Fate / Assassin cried 作:JALBAS
いよいよ、聖杯戦争の最終決戦です。
士郎達は、協力して最強の英霊ギルガメッシュに挑みます。
そして切嗣は、綺礼との因縁の対決に……
これが、最終話です。
柳洞寺に到着した切嗣達は、立ち込める膨大な魔力に驚く。
「魔力の密度が高い……10年前と同じです。おそらく、上ではもう……」
「聖杯の召還が始まっているのか?」
セイバーと士郎が言う。
「え?でも、まだサーヴァントは最後の一体になっていないんじゃ?」
「いや、今の段階でも、聖杯を誕生させる事は可能だ。10年前も、セイバーとギルガメッシュは残っていた。」
凛の疑問に、切嗣が答える。
「時間が無い、急ごう!」
切嗣達は、石段を駆け上がる。
山門をくぐると、本堂の前でギルガメッシュが待っていた。
「良く来たな騎士王、それと雑種ども。」
「ギルガメッシュ、あなたの望みは何だ?」
剣を構え、セイバーが問い掛ける。
「今のところは特に無い。言峰の願いを、優先してやっている……だが、強いて言えばそうだな、お前達と戯れる事かな?」
全員、戦闘態勢を取る。士郎は白と黒の夫婦剣を投影し、凛は魔力を込めた宝石を構える。
そんな切嗣達に、ギルガメッシュは言い放つ。
「その前に……切嗣と言ったか?お前は先へ行け。特別に、ここを通る事を許す。」
「どういう事だ?」
「言峰に頼まれてな。どうも、お前との直接対決を所望しているようだ。」
「親父、行ってくれ。こいつは、俺達に任せてくれ……イリヤを頼む!」
士郎が言う。
「分かった。」
切嗣は、この場を士郎達に託し、寺の裏手に向かう。
切嗣が去った後、凛が尋ねる。
「いいの?いくら綺礼が強いからって、サーヴァント相手に勝てるのかしら?」
「ふん、別に言峰が負けても構わん。その時は、お前達を始末した後、我があのこそ泥を殺すだけだ。」
「そうはいかない!あなたは、私達が倒す!」
セイバーが言う。
「忘れたかセイバー、お前は、10年前に我には勝てなかったであろう?」
ギルガメッシュの言葉に、士郎と凛が反論する。
「セイバーひとりじゃ無い!俺達だって居るんだ!」
「そうよ、私のアーチャーを奪った罪、その命で償ってもらうわ!」
しかし、そんな士郎達の意気込みを、ギルガメッシュは一笑に付す。
「笑わせるな!フェイカーと小娘が数匹加わったところで、何の足しにもならんわ!」
「ギルガメッシュ、人間の力を舐めるな!」
セイバーは怒りを露わにし、ギルガメッシュを睨み付ける。
こうして、士郎・凛・セイバー対ギルガメッシュの戦いの幕が開く。
切嗣は、柳洞寺の裏手の参道の前まで行く。
そこには、中空に大きく穴を開け、そこから黒い泥を吐き出す聖杯があり、その穴にイリヤが磔にされていた。穴から吐き出された泥は、その下に巨大な溜池のようなものを作っている。
言峰綺礼は、その前に立ち切嗣を迎える。
「待っていたぞ、衛宮切嗣……よもや、10年前の決着を、この手で付けることができるとは思わなかったぞ。」
切嗣は、綺礼を睨み付けて言う。
「僕は、お前との決着などには興味は無い。イリヤを降ろせ!」
珍しく、感情を剥き出しにする切嗣。
「そうはいかん。聖杯は現れたが、その穴はまだ不安定だ。接点である彼女には、命の続く限り耐えてもらわねば……」
「ならば、力ずくで取り戻すまでだ。」
「そうだ。それこそ、私の願いだ。」
奇礼は、10年前と同様に黒鍵を両手に構える。
「それは、死徒用の装備だろう?サーヴァントとなった僕には、効果が無い。」
「ふっ……それはどうかな?」
