Fate / Assassin cried 作:JALBAS
いよいよキャスターとの最終決戦。
原作では、キャスター達を騙し討ちするのはアーチャーですが、この話では……
その後は、原作通り士郎を狙うアーチャー。
教会でそんな騒動が起こっている頃、衛宮家では……
イリヤの回復力は予想以上に高く、目の傷は一晩でほぼ完治していた。
しかし、バーサーカーを失ったショックは大きく、イリヤは、衛宮家に来ても臥せって寝込んだままだった。
ただ、士郎達にはイリヤに気遣っている余裕は無かった。イリヤは奥の間にそのまま残し、出陣の準備をしてアサシンを待つ。
そして、門の前で待つ士郎達の前に、アサシンが現れる。
「準備はいいか?」
「ああ。」
3人は、一路言峰教会を目指す。
言峰教会に辿り着いた士郎と凛を、アーチャーが出迎える。アサシンは、姿を消している。
「遅かったな凛。それで、どんな手を打った?君ともあろう者が、無策という事はあるまい?」
アーチャーがそう言うと、士郎と凛の前に、アサシンが姿を現す。
「驚いたな……私を失って、直ぐに他のサーヴァントと契約したのか?いや、君の移り気も中々のものだ。」
「あんたと一緒にしないで!契約なんてしてないわよ!そもそも、このサーヴァントを引き込んだのは士郎よ!」
アーチャーの皮肉に、凛が即行で返す。
アサシンは、士郎達の数歩前に出る。
「ここは任せろ……お前達は、先へ行け。」
「あ……ああ、分かった。頼んだぞ、アサシン!」
そう言って、士郎達は教会へ走って行く。アーチャーはそれには目をくれず、アサシンと対峙する。
「では、始めようか?」
「そうだな……」
アサシンとアーチャーの3度目の対決が始まる。
教会の地下、アーチャーと教会の周囲を監視していたキャスターが驚く。
「な……何故?アサシンが……確かに、令呪で自害させたのに……」
「何か問題が生じたのか?キャスター。」
うろたえているキャスターに、葛木が問い掛ける。
「い……いえ……ご心配には及びません。マスター……」
葛木にそう答え、自分にも言い聞かせるキャスター。
“そうよ……いかにアサシンが生きていたとはいえ、あの男は、一度アーチャーに敗れている。アーチャーが足止めしている限り、ここには来られない。私達の相手は、あの小娘と未熟な坊やだけよ……”
教会の中、地下室に降りる階段の前で、士郎と凛は、戦略の再確認をする。
「本当に、キャスターを任せていいんだな?遠坂。」
「ええ……とことんまで追い詰められるだろうけど、それでも手は出さないで。士郎は、葛木先生をできるだけ引き離してくれればいい。」
「分かった。」
地下に降りた2人を、キャスターと葛木が出迎える。
「せっかく助けてあげた命なのに、わざわざ捨てにやって来たのかしら?お嬢さん?」
「捨てに来たんじゃ無くて、取り返しに来たのよ。とことん気に食わない、あなたを倒してね!」
言葉で牽制し合う、キャスターと凛。キャスターの後ろでは、祭壇に囚われたセイバーが、気を失って倒れている。
そして、両陣営戦闘態勢に入る。
キャスターは、攻撃用の魔法陣を自分の周りに展開し、宙に浮かぶ。凛は、魔力を込めた宝石を握り締める。士郎は、白と黒の夫婦剣を投影する。葛木は、静かに士郎に正対する。
教会の外では、アサシンとアーチャーの戦闘が開始されていた。
投げナイフを放つアサシン。アーチャーは白と黒の夫婦剣でこれを弾き、接近して斬り掛かる。アサシンは姿を消し、死角から銃撃する。アーチャーは、これも剣で弾く。
再び、斬り掛かるアーチャー。アサシンは、今度は二刀のナイフで受ける。だが、徐々に圧されていき、また姿を消し、死角から銃撃する。何度も銃撃を浴びせる事でアーチャーの剣を砕くが、アーチャーはまた新しい剣を投影する。
