コロシアム内の歓声が交わる中、メイとアスナは舞台に上がる。お互いは真っ直ぐ見つめ合い目を離さない。視線が外れることなく2人はスタート位置に着いた。
「…色々と鬱憤が溜まっているので全力で勝たせてもらいますよ。」
「………………。」
アスナの意気込みに対してメイは返答をしなかった。ただ目を閉じ鼻で深呼吸をしているだけだった。
(すっごく集中してる…。)
いつも明るく、面倒見がよく、時折振り回されることがあるが、どこか憎めないのがメイという人だ。アスナは相手が自分との試合にこれほどまで集中してくれているなら、私情を持ち込まずに戦うべきと考え直した。
(メイさんは店のためではなく、私を1人のプレイヤーとして闘おうとしている…。なら、私も!)
余計な思考を押しやり、アスナも目を閉じ深呼吸をする。ただ唯一気になるのはメイの鎧が違うことだ。若草色ではなく、黄色だった。
気持ちが整ったところでウインドウを開き、相手に決闘の申し込みをする。メイは届いたウインドウを操作をし、カウントダウンが始まる。
カウントダウンの間にお互いは武器を抜いて構える。アスナは細剣をメイは短剣を相手に向ける。時間いっぱいまで2人は相手から目を逸らさなかった。
カウントが0になった瞬間2人は走り出す。やはりレベルやステ振りなどによりアスナの方が速い。《閃光》の二つ名も伊達ではなく、アスナの攻撃の方が速い。だがメイはアスナの視線から攻撃先を予測して短剣の腹で受け止める。
メイの愛刀の《ハーネット・メイデン》は鉈包丁だ。腹が広いため攻撃を受けることもできる。突きを防がれたアスナは反作用を利用してバックステップを取る。距離は開き、仕切り直しになった。
アスナは細剣スキル《リニアー》を放つ。メイはこれも短剣の腹で受ける。アスナは連続でリニアーを撃つ。メイの防御が少しずつ追いつかなくなっていったが、アスナとの距離は詰まっていく。
アスナの細剣は突きがメインなので、突くための距離が確保できなくなっていく。
アスナはもう一度後ろに下がり距離を確保しようとした。だがメイは後ろに下がるアスナに向かって走り出す。メイは短剣を突き出したが、アスナの咄嗟の判断により防がれ、鍔迫り合いになった。
互いの武器は鍔迫り合いには向いていない。細剣は刀身が細いので、鉈包丁はそもそも鍔がない。突き出た刃で細剣に引っ掛けてる程度だ。だがアスナは離れようとしても、メイが腕力のゴリ押しでぴったりと引っ付く。
(離れられない…!)
スキルを使おうにも細剣で斬ろうとしても、その動作に入る前に引っ付かれる。だがこれではメイも攻撃ができないのは明らかだった。二人は近づいた状態のまま睨み合う結果になった。
「このままでは勝負は着きませんよ…」
「………………」
相変わらずメイは言葉を発することはない。だが鍔迫り合いの主導権はメイが握っているので、アスナはこの状況を打破するために考える。
瞬間
アスナの目の前に果物ナイフより更に小さいナイフが突然飛んできた。アスナは飛び退いたが、ナイフは頬を掠める。アスナはメイに視線を戻すと、メイは腕で口を拭っていた。先程のナイフはメイが口から飛ばしたものだ。
「随分卑怯な手段を使うんですね…」
「いや〜、掠っただけか。いけると思ったんやけどな。」
口の中にものが無くなったためメイはようやく喋る。相手の奥の手は防いだが、これ以上試合を長引かせれば自分が不利になるとアスナは確信した。
アスナは全速力で走り出し、細剣スキル《デルタ・アタック》を撃とうとする。
しかし2歩踏み出したところでアスナは痙攣を起こし、体に力が入らなくなっていった。アスナは自分の体力を見ると、そこには麻痺状態を示すアイコンがあった。
先程アスナを掠めたナイフには麻痺毒が塗ってあったので、掠めただけでもアウトだった。
麻痺で動かなくなったアスナの背中にメイは鉈包丁の刃を突き立てた。アスナは抵抗もできずに攻撃を受け、この決闘はメイの勝ちで終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
キリトとアスナは試合に負けたので、肩を落としながら帰路につく。キリトがkobに入ることになりアスナは少し喜ぶところはあるが、メイに負けたのはやはり悔しいものだ。二人は夕食もまだなのでNPCレストランに行こうとするが、キリトにメッセージが届く。