切嗣はナイフを構え、綺礼に向かって行く。綺礼も、同時に動き出し、切嗣に向って行く。中央で互いの武器を繰り出し、打合いが始まる。お互いの武器がぶつかり合い、激しい火花が飛び交う。
最初は互角だったが、徐々に綺礼の方が圧されていく。
「10年前と同じだと思うな。お前は、既に全盛期を過ぎている……更に、僕はサーヴァントとなった。身体能力は、10年前の比では無い。」
「ふん……そんな事は、承知の上だ。」
その時、突然切嗣の背後から、聖杯の泥が触手のように襲い掛かって来た。
「何?!」
とっさに、それを交わす切嗣。だが、そこに隙ができ、綺礼の黒鍵が切嗣の腕を切り裂く。
「ぐわっ!」
激しい血しぶきが飛び、ダメージを受けてしまう。
「ふふふ……こちらも10年前とは違う。一度聖杯の泥に呑まれた私は、この泥により生かされているのだ。大いなる悪“アンリマユ”も、私に味方してくれている。」
「何だと?」
「それに、お前は完全なサーヴァントでは無い。だから、この黒鍵でもダメージは与えられる。そもそも、お前が再び生を受けたのも、聖杯の導きだ。」
「何を言っている?」
「お前はサーヴァントであるキャスターが、触媒も無しに召喚した。そのため、正規の英霊は呼び出されず、この冬木に、聖杯に縁の強い霊体が選ばれた。更に、聖杯は私の願いも聞き入れていたのだ。お前との決着を付けたいという、私の願いをな。だから、お前を呼び出したのは、この私なのだ!」
嬉々とした表情で、綺礼は語る。
「そんなに望むのなら、決着を付けてやる……もちろん、お前の死という決着をな!」
そう言って、切嗣は本気で綺礼を始末にかかる。
「time alter double accel!!」
固有時制御を発動し、2倍速で綺礼に迫る。
「甘い!」
だが、泥の触手が、その速度に対応して切嗣に襲い掛かる。
「ならば……time alter triple accel!!」
速度を3倍に上げる切嗣、しかし……
「うぐっ!」
ランサーに貫かれた傷が影響し、急激な加速に耐えかねて、一瞬動きが止まってしまう。その隙に、泥の触手は切嗣の手足に絡み付く。
「ぐあああああああっ!」
激しい痛みが、切嗣を襲う。絶好の好機とばかりに、綺礼は更なる泥を放つ。
「かつてお前の命を奪った、この世全ての悪……もう一度、アンリマユの呪いを喰らうがいい!」
切嗣の体が、聖杯の泥に包まれていく。
「うわああああああっ!」
「お前もサーヴァントなら、その泥には抗えまい。アンリマユに呑みこまれて、聖杯の一部になるがいい!」
境内では、ギルガメッシュと士郎達の戦いが始まっていた。
ギルガメッシュは、幾つもの時空の歪から、無数の武器を放ち攻撃して来る。これを、士郎とセイバーは剣で弾き、凛は宝石魔術の防御壁で防いでいた。
「中々がんばるではないか……では、これではどうだ!」
ギルガメッシュの背後の時空の歪が増え、更に大量の武器が襲い掛かって来る。
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
士郎の剣は砕かれ、凛の防御壁も破られる。致命傷では無いが、2人は傷付き倒れてしまう。
「士郎!凛!……ううっ!」
2人に気を取られ、セイバーも武器の攻撃を受け、蹲ってしまう。
「ははははははっ!少し手加減を弱めただけで、その有様か?これでは、遊びにもならんな?」
「お……おのれ……」
よろけながらも、セイバーは立ち上がる。
「そんな状態で、どこまで持つかな?」
ギルガメッシュの背後に、新たな時空の歪が出現し、無数の武器が顔を出す。
「と……トレース・オン!」
「何?!」
士郎は、目に映るギルガメッシュの武器を投影し、それを時空の歪目掛けて放つ。武器が放たれる前に、入り口で武器を相殺した。
