「暇やなぁー。ゲームしてんのにやることないって矛盾してへん?」
シキは暇を持て余していた。新しく開いたこのプレイヤーBARは立地はあまり良くなく、またGGOはアクティブな人が多いので、こんなところにふらりと立ち寄る人も少ない。
とは言っても開店初日なので1人来ればいい方だろう。しかし来るかも分からないし、やることもないのでGGOに持ち込んだ料理本などを読んだり、栄養学を調べて目を通したりして時間を過ごす。
ギィ…バタン。
木製の2枚扉の開く音がする。銃といえば西部劇みたいなイメージから扉はこのようにした。それより扉が開いたということは人が来たということだ。ウインドウを閉じ、入り口に目を向ける。
「オォー。良いじゃない。隠れ家的名店って感じで気に入った。」
入ってきたのは長い黒髪をポニーテールにまとめ、顔には刺青のようなものをした女性プレイヤーだ。装備はツナギのようなものであり、今は戦闘態勢ってわけでもなさそうだ。
「いらっしゃいませー。」
「しかもNPCじゃなくてプレイヤーの店!面白いじゃないのここ。」
目の前のプレイヤーがシキがプレイヤーだと分かった途端にテンションを上げた。GGOは本来こういった商売をするゲームではないので珍しいのだろう。ましてや武器屋でもなくBARだ。探して見つかるものではない。
「設備は整ってるのにガラガラじゃない。店主ちゃん、なんでこの場所にしようと思ったわけ?」
そのプレイヤーは店を見渡しながら質問をした。目についたのはカウンター3席、テーブル2席、ビリヤード台が2つ、2階は個室が2つだ。敷地が少し狭めであり、目立たないのでこの場所だと商売には不向きだろう。
「まぁガッツリやるつもりも無くてですね。開いて週2にしようと思ってひっそりとやりたいんですよ。」
「知られざる名店を目指すってわけね。いいじゃんそれ」
そう言いながらそのプレイヤーはカウンターに座る。
「さて、何になさいます?最初のお客さんなんでサービスしますよ。」
シキはこの店を始めて初の客が来たことを喜んでいた。SAOは初の客が顔見知りだったがそれでも来てくれたことは嬉しく、GGOでも似たような気持ちになった。やはり人との触れ合いとはいいものだと再認識する。
「んじゃライムで。つまみとかは無くて良いよー。」
「すぐできるんで少々お待ちをー。」
ライム原液を出し、それをレモンサワーと1:4で割る。
それらをよく混ぜ上から氷を入れるだけで完成だ。
「はいライムサワーです。」
「早いわねー。ありがとう」
そのプレイヤーはライムサワーを受けとり飲み始める。ゲームでのアルコールはただ飲んだ気分になるだけであり、現実にも何も影響はないが、味覚エンジンは確かに働いているので美味しいものは美味しい。
「いやぁ美味い!テンション上がるわね!店主ちゃんも飲みなよ!」
「営業中なんですけど…。」
シキはその誘いを断った。裏路地でももしかしたらこの人のようにふらりと立ち寄る人がいるかも知れないからだ。その時に店主が客と飲んでいたら色々とおかしいだろう。
「だったら表の看板をcloseにすれば良いじゃない。色々と話聞かせてよ。」
「多分それ断っても無理やりやるんじゃないです?私も酒癖そこそこ悪いらしいし似たようなタイプじゃないですか。」
「へぇ。店主ちゃん酒癖悪いんだぁ。これは良いことを聞いた」
「あっ…」
シキはついうっかりと口を滑らせてしまった。大したことはないとは思うがリアルの情報が少し漏れたと思う。ただこれで成人してることはバレたのは間違いない。
「本当に気をつけなさいよ。私はしないけど情報を繋げてリアルにたどり着く人とかいるからね。」
「はい…。肝に命じます…。」
「よろしい。と言うわけで飲みなさい。」
そのプレイヤーはいつのまにか自分のライムサワーを半分違うコップに移しており、それをシキの前に出した。
「はぁ…。少しだけですよ」
表の看板をcloseにしてからシキはそのプレイヤーの横に座り、飲むことにした。
「折角一緒に飲むんだから自己紹介ぐらいはしないとね。私はピトフーイ。ピトで良いよ。」
「シキです。よろしくお願いします」
二人はグラスをぶつけ、乾杯した。
「だよねぇ。分かるわそれ、だから私は顔にこんな刺青入れたのよ。これにビビって近寄る人減ったわよ。」
「私も入れてみようかなー。でもそれやるとこのアバターのイメージぶち壊しになりそうでなんか嫌やけどなぁ。」
15分後、シキは少し酔っていた。ゲームのアルコール飲料は味と雰囲気だけのものではあったが、シキは雰囲気で酔うタイプの人間だった。出来上がってからはもうお構い無しでピトフーイと普通に話していた。
