Fate / Assassin cried   作:JALBAS

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アサシンに代わる手駒を、手に入れたいキャスター。
いろいろと暗躍を進めます。
事態がキャスター有利に展開して行く中、アサシンは……




《 第五話 》

その日柳洞寺には、衛宮士郎の家の近所に住み、彼の姉替わりでもある“藤村大河”が墓参りに来ていた。

山門には、霊体化したアサシンが門番をしている。大河はアサシンに気付く筈も無く、その前を通り過ぎて境内に入って行く。

アサシンは、しばらくの間じっと大河を見詰めていた。そして、持ち場を離れ、大河の後に付いて行ってしまう。

 

境内の裏の墓地の墓の前で、大河は礼拝をしている。その背後には、何故か付いて来てしまったアサシンが、霊体のまま佇んでいた。

礼拝を終え、大河は境内の方へ戻って行く。しかし、アサシンは動かず、大河が拝んでいた墓をじっと見続けていた。

“何故だ?……どうして、私はこの墓が気になるのだ?”

大河は境内に戻る参道に差し掛かるが、その前に、ひとりの女性が現れる。

「あら?あなたは?」

紫の、魔術師の服装のままのキャスターは、大河に向かってにっこりと微笑んだ。

「え?」

突然、酷く酔いが回ったように、大河の視界が回り出す。

「な……どうなって……」

そのまま意識を失い、大河はキャスターの胸に倒れ込んでしまう。

「ふふふふふ……」

キャスターは、マントを広げて大河を包み込む。すると、手品のように、大河の姿は何処かに消えてしまう。

キャスターはそのまま立ち去ろうとするが、墓地に佇むアサシンに気付く。

「あ……あの男……」

ずしずしという感じで、墓地まで歩いて行くキャスター。墓を見詰めて微動だにしない、アサシンに向かって叫ぶ。

「アサシン!こんな所で何を油売ってるの?早く持ち場に戻りなさい!」

キャスターの叱咤で我に返り、アサシンは無言で山門に戻って行く。そのアサシンを、キャスターは不満げに睨み付けていた。

“本当に、気に入らない男……でもどうして、こんなにも嫌悪感を感じるのかしら?”

 

 

どうしても、アサシンに代わる手駒を手に入れたいキャスターは、士郎達を罠に嵌めた。

士郎、凛、セイバーの3人が新都に出掛けたのを見計らい、冬木大橋に罠を仕掛けた。3人をまんまと結界の中に閉じ込め、大河を人質に、士郎にセイバー共々自分の軍門に降る事を要求する。

しかし、士郎は非道なキャスターと組む事だけは断固として拒んだ。その代わりに、大河と引き換えに、令呪ごと自分の左手を差し出そうとして来る。

それに反してセイバーが斬り掛かって来るが、大河が巻き込まれる事を恐れた士郎は、最後の令呪でセイバーを制止してしまう。キャスターはその隙を見逃さず、彼女の宝具“ルールブレイカー”をセイバーの胸に突き刺す。これにより、セイバーとの契約を士郎から奪い取り、自らの左手の甲に新たな3つの令呪を得るのだった。

キャスターは大河を士郎に返し、もうマスターでも無くなった士郎も見逃そうとするが、未だマスターの凛だけは別だった。早速セイバーに、令呪で凛の始末を命じる。だが、士郎が身を挺して凛を庇い、凛の身代わりでセイバーに右肩を貫かれる結果となる。

キャスターは続けて凛を討つ事を命じるが、今度はセイバーが必死に抵抗し、

“逃げて!”

と士郎に叫び、自らの攻撃まで逸らしてしまう。キャスターは、令呪にさえ抗うセイバーの耐魔力に驚嘆する。

そこに、結界を破ってアーチャーが救援に駆け付け、凛達には逃げられてしまうが、セイバーを配下に敷く事には成功するのだった。

 

 

その夜、柳洞寺の山門で、ひとり佇むアサシンの前に、キャスターが姿を現す。

「何か異常は無かった?アサシン?」

「……おかしな鳥を、見掛けたくらいだ……」

そう言って、アサシンは自分の足元を指差す。そこには、鳥の姿をした使い魔の残骸が転がっていた。

「監視役の使い魔ね……アインツベルンの小娘が、もう少し無能なら、教え子にしてあげても良かったのに……」

“アインツベルン?”