「ふ……フェイカー風情が!」
「はああああああっ!」
この隙をついて、セイバーはギルガメッシュに斬り掛かる。
「ふん!」
即座に、ギルガメッシュも相応の剣を取り出し、これに対応する。2人の間で、激しい剣戟が交わされる。
一度は倒された凛だが、こちらも戦意を喪失してはいなかった。ギルガメッシュの注意がセイバーに引付けられている隙を突いて、一気に反撃に出る。
持てる宝石の全てを、ギルガメッシュ目掛けて投げ付ける。そして……
「Welt、Ende!」
凄まじい爆発が、ギルガメッシュを包み込む。セイバーは、凛の動きを察知して、一瞬早く離れていた。
しかし、爆煙が晴れた後には、全く無傷のギルガメッシュの姿があるだけだった。
ただ、その姿は、先程までとは大きく変わっていた。その金色の髪は逆立っており、体は黄金に輝く鎧に覆われていた。
「そ……そんな……全く、無傷だなんて……」
「惜しかったな小娘、我の鎧は耐魔力に秀でている。その程度の魔術では、傷ひとつつかぬ。」
再び、ギルガメッシュの背後に、無数の時空の歪が現れる。
「だが、この我に鎧を纏わせた攻撃は、評価に値する……褒美だ、少しだけ本気を出してやろう。」
時空の歪から、より強力な武器が凛目掛けて放たれる。
「……」
凛は、茫然として反応ができなかった。
「遠坂っ!」
そこに、士郎が割って入り、光の防御壁を張る。
そう、アーチャーが使っていた、ロ-・アイアスを……
「うわああああっ!」
「きゃああああっ!」
だが、完全では無かったため、何とか攻撃は相殺させたが、防御壁は砕かれ2人はまた吹き飛ばされてしまう。
「士郎、凛、離れて!」
セイバーは聖剣を上段に構え、魔力を高める。
「はああああああああっ!」
「ふん、そうくるか?ならば……」
ギルガメッシュの背後の、時空の歪がひとつになる。ギルガメッシュはその中から、何とも異様な雰囲気を醸し出す、巨大な剣を引き抜く。その剣は黒く、赤い渦のような螺旋が付いている。そして、ドリルのように回転を始める。
セイバーとギルガメッシュは、ほぼ同時に剣を繰り出す。
「エクス……」
「エヌマ……」
「カリバアアアアアアアッ!!」
「エリイイイイイイッシュ!!」
ふたつの凄まじい剣撃が、二人の中央でぶつかり合う。
「うわああああっ!」
「きゃああああっ!」
士郎と凛は、その凄まじい衝撃に吹き飛ばされる。
最初は互角かと思われたが、徐々にエヌマ・エリシュのそれが、エクスカリバーを凌駕していく。
「ば……ばかな……うわああああああっ!」
凄まじい剣撃に、セイバーは飲み込まれてしまう。
その爆煙が晴れた後、大きく抉られた地面の中央で、セイバーは、更に手酷いダメージを受けて倒れている。
「はははははっ!相殺する事もできんのか?人類最強の剣も、所詮その程度か?」
「くっ……」
それでも、立ち上がろうとするセイバー
「もうよせ、どう足掻いてもお前達に勝ち目は無い。」
「セイバーっ!」
士郎が、セイバーの元に駆け寄る。
「士郎……来てはいけない……」
士郎は、セイバーの前に立ち、ギルガメッシュと正対する。
「失せろフェイカー!お前如き、本気になった我の敵では無い。今逃げ出すのなら、特別に見逃してやろう。」
「ふざけるな!俺達は、最後まで絶対に諦めない!」
「なら、2人仲良く逝け……」
ギルガメッシュは、再びエヌマ・エリシュを放とうと構える。
その時、士郎は、切嗣に言われた事を思い出す。
『自分の中で、“最強”をイメージするんだ』
“そうだ!今こそ、親父が言っていた鞘を……イメージするのは……最強!”
