Fate / Assassin cried 作:JALBAS
葛木がキャスターのマスターだと疑い、その帰り道で罠を張る士郎達。
一方、アーチャーはこの待ち伏せメンバーから外されます。
ところが、これ幸いとばかりに、単独行動でアサシンに戦いを挑んでしまいます。
果たして、その結末は……
早朝、柳洞寺の山門から、葛木とキャスターが姿を現す。通勤する葛木を、キャスターが見送りに来ていた。
「宗一郎様、セイバーとアーチャーのマスターが、あなたの事を嗅ぎまわっています。しばらくは、ここに留まる方が安全かと?」
「心配無い。学校内では、おいそれと手は出せまい。まだ正体が割れていない内は、下手に休むのも業務に支障をきたす。」
「はい……分かりました。お気を付けて。」
いまひとつ納得のいかない表情で、キャスターは葛木を見送る。例によって、葛木の姿が完全に見えなくなるまで見送った後、境内に戻って行く。山門の前に立つアサシンには、一切目を呉れる事無く。
士郎達は、士郎の親友で柳洞寺の住職の息子でもある“柳洞一成”から、葛木が3年前から柳洞寺に住んでいる事、2週間前からその婚約者という女性も同居している事を聞き、葛木がキャスターのマスターだと疑い、葛木の帰り道で罠を張った。
日が暮れた後、士郎、凛、セイバーの3人は、市街地から少し離れた、潰れたガソリンスタンドに来ていた。
「ここから柳洞寺まで一本道だから、葛木は必ずここを通るわ。ここで罠を仕掛けて、迎え撃つ。おあつらえ向きの場所でしょ?簡易的ではあるけど結界を張ったから、外から見られるのはアウトだけど、防音だけは完璧よ。」
「凛、アーチャーはどうしたのですか?」
セイバーが問う。
「アーチャーは置いて来たわ……今は、アーチャーとキャスターを会わせたくないの。」
凛は、士郎との同盟関係について、アーチャーと揉めていた。“同盟を組むのならキャスターの方が有効”というアーチャーの考えを、抑え付けていた。
丁度その頃、アーチャーは柳洞寺に来ていた。
石段をゆっくりと登り、山門に近づいて行く。そのアーチャーの前に、アサシンが姿を現す。
「生憎、キャスターもそのマスターも留守だ……もっとも、居ても通すつもりは無いが……」
足を止め、アーチャーが答える。
「知っている。私のマスターが、キャスターのマスターを襲撃中だからな。」
「お前は、参加しなくても良いのか?」
「ああ……“来るな”とのマスターの命令だ。」
「では……何用だ?」
「私の標的は、あんただ。」
「……お前は、不必要な戦闘を好まない、平和主義者では無かったのか?」
「そうだ……だから、これは必要な戦闘という事だ。」
「……そうか……」
「あんたの記憶が戻ると、私の目的の妨げになるやもしれん。なら、記憶の戻らない今の内に片をつける……トレース・オン!」
アーチャーの両手に、白と黒の夫婦剣“干将・莫耶”が投影される。
「投影魔術……だと?」
「行くぞ!」
アーチャーが、アサシンに斬り掛かっていく。
潰れたガソリンスタンドに、葛木が近付いて来る。士郎と凛は建物の中に、セイバーは木の陰に隠れている。葛木がスタンドの手前に差し掛かったところで、凛がガンドを放つが、現れたキャスターによりそれは防がれてしまう。
「忠告した筈ですよ、総一郎様。このような事があるから、あなたは柳洞寺に留まるべきだと。」
「そうでも無い、実際に獲物が釣れた。」