差出人メイ:『今日は決闘お疲れ様。キリト達のお陰で屋台がよく稼げてん。夕食食べに来ない?』
どうやら勝った者は敗者の気を知らないらしい。だが折角のお誘いだ。食い尽くすつもりで食べてやろう。キリトはささやかな仕返しに何の連絡を入れずにアスナを連れていくことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
キリト達は50層のメイのレストラン前に来ている。何の連絡もなしにいきなりアスナの顔を見たメイの反応を楽しみにし、二人はドアを開けた。
「おーいメイ。アスナも連れて………なんでだよ…」
店の中にいたのはメイだけではなかった。メイの目の前のカウンター席にはヒースクリフが座っていた。
「なんでヒースクリフがいるんだよ…」
「なぜキリト君も呼んだのかね…?」
「なんでこのタイミングでアスナ連れてきてんねん…」
「……………」
4人はそれぞれの今日闘った相手がいるので気まずくなった。
「じゃあ夕食つくりますね。」
この気まずい雰囲気から逃げ出すためにメイは厨房に入った。とりあえず作るものはキリトとヒースクリフが好きなものを足して2で割るもの『麻婆ラーメン』だ。アスナとメイの分は以前と同じハンバーグ定食にした。
フライパンに油を入れ、中火で豚ひき肉を炒める。
水、キリトが初めて来店した時に作った麻婆豆腐の素、鶏ガラスープを煮てから豆腐、ネギ、ニラを入れる。
片栗粉とトロミ粉を溶き水で混ぜる。
煮立ったら火を止めて、トロミ粉水をかき混ぜながら回し入れ、軽く混ぜる。
全体を火にかけ、煮立たせる。
湯ぎりした麺を入れ、スープで麺をほぐしたら完成。
ハンバーグ定食は以前作ったものと同じように作る。
「お待たせしました。麻婆ラーメンです。」
「これはまた赤黒いな…」
「なんでこいつと顔を合わせながら同じ物を食べなきゃならないんだ…」
キリトはどうやらヒースクリフと顔を合わせて食事するのが嫌のようだ。先程の試合では訳のわからないまま敗れたので当然ではある。だがメイはそんな気も知らない。
「そら新入団員が入ったんやから大手ギルドとしては歓迎会するもんちゃうん?」
「大手会社みたいに言わないでくれたまえ…」
そんなバカ話をしながら配膳が終わると、全員で手を合わせる。
「「「「いただきます。」」」」
そう言って1組は激辛麻婆ラーメンを、もう1組はハンバーグ定食を食べ始める。
「ゴフッ…!な、これは辛すぎないか!?」
ヒースクリフがラーメンを一口啜ると辛さで悶え始めた。それを見た3人は笑う。
「なぜキリト君は平然と食べているのかね?」
「これぐらい普通だろ」
「これよりまだ辛くしても平然と食べるような奴ですよ。」
「君の舌はどうなっているのだ?」
ヒースクリフが予想以上に辛さ耐性がなく、残りのラーメンを苦しみながら食べていた。しかし後半になるにつれ、慣れてきたのか食べるスピードも上がっていた。
「そういえばメイさんはどうして口の中に麻痺毒があっても麻痺状態にならなかったんですか?」
アスナが今日一番の疑問をメイにぶつける。決闘の時に口に麻痺ナイフを仕込んでいたメイは一度も麻痺状態になっていなかった。
「簡単なことや。今日の装備は麻痺完全無効の装備やってん。」
出てきた答えは完全に対人戦の準備をしていたとの答えだった。アスナは答えを聞けて満足し、再びハンバーグを食べ始める。
「「「「ごちそうさまでした。」」」」
全員が夕食を食べ終わったので帰ろうとする。
「キリト君。明日から君もkobの一員だ。よろしく頼む。制服はアスナ君に頼んであるから安心したまえ。」
キリトは不服そうな顔をしながらアスナと一緒に店を出た。メイとヒースクリフはその背中を見送った。
「さて、私も帰るとするよ。」
ヒースクリフが店のドアに振り向いたところでメイは呼び止めた。
「スポンサー契約のことと他に話したいことがあるので残ってくれませんか?」
「ふむ。了解した。」
ヒースクリフとメイは向かいあい席に着いた。
こんなデスゲームのギルド内にも新人歓迎会があってもいいと思うんだ
オリ主とより仲良く出来そうな方
-
ロニエ
-
ティーゼ