「トレース……オン!」
士郎の目前に、激しく光り輝く、鞘が形作られる。
「あ……アヴァロン!」
それは、セイバーの叫びに呼応して実体化する。荘厳な、溢れんばかりの力を感じる鞘が、士郎の手に収まる。
「士郎!」
セイバーは起き上がり、士郎に寄り添って、聖剣をその鞘に納める。それにより、更に激しい光が、聖剣と鞘から放たれる。
「な……何だこれは?」
その眩い光と強大な魔力に、圧倒されるギルガメッシュ。
「な……何て……力と、輝き……」
凛は、その凄まじい光に見とれていた。
「こけおどしを!」
ギルガメッシュは、それでも構わず剣を放つ。
「エヌマ……エリイイイイイイッシュ!!」
凄まじい剣撃が、士郎とセイバーを襲う。
しかし、それは聖なる鞘に跳ね返されてしまう。剣撃は拡散して周囲に放たれる。一部は寺の境内を破壊し、一部はギルガメッシュを襲う。
「ぬおおおおおおっ!」
拡散されているので、大したダメージでは無かった。だが、この隙をセイバーは見逃さない。
「はああああああああっ!」
すかさず聖剣を抜き、ギルガメッシュに突進して行く。
「エクス……」
「お……おのれ……」
相殺させようと、剣撃を放とうとするギルガメッシュ。しかし、数歩及ばなかった。
「カリバアアアアアアアッ!!」
「ぐぅはあああああああっ!」
エクスカリバーが、黄金の鎧諸共ギルガメッシュを斬り裂いた。その衝撃はギルガメッシュの体を突き抜け、後方にあった本殿も半壊させてしまった。
決定的なダメージを受けたが、それでも、ギルガメッシュは倒れなかった。
「アヴァロン……彼の王が、死後に辿り着くと言われる理想郷……5つの魔法すら寄せ付けぬ、何者にも侵害されぬ究極の守り……それこそが、貴様の真の宝具、伝説に言う聖剣の力か……」
体は、塵のように消滅仕掛かっている。それでも、その場に仁王立ちし続けた。
「我の、負けだ……だが、中々に、愉しい余興であった……」
最後にそう言い残し、ギルガメッシュは消滅していった。
聖杯の零す泥に、包まれしまった切嗣。
泥の中で、切嗣の体はその呪いに蝕まれていく。
『死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね……』
人間だった頃よりも、何倍も辛い痛みと苦しみが、切嗣に襲い掛かる。
「う……うううっ……」
徐々に、意識も遠退いていく。
が、その時、切嗣の脳裏に微かな声が響く。
『……きり……つぐ……』
本当に弱々しい声だが、その声は、薄れ掛けた切嗣の意識を呼び覚ます。
「こ……この声は?」
『切嗣……』
「アイリ?!……アイリなのか?」
『切嗣……お願い……イリヤを……イリヤを助けて……』
「そ……そうだ……僕は……イリヤを……」
切嗣の心と体に、力が蘇って来る。
「うおおおおおおおおおおっ!」
切嗣の発する魔力が、聖杯の泥を吹き飛ばす。
「ば……馬鹿な……あれを振り払ったというのか?サーヴァントが、聖杯の泥に抗うなどと……」
驚く綺礼。
「お前もさっき言ってただろう!僕は、完全なサーヴァントでは無いと!」
「ならば、完全に呑まれるまで、何度でも喰らうがいい!」
綺礼は、再び泥の触手を放つ。
「time alter square accel!!」
切嗣は、一気に最高速に加速する。
全ての泥を交わし、瞬く間に綺礼との間合いを詰め、その胸に、ナイフを深く突き刺した。
「がはああああっ!」
口からも血を吐き、綺礼はその場に蹲ってしまう。
高速化を解いて、切嗣は、綺礼に言い放つ。
「お前は、ひとつ勘違いをしている……聖杯は、お前の願いなど聞いていない……僕を呼び出したのは、お前じゃない……」
「なん……だと……」
「アイリだ!10年前、アンリマユに呑み込まれたが、それでも僅かに残ったアンリの自我が僕を呼んだ……イリヤを、助けてと……」
「そ……そんな……」
