピンクの光が、竜の機体の首と手を切り裂いたのである。
恐る恐る目を開けると、竜の頭部を明後日の方角へと投げる、1体のモビルスーツが居た。
白と青を主体とする色合い。其の姿はまるで…
『怪我はない!?』
遠ざかった死の恐怖に安堵する間もなく、コックピット内部に設置された無線から切迫した『女性』の声が飛び込む。
『え、あ…はい…!』
『此処は『私達』に任せて、貴方は自分の艦に!行って!』
残骸を蹴飛ばし、脚部と背面のスラスターが火を噴かせ、モビルスーツは去って行く。
『夏蓮!クランクさんと、アインが西側の軍勢を粗方倒したそうよ!私も、もうすぐ合流出来る!』
「分かったわ、シャナルアさん。ニール…じゃなかった、ロックオン!そっちの状況は!?」
『大方片付いたぜ、嬢ちゃん。だが『デュナメス』の残弾がちぃとばかしキツい。おまけに此方に敵さんが集って来やがった』
「キオ君とベルリを向かわせるから、それまで持ち堪えて!!三日月!」
『問題無い。大体倒した』
「…相変わらずね、安心したけど!」
飛び交う通信を一つ一つ応対し、自分もまた目の前に現れた緑の一つ目の機体から打ち出されるマシンガンの銃弾の嵐を躱わして、背部に収納されたビームサーベルで四肢と頭部を次々に切り裂いてゆく。
と…
『マスター、2時の方向より『ゲート』の展開を確認。熱源反応摘出…『ネオ・ヴェイガン』です』
「今度は『AGEの世界』から敵の増援…!くそ、本当にやんなっちゃうわ!!
…仕方ない、『クロノクロス』。『アレ』…やるわよ」
『イエス、マスター』と機体内部からの声が静かになり、操縦席に座るパイロットは操縦菅を今一度深く握りつつ、叫ぶ。
『Gandam・custom(ガンダム・カスタム):turn∀(ターンエー)』と。
瞬間、彼女が翔る機体…『ガンダム クロノクロス』の胸部から白い光が放たれ、腕が。脚が。顔が。一瞬の内に『変形』を完了した。
其の姿形は、純白でありながら、三日月のように吊り上がる特徴的な髭が有った。
「とっとと終わらせて…ガンダム達の整備するんだから!味方機!全員表示したポイントに近付かないようにね!巻き込まれるわよ!」
飛び出し、加速し、新たに現れた敵陣に突っ込む。
そして…
漆黒が染め上げる黒い宇宙(そら)に、虹色に輝く『一羽の蝶』が舞い踊った。
* * *
「綺麗だな、アレ」
宇宙を舞う蝶の姿を見て、少年 三日月・オーガスはそんな事を呟いた。彼はガンダム・バルバトスと呼ばれるMSを操るパイロットであり、先程夏蓮が通信を入れるまで敵機を潰し回っていた。
証拠にバルバトスの周りには、頭部や腹部を圧倒的な力で潰された後を残す黒紫の機体が幾つも転がっており、其の近くには黒に光り異彩を放つ両端に突起が付いた一本のメイスが浮遊している。
バルバトスの姿は白と青の巨大な翼を模した肩アーマーを纏い、脚には前に三本、後ろに一本の計四本の鉤爪。胸部は大型の突起物、腕には100mm機関砲を装備し、其の背中には白と黄色に塗られた一本のブレードが付いていた。まるで『天使』を取り込んだ『悪魔』のように…。
『三日月!そっちは終わったみてぇだな!』
そんな折、三日月の乗るバルバトスにメイスが投げられ、後ろから近付く赤とピンクが混じった色に目が行くバルバトスと同じような姿をしたMS。
「あ、シノ。調子良いみたいだね」
メイスを掴み、振るって肩に乗せるバルバトスの横に付いた機体。肩には四門のロングバレルキャノン、両腕にはショートバレル、そして腰を覆うスカートのようにマグナムとライフルにマシンガン等、脚にはミサイルポッドと、まさに砲撃&射撃特化型のデザイン。