その内にアーチャーは戦法を切り替え、追尾する矢をアサシンに放つ。アサシンは逃げ回ってできるだけ引付け、土壇場で固有時制御を発動してこれを交わす。
既に、柳洞寺の石段で散々行った攻防である。以前の戦いを見た者であれば、明らかに戦っている振りと見抜けるだろうが、以前の戦いを見ていないキャスターには、それは見抜けなかった。
しばらくして、アーチャーは攻撃を止める。
「思ったより、キャスターを苦しめているようだ……監視の目がやんだ。」
それを聞いて、アサシンもナイフを収める。
「では、手筈通りに……」
「ああ、分かっている。」
キャスターは、魔方陣から凛に攻撃を浴びせる。凛は、宝石魔術で防御壁を張って、これを防ぐ。しばらくは、その繰り返しであった。
士郎は、夫婦剣で葛木の正拳を弾き続ける。何度か剣を砕かれるが、その度に再投影して挑む。しかし、それにも限界があり、徐々に追い詰められて行く。そして、とうとうその身に連打を喰らい、壁に叩きつけられてしまう。
ここで、凛は攻撃に転じた。今出来る最大の魔術で、一気にキャスターを攻撃する。
だが、その攻撃は難無くキャスターに防がれてしまう。衝撃を受ける凛に対して、キャスターは勝利を確信し、魔方陣を消して床に降りて来る。ところが、これが凛の作戦だった。
凛は、予め落としていた宝石を発光させ、キャスターの目を眩ませる。
その隙に一気に間合いを詰め、魔力で強化した手足で、護身術の突きをキャスターに喰らわせる。
「はうっ!」
胸に強烈な一撃を喰らい、吐血するキャスター。
「あ……あなた……魔術師のくせに……殴り合い……なんて……」
「お生憎様!今時の魔術師ってのは、護身術も必須科目よっ!」
今度は、足技でキャスターのバランスを崩す。そこに、更にもう2撃加えて、キャスターを砕けた柱まで吹き飛ばす。
「あああっ!」
項垂れるキャスター。だが、もう一息というところで……
「そこまでだ。」
いつの間にか、葛木が、凛の真後ろまで間合いを詰めていた。
「きゃあああっ!」
凛は、葛木の正拳で弾き飛ばされてしまう。
「遠坂っ!……ううっ!」
何とか立ち上がり、駆け寄ろうとする士郎だが、まだ葛木に受けたダメージが残っており、数歩進んでまた倒れてしまう。
「勝機を逃したな……4度打ち込んで決められなかった、お前の未熟だ。」
葛木は、静かに言い放つ。
「か……感謝します、マスター……あなたが居なければ、あのまま倒されていました。」
ようやくキャスターは起き上がり、葛木に歩み寄る。
そして、凛に止めをさそうと、魔力を高め、自分の前に巨大な魔方陣を作り出す。
「本当に……あなたは良くやったわ、でも、それもここまで……」
万策尽きて、凛は目を閉じ、悔しさに唇を噛み締める。
「さようなら、お嬢さん。」
キャスターが、魔方陣から攻撃を放とうとしたその時……
「起源弾!!」
突如、背後に出現したアサシンがキャスターを撃ちぬいた。
「うぐっ!」
蹲って、顔だけを後ろに向けるキャスター。
「な……何を……うっ……あああああああああっ!」
突然苦しみ出し、悲鳴を上がるキャスター。体から魔力が放出していき、魔術回路が崩壊していく。
「な……何故、生きているの?……あなた……」
苦しそうに、アサシンに問うキャスター
「僕は不完全なサーヴァントだ……故に、完全な契約もできない……令呪では、僕は殺せない。」
「ふん……それで……私に……仕返しに来たという訳?」
「まさか……僕は、そんな感情では動かない……サーヴァントとして呼び出された、責務を果たしただけだ。僕は、“魔術師殺し”なんでね。」
「ふっ……あなたに感じた嫌悪感は……そういう事だったのね……正に……私の天敵……」
前を向き、葛木の方を見詰めるキャスター。葛木は、こんな状況にも関わらず、全く動じていない。
「そ……そういちろう……さま……」
よろけながら、葛木のところまで歩いて行くキャスター。
