ロリ#コンパス   作:乱数調整

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あの日、モニター越しに見た彼らの勇姿を忘れない


夜明けの迷い子

そこはあまりにも暗い部屋だった。

会議室ほどの広さの部屋の中央に円卓が置かれ、光源はその円卓の中央に置かれたランプのみだった。

 

そこに、一人の男が入ってくる。

 

「……あぁ、keyさん、やっと来ましたか。」

 

「ん?なぁレイア、もしかしてオレ、時間まちがえてたか?」

 

そう言いつつkeyは着席する。

彼らはお互いに本名を知っている。

それでもなお、プレイヤーネームで呼び合うのは彼らが集った日に決めた、今の彼らの根底を成しているある強い意志を持ち続けるためだ。

 

「いやいや、keyは遅れてないぞ。むしろ、一般的に見たら早すぎるまである。……だけど、今日はここにいる全員にとって大きな意味を持つ日だからな、気が逸るのも仕方ないさ。」

 

keyの質問に答えたのはレイアだった。

 

円卓に座っているのは6人

カフカ カロネに加えてkey レイア PRHS

そして、ドク

 

彼らは一様に思い出す。決して忘れられないあの日のことを。

 

───────────────────────

 

20××年 3月31日

この日、【#コンパス戦闘摂理解析システム】はネット上から姿を消した。

同日、同ゲームに囚われていた人達は現実に戻った。

 

ただ三人(・・)を除いて。

 

一人は【楼閣】というプレイヤー

決して倒れないというだけでなく、自身でも敵を倒すという、タンクとしては離れ業を成し遂げていたプレイヤー。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにしてギルドマスター。

 

一人は【波羅渡】というプレイヤー

回復を一枚として積まず、猛攻によって反撃の隙を与えないという初心者が思いつきそうな戦法を実用レベルまで押し上げた初心者。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにして初心者の憧れ

 

そして最後は【アラン=スミシー】というプレイヤー

現実化したコンパス内で無類の強さを発揮したプレイヤー。自身は貫通カードを駆使して敵を倒し、敵の貫通カードはカウンターで無効化するという決まれば恐ろしいコンボを使いこなしたプレイヤー。

ギルド【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーにして中心人物

またの名を【ロリコンの王】といったプレイヤー

 

3月31日 13時 ドクと【孤独者たちの宴(ロンリネス)】の初期メンバーの決戦が終わった直後、視界がブラックアウトし、気がつけば東京ドームに集団で転移していた。

 

もちろん社会は騒ぎに騒いだ。

それはそうだ。半年もの間、集団でいなくなったのだから、騒ぎにならない方がおかしい。

 

転移した場所も悪かった。何せ東京ドームだ、都心に近く広いのでテレビ局や新聞社、雑誌の記者などが押しかけて一時現場は騒然とした。

 

しかしそんな事など気にもとめずに帰ってきた者達は皆一様に安堵し、喜び、お互いの無事を祝いあった。

 

しかし、そんな時間は長くは続かない。

 

この帰還の最大の功労者である【ロリコンの王】を皆が探したのだ。

 

結果は芳しくなかった。ロリコンの王はおろか楼閣も波羅も、最終決戦へと赴いた三人組の姿が見つからなかったのだ。

 

代わりに彼らが見つけたのは【ドク】

 

今回の騒動の元凶にして#コンパスの基礎プログラムや仮想空間の作り手でもある少年だった。

 

「おい、なんでお前がここに居るんだよ」

 

誰かがポツリと呟いた。ドクは俯くばかりで何も言わない。

 

「なんで俺たちを助けたアイツらじゃなくて、事の元凶のお前がここに居るんだって聞いてんだよ!!」

 

誰かがそう叫んだ。一度わかりやすい形で不満が溢れると、そこから先は目に見えている。

 

すなわち、不満の爆発だ。

その場にいた大勢がドクへの不満をぶちまける。

 