その名前に、聞き覚えがあるように感じるアサシン。

そんなアサシンに、キャスターは笑みを浮かべながら語り出す。

「今迄、ご苦労だったわねアサシン。でも、もうここを護ってもらう必要も無くなったわ。」

そうして、キャスターはアサシンの令呪の付いた、右手を前に翳す。

「あなたはもう用済よ、自害なさい!」

残った全ての令呪を使い、キャスターはアサシンに命令を下す。アサシンの体は勝手に動き出し、自らのナイフで、自らの胸を突く。

「ぐはあああああっ!」

口から大量の血を吐き、アサシンはその場に蹲る。

その時、アサシンの脳裏に記憶の波が押し寄せる。今この瞬間、失っていた全ての記憶が蘇る。

「そ……そうか……僕は……」

最後にそこまで言って、アサシンは崩れ落ち、姿を消していく。

「結局、何者だったのかしら?この男……でも、もういいわ……」

冷たく言い放ち、キャスターはその場を後にする。

 

続いて、キャスターは言峰教会に向かった。

言峰綺礼に、聖杯の器のありかを問い掛けるが、それに対して綺礼は言う。

「サーバントが最後のひとりになるまで、聖杯は現れない。」

「それは大きい方でしょう?小さい方は、ここに隠してあるんじゃないの?」

しかし、頑なに答えない綺礼に、キャスターは見切りを付ける。自分で探すから良いと、ゴーレムで綺礼に襲い掛かる。八極拳で対抗し、中庭に逃げる綺礼。しかし、圧倒的物量差に仕留められてしまう。ただ、キャスター自身は、その最後を見取ってはいなかった。

 

教会を乗っ取ったキャスターは、教会内を捜索するも、小聖杯は発見できなかった。見つけるまでは、ここに陣取る事を決めたキャスターに、葛木も同意し拠点を言峰教会に移す。

そして、セイバーを完全に自分の傀儡とするために、令呪による苦痛と恥辱を与えていた。

セイバーは、教会の地下の祭壇のところに、キャスターの趣味で純白のドレスに着せ替えられ、両手を糸で縛られ繋がれていた。

セイバーは、令呪による支配に必死に抵抗していたが、それは自身に厳しい苦痛を与える事になっていた。

 

 

キャスターが、拠点を言峰教会に変えた事を知った凛は、キャスターがセイバーを完全に支配する前に倒すべきと、アーチャーと共にキャスター討伐に向かう。

それに付いて来ようとする士郎には、

“あなたは、もうマスターじゃないのよ!”

と言って突き放す。

その一方でアーチャーには、士郎が自分から降りると言わない限りは、士郎との同盟関係は破棄しない事を告げていた。

 

言峰教会に着き、乗り込む直前に、凛はアーチャーに言う。

「キャスターは、必ずここで倒す。そうすれば、セイバーだって元に戻って、士郎と契約し直せるでしょう。」

この言葉に、アーチャーの表情が変わる。しかし凛は、それに気付いていなかった。

 

士郎は、止められたにも関わらず凛達を追って来ていた。

遅れて教会内に忍び込んだ士郎は、教会の地下で、囚われのセイバーとキャスター達と対峙している凛達を見つける。

凛は、宝石魔法でキャスターに攻撃を仕掛ける。葛木が介入しようとして来るが、それをアーチャーに託す。だが、間に割って入ったアーチャーが跳ね飛ばしたのは、凛の方だった。階段の下まで突き飛ばされ、戸惑う凛。

「な……何するの?アーチャー?」

「さてキャスター、ひとつ尋ねるが、お前の許容量にまだ空きはあるか?以前の話、受ける事にするよ。」

土壇場で、アーチャーはキャスターに寝返ってしまう。

キャスターはこれに応じ、ルールブレイカーをアーチャーの胸に指す。これによって、凛の令呪と契約も、キャスターに奪われてしまう。

呆然とする凛に、葛木が迫る。そこに、士郎が飛び込んで来る。凛を庇って葛木に挑み、一度は強化した棒を砕かれてしまうが、再び白と黒の夫婦剣を投影して葛木の拳を弾く。だが、そこまでが限界で、セイバーに受けた傷の痛みで蹲ってしまう。そんな二人を、キャスターのゴーレムが取り囲む。