「も……もうしわけ……ありません……わたしは……もう……」
葛木に、もたれ掛るキャスター。
「心配するな。お前の願いは、私が叶える。」
葛木は、静かに言い放つ。
「そ……それは……むりでしょう……だって……わたしのねがいは……さっきまで……かなっていたの……ですから……」
そこまで言って、キャスターは消滅してしまった。
葛木は、アサシンに近付いて行く。既にキャスターが消滅したため、拳の強化も解けている。それでも、歩みを止めない。
「や……やめろ葛木、もう、戦う理由は無い筈だ!」
士郎が叫ぶ。
「理由はある。私が、一度やると決めた事だ。途中で止める訳にはいかない。」
「……そうか……」
葛木の言葉に、アサシンは静かに返し、ナイフを構える。
そこで、葛木は駆け出し、一気に間合いを詰めて拳を繰り出す。しかし、アサシンは難無くこれを交わし、すれ違いざまに葛木の喉元を切り裂いた。葛木は、そのまま崩れ落ちた。
「終わったか?」
階段の上に、アーチャーが姿を現す。
「ああ……済んだ……」
アサシンが答える。
そのやりとりを見ていた、凛が言う。
「あんた達、まさか手を組んでたの?……もしかしてって、思ってたけど……」
そんな凛に、アーチャーは答える。
「言ったろう凛、私は、強い方をとると……」
「これで、私の役目は終わった。」
アサシンは、ゆっくりとアーチャーに近付いて行く。階段を登り、すれ違いざまに二人は小声で会話を交わす。
「この後は、私の好きにさせてもらう。」
「分かっている……僕は、一切手出ししない……だが、ひとつ聞いておきたい。お前が士郎を殺すのは、お前のためか?」
「何?……どういう意味だ?」
「いや……お前が、自分のために動くとは思えなかったんでね。」
「では、誰のためだと言いたいんだ?」
しかし、アサシンはその問いには答えず、そのまま地下室を出て行ってしまった。
「セイバーっ!」
ようやく起き上がった士郎が、令呪の縛りから解放されたセイバーに駆け寄って行く。
その後ろで、アーチャーが呟いた。
「トレース・オン。」
「し……しろう……」
士郎に抱き起されたセイバーの目に、士郎に迫る無数の剣が映った。
「あぶない!」
セイバーは、飛び付いて士郎をその場から遠ざける。直後、先程まで士郎が居た場所に、幾つもの剣が突き刺さる。
「ちっ、外したか……」
士郎を狙ったのは、アーチャーだった。そして、攻撃の前の言葉を、士郎は確かに聞いた。
“トレース・オン……確かに奴は口にした。寸分違わず、俺と同じ言葉を……“
凛は、アーチャーを叱り付ける。
「アーチャー、何のつもり?芝居はこれで終わりでしょ?キャスターは倒したんだから、もう勝手な真似は許さないわよ!」
「許さない?何故、俺が許されなければならない?俺のマスターでも無いお前に……」
「え?」
突然、無数の剣が、サークル状に凛を囲むように刺さる。凛は、剣の檻に閉じ込められてしまう。
「お前との契約は切れている。」
「ま……まさか……そのために、キャスターに契約を書き換えさせたの?」
「そうだ……自らの手で衛宮士郎を殺す……それだけが、守護者と成り果てた俺の、唯一の願望だ!」
セイバーは、残り少ない魔力で立ち上がり、剣を構えて士郎を護ろうとする。
「アーチャー……あなたは、まさか?」
「いつか言っていたな、セイバー。俺には、英雄としての誇りが無いのかと……当然だよ。俺に残ったものは、馬鹿げた後悔だけだった……俺はねセイバー、英雄になど成らなければ良かったんだ。」
何かに気付き、はっとするセイバー。
「退いているがいい、騎士王。マスターが居ない身で無茶をすれば、直ぐに消えるぞ。もう、衛宮士郎はお前のマスターでは無い。」
「私は彼を護り、剣となると誓った。契約が無かろうと、この制約に変わりはありません!」
「そうか……ならば!」