曰く、「同じことをもう一度起こすのではないか」

曰く、「そのために邪魔者を消したのではないか」

 

曰く、「お前みたいな気狂いが、なぜここにいるのか」

 

場は騒然とし、混沌に包まれ、誰もが激しくドクを批難した。

当のドクは俯くばかりで一言も発しない。

その態度が火に油を注ぐようにプレイヤー達の罵詈雑言を激化させた。

 

誰も彼らを止めず、誰もが彼らを責め立てる。

そこにあるのは底知れない悪意、悪意、悪意

 

「うる……さいよ……」

 

その中で、カフカがポツリと呟いた。

 

「うるさいよ!!」

 

カフカが激情のままに叫んだ。広場にいた全員がカフカの方を見る。

 

「うるさいよ!!グヂグヂグヂグヂ意味の無いことばっかり言って!!そんなこと言ってロードさんは、波羅さんは!ギルマスは戻ってくるの!?ねぇ、本気でそう思ってんの!?」

 

カフカは堰を切ったように叫び続ける。

 

「あの戦いに、あたし達はギルマスに置いていかれたんだ!!あたし達だって【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンなのに、あたし達のギルドの問題なのに、置いていかれたんだ!!あたし達を連れていくフリをして、置いていったんだよ!その時ギルマスは、楼閣さんは言ったんだ、あたし達に「自分で出来ることをやって」って!!こうなることが分かってて、あの人はそう言ったんだ!!」

 

カフカの叫びは終わらない

 

「だからあたしは出来ることを考えた!カロネちゃんと、置いていかれたあの時からずっとずっと考えてたんだ!!アンタらみたいな何も知らない奴らがいつまでもぐちゃぐちゃ言ってんな!!」

 

カフカはそこにいた全員にそう言いきった。

その目にはうっすらと涙を浮かべながら。

 

「そう……ですよ……!」

 

その姿を見てカロネが呟く。

 

「楼閣さんは……私に言ってくれました……「なんでもゆっくりでいいんだよ」って……!「自分に出来ることをやったらいいんだよ」って……!なら……私たちは、出来ることをやるしか……ないんですよ……!」

 

その声は、今までのカロネのどの決意よりも強固な響きを帯びていた。

 

「あたし達はやるよ!なんだってやってやる!最終決戦に置いていかれたんだ!波羅さんに、ギルマスに、ロードさんに!一言文句言ってやるんだ!!」

 

再びカフカが叫ぶ。そしてその場にいる全員を睨めつけながら続ける。

 

「そのためにはドクさんの力が必要だよ。悔しいけど、あたし達だけじゃ向こう(#コンパス)には戻れない。向こうに戻るなら、創った人に頼るしかないんだよ。もう一回、もしも向こうに戻れるなら、その可能性があるなら、あたしは毒だってなんだって飲んでやる!」

 

カフカは宣誓した。どんな手を使ってでも#コンパスに戻ってやると、【孤独者達の宴(ロンリネス)】初期メンバーに文句を言ってやると、そう宣誓した。

 

しかし、それでも人々は割り切れないような表情をしている。

納得の行かない表情で一人の男が近づいてくる。

 

「それでもこいつは──」

 

「あーあーあー!ったく、流石は【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンだな、諦めが悪い。」

 

その誰かの文句を遮った者がいた。

 

「【黄泉孵り(ゾンビ)】……お前、あの惨状を引き起こした【死神の盾(スプリンタンク)】が、無罪放免でもいいってのかよ!」

 

keyだった。

 

「しょうがねぇだろ?あの【腐態の不死(オーバーフロー)】がやるっつってんだ。誰かコイツが折れたところ見たことあるか?コイツじゃなくても、あの【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーが諦めたとこ、見たことあるやついるか?」

 

その一言でその場にいた皆が黙り込む。

 

「いねぇよな?あの【不屈の不死(アライブ・ライブ)】ですら決めたことに対しては折れたことがない。だから今回も折れるわけねぇよ。」

 