「さーて、盛り上がってきたことだしここいらでフィールドに出ましょうか!」
「ええやんそれ、私のGAU-22のデビュー戦手伝ってや。」
「よーし、そうと決まれば行くわよ」
こうしてピトフーイと完全に酔いに任せて行動しているシキはシキの得意フィールドの廃街に出ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
廃街に出た二人はまず目標を決めた。今回の目標は来るかもどうか分からないがプレイヤー狩りをすることにした。廃街は隠れるとこも多く、初心者向きのフィールドなので、実弾銃を初めて使うシキにはぴったりだろう。
二人は軽く作戦を立てた。それはピトフーイが狙撃でシキのいる建物に誘導し、シキが物量で押し切る作戦だ。最初はピトフーイは止めたが、シキが上手く嵌れば相手が10人だろうが勝てると断言したので飲むことにした。
ただピトフーイは作戦を飲んだが、初心者にこのゲームは甘く無いぞと言いたいところもあるので、作戦失敗して痛い目を見ても良いと思いながら、狙撃ポイントに着く。
待ち伏せること40分後、遠眼鏡でピトフーイは6人編成の標的を見つけた。ちなみにGGOではパーティのことをスコードロンと言う。
「来たわよシキちゃん。本当に任せるよ。」
「任せぇやピト。私一人で全部やり切る。」
自信満々のシキの声にピトはテンションを上げる。任せろとしか言われてないのでGAU-22で撃つまで何をやるかはピトフーイも知らない。
スコードロンがピトフーイの射程に入り、まずピトはAK-47持ちのプレイヤーを撃った。その狙撃は見事命中し、そのプレイヤーの頭の上にはdeadの文字が出る。
「襲撃ー!」
ピトフーイの狙撃を注意し、残りの5人は建物に身を隠す。この廃街では民家はほとんど潰れており、まともに使えるのは5階建の廃ビル1つとホールが1つ、あとは僅かに崩れてない民家の3か所しかない。
5人はまずホールに隠れることにした。5人は既にピトフーイの存在に気づいているのでアシストのバレットラインは見えるので、次の狙撃までは大丈夫だろう。
「さーてシキちゃん。見せて貰おうじゃないの…」
ピトフーイは廃街外の崖から狙っているので高みの見物を決め込むことができる。もし狙われても対処は余裕だろう。
5人はまずホールを目指した。だが先頭のプレイヤーがホールに入ろうとした瞬間に異変が起こった。
まず起こったのはホールが爆発した。シキが予めプラズマグレネードでブービートラップを入り口に作っており、それに引っかかったのだ。
恐らく今死んだのはスコードロンのリーダーなのだろう。残りの4人はとても慌てていた。
「この辺りはトラップがあるぞ!気をつけろ!」
「ブービートラップかぁ。普通すぎるでしょシキちゃん。」
中々手の込んだものではあるが初心者なら少し頭を捻れば考えつく。だがズブの素人であるシキがやったことにピトフーイはシキが手段を選ばない性であることは分かった。
ピトフーイにシキからメッセージが届き、次は民家を狙撃する。民家の柱に当たり家は潰れる。
狙撃手の射線からそれるために、4人のプレイヤー達はビルに逃げ込む。
「ここでやり過ごすぞ…。さっきの民家みたいに潰されることはないだろ…。」
そして4人がビルに入り15分がたった。
「……狙撃がこないな…。」
「あの狙撃手は諦めたのか…。」
「よし…。確認するぞ…。」
スコードロンのプレイヤー達は立ち上がろうとした。だがしかし全員は体に上手く力が入らず、その場に倒れてしまった。
「なっ…」
それぞれ自分のステータスを見れば、全員に毒状態が付与されていた。だが4人ともどこで毒を食らったか覚えがない。
そして上から足音が聞こえてきた。階段から降りてきたのはガスマスクをしたGAU-22を持ったプレイヤー、シキだ。そして動けないプレイヤーに狙いを定め、GAU-22を乱射する。毎分3300発の連射性は猛威を振るい、全てのプレイヤーのライフを削りきった。
そしてピトフーイの元に戻り、帰ることにした。
「にしても毒ガスなんてどこで仕入れたのよシキちゃん。」
「裏路地に独自開発の武器商人がいましてね。毒ガスグレネード持ってる人がいるんですよ。それをビル全部に撒いていたんです。下に行けばいくほど濃度を薄くなるように調整大変でしたよ。」
「やることが汚いねぇ。」
ピトフーイは笑い飛ばし、ニヤついた。
シキ「毒武器あるよぉ」
オリ主とより仲良く出来そうな方
-
ロニエ
-
ティーゼ