アーチャーは白と黒の夫婦剣を投影し、セイバーに斬り掛かる。セイバーは懸命に受けようとするが、魔力が無く、鎧を纏う事もできず、力負けして吹き飛ばされてしまう。
蹲って項垂れるセイバーに、アーチャーは切っ先を突き付けて言う。
「では、偽りの主共々、ここで消えろ……」
「うおおおおおおおおっ!」
そこに、アーチャーと同じ剣を投影した、士郎が斬り掛かって来る。アーチャーは、難無くその剣を受けて言う。
「ほう?あとしばらくは竦んでいるものと思ったが……」
「うるさい!相手を間違えるな!」
アーチャーは、そんな士郎を一蹴りで吹き飛ばしてしまう。
「うわっ!」
「人真似も、そこまで行けば本物だ。だが、お前の体は、その魔術行使に耐えられるかな?」
「う……うううっ!」
激しい頭痛に、士郎は苦しみ出す。
「分不相応の魔術は身を滅ぼす。それともまさか本気で、自分が大成するとでも思っていたのか?」
「うるさいっ!」
苦しみながらも立ち上がり、アーチャーに挑む士郎。しかし、結局は剣を砕かれ、その場に両手を付いて項垂れてしまう。
「それが、衛宮士郎の限界だ。無理を積み重ねて来たお前には、相応しい幕切れだろう。」
アーチャーは、項垂れる士郎の前で、大きく剣を振り上げる
「告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うなら……」
突然、凛がセイバーに向かって右手を伸ばし、契約の呪文を唱える。
アーチャーは、それに気付き阻止しようとするが……
「てやあっ!」
士郎が回り込み、アーチャーに斬り付けて食い止める。
「ちいっ!」
「……我に従え!ならばこの命運、汝の剣に預けよう!」
りんの右手の甲に、新たな3つの令呪が刻まれる。セイバーは立ち上がり、凛に向かってその手を伸ばす。
「セイバーの名に懸け誓いを受ける。あなたを我が主と認めよう、凛!」
セイバーと凛が、眩い光に包まれる。直後、凛を閉じ込めた剣の檻が砕かれ、銀の鎧の身を包んだセイバーと、凛の姿がそこに現れる。セイバーは魔力を取り戻し、体からは青いオーラを放っている。だが、アーチャーは動じる事無く、静かに問い掛ける。
「どうする、セイバー?凛と契約した以上、お前は本当に衛宮士郎とは無関係になった訳だが?」
「言った筈です、アーチャー。士郎との誓いは無くならないと。」
セイバーは、剣を構える。
「あなたこそどうするのです?今の私を相手にして、勝機があるとは思わないでしょう?」
「ふん、高々魔力が戻った程度で、よくもそこまで強気になる。」
アーチャーは、一気に間合いを詰めて斬り掛かる。セイバーは悉くそれを交わし、一撃でアーチャーの剣を砕く。更に次の一撃で、アーチャーにダメージを与えたばかりか、床まで大きく抉ってしまう。
「ここまでです、アーチャー。先程の言葉を返します。マスターを失い、魔力の供給もままならない、今のあなたに何ができる?」
「ふん……アーチャーのサーヴァントには、単独行動の技能が与えられていてな、マスターを失ったとしても、2日は存命できよう。それだけあれば、あの小僧を仕留めるのには充分だ。」
「馬鹿な!まだそんな事を言うのですか?……アーチャー、あなたの望みは間違っている。」
「ふん、間違っているか……それはこちらの台詞だ、セイバー。お前こそ、何時まで間違った望みを抱いている?何も残せなかったのでは無い、全てをやりきった上での終わりだと考えられないのか?」
「そ……それを知っている……やはり、あなたは?」
アーチャーは、剣を床に落とし消滅させる。
「俺はアーチャーだ。元より、剣で戦う者じゃ無い。まあもっとも、その弓すら、借り物の贋作だがな……」
アーチャーの体から、白いオーラが立ち昇り始める。
「真髄を見せよう……それが俺に出来る、お前への最大の返礼だ……I am the bone of my sword.」
