デスゲームのお食事事情   作:lonrium

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例のウイルスによる自粛期間が過ぎ、作者のリアルが死ぬほど忙しくなりました。執筆速度は遅くなってしまいましたが失踪はしませんよ。

暖かく見守ってください


不治&不治

痛い

 

昨日まで続いていたことが明日には変わるかも知れない。

いつまでも変わらずこの状況が続くと思っていた。

 

痛い痛い痛い

 

そんなことは夢だ。続くわけがないとあの世界(SAO)で嫌というほど味わったのに

 

自分の身にその『いつか』が来ることを忘れていた。

 

 「っっっっっっっっ!!!」

 

声にならない絶叫と共に落ちる感覚を覚える。その僅か数秒後には衝撃が走る。だが本来起きるはずの体には痛みが全くなく、痛みは全て脚に集中している。

 

 「■い皐■!大■夫■■月!」

 

聞き覚えのある声が聞こえる。叔父の声ということはすぐに分かった。ぼやける視界の中でもすぐ近くにいるのだけは何とか分かった。だが声が異常に遠い。

いずれ徐々にその声は聞こえなくなる。視界もドンドン暗転していった。だがその痛みに抗うように皐月は動く上半身を動かし続けーーー体には重みが加わった。

 

それでも抗いに抗い続け

 

皐月は意識を失った。

 

ーーーーーーーーーー

 

ふと目を覚ます。朧げな意識がはっきりしていくことが自覚できた。

視界に飛び込んできたのは見知らぬ天井。

 

だが、そのシンプルな天井は過去に似たようなものを見たことがある。一年と少し前に鮮明に焼き付いたものと同じ「病院の天井」だった。

 

 「またかいな…。」

 

そう呟き皐月は仰向けになっている身体を翻す。SAO事件終了時に入院していた病院ならば頭上にコールボタンがあるのは既に知っているのだ。何も困ることはない。

 

 

 

 「…嘘やろ…。嘘やんな…?」

 

体の上下を入れ換えようとしたがそうはいかなかった。上半身はしっかりと捻ることはできたが、足が絡まることを避けるために動かした右足が左足を跨ぐことはなかった。それどころか右足のふくらはぎには未だに布団の感触が残っている。つまり下半身そのものが動いていないのだ。

 

頭の中が真っ白になる。受け止めきれない現実に吐き気を催すが何とか堪えることができた。だが上半身や腕、頭は動くことは理解でき、過去の体験で得た法則的により、コールボタンは見つかった。すぐ押せる位置にあったため、ボタンを押してから皐月は絶望感に襲われたまま処置を待った。

 

ーーーーー

 

皐月が倒れてから丸2日。全ての検査や現状確認が終わり整理はつかないが理解することには成功した。

まず皐月が最初に意識を失っていた時間は16時間。この時間の間に応急処置や最低限の治療は終えた。峠を越え安定した状態になって彼女は目覚めた。

そしてそこから精密検査などの名目で彼女は麻酔により再度眠った。次に目覚めた時には天井が変わっていたのだ。

 

皐月は現在叔父と一緒にいる。その目の前には2人の医者がいた。

 

 「まず最初の病院と違う理由ですが、あちらの設備では不可能な治療があったためこちらに頂いてもらいました。」

 

病院はどこも同じ施設が揃っているわけではないのは皐月も聞いたことがある。相手のネームプレートを見れば、ここが横浜ということが分かった。

 

 「覚悟して聞いてください。」

 

その言葉に息を呑む。皐月は顔を張り意識を固めた。何となくは予想がつく。顔を上げ医師をまっすぐ見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あなたは…このままだと持って2年です…」

 

その言葉に時間が止まったような感覚がする。だがその感覚を振り払い皐月は尋ねた。

 

 「理由を…聞かせてもらえませんか…?」

 

医師の説明を要約すると、皐月の脳には多大な負荷がかかった痕があるとのことだ。それは時期的にはSAO帰還時にできたものらしく、そこから壊死が発生し今の状態に至る。今までの足が弱っていたのはまだ初期症状であったらしく、今立てなくなったのでもまだマシらしい。

 

 「治り…ますか…?」

 

淡い希望を求めて皐月は問う。

 

 「ここからは私がお話します」

 

もう一人の医師が前に出る。ネームプレートには「倉橋」と記されていた。

 

 「篠原さん。少し彼女をお借りしてよろしいでしょうか?」

 

叔父ともう一人の医者はその意思を汲み取り、部屋を後にする。

 

 「あなたは、VRゲームのプレイヤーとお聞きしました。」

 

 「はい」

 

 「アミュスフィアの仕組みについてはご存知ですか」

 

 「あまり…詳しくは…」

 

皐月はそこからアミュスフィアの大まかな説明を受けた。普段使っているものに全身麻酔に近い効果があるとは思わなかった。

 

 「…さて貴方には見て欲しいものがあります」

 

皐月はベッドから車椅子に移り、浅倉がそれを押す。

 

 「見て欲しいもの、があると言いましたがそれと同時にあって欲しい人もいます。彼女からも許可は得ています」

 

 車椅子が押された先には「第一特殊計測機器室」の部屋である。その中に入ると少女が機械に繋がれていた。

 

 「彼女は紺野木綿季」

 

そこから皐月は木綿季についての説明を軽く受けた。そしてメデュキュボイドがどのようなものかも理解した。

 

なぜ医師がこのようなことを説明するのかは皐月には理解できた。先程の余命宣告で予測するに「そういうこと」なのだ。

 