『おう!夏蓮のねーちゃんが仕立て直してくれた『流星号改』だぜ!』
はっはっは!と馬鹿笑いするノルバ・シノは、ガンダムフラウロス・ラムショット…もとい流星号改の左腕をブンブンと振り回し、景気付けとばかりに肩部に装備されたレールガンを真上に固定し、彼等に迫った緑の竜型機体を撃ち抜いて爆散させる。
『そーゆう三日月のバルバトスも、夏蓮のねーちゃんがぶっ壊して鹵獲したでっかいの組み込んだんだろ?』
『うん。『バルバトス・ムーンファング』…だっけ。おかげで色々出来ることが増えた』
呟き、三日月とシノを乗せた二機のガンダムは次なる敵を求めてスラスターを噴かせ、黒闇の空を舞った。
* * *
『あったれえええええええええええええ!!!』
トリコロールカラーの機体に乗るパイロットの叫びと共に、青い翼から舞う八枚の羽が展開し、両手に握るライフルから赤や黄色、緑の閃光が煌めき、何十何百の機体を貫き、行動不能に追い込んで行く。
『キラ、一旦エターナルに戻って休んでくれ。此処からは俺とシン、ヒイロで引き受ける!』
『…お願い!』
入れ替わる形で三機の機体が到着し、後退を促す。
『ヒイロ!』
了解。そう答えたパイロットは先まで『鳥型』だった機体を『人型』へと変形させ、両手に握るライフルを合体。奥へ金色の巨大ビームを放つ。
『シン!』
『分かってる!』
赤の機体と蒼の機体、二機のMSは超高速で加速し、先程打ち漏らした敵を更に倒して行く。
* * *
『サテライトキャノン!』
『トランザム…ライザァアアアアアアアアアア!!!』
『石破!天響拳!!!』
黄色い二本の光と、ピンクの一本の光、赤い拳が敵陣に風穴を穿ち、軍列を成して襲い掛かる敵を爆散させ、道を切り開く。二機の後ろ…赤いオーラが機体を満たし染め上げる。
其の視線の先に見えるのは、オレンジに燃える…『太陽』のような巨大結晶。
『今だ!『コア』を砕け!』
『ジュドーぉぉぉぉぉぉ!!!決めろおおおおおおお!!!!!!!』
『いけぇええええええええええ!!!』
『フルパワーハイメガキャノン!!!発射ぁあああああああああああああああ!!!!!!!』
ガンダムZZ。機体の頭部に取り付けられた発射口から巨大なビームがコアへと放たれる。激突から数秒、結晶に亀裂が走り出しバキバキと音を立てながら砕け始めた。しかし其の代償に彼の乗るMSもまた頭部が徐々に溶け始め、メインカメラが熱によって破壊される。
『負けるかあああああああ!!!』
引き金を強く握り、ジュドーは吠えた。彼やこの戦場で戦う人々の思いに応えるように、ZZは赤いオーラをごうごうと滾らせながら、ビーム砲がさらに巨大にする。
数秒の激突の後…
結晶をビームが貫き、一瞬視界が真っ白になる程の閃光を放ったそれは、軈て砂のように朽ちていった。
* * *
「ジュドー・アーシタ、ガンダムZZが『トリトンコア』の破壊に成功しました。ミッション完了です!」
「よし!各員、早急に作戦区域から離脱!スペロ・ノアズ及びディーバ、エターナル、ネェル・アーガマ、イサリビ等への着艦と搬入を急がせろ!」
『了解!!!』
作戦区域内某所…もたらされた情報と共に素早く動き始めた船があった。名をスペロ・ノアズ。全高250m・全長1000mは下らぬ希望の方舟を冠した巨大戦艦は、夏蓮のガンダム・クロノクロスを含めた機体達が帰る場所となっている。
『クロノクロス、着艦します。ハッチ解放お願い』
彼女の通信を聞き届け、スペロ・ノアズの後下部が開き、カタパルトが延びる。クロノクロスのスラスターで位置を調整するとフックが機体を固定しコンベヤ式で搬入していく。