「や…止めろ、アーチャー……私は、あなたとは……」
「Unkown to Death. Nor known to Life.」
魔力の渦が、アーチャーを包み込む。
「セイバー、いつかお前を解き放つ者が現れる。だが、今の俺の目的は、衛宮士郎を殺す事だけだ。それを阻むのなら、この世界はお前が相手でも容赦はせぬ……」
そしてアーチャーは左手を前に翳し、最後の呪文を唱える。
「Unlimited Blade Works.」
突如、周りの景色が一変する。見渡す限りの荒野、そこには無限の剣が、まるで墓標のように刺さっている。
「固有結界?心象世界を具現化して、現実を侵食する大禁呪……つまり、あんたは剣士でも無ければ弓兵でも無くて……」
「そう……生前、英霊となる前は、魔術師だったという事だ。」
凛の問い掛けに、回答するアーチャー。
「俺が持ち得るのは、この世界だけだ。宝具が英霊のシンボルだと言うのなら、この固有結界こそが俺の宝具。武器であるのならば、オリジナルを見るだけで複製し貯蔵する。それが俺の、英霊としての能力だ。」
「これが……こんな荒野が、あなたの行き着いた先だと言うのですか?」
「ふん……言ってくれるな?試すか、セイバー?お前の聖剣、確実に複製して見せよう。こちらも自滅を前提にした投影だが、相打ち程度には持っていけるだろう……だが、聖剣同士が衝突した時、果たして周りの人間は生きていられるものかな?」
「あいつ……」
士郎は、アーチャーを睨み付ける。
アーチャーは、頭上に複数の剣を投影する。
「交わすものいいが、その場合、背後の男は諦めろ。」
アーチャーは、頭上の剣を放つ。身構えるセイバー。その時、士郎がセイバーの横を駆け抜け、アーチャーに向かって行く。
“今迄、散々真似して来たその道理。法則に間違いが無いのなら……”、
「トレース・オン!」
士郎は、飛んで来る剣を次々と投影し、悉く相殺していく。
“早く……上手く……より強く……俺には、あの構造が見えている……”
「ふざけてんじゃ……ねえええええええっ!」
全ての剣を、相殺する士郎。
「し……士郎?!」
「手を出すなセイバー!こいつとは、俺がやる。俺がやらなきゃならないんだ!」
「待って士郎、まだ今のあなたじゃ……」
止めようとする凛に、士郎は言う。
「遠坂、それにセイバーも、もうこいつの正体は分かっているんだろう?」
「ええ、サーヴァントはあらゆる時代から呼び出される。現在と過去、そして、まだ見ぬ未来からも英霊と成る者なら呼び出せる。かつて自分が生きていた時代、生きていた街に呼び出されるサーヴァントが居ないとは限らない……」
「その機会だけを待ち続けた……ただ、その時だけを希望にして……ようやく、俺の望みが叶うのだ。」
凛の言葉に応じ、アーチャーは、士郎を睨み付けて言葉を返す。
「アーチャー、衛宮士郎という人間の理想、英雄としての姿があなたの筈だ。その理想が、何故自分を否定するのです?」
セイバーが、再び問い掛ける。
「俺はお前のように、自らの光で英雄になった者じゃない。死後の自分を売り渡す事で英霊になった、守護者に過ぎないからな。」
「守護者とは死後、抑止力となって人間を守る者と聞きます。なら、経緯は違えど、同じ英霊ではないですか?」
「それが間違いだセイバー。守護者は、人など救わない。守護者というものが、自動的な装置である事は知っていた。死後、己が存在を守護者に預けた者は、輪廻の枠から外れ、人類史を護る道具になるのだと。それでも誰かを、窮地にある誰かを救えるのなら、それでいいと思った。だが、実際は違った。既に起きてしまった事、作られてしまった人間の業を、その力で無にするだけ。霊長の世に害を与えるであろう人々を、善悪の区別無く処理する殺戮者……そんな者は、唯の掃除屋に過ぎない。」
誰も、言葉を返せない。アーチャーは、更に続ける。