 「紺野さん…私とお話してくれませんか…?」

 

皐月のこの質問の細かな内容は紺野木綿季に向けられたというよりメデュキュボイドの詳細と言った方が正しい。もちろん紺野木綿季に全く興味がないというわけでもなかった。

 

 『あなたは…一体…』

 

スピーカー越しから少女の声が聞こえる。声色は沈んでいるがそれでも今は自分に向き合ってくれていることがわかる。一瞬の沈黙はあったものの、どうやら彼女も皐月の予想するところまで行きついた。

 

 『…あーそういう…。わかったよ』

 

倉橋から面談用のアミュスフィアの使用許可をもらう。互いに運よくALOプレイヤーであったため、場所を決めてからログインした。

 

そして二人は顔を引き攣った。まさかメイとユウキがこんな形で再開するとは思ってもみなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

互いに現実世界での深刻な事情を知ったからこそ話せることもあるというものだろう。ユウキとメイは背中を合わせながら上も下も前も後ろもわからなくなるような空間で話していた。

 

 「なるほど。メイはSAO生還者だったんだね。通りで大体の人たちよりいい動きしてたんだね」

 

 「って言っても2年やからなぁ。1年も先輩に言われても素直に受け取れへんな」

 

 「もうすぐメイもこうなるよ。言ってたでしょ?終末期だって」

 

基本ゲームの中では現実の中では御法度であるが、互いの了承やこの特殊な空間のお陰で話が進む。

現在使用している空間はメイが用意したものだ。神代を招いたものと同じであり、誰からも居場所を探られることはない。それに名目的には「ユウキ」と「メイ」ではなく紺野木綿季と篠原皐月として会っている。

 

 「てかユウキもヤバかったんやなぁ…。思ってたのとちゃうかったけどそれでもなぁ…。」

 

 色々と勝手に予想していたメイではあったがその予想は違っていた。ユウキもその口ぶりに気付いて問いかける。

 

 「メイは僕をどう思っていたの?」

 

 「白血病か過度のアレルギー体質やと思ってん。屋台の時の反応が大きかったからなー」

 

薄暗い会話が続く。お互いに気を使っている分少し気まずい雰囲気はあるが、会話は進む。

2人は現在ALO及び現実から離れている身だ。さまざまな辛さからは逃げている。気が滅入るのも仕方ない。

 

 「…そういやユウキも最近ログインしてなかったんやろ?」

 

ユウキはアスナに会わないためにALOから逃げていた。お互いに、特にアスナに辛い思いをさせないためにだ。

 

 「うん。でもアスナが来てくれたら全部打ち明けるつもりなんだ」

 

背中でうずくまった姿勢から聞こえる声がする。その様子に振り絞った勇気で行動する彼女にメイには思うところがあった。

ショックで特に今取り乱しているのはメイだ。自分とユウキを比べて今の自分がどれほど情けないことか痛感した。

だからこそ彼女は立った。

 

 「ユウキ、一戦頼まれてくれへん?」

 

メイの知り合いは悩むなら体を動かせという主義がいる。その結果彼は英雄となり多くを救った。ならばその受け売りを使わせてもらおうではないか。

 

 「いきなりどうしたの?おかしくなった?いや元からか」

 

その言葉にカチンとくる。確かに出会い頭に決闘の最中に毒キスをしたメイが10割悪いがいつまでも根に持ちすぎではないだろうか。腹が立ったので後ろ蹴りを軽く入れてユウキの腰を上げる。

 

ユウキはそれで飛び上がりメイの正面に立つ。お互いの顔を本日まともに見た気がした。その顔はお互いに睨んでいる。

 

 「いいね。この方がボクたちらしいや」

 

 「よーしなら本気でやろか」

 

メイが指を鳴らすと辺りの景色が書き変わる。その中身はボス部屋のような作りになり、戦闘をするためだけの場所といった感じだ。

 

 「「絶対勝つ」」

 

片手剣と短剣が再び交わった。

 

ーーーーーーーーーー

 

部屋の中はまるで焦土と化していた。床は剥がれ、壁はいくつも凹んでいる。ボロボロの部屋の中心には倒れる影が二つだけあった。

 

一つはユウキ。防具は所々割れてしまい、額の赤い鉢巻はスッパリ切れている。泥だらけになり腹には深々と鉈が刺さっていた。

 

もう一つはメイ。その姿は火妖精メイではなく、以前見たボス「獄卒」の姿。またこちらも状態はユウキとほぼ同じであり、その体を片手剣が貫いていた。

 

 「あースッキリした」

 

 「あー獄卒でも相討ちかー」

 

戦いの感想を述べる2人の感想は対照的であった。ユウキは喜びメイが落ち込む。

 

 「でもメイもスッキリしたでしょ?」

 

勢いよく起き上がるユウキは手を差し出す。メイはその手を掴み取りユウキに引っ張られながら起き上がった。

 

 「まぁそうやな」

 

メイの「獄卒」化が解け元に戻る。それでもどこか気分は軽くなっていた。

 

 「どうするか、決まったよね?」

 

その問いに対して今見つける言葉は一つしかなかった。メイはユウキの顔を真っ直ぐと見つめ最大の笑顔で答えた

 

 「残りの人生、楽しむで!」

 

お互いの意思を確認しあい、2人はログアウトをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、メデュキュボイドというバトンを篠原皐月は受け取った




これにてマザーズ・ロザリオ編終了です。次回からはAGGO編です。
とは言ってもSJ2だけなんですけどね

オリ主とより仲良く出来そうな方

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