「だからって──」

 

「そもそも、だ。俺はあいつに一言文句言ってやりてぇんだよ。」

 

それでもなお言い返そうとする男に、keyの後ろから別の声がした。

 

「【ハメ殺し(引っ張りハンティング)】……」

 

レイアだった。

 

「アイツ、いつまで経っても俺の名前、覚えなかったんだぜ?いっぺんも正しい名前で呼ばれてねぇ。レイヤーだの令和だのレイダーだの零夜だの女装家だのって、よくもまぁあれだけ間違えられたもんだ。いっそわざとじゃねぇかって思うくらいだ。」

 

「それになんの関係が──」

 

「あるんだよ。」

 

男が口を挟もうとするが、途中でまたも遮られる。

 

「あぁ、あるさ。向こうに行って、言いたいだけ文句言って、どれだけ向こうに行くのが大変だったか言ってやるんだ。そしたらアイツだって、そんだけの事をやった奴の名前くらい覚えるだろ。」

 

「そうかもしれんが……」

 

「可能性があるんだったら俺はやるぞ?たとえ無茶だって言われてもな。」

 

レイアはキッパリとそういいきる。

 

「それもそうだね。あのロリコンの王に恩を売っておくのも悪くない考えだねぇ。」

 

「【不滅の不死(ゴースト)】……お前もか」

 

PRHSが二人に続いた。

 

「あの三人が犠牲になって僕らがのうのうとしてるなんて後味悪いし、一応、あのロリコンの王にはお世話になりましたし。」

 

「はっはっはっ!いい心がけだなPR。……で、本音は?」

 

「ジャンヌちゃんと遊びたい!!飛びついて抱きついて押し倒して撫で回して舐め回して添い寝してぺろぺろしたい!!hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs」

 

PRHSはいつも通り変態だった。

いや、むしろ本人がいなく、軽いジャンヌレスになっている分普段より酷いかもしれない。

 

が、そんなことなど気にも止めずにkeyは大きな声で笑いだした。

 

「はははっ!さすがはPRだ、相変わらずお前バッカだなぁ!はははっ!!」

 

「ちょっ、そんなに笑わなくても良くない!?」

 

「ま、さすがはPRってとこだな。だけど、利己的だからこそ気持ちは強い。」

 

レイアも二人に同意する。

そして【明色に染まる空(daydream)】の3人はカロネとカフカに向き直る。

二人は戸惑いを隠せないといった表情をしていた。

 

「くっかは!なんて顔してやがんだ?お前ら、あの【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルメンだろ?」

 

「手伝って、くれるんですか?」

 

途切れ途切れにカフカがkeyに向かってそう言う。

keyは、何バカなこと言ってんだ?と前置きしてから続けた。

 

「むしろ、この流れ聞いてそう思えないか?俺たちだってアイツには世話になってんだ。返したい恩も、返さにゃならんお礼も腐るほどあるぞ。」

 

「それに、お前らを助けるために手伝うんじゃねぇよ。俺たちには俺たちの利己的な考えがある。」

 

keyとレイアが力強く同意した。

 

「で、でも……!」

 

「【ぐちゃぐちゃうるせぇな。】」

 

そこにPRHSが乱入する。

その声音は誰かを模しているかのようだった。

 

「【向こうが手伝ってやるって言ってんだ、お前らに害がないなら遠慮なく使え】って、ロリコンの王なら言ってたはずだよ。それに、楼閣さんだって【できないことをやりたいなら、できる人に頼りなよ】って言ってたでしょ?」

 

「それは……そうなんですけど……」

 

「じゃ、手伝わせてもらうよ。頭数は多い方が楽なはずだからね。」

 

これはもう決まったことだと言わんばかりにPRHSが締めくくる。

実際、カフカもカロネもPRHSの説明に納得してしまったのだ、腹を決める他ない。

 

「お願いします。」

 