これで、葛木がキャスターのマスターである言は確定した。凛は士郎に指示を出すが、士郎はそれを拒んで、キャスター達の前に出て行く。
「遠坂に衛宮か?間桐だけでは無く、お前達までマスターとはな……魔術師とはいえ、因果な人生だ。」
葛木が言う。その葛木に、士郎は質問を返す。
「葛木、あんた、キャスターに操られてるのか?」
「その質問の出所は何だ、衛宮?疑問には、理由がある筈だ。言ってみるがいい。」
「あんたは、魔術師じゃない。まともな人間だろう?なら、キャスターがやっている事を知らないんじゃないかって思ったんだ。」
「キャスターがやっている事だと?」
「そいつは柳洞寺に巣を張って、町中の人間から魔力を集めてる。ここ最近のガス漏れ事故や昏睡事件は、全部そいつの仕業だ。このまま放っておけば、いずれ死んじまう人間も出るだろう。」
「成程、確かに初耳だ……だが、それは悪い事なのか?衛宮?」
「何だって?!」
葛木の回答に、士郎は愕然とする。
「キャスターも、随分半端な事をしているな。一息に命を奪った方が、効率がいいだろうに。」
「あんたは、無関係な人間が巻き込まれてもいいって言うのか?」
「構わんな、他人が何人死のうと、私には関係無いことだ。私は魔術師では無いし、聖杯戦争とやらにも興味は無い、誰と誰が殺し合おうと構わん……私は、そこいらに居る朽ち果てた殺人鬼だよ。」
「そうか、では、ここで死しても構わぬのだな?キャスターのマスターよ!」
葛木の言葉に激昂したセイバーが飛び出し、葛木に向かって突進して行く。
しかし、葛木は肘と膝で、セイバーの剣を受け止めてしまった。
「何?」
「侮ったな?セイバー!」
そして、魔術で強化された拳で、セイバーを圧倒する。大きなダメージを喰らい、セイバーはスタンドの奥に弾き飛ばされてしまう。
「そんな……馬鹿な?」
驚く士郎と凛。
「マスターの役割を、後方支援と決め付けるのはいいがな、例外は常に存在する。私のように、前に出るしか能の無いマスターも居るという事だ。」
斬り掛かるアーチャーに対し、アサシンはナイフで剣撃を受ける。しかし、剣に対してナイフでは得物の大きさに差が有り、徐々に追い詰められていく。そうしている内に、ナイフは弾かれてしまう。
「貰った!」
アーチャーの剣が、アサシンを捕えるかと思われたが、アサシンの姿が消えて空振りに終わる。
「ぬっ……何処に行った?」
魔力を探るが、感知できない。そして、突如死角に出現して、銃撃を放つ。
「くっ!」
何とか剣で銃撃を受けるアーチャー。体勢を立て直し、再びアサシンに斬り掛かる。アサシンは、今度は攻撃を飛び避けて、投げナイフで攻撃する。これも、アーチャーは剣で弾き返す。
剣撃で決めきれないと判断すると、アーチャーは戦法を変える。
「トレース・オン!」
弓と剣を投影し、剣を矢に変えて放つ。
強力な光の矢が、アサシンに迫る。アサシンは飛び避けて交わすが、矢は軌道を変えてアサシンを追尾して来る。
「ちっ……」
狭い石段では、逃げ場も少なかった。脇の林の前に追い詰められたアサシンに、光の矢が迫る。
「time alter double accel!!」
アサシンの動きが加速し、寸でのところで矢を交わす。
「何っ?」
驚くアーチャー。背後の雑木林の一部が、光の矢によって派手に吹き飛ばされる。
“あれは……固有時制御か?……あんなものを常時使われたらやっかいだが、記憶が無いから、反射的に発動しているだけか?”
