お気をつけください
席についたヒースクリフとメイはスポンサー契約について話し始める。いくら卑怯な手段を用いても決闘自体にメイは勝ったのでヒースクリフは条件を飲むしかない。
「やっぱりスポンサーと言うからには無料で食材の提供をして欲しい気持ちはありますね。」
「トップギルドのナンバー2に勝ったお祝いだ。その条件を飲もう。ただし、結ぶのはスポンサー契約だ。君にも我々kobの宣伝をしてもらいたい。」
「わかりました。」
「それで、君にはどれぐらいの食材が必要なのかね?」
メイは席を少し離れ、奥からエギルからの領収書を持ってくる。それに記載されている食材の量にヒースクリフは目を疑った。莫大な量の上には『1ヶ月分』の数字があったからだ。
「これだけの食材は一体いくらかかるのだ?」
「エギルさんのモットーもあって本当は30万のところを20万で仕入れてるんです。」
エギルの商売モットーは『安く仕入れて安く売る』だ。メイはこれのお陰でエギルから毎月安く買えている。ヒースクリフはこれを無料で提供することになるので、毎月30万コルの出費がプラスされた。
「下の方にA級食材もあるがこれは買えるのかね?」
「裏市場に時々出回ってますね。毎日張っていれば月3個ほどなら買えますよ。」
「君のその情報力も中々のものだな。」
エギルの契約が無く、自分で買っているものもさらりと混ぜ、あたかも最初からエギルから買っているように見せかけて上物の食材も確保できた。これは殆ど詐欺に近い。
その後も二人の交渉は続き、話はついにまとまった。
「スポンサー契約はこんなものかね。」
「両者win-winの関係ですね。」
「君のwinの割合が高すぎる気もするがね。」
少し痛いところをつかれ、メイは笑いでごまかす。
「さて、私も今日は帰るとするよ。」
「まだ話はありますよ。『他に話したいこともある』って言ったじゃないですか」
ヒースクリフは再び席につき、メイはコーヒーを淹れる。コーヒーを飲んでいる間、2人には沈黙が続いた。
「まずは今日の決闘の勝利おめでとうございます。」
「それは君にも言えることだ。」
お互いに今日の決闘の勝利を祝い合う。しかしその言葉はどこか上辺だけのものだった。
「団長さんの決闘のことについてどうしても疑問があるんです。最後の方でキリトの連撃を防ぎきった時にスキルは使いましたか?」
ヒースクリフは考え込むようにして、試合を思い出す。返答までに少しの間が空いた。
「いや、特には使っていない。君は私のすぐ後ろであの勝負を見ていたのだから君にも分かるはずだろう?」
「そうなんですけど確認なんです。第一団長さんの盾にしろ剣にしろライトエフェクトはありませんでしたし。」
まずは一つ目の確認がとれたことにより、メイの中で組まれていた仮説が更に深く組まれる。まだこれでは足りないと思い二つ目の質問をとる。
「団長さんの戦闘スタイルはユニークスキルによるカウンターがメインに見えるので、ステ振りはタンクよりですか?」
「大きく分けるとそうなってしまうな。」
メイは仮説の一つが確信に変わった。やはりこの人はおかしい。キリトのステ振りはSTRベースのスピード型だ。あのスピードの攻撃全てをタンク型が捌ききれるはずがない。《神聖剣》について何も知らないメイは、それ特有のスキルなら納得したかも知れないが、本人の口から使ってないときた。メイの考えの中では矛盾が広がっていく。
「団長さん。いえ、ヒースクリフさん。やはりあなたは異常です。弾かれた直後の盾を戻せる速度。スピード補正のかかったスキルをスキルなしで防ぎきったこと。どう考えても人の反応できる速度じゃありません。このことから私は一つの予想ができました。」
「……その予想を聞かせてもらってもいいかね?」
隠したい真実に近づかれているのだろうか?ヒースクリフは顔を少し歪める。
「これは推測です、ヒースクリフさん。あなたの正体は『茅場晶彦』ではありませんか?」
「…っ!?」
ヒースクリフは顔を大きく歪めた。
「そんな顔をしないでください。これは推測です。いきなり自分が元凶と疑われると私でも反応しますから。違うなら否定してください。」
ヒースクリフは一度深呼吸をし、向きなおり、口を開く。
「いかにも、私が茅場晶彦だ。」
メイの思考が止まった。ここまで見事に仮説が合っていたことに驚いた。ヒースクリフの正体はよくて茅場に近い人物と思っていた。カマかけのつもりがまさか本人が認めるとは思いもしなかったのだろう。
それに比べヒースクリフは、いや、茅場晶彦は胸を張っていた。
「君の推測は真実だ。私の正体を見抜き、怒る気持ちはあるのかね?」
メイはヒースクリフの言葉に肩を震わす。
「ふっ…、ふっ…、
あっはははははははは!」
メイは大爆笑した。怒ることをせずただ笑った。
「…何がそこまで可笑しいのかね?」
「はー…、いやー、カマかけのつもりでしたのに本人が認めるとは思わなくて。やっぱり自分で作ったゲームって自分でやりたいものなんですか?」
「他人がゲームをしているのを見るだけ、というのはつまらんだろう?」
「作る人もやっぱりゲーマーなんですね。」
2人は笑いながら会話をする。元凶が目の前にいるのに世間話など中々におかしい。
「それで、秘密を暴いた私はどうなるんですか?」
「君に何かする気は無い。今まで通りこのゲームを楽しんでくれたまえ。他のプレイヤーにバラされると困るがね。」
すぐ後ろで決闘を見ていたメイだからこそ見抜けたものだ。他人を完璧に頷かせる根拠もないので、バラしても混乱を招くだけだ。
「こんな話誰も信じないと思うので言えませんよ。」
「そうか、それは助かる。」
コーヒーも飲み終わり、話も終わったのでヒースクリフは立ち上がる。
「そういえば、君には褒美を与えねばな。」
ヒースクリフはおもむろに言い出した。
「先程割のいいスポンサー契約はさせて頂きましたけど…」
「私の正体を見抜いた褒美だ。何か希望はあるかね?」
相手はゲームマスターだ。なにを希望しても大体は通る。ユニークスキルか、はたまたログアウトか、メイは悩んだ。
5分ほど考え、メイは要求するものを決めた。
「では……。私が希望するのは……」
「……本当にそれでいいのかね?」
「はい。大丈夫です。」
「……それが何を意味するのかを分かっているのかね?」
「対策もできるので大丈夫です。」
「……私には君が何を考えてるのかが分からない。だが君が望んだものだ。」
ヒースクリフはウインドウを操作する。メイは届いた褒美を受け取った。
「それでは、私は帰るとするよ。」
「はい、また来てくださいね。」
ヒースクリフはドアを開け、店を出た。
やめて!腕の刻印を見せたらキリトやゴドフリーに正体がバレちゃう!
お願い!死なないでクラディール!あんたが今ここで倒れたらpohさんやメイとの約束はどうなっちゃうの?
麻痺毒はまだ残ってる。ここを耐えきればアスナやキリトに勝てるのだから!
次回!『クラディール死す』。デュエルスタンバイ!
あいつ死にます
オリ主とより仲良く出来そうな方
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ロニエ
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ティーゼ