カフカはまっすぐにkeyを、【明色に染まる空(daydream)】の三人を見つめて言った。

 

「いい目だ。野心に溢れてる。」

 

keyはまるで13のように口を歪めてそう言った。

さながら、それがもう一度自らの相棒(サーティーン)に逢いに行く宣誓かのように、笑った。

 

「来たい奴は来い!俺たちは、表向きはゲーム開発会社として始める!もう一度、#コンパス(向こう)に行くには社会的地位も技術的土台も必要だからな!何年かかるか、なんてわかんねぇけど、必ずやってやるよ。だからさ!もっかい相棒(ヒーロー)に会いたい奴ァ着いてこい!給料も出してやる。こっちにゃ専門家サマ(ドク)がいるんだぜ?すぐに軌道に乗せてやるよ!」

 

keyは夢物語を語る。

keyは都合のいい虚像を語る

keyはただの戯言を語る

 

だが、

 

それだけの無茶を言いつつも、

keyは何も騙る気は、なかった。

 

「……俺は、まといに会いたい。」

 

「……俺は臣に。」

 

「テスラ……良い奴だったよな……」

 

ぽつりぽつりと声がする。

ヒーローを懐かしむような声が。

 

「マルコスとリリカルルカ見たなぁ……あぁ……なんで忘れてたのかなぁ……あの幸福を。」

 

「ルチとの晩酌、楽しかったなぁ……ノロケ話ばっかだったけど、楽しかったよなぁ……」

 

「アダム、私にゲームで負けるとすぐ怒ったなぁ……いつもはあんなに冷静なのに、ちょっと笑っちゃった。」

 

そうだ、そんなこともあったなぁ、とあちこちから声が上がる。それはすぐに大きな声になっていく。

過去を、#コンパスを懐かしんでプレイヤーたちの話は弾み、弾けていく。

 

ある時、それが止んだ。

水をかけられたかのように、ピタリと止まった。

 

そして誰かが言う。

 

「また、会いてぇなぁ……」

 

「あのまま別れるなんて、変な感じするよな。」

 

「じゃあ、さ──」

 

その場にいた全員の意思が固まった。

 

「決まったな。」

 

「あぁ」「そうだね」

 

カフカが信じられないものを見るかのような眼差しでそれを見ていた横で【明色に染まる空(daydream)】の三人が囁くように言う。

 

そしてkeyがカフカの背中を勢いよく叩いた。

 

「な、何するんですか!」

 

「気合いを入れてやったんだよ。お前が言い始めたことにこんだけ集まってくれたんだ。音頭取れよ、社長?」

 

ニヤリとkeyがしたり顔を作り言う。それはかの堕天使のようだった。

それに苦笑しながらカフカは宣言する。

 

「やるよ、みんな!半年いなくなってたんだ、学校は退学、仕事はクビになってるでしょ!なら何も心配いらない。向こうに戻るためにやってくよ!」

 

「「「「「「オォォォォォォォ!!」」」」」」

 

会場が震えた。

プレイヤー達の雄叫びで、震えた。

 

それほどまでに、ヒーロー達と過ごした時間は彼らの中で大きくなっていた。

 

「さぁ、いくよドクさん」

 

その喧騒の中でカフカがドクに話しかける。ドクは目を見開いた。

 

「許して……いただけるんですか?」

 

「許さないよ。」

 

カフカはきっぱりと言い切る。

でも、とカフカは続けた。

 

「でも、製作者(ドクさん)がいないと糸口すら見つけらんない。それじゃ、いつまで経っても#コンパス(向こう)に行けない。」

 

カフカがそう言って、その言葉に続けるようにカロネが話し始める。

 

「それに……ロードさんなら、【敵でもなんでも利用しろ】……そう、言うと思いますし……ギルマスも……【出来ないことをやるなら、できる人に助けてもらいな?】って……言って……ましたし……」

 

カロネはいつも通り途切れ途切れに話す。

しかし、話し方とは裏腹にその目は決意に満ちていた。もう逃がさないぞと、言外に告げているかのように。

 