その後も攻防は続く。
終止アーチャーの方が優勢だったが、土壇場では固有時制御が発動するため、あと一歩のところで決められずにいた。
「ふん……これでは、埒が明かない……」
小競り合いを続けながら、アーチャーは呪文を唱え始める。
「I am the bone of my sword……」
そして、一旦アサシンから離れて距離を取り、最後に言う。
「……Unlimited Blade Works.」
突然、アーチャーとアサシンを包む景色が一変する。
見渡す限りの荒野、そこには無限の剣が、まるで墓標のように刺さっている。
「これは……固有結界か?」
「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣……剣撃の極地、その身に受けるがいい!」
倒れたセイバーにはキャスターが向い、葛木は凛達に迫る。
凛は葛木に向かってガンドを放つが、素早い動きで全て交わされ、腹部に強烈な一撃を喰らい後方の手摺に叩きつけられてしまう。
「遠坂あああああっ!」
士郎は、強化木刀で葛木に飛び掛かるが、いとも簡単にそれは砕かれ、葛木の正拳を何発も喰らってしまう。倒れそうになるが、項垂れる凛が視界に入って、何とか踏み止まる。
“殺される、こいつを止められなければ、遠坂が死ぬ!……武器、強い武器が欲しい!そうだ、あいつが持っていたような!”
「トレース・オン!」
士郎の両手に、アーチャーが持っていた白と黒の夫婦剣が投影される。
「はあああっ!」
士郎はその剣で、葛木の正拳を弾く。
「?!……うそ?」
それを見た、凛が驚く。
「マスター!」
そこに、キャスターの叫び声が響く。復活したセイバーが、葛木に切り掛かる。だが、間一髪、キャスターが葛木を抱えて飛び避ける。
「せ……セイバー……うっ!」
士郎は、そこで力尽きて跪く。
上空から、攻撃をしようとするキャスターを、葛木が制止する。
「待て……ここまでだ、引くぞキャスター。」
「は……はい、マスター。」
葛木の助言を聞き入れ、キャスター達はそのまま姿を消した。
セイバーは、心配して士郎に寄り添ってくる。そこで、士郎の投影した剣は消失する。
そんな士郎に、凛が問い質す。
「衛宮くん、それは何?あなたの魔術って、強化だけじゃ無かったの?」
「あ……いや、そうだけど、始めに出来た魔術が投影で……」
「それ、頭に来るくらい聞いてない!」
固有結界の中では、既に勝負はついていた。
アーチャーは弓を引いて、あとは矢を放つだけの体勢で佇んでいる。その矢の先に、酷く傷付いたアサシンが蹲っている。フードも口を覆う布も粉々に引き千切られ、その素顔が晒されている。
しかし、アーチャーは矢を放たなかった……いや、放てなかった。同じ体勢のまま、体は小刻みに震えていた。眉間にシワを寄せながら、唇を噛みしめている。
「……どうした?……何故、止めを刺さない?」
アサシンには、もうその矢を交わすだけの力は残っていなかった。ただ、右手の指を離すだけで決着がつくのに、アーチャーにはそれが出来なかった。
「ひとつ聞きたい……あんた、本気じゃ無かったんじゃないのか?」
「……何故?そう思う……」
事実、途中からアサシンは、無意識の内に本気を出せなくなっていた。但し、本人にその自覚は無かった。
しばらくの間硬直した後、アーチャーは弓を収めてしまう。
「……止めだ……」
アーチャーは、固有結界も解く。二人は、再び柳洞寺の石段に姿を現す。
「……何故だ?私が……邪魔なのでは無かったのか?」
「ふん……気が変わった。まだ、あんたには、利用価値があるかもしれないからな……」
そう言い残して、アーチャーは去って行った。
しばらくして、キャスターと葛木が柳洞寺に戻って来た。葛木はそのまま境内に入って行ったが、キャスターは、山門の脇に蹲っているアサシンのところに寄って来る。
「随分と手酷くやられたようね……相手は誰?アーチャーかしら?」
アサシンは、何も答えない。
「でも、ここを通った形跡は無い……門番の責務は果たしたようね?それとも、情けを掛けられたのかしら?」
アサシンは、やはり答えない。
「ふん、役に立たない男……」
そう言い捨てて、キャスターは境内に入って行ってしまった。
アサシンを討てなかったアーチャー。
過去の自分は殺せても、やはり特別な他人を、簡単に殺す事はできませんでした。
一方のアサシンも、本能的にアーチャーの正体に気付き、本気で戦う事ができませんでした。
キャスターは、どうにもアサシンが気に入らない模様。
そんなキャスターが、次に狙うのは……