蹲っている綺礼の額に、切嗣は銃口を当てる。
「最初に言ったが、僕は、お前との決着などには何の興味も無い……だが、これはお前に対する慈悲だ。これで、満足だろう……」
静かに、引き金を引く切嗣。頭を打ち抜かれ、綺礼はその場に崩れ落ちる。
綺礼を倒した切嗣は、ナイフを投げてイリヤの拘束を解く。落ちて来るイリヤを受け止め、優しく抱きしめる。
「親父!」
そこに、士郎達が駆け付けて来る。
振り向いた切嗣は、イリヤを士郎に渡そうとする。それを見た士郎は、
「トレース・オン。」
毛布を投影し、それでイリヤを包んで受け取る。
切嗣は、今度はセイバーを見て言う。
「セイバー……頼む。」
「は……はい……凛、令呪で命令を!」
「え?……ええ、分かったわ!」
凛は、令呪のある右手をセイバーに向けて命じる。
「全ての令呪をもって命じる。セイバー、聖剣で聖杯を破壊してっ!」
「了解しました、凛!」
セイバーは聖剣を上段に構え、魔力を高める。
「はあああああああああっ!」
令呪の魔力も加わり、眩いばかりの光の柱が、天に向かって伸びて行く。
「エクス……カリバアアアアアアアアッ!」
セイバーは、光の柱を聖杯に向けて放つ。
凄まじい閃光と轟音と共に、聖杯はその大穴と一緒に完全に消滅した。
その光景を見て、安堵する士郎。しかし、士郎はある事に気付く。
「?!……せ……セイバー?」
セイバーの体が、徐々に透けていくのだ。
「どうやら……これで、お別れのようです……」
契約も切れ、魔力も使い果たしたセイバーは、消滅しようとしていた。
「告げる!汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば我に従え!ならばこの命運、汝の剣に預けよう!」
突然、凛が契約の呪文を唱える。再び、凛の右手の甲に令呪が刻まれ、セイバーが眩い光と共に実体化する。
「と……遠坂?これは……」
「再契約したのよ……結局聖杯は手に入らず、満足に別れの言葉も交わせずにさよならじゃ、セイバーも納得いかないでしょ?」
「り……凛……」
凛に向かい、笑みを返すセイバー。
「士郎、ぼやっとしないで!切嗣さんとは、あなたが契約するのよ!」
「あ……そうか、俺が契約すれば親父も……」
「無駄だ……」
凛の考えを、切嗣は否定する。
『えっ?』
「何度も言うが、僕は正規のサーヴァントじゃない。聖杯の力で、一時的に生を受けた唯の亡霊だ。聖杯が無くなれば、僕は完全に消える。」
「そ……そんな……」
「別に、悲しむ事では無い……本来なら、僕はもう居ない筈の人間なのだから……」
「切嗣……」
セイバーが、切嗣に話し掛ける。
「私は、あなたに謝らなければなりません……あなたの言った事が、正しかった……10年前の聖杯の事も、あの時はああするしかなかった。それを、私は……ずっと、あなたの事を誤解して……」
険しい表情で俯くセイバーに、切嗣も答える。
「セイバー……それは、お互い様だ。」
「え?」
「自分で否定していながらも、僕は、君達英霊に対して偏見を捨てられていなかった。君達の事を、理解しようともしなかった……自分が近い存在になって、初めて、君達の苦しみを知った……すまなかった……それと、ここ迄士郎を護ってくれて、ありがとう。」
「き……切嗣……」
セイバーの顔が、晴れやかな表情に変わっていく
「キリツグ!」
そこに、目を覚ましたイリヤが割り込んで来た。
「い……イリヤ……」
切嗣は、少し戸惑ったような表情をする。
「キリツグウウウウウッ!」
イリヤは、両手を伸ばして、真っ直ぐ切嗣に向かって駆けて来る。
切嗣は腰を落とし、自分も両手を広げてそれを迎える。イリヤは、躊躇無くその胸に飛び込んだ。
「お……お帰り!キリツグ!」
涙を流し、しっかりと切嗣に抱き付くイリヤ。
「あ……ああ、ただいま……」
切嗣も、イリヤを強く抱きしめる。