「だからやるよ。ギルマス達が戻ってこないなら、あたし達が#コンパス(あっち)現実(こっち)を繋ぐんだ!誰に笑われても、無理だって、諦めろって言われても、そんなのあたし達が全部変えてやる!」

 

ドクはじっとカフカを見る。

彼がいつか夢見た英雄がそこにいた。少なくとも彼にはそう見えた。

 

「さすがは……【孤独者達の宴(ロンリネス)】の一員ですね。無茶を言いますよ。」

 

ドクがため息をついて言った。諦めやありえないものを見たような言動とは裏腹に、目だけは自らが描いた理想郷を見るがごとく輝いていた。

 

この瞬間から、#コンパスからの帰還を果たした者たちはもう一度#コンパスに行くことを決意した。

 

 

────────────────────

 

 

「アレから結構時間かかったよな。」

 

「あぁ、全くだ。」

 

keyとレイアが懐かしむようにそう言うと、そこから話が弾けた。

 

「全くだよ。ドクがもう一回同じプログラム組めばいいだけだと思ってたのに全然違ったよね〜」

 

「それはデバックが全部削除されてたからで…………」

 

「いや、それはお前がやったんだろうが。」

 

「そこからの資金集め…………大変でしたね……」

 

「ホントに。お金が無いからってフルダイブ型ゲーム機作るとは思わなかったよ。」

 

「ま、ドクの研究の副産物で脳みそが刺激を受け取った時の反応があったからローリスクハイリターンな研究が出来たんだけどな。」

 

「にしても、最初に出したゲーム、アレはどうかと思うぜ?」

 

「えー?なんでですか?フルダイブ型ゲーム機の最初のソフトって言ったら【ソードアート・オンライン】しかないでしょ〜!」

 

「おかげで「デスゲームだ!!」って騒がれて、初日の売上は酷いもんだったんだぞ?まぁ、二日目からは話題沸騰の人気作になった訳だが。」

 

話が盛り上がっていた。誰もが懐かしむようにこれまでの歩みを話す。その響きには、戻ってきた頃の#コンパスを懐かしむような諦観の念は含まれていなかった。

 

「そのおかげで今日に至ったわけでしょ?大きな一歩だよ。」

 

PRHSが呟いた。その瞬間、室内の皆が一様に沈黙する。

 

「三年だ。」

 

keyが囁くように言う。

 

「予想外にかかっちゃいましたね。」

 

「でも……最初の一歩は……踏み出せました……!」

 

カフカとカロネが嬉しそうにそう言う。

 

「電子世界の可視化、【世界システム】な。俺、未だにあれ訳わかんねぇんだよな。」

 

それに呼応してレイアがその原因をボヤく。

すると開発責任者(ドク)が懇切丁寧に説明を始めた。

 

「インターネット世界を現実と仮定して、端末から発せられる電波をアバター、個々のページを地域、サーバーを国とした仮想空間です。だから──」

 

「管理のために全体を一望できる。だから今まで手が届かなかった部分も見れるし隠れてるものも見つけられる、だったよね?」

 

「えぇ、そうです。」

 

ドクが力強く頷く。それに呼応するように各々の表情も明るくなっていく。

 

「これで……これでやっと、ギルマス達を探しに行ける!」

 

「まだ……向こうには行けませんけれど……それでも……いるかどうかは……探せます……!」

 

カフカとカロネが嬉しそうにそう言った。気持ちの昂りが抑えられない子供のような表情で、そう言った。

 

「……時間、だね。」

 

「皆が表向きのプレゼンの準備をして待ってる。行くぞ、社長?」

 

「うん、行こっか。」

 

そう言って円卓の六人は去っていった。

 

 

────────────────────

 

 

(ここまで来た。)

 

カフカは舞台の上にいた。

 

(ついにギルマスを、波羅渡さんを、ロードさんを、探せる第一歩を踏み出せる。)

