招集&テスト
『エルザのライブチケットが当たったぁ!?』
皐月の電話から驚いたような声が鳴り響く。その画面には《通話中》と表示されており、相手は篠原美優である。
「せやで。良えやろ〜」
前々から美優がエルザのライブチケットを欲しがっているのは知っていた。当選確率を上げるために水増し要因として皐月は使われてはいたのだ。その結果として皐月だけ当選し、美優は落選してしまったのだ。
『それ頂戴!言い値で買うから!』
美優はエルザの大ファンである。北海道から東京に出た友達と一緒にライブに行きたいとの願いは皐月も重々承知である。
「あげへんよ〜。私が使うんです〜」
『ぐわぁぁぁぁぁぁあ!鬼!悪魔!毒女!」
「中々の性悪女みたいに聞こえるなぁ?」
とは言え皐月だって行きたいものは行きたい。応募した時期では当たったら譲るつもりではあったが一緒に行く相手と理由ができてしまった。
単純に時間がないのだ。思い出作りと洒落込みたいだけである。
「まぁ諦めてな。彼氏と行くから譲られへんよ」
『うっわぁ〜。チケットに彼氏持ちの余裕発言。嫌味にしか聞こえない』
それからはエルザについて美優から色々と教えてもらった。事前情報とは大体同じであり、それ以上にどれだけ彼女が好きという美優自身の話にも転がった。
電話を切ると久々にメールを確認する。パソコンを病室に持ち込む気にはなれなかったので端末でも確認できるように設定したのだ。
メールは前々から通知の設定もしていたが開いた瞬間に新たな通知が一見届いた。
〈集合。話があるから来て ↓↓↓ 〉
差出人はピトフーイである。「メイ」の名義でなく「シキ」に宛てられたメールである。つまり集合先は一つしかあり得ない。GGOにあるシキのバーである。
しかしメールは不自然な改行が山ほどある。まだ続いてるのだ。
〈来ないとどうなってもお姉さん知らないぞ♡〉
脅しである。しかしGGO内の街中にある店にしろ何にしろ破壊などできるわけもない。だがその文の破壊力は底知れなかった。拒否権はないのである。
ーーーーー
年末以来にログインをしたが特にGGOに変わりはなかった。風景や雰囲気も覚えている通りのものである。
慣れた足取りで路地へと「シキ」は入っていく。「メイ」ではなくこちらのアカウントは久しぶりであったが思っているほど違和感などは無かった。
バーの前に辿り着くと店先で樽に腰をかけている女性プレイヤーがそこにはいた。
「はーい♡シキちゃん!お久しぶりぃ」
「脅迫紛いのメールしてきてそれはないやろ…」
「来なかったらここら一帯罠&樽まみれにしてたわよ」
「うっわ…」
そんな会話を広げ、シキはバーの鍵を開ける。中にピトを招き入れ適当に近い席に向き合って座る。
「んで?話は?」
蓋をされた小樽をオブジェクト化しピトに投げ渡す。ピトはそれを難なくキャッチし中のモノを飲んだ。
「大会出ない?squad JAM」
「何それ?」
聞き慣れない、見た覚えのない単語に興味が移る。だが名称以前につけられた大会という単語に特に惹かれるものがあった。
「BoBの団体戦って認識でいいわよ。ある日本人がBoBの3回大会でのタッグ組んで闘ってた2人を見て興奮して運営に熱い要望を出したの。」
その大会でタッグを組んだのは間違いなくキリトとシノンのことであろう。見方によってはシキとザザの挟撃、その後の不干渉も「組んだ」認識になるかもしれないが、利害の一致と協力は別と思いたい。
「まさか個人の意見が通ったん…?」
「その通り!日本サーバーだけでミニ大会として開催が決まったのが略称SJ!」
熱い口調でピトフーイは語るのを止めない。今の彼女を止められる人間など存在しないのではないかと思うほどである。
「それ持ちかけるって事はピトと私が組むってこと?」
最大6人までのチームが組めるとの詳細も聞き、素朴な疑問が浮かんだ。2人でも出れる事は出れるようだが人数の不利は覆すのは難しい。その証拠としてシキはキリトとシノンに負けている。
「残念ながら私は出られないんだ。その日は親友の結婚式でね。大会で死なずに優勝できたとしても〜?」
「首繋がってたらええね。そういや大会の日程っていつ?」
最大重要事項を確認し忘れていたことを思い出す。ピトに何かしらの用事があるように自分にも何かあるかも知れない。
「2月1日」
クラインとライブデートを取り付けた日であった。それこそ放り出してピトフーイの親友問題のようになってしまうかもしれない。
ともあれ余命が短い。ユウキのように記録として名前を残すのもいいかも知れないが現実を優先することにした。
「あー、ごめん。その日は私も命に関わる用事があってな。出られへんわ」
「えーどんな用事よ?」
口を尖らせて不満気にピトフーイは尋ねるだがそれも気にすることはなく一言で済ませられる。