「待てキャスター、お前の軍門に降るには、ひとつだけ条件を付けたい……」

アーチャーは、この場では士郎達を見逃せと要求する。もう士郎達に何の脅威も感じないキャスターは、この条件を呑む。

この場は、大人しく引き下がろうとする凛に、アーチャーは言う。

「恨むのなら筋違いだぞ、凛。マスターとして、この女が優れていただけの話だ。私は強い方を取る。」

「そうね……けど、後悔するわよ。私は絶対に降りない。いい、キャスターを倒して、あんたを取り戻す。その時になって、謝っても許さないんだから……」

凛は唇を噛み締め、その場を後にした。

 

教会を出て、凛は士郎に、傷も癒えていないのに何故あんな無茶をしたのか問う。

“凛が好きだから”

と臆面も無く答える士郎に、照れながらも勇気付けられる凛。

更に士郎は、遠坂家で見つけて勝手に持って来てしまったと、凛がアーチャーから返されたペンダントを渡す。同じ物を以前拾い、衛宮家で持っていると言う士郎の言葉に、凛は衝撃を受けるのだった。

 

 

 

その後アーチャーは、キャスターに教会の周りの警護を命じられていた。

ひと通り見回った後、アーチャーは一旦教会に戻って来る。そこで、中庭に佇む葛木を見つけ、近寄って行く。

「何か用か?」

「いや何、今迄、あんたを知る機会は無かったと思ってね?」

葛木の横に、並んで立つアーチャー。葛木は最初は無言だったが、少しして、アーチャーに自分の事を語り始める。

「私は、自分を育てなかった人間だ。自分の欲というやつが薄い。そんな私が、うまく言えないが、あの女の願いを叶えてやりたいと思った。これは、人間らしい欲望だと思うのだが……」

アーチャーは、その考え方が誰かに似ていると思ってしまうが、何も言わなかった。そうして、持ち場に戻ろうとして歩き出し、ふと立ち止まる。

「ひとつ聞き忘れていた。あんたが思う、正しさとは何だ?」

「そうだな、例え自分の選択が間違いであったとしても、後悔はしない事だろう……」

その言葉は、アーチャーの胸を深く抉った。顔を顰めながら、アーチャーはその場を後にする。

 

葛木と別れた後、アーチャーは教会の外の見回りに戻る。

そして、何かに引き寄せられるように、裏手の雑木林の中まで歩いて行く。その先には、ひとりの男が立っていた。黒と灰色の軽装の鎧に身を包み、赤いフードで顔を隠しているサーヴァントが……

「驚いた……キャスターは、あんたを消去したと言っていた。令呪で自害させられたそうだが、消滅していなかったのか?」

「僕は、正規のサーヴァントじゃ無い……だから、令呪の縛りも不完全だ。令呪で、完全に支配される事は無い……」

「ん?……その自称……記憶が戻ったのか?」

「ああ……」

「そうか……それで、私に何か用か?」

すると、アサシンはフードを取り、素顔をアーチャーに見せて頭を垂れる。

「……すまない……」

「何?」

「お前がそうなったのは……僕のせいだ……」

しばしの間、2人は無言で見詰め合う。そして、アーチャーが先に口を開く。

「ふっ……よしてくれ。別に、私がこうなったのはあんたのせいじゃ無い。例え、そのきっかけを与えたのがあんただったしても……」

「どうしても、士郎を殺すのか?」

「ああ……邪魔をするのなら、あんたでも容赦はしない。次は、確実に殺す。」

今度は、しばし無言で2人は睨み合う。そして、アサシンが先に口を開いた。

「分かった、お前の邪魔はしない。これは、お前達の問題だ。僕が口を挟む事じゃ無い……但し、ひとつ提案がある。」

「提案?」

キャスターの目の届かない所で、しばらくの間、2人は密談を交わすのだった……

 





セイバーのみならず、アーチャーまで奪い取る事に成功したキャスター。
もう用済みという事で、アサシンを破棄してしまいます。
しかし、アサシンは消滅してはいませんでした。
失っていた記憶を取り戻し、ここからが本番です。

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