 

舞台に光が灯る。プロジェクターの光だ。

 

「…………」

 

ふと隣を見れば、共に#コンパスを始めてくれた、#コンパスの中にいた時にはずっと自分のそばにいてくれたカロネがいる。

弱気で流されやすくて、そのくせ自分で決めたことにはとことん頑固な幼馴染(ギルメン)が。

 

「…………!」

 

そしてカロネもこちらに気づくと、強く頷いてくる。

ここから、全てが始められる、そう言いたげに。

 

カフカにライトが当たる。時間だ。

 

「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。本日私たちがご紹介しますのは──」

 

カフカがプレゼンを開始した。

 

プレゼンは滞りなく進む。

誰もがこのまま終わってくれるものだと確信していた。

この後すぐさま、#コンパスを探しに行けるものだと思っていた。

 

しかし、このままで終わるはずがない。

予想通りにことが進むなら、彼らがかの世界(#コンパス)に行くことはVRゲームを作る前に成せている。

 

「以上が今回ご紹介致しました内容になります。何か質問は──」

 

カフカがそこまで言った時、プロジェクターの光が消えた。

なんの予兆もなく、真っ黒に。

 

「keyさん、何があったの?!」

 

カフカは小声で無線に向かってそう訊ねる。

 

「わかんねぇ!プロジェクターに不具合はねぇし……レイア、そっちは!?」

 

「証明、投影機器、共に問題ない。ドク、なんか分かんねぇか!?」

 

「こちら今調べてます!…………!?メインコンピューター、ハッキングされてます!相手のサーバーは……不明!?」

 

keyとPRの見ていた機材には問題は無い。その報告を受けてドクは手早くメインコンピュータを調べる。

 

結果は最悪。ドクの構築したファイアウォールが、警告装置にひとつも引っかからずに破られた上、主導権まで見えない敵に奪われた。

 

さらにサーバーは自分たちの作成した【世界システム】を使用してさえ、相手の足跡すら見つけられなかった。

自分たちの自信も、他者からの信頼も、全てが崩れていく。

 

そんな中、真っ黒なプロジェクターに白い文字が投影される。

 

《脆い》

 

「「「「「!?」」」」」

 

それに気づき、【孤独者達の宴(ロンリネス)】【明色に染まる空(daydream)】の両メンバーがプロジェクターを見た時、それを確認したかのように新たな文字が次々と画面に現れていく。

 

《総括システムが脆弱で危機管理システムもザル》

 

《これが三年もかけて作ったものか?笑わせる》

 

「んだと!?」

 

レイアがそれに向かって叫び返す。自分たちがどれだけ血反吐を吐く思いをしてそれを作り上げたのか知らない者に、そうは言われたくないだろう。

 

《俺ならもっと上手く早く出来たぞ?事実を言って何が悪い》

 

しかし画面のテキストはそんなことなどお構いなしに煽るような文言を映しだす。

 

「てめぇ……俺達がどんな気持ちで続けてきたかも知らねぇで!!」

 

《知るわけないだろう?所詮は他人だ、他人の気持ちを100%理解出来るやつなんて、いるわけねぇだろ?》

 

「クソが……っ!」

 

レイアが叫び返すがテキストは冷めたようにそう返す。

プレゼン会場にさざ波のようなざわめきが広がる。

 

《まったくもう……そんな言い方しか出来ないのは3年前からひとつも変わってないんだから……もっと素直になりなよ》

 

そこでテキストの雰囲気が変わった。先程までのテキストを窘めるような、優しい語気だった。

 

《本当に、不器用な方なんですね》

 

またテキストの雰囲気が変わる。それは一番目のテキストを否定はせず、その奥に隠されたものを代弁するかのような語気だった。

 

《うっせぇな!キルしてやろうか!!》

 

《ははは〜怒った〜!ロードくん(・・・・・)こわーい笑》

 

「ロー……ド……?」

 