何度も言うがGGOに限らずリアルの詮索は御法度だ。ピトフーイの結婚式の用事はシキが聞き出したのではなく本人が勝手に言っただけであり、シキが漏らさない限りはマナー違反にならないはずだ。もちろんシキ本人も言いふらすつもりもなく、すぐ忘れるだろう。
「間が悪いと思うて諦めてな?私も本当に外されへんし」
「…わかった。じゃあ今から砂漠行こう!シキちゃんの実力落ちてないか私も見たいし!」
「まぁ大会参加断ったから代替え案としてなら…良いかな…」
「よーし!行こうか!」
ピトフーイは早速といわんばかりにウインドウを広げる。装備が次々と出てきてすぐに支度を終えた。そこから何か用事もあるのだろうか?ウインドウを広げている時間は長かった。
ーーーーー
『実力テストだから1人でいけ』
ピトフーイと砂漠エリアに来たはいいものの名目上はシキの現能力の確認である。そのためインカムを装着して別行動を取っている。
「いや、それは良いけど相性ドギツいステージはやめてや。建築物樹木岩山何一つ無いぞ」
そう砂漠である。砂一面で立体物はなく、隆起が少々ある程度。BoBでシキが敗北要因となったステージでありシキの装備とも相性が悪い。
シキはいつもと変わらずGAU-22である。腰には噴射装置もあるがここでは使い勝手が悪すぎる。その上GGO内の時間は夕方であり太陽と砂の色が合わさり辺りはピンク色である。
『その相性を克服できているかのチェックよ。私ここから口出さないからね〜』
ブツリと通信が切れる。ピンクに覆われた視界はとにかく悪かった。
「マジで見えへん…」
プロテクターや重量ヘルメットの防具で更に狭まる。
だからこそ40メートルに張られたワイヤーの存在に気づかなかった。
「はっ?」
轟音
手榴弾の爆発がシキを襲う。重装備のお陰でダメージは少なかったが、爆風と衝撃で後ろに仰け反る。一瞬で待ち直せるといっても突発の戦闘の中では致命的になることもある。
顔を起こしたがピンクの砂煙で視界はほとんどゼロになる。だがその中でも砂を高速で蹴りながら走る音だけは聞き落とさなかった。
(何かいる!)
この戦略性、やり口は明らかにプレイヤー。それもこの砂漠をホームにしている人だろう。音はまばらに散っていきながらも確実に近づいてくる。
1秒後、P系の連射音が響き渡る。そして体に大量の衝撃が襲う。1発1発は大した威力ではないが、撃たれた弾の8割や9割も当たればダメージもバカにはならない。
「おっっ、、らぁぁぁ!」
GAU-22を引き抜き目的もなく乱射する。ピトフーイからはバレットラインも見られるから悪手だと聞いてはいるが、ただこのまま謎の存在に嬲られ続けられる理由だって待ち合わせていない。
再び近く音が聞こえる。砂煙は時間と互いの銃の圧で少しは晴れてはいる。
「マ、ジ、か」
2メートルの距離でようやく視認できた。それはデザートピンクの可愛らしい装備に身を包みP90を握りしめる背がとてつもなく低いプレイヤー。互いのアバターの身長差は恐らく25cm。ピンクのプレイヤーが低姿勢で走ればガトリングの弾なんて当たらない。
チビプレイヤーはP90をシキの膝を狙う。しかも狙われたのは装備の関節部分の小さな隙間。ここまでの至近距離ならサークルだのラインだの存在しないも同じようなもの。
「はぁっ!」
気合を乗せ突発的に膝を突き出す。顔面に入りのけぞったが不敵な顔をしながらチビプレイヤーは引き金を引いた。数発は隙間から入り込み直接的なダメージが通ってしまう。
だがそんなものはシキだってわかっている。ここからGAUを捨てようが拳に変えようが火力差で負ける。弾は当たらない速度も劣る。ならば
ザクリ
チビプレイヤーの首が宙に舞う。その顔は唖然としていて何が起こったかわかっていない顔だった。
しかしシキの判断が遅かったのか、乱射性能で負けたのかはわからなかったが
シキの体は膝から崩れ落ちた。
ーーーーーーーーーーー
「シキちゃんとレンちゃん戦わせてみたけど最高だったわ〜」
高台の上からピトフーイが戦闘を見終える。互いの弱点をつける2人が戦えば、また知り合い1と知り合い2の勝負が見たいだけに行われた。
「これなら楽しくなりそう…」
ピトフーイは高台から飛び降り姿をくらます。その顔はただ笑っていた。
UWのシナリオはできています。
あとはキャラ投票の結果次第のところもありますのでお願いします。
感想や評価は燃料です(乞食)
オリ主とより仲良く出来そうな方
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イスカーン
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シェータ