「確かに俺は、理想通りの“正義の味方”とやらになったが、その果てで得たものは、後悔だけだった。守護者となった俺は、抑止力として、世界のバランスを崩す者と戦った。命じられるがままに、数えきれない程の人間を殺し、殺した人間の数千倍の人々を救ったよ。それが、終わる事など無かった。そこでようやく、自分が抱いていたものが都合のいい理想論であった事を悟った。
誰も死なせないようにと願ったまま、大勢のためにはひとりには死んでもらった。誰も悲しませないようにと口にして、その陰で、何人かの人間には絶望を抱かせた。それがこの俺、“英霊エミヤ”の正体だ。そんな男は、今の内に死んだ方が世のためだとは思わないか?」
ようやく、セイバーが言葉を返す。
「英雄と成る筈の人間を殺してしまえば、その英雄は誕生しないとあなたは考えるのですか?それは無駄です。あなたは既に、守護者として存在している。時間の輪から外れているのです。今の士郎を消滅させたところで、あなた自身は消えはしない。」
「そうだな……だが、可能性の無い話ではあるまい?潰える物が肉体だけでは無く、精神を含めるのなら、少なくともこの世界に、“正義の味方”などという間違いは現れまい。」
「アーチャー……あなた、後悔しているの……」
涙ぐみながら、凛が問い掛ける。
「無論だ。」
「ふっ……それじゃやっぱり、俺達は別人だ。」
「何?」
それまで無言で聞いていた、士郎が口を開いた。
「俺はどんな事になったって、後悔だけはしない。お前が俺の理想だって言うんなら、そんな間違った理想は、俺自身の手で叩き出す!」
士郎のその言葉に、かつて葛木から聞いた言葉が、アーチャーの頭の中で重なり合う。
“例え自分の選択が間違いであったとしても、後悔はしない事だろう”
「その考えが、そもそもの元凶だ。お前もいずれ、俺に追いつく時が来る。」
「来ない……そんなもの、絶対に来るもんか!」
「そうか……確かに来ないな……ここで逃げないのなら、どうあれ貴様に未来は無い。」
『トレース・オン!』
アーチャーと士郎は、同時に夫婦剣を投影し、お互いに向かって歩き出す。
「俺の剣聖についてこられるか?僅かでも精度を落とせば、それがお前の死に際だ……」
2人は同時に駆け出し、剣を交える……
その頃、衛宮家の玄関から、出て来る男がひとり……
黒の司祭服を着た、厳つい様相の神父、言峰綺礼である。綺礼は、脇に少女を抱えていた。それは、イリヤスフィールだった。
門を出て、そのまま去ろうとする綺礼の前に、別な人影が現れる。その人影を見て、綺礼は笑みを浮かべる。
「ふん……やはり現れたか、アサシン……いや……」
「言峰、お前にイリヤは渡さない。」
ナイフを構え、奇礼に斬り掛かろうとするアサシン。しかし、その行く手を青い影が遮る。
「おっと、まずは俺の相手をしな。」
「お前は……ランサー!」
ランサーが、アサシンの行く手を阻む。
「ランサー、この場は任せる。もう一切止めはしない、決着が付くまで戦うがいい。」
奇礼は、令呪を使ってランサーに足止めを命じる。
「ふん、初めて納得のいく命令をくれたじゃねえか!じゃあ、思う存分、楽しませてもらうぜ!」
「くっ……」
ランサーがアサシンの足止めをしている間に、綺礼はイリヤを連れ去ってしまった。
キャスターを倒すのは、アーチャーでは無くアサシンです。話の中でも書きましたが、本職は“魔術師殺し”ですから。
そして、去り際にアーチャーにひと言……これが、後で利いてきます。戦いには直接関わりませんが、アーチャーの心を大きく揺さぶります。
後半はほぼ原作通りですが、一旦凛を連れ去って再戦では無く、そのままここで決戦となります。
アサシンが士郎達に加勢したんで、ランサーの出番は別なところで。
悪側に付くというより、純粋に戦いに殉ずるランサー。アサシンとの決着は次回で……