「まさか……そんな……!?」

 

カロネとカフカがそのテキストを見て驚愕する。

 

表示された名前はかつての中心人物の名前で──

怒りを躱すその語気はかつてのギルマスのようで──

 

「まさか……アラン!?お前、アランなのか!?」

 

疑問に耐えきれず、keyが思わずそう叫ぶ。

 

《あ?なんだお前ら?今の今まで気づいてなかったのか?》

 

《そりゃそうでしょ?名乗ってないし、テキストデータだけで伝わるわけないじゃん》

 

《ははは、ボスはそういう所ありますよね》

 

テキストはその声にさも当然のように答えた。そしてまた別のテキストが気づかなかった彼らを擁護するような文字を表示させる。

 

「ギル……マス……ギルマス……なんですか……?」

 

《ん?そうだよ〜カロネちゃん久しぶり、おっきくなったねぇ……3年だっけ?》

 

カロネが驚愕に目を見開きながら画面に訊ねる。

また別のテキストデータが飄々とそれを肯定した。

 

一方のカロネは信じられないといったように目を見開き、大粒の涙を零す。二度と会えないかもしれないと思っていた想い人を想って。

 

《んで?お前らは俺たちに会うために色々現実世界(そっち)でやってたんだって?ドクがいるのによくもまぁここまでクソな進捗してんなぁ》

 

《ははっ!ロードくん偉そ〜(笑)ロードくんさっき《俺ならもっと上手くできた》とか言ってたけど、それって#コンパスのメインシステムありきの話じゃん!ドクくんの遺物に頼らないと出来ないのに偉そうだねぇ(笑)》

 

《うっせぇ!》

 

ロード──アランは本題に入る。彼らの目的を全て知った上で、見透かすように。

そんな超人を演じようとするアランを楼閣が茶化す。

 

《まぁ……なんだ、お前らの代わりに俺が準備を整えてやった》

 

アランが話す。同時に#コンパスにいたメンバーは分かってしまった、彼が何を言おうとしているのか。

 

けれど、それのセリフを遮るものはいなかった。

 

《だからよ、来たい奴は手ぇ上げろ!俺は#コンパス(こっち)現実(そっち)を繋げた!戻りたい時に戻れるようにした!だから、こっちに来たい奴は連れてってやる!準備はいいか!?》

 

「もちろん!」

 

「えぇ……!」

 

「まぁ、な。」

 

「行ってやるよ。」

 

「ジャンヌちゃん!」

 

五人が即答する。その様子を見て、他のプレイヤーもけついを新たにする。

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

 

怒号とも似つかぬ叫び声が会場に響き渡る。それを待っていたかのようにアランが言った。

 

《んじゃ、もっぺん向こうで楽しもうじゃねぇか!#コンパスの延長戦だ!》

 

その瞬間全ての灯りが消え、元に戻った時にはステージや舞台裏から誰もいなくなっていたという。

 

その場にいた記者、警備員たち両名の懸命な捜索にも関わらず、だ。

 

ずるい終わりだ。

まだ続くと言うのだから。諦めが悪くもまだ続けると言うのだから。

けれど、不思議と悪い気はしないな。




どうも皆さんお久しぶりです。乱数調整です。
実に12話ぶりのあとがきです。あとがきにネタを入れたかったためあとがきはおやすみさせていただきました。

これにてロリ#コンパス完結となります。長らくのご愛読ありがとうございました。

皆さんのコメントがあったからこそ、続けることができたSSだったと思います。コメントがなければ私の心は折れていたかも知れません。

初めてコメントがついた時、初めてのお気に入り登録が来た時、初めての方からコメントが来た時、増えていくお気に入り登録、更新ごとにくる感想、増えていくUA、それら全てが私を支えてくれていました。

これでこの世界は幕をおろしてしまいますが、読者の皆様の心にずっと、彼らが残り続けますように。

ではでは、今回はこの辺で筆を折らせていただこうと思います。
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