「すまなかった……ずっと、迎えに行けなくて……」
「ううん……いいの……こうして……ちゃんと、来てくれたんだから!」
泣きじゃくるイリヤ。切嗣の表情も、優しい父親の顔に変わっていく。
感動の再会だが、もう切嗣の時間は残されていなかった。徐々に、体は塵のように霞んでいく。
「すまない、イリヤ……もう、お別れの時間だ……」
「そ……そんな……逝っちゃやだ!キリツグっ!」
泣いて縋るイリヤ。
「僕は、もうこの世界の人間じゃないんだ……士郎と……お兄ちゃんと仲良くな、イリヤ……」
「き……キリ……父様……」
顔を上げ、イリヤはゆっくりと頷いた。
イリヤを優しく見詰めた後、切嗣は、厳しい表情で士郎を見て言う。
「士郎……お前に言っておく事がある。」
「え?」
「前に、お前は僕の代わりに“正義の味方になってやるよ”と言ったな?あの時、僕は“安心した”と言ったが、それは間違いだった。」
「な……どうして?」
「今のお前は、到底“正義の味方”とは呼べない。」
「何だって?」
「“誰かのためになりたい”というのは、大いに結構だ。しかしそれは、確固たる自分があって初めて言える言葉だ。」
「お……親父……」
「思い上がるな!他人の幸せが、自分の幸せだなどという考えは、ひとりよがりの妄想だ!自分ひとり幸せにできない人間に、他人を幸せにする事など絶対にできない!」
「……」
最後に、切嗣は凛に顔を向ける。
「凛……」
「え?」
「士郎を……頼む……」
そう言って、イリヤを抱きしめたまま、切嗣は消滅していった。
柳洞寺の人達は、生気を吸い取られ昏睡状態にあったが、命に別状は無く数日で回復した。寺はギルガメッシュとの戦闘で一部倒壊していたが、原因は突発的な局地的大嵐によるもと片付けられた。
住職達の回復後、寺の修繕作業が大々的に行われ、士郎達もその手伝いに来ていた。
その合間を縫って、士郎は父切嗣の墓の前に来ていた。
特に何をするでも無く、じっと佇んでいる士郎。そこに、セイバーが寄って来る。
「また、ここに来ていたのですか?士郎。」
「ああ……」
士郎は、静かに答える。
「未だに、俺には良く分からない……俺は、自分が正しくないと知りながらも、道は変えられないんじゃないだろうか……」
そうして、また考え込む士郎。セイバーは何も言わず、ただ士郎を見詰めている。
「……だけど、がんばってみる……もう一度、親父が“安心した”と言えるように……」
セイバーは、黙って頷く。
「安心しなさい。士郎は、私が変えてあげるから。」
そこに、凛も現れる。
「と……遠坂?」
「士郎を真人間にして、思いっきりハッピーにするのが、私の野望なんだから。」
「凛になんか任せて置けないわ!」
更に、別な声が割り込んで来る。
「お兄ちゃああああん!」
イリヤが走って来て、そのまま士郎に抱きついて来る。
「お……おい、イリヤ……」
「ちょっと、イリヤ!」
「は……離れなさい!イリヤスフィール!」
「だ~め!お兄ちゃんは、私が幸せにしてあげるんだからっ!」
「そうはいかないわ!私は、切嗣さんから直々に頼まれているんですからねっ!」
墓の前で、大騒動を始めてしまう士郎達であった。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。
こんな話を書いた理由は、どうもFate / stay nightやZEROを見ていて、あまりにも切嗣やイリヤが不憫なのと、セイバーと切嗣の関係を改善させたいなんて思いがあったからです。
あと、勝手に士郎に夢を託して“安心した”でさよならじゃ、切嗣も無責任だと思い、士郎の道を正す助言くらいはさせたい、というのもありました。
この話の切嗣サーヴァントもどきは、FGOの英霊“エミヤ(アサシン)”ではありません。多少格好と能力はコピらせてもらいましたが、切嗣本人であり別物です。髪も黒いままです。