「ふぅ…疲れた」
『お疲れ様です。マスター』
『オツカレ、オツカレ』
一息付く彼女に二つの声が聞こえてくる。一つは機体から、もう一つは彼女の操縦席の後ろから響く。
「クロノクロス、調子はどうだった?」
『間接部及びブースター各部に異常無し。ヒステリア・コアも安定しています』
「OK。後で点検し直すからね」
『テンケン、ダイジ。テンケン、ダイジ』
『ハロロもマスターも、本当に余念が有りませんね』
「当然!何せこんなに素晴らしい機体…しかもガンダムを弄れる機会なんか、今まで無かったんだから!これだけでも凄いのに、未知の物質を使って作られてるんだもの!見逃すメカニックは一人もいないわよ!第一…」
お説教みたいに話を始めて止まらない女性…名は宇津木 夏蓮という。そして彼女が乗る愛機、ガンダム・クロノクロスは苦笑いをしているかのように、彼女の言葉を聞いていた。
「…と。ま、話したい事もまだまだ沢山有るけど!今は整備に入らなきゃならないし、じゃあねクロノクロス!」
『イエス、マスター』と応答し、コックピットが開いてクロノクロスが静かになる。
彼女が見つめる先…所々に煤が付いたトリコロールカラーの巨人には整備班が付き、間接部やスラスターの損耗具合をチェックし始めている。
「夏蓮さーん!」
声で彼女が振り替えると、宇宙服に身を包む少年が煤落としスプレーと乾拭きを渡してきた。少年はミノルと言い、スペロ・ノアズの整備班の一員として行動を共にしている。
「お疲れ、ミノル。トーシローさん達は?」
「オレを呼んだかい?」と真後ろから響く。バッと身構えた夏蓮とミノル。其処には2mは下らない巨漢が純白の歯を覗かせる爽やかな笑顔で浮かんでいた。
「全く、お前はガンダム乗りになったつーのに、オレは相変わらずの量産機体だ」
「それ前にも聞きましたよ。…それより『トレヴァース』の調子、どうです?」
クロノクロスの後ろに次々と着艦し、フックに吊るされながら所定の位置に運ばれて行くクリーム色の装甲を纏った六体の巨人達。背中には実体剣に棍棒等が取り付けられており、その中でも異彩を放つライムグリーンにペイントされた機体は、背中に薙刀と長太刀、火縄銃型の武器を背負い、まるで鎧武者のような重装甲を纏っている。
「悪かないな。汎用性とカスタマイズ性を重視した機体だが、装甲の換装も早く出来て、武器も戦況やスタイルに合わせての四形態変形が可能。量産機体としては十分過ぎると言っても良い。
それにオレ専用にカスタマイズした『トレヴァース・ガッツ』。要望通り…いやそれ以上だ。中々だぜ」
「ありがとうございます。トーシローさん達のトレヴァースが、ガンダムに成れるように私も勉強しますね。では…」
スチャと何処から取り出したのか、手に持つのはメモ帳とボールペン。瞬間、トーシロー達パイロットと整備班の面々の顔が真っ青に青ざめる。
「スラスターと装甲の出来栄えはどうでしたか!今回は近接戦闘を想定して装甲に丸みを与え、軽量化に成功しました!それから実体剣の切れ味と種子島砲の感想も!
それから皆さんのデータや意見を元に新しい武器を作ってみたので…」
また始まったと遠くで見ていた他のメンバーは夏蓮の視界に入らないように、そそくさと整備を始めてゆく。こうなってしまった彼女はもう止まらない、解放されるのは何時になるかも分からない。
「あ、あの…」
「ん、どうしたミノル?」
「夏蓮さんって…いつもあんな調子何ですか?」
彼女から逃げ仰せた整備班の一人に、ミノルは夏蓮の事を問い掛ける。
「…あー。そーいや、ミノルは知らないんだっけか。夏蓮の事を」
はい、と答える少年に彼は語り出した。