ロリ#コンパス   作:乱数調整

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決めていた。
私の初めては、
これだけは、何年かかろうとあなたと共に。


初めてはあなたと

ある日の夕暮れ。

管理人室の1つ、【トラブルサポートセンター】と書かれた札がかかっている部屋の前に、1人の少女が立っていた。

 

否、その少女はもう少女ではない。3年という月日が少女を大人にしていた。

 

「……………………」

 

彼女は少しだけ緊張した面持ちで【トラブルサポートセンター】の扉をノックする。

 

「………………?」

 

返事がない。

彼女はもう一度、今度は少し強く扉をノックした。

 

「………………ぁぇ?」

 

「………………!」

 

中から気の抜けた声がする。その小さな声を彼女は耳ざとく聞き、中の人物に話しかける。

 

「楼閣……さん……起きて、ますか……?」

 

「………………ねてた」

 

「すぐに……済みます、から……少し……いい、ですか……?」

 

「んっ……!はぁぁ…………」

 

そうカロネが扉越しに尋ねるが、楼閣の返事は鈍い。

かなり眠りが深かったのか、扉の奥からは身体を伸ばしているような吐息が聞こえる。

 

「お疲れ、なら…………また……」

 

「いや、大丈夫だよ〜。とりあえず来てた分の書類は全部終わらせて休憩してただけだから。」

 

遠慮して帰ろうとするカロネにそう言いながら楼閣は【トラブルサポートセンター】の扉を開ける。楼閣はワイドなチノパンにシャツとカーディガンというかなりラフな格好をしていた。

 

扉の奥に見える部屋の中は整頓されており、入って右側にはリビングが見える。リビングの中央には【人をダメにするクッション】が、壁側には本棚がたくさん置かれていた。

扉を中央としてリビングの反対側にはダイニングがあり、大きな机と小さなキッチンがあった。

 

もっともその机の上には書類が散乱しており、そこだけが部屋の中で唯一散らかっているので、ひときわ異彩を放っていた。

 

「こんな時間に来るなんて珍しいねぇ。まだ夕方だよ?」

 

「……!……お邪魔……でしたか……?」

 

「うーん……そうじゃなくてね。いつもはギルドホールで晩御飯食べる時に会う事が多いからねぇ。」

 

楼閣は言外に「そこまで急ぎの何かがあるのか」とアイコンタクトを送る。彼女──カロネはそれに目ざとく気づき、首を横に振った。

 

「いえ……ただ……ちょっと……」

 

カロネはもごもごと口を動かす。

楼閣はカロネが口下手な事を知っているので、カロネをとりあえず部屋に招き入れた。

 

「あー、ベガちゃん?この書類持って行ってもらってもいい?」

 

《分かったよっ!アランさんのとこでいいんだよね?》

 

「うん。お願いね。ささ、カロネちゃん、座って座って。」

 

「え?……ですが…………」

 

「まぁまぁ。私もカロネちゃんに用事あったしちょうど良かったよ〜。」

 

「用事……?私、に……?」

 

楼閣は少しバタバタしながらも散らかっていた机の上を片付ける。

カロネは部屋の中の様子を一目見て部屋に入ることを遠慮するが楼閣はカロネが本心を隠してでも他人を優先することを知っている。

楼閣は有無を言わせずにカロネを部屋へと招いた。

 

「うん。だってカロネちゃん、今日誕生日だったでしょ?」

 

「…………!!」

 

その一言でカロネは息を呑む。

 

まさか楼閣が知っているとは思っていなかったから。

まさか楼閣が何かをしてくれるとは思っていなかったから。

 

「だからはいこれ。プレゼントだよ。」

 

「あ、ありがとう……ございます……!」

 

カロネは楼閣から渡されたそれを大切そうに抱きしめる。表情は一面喜色に彩られており、それを見ている楼閣の方まで表情が綻んでいた。

 

「さて、私の用事はこれだったんだけど、カロネちゃんは?」

 

カロネがプレゼントをポーチにしまったのを見て楼閣がそう切り出す。

カロネの肩がひとつ跳ねた。

 

「あの……ひとつ、だけ……お願いが…………」

 

「なぁに?」

 

息を大きく吸い込み、カロネは自らの願いを口にする。

 

「一緒に……お酒を……飲んで、もらえませんか……?」

 

楼閣がぱちぱちと瞬きをした。カロネはギュッと目を瞑り、答えを待っている。

 

少し考えてから楼閣は合点がいったとばかりに呟いた。

 

「あぁ……そっか。3年経ったんだっけ。」

 

「はい……今日で……20歳です……」

 

カロネが楼閣の方をちらりと見る。

その目は少しだけ、不安そうだった。

 

「でも、なんで私なの?カフカちゃんとか親御さんとかはいいの?」

 

「陽菜乃は……誕生日、まだですし……父が、お酒好きで……たくさん……飲まされそう、なので……楼閣さん……なら……大丈夫かな……って……」

 

「あはは〜。随分と信頼されてるんだねぇ。」

 

楼閣は困ったように笑いながらそう答えた。

カロネは俯いて答えを待っていた。

 

(まだ、続いてるのか。)

 

楼閣はカロネの自分に対する信頼を、ある意味では信じていなかった。

 

[自分がカロネを助けたから、カロネは自分を信じているだけだ]

 

楼閣はカロネの信頼をそう評価していた。

カロネの信頼はある種の白昼夢だと、そう考えていた。

 

カロネたちが現実と#コンパスを繋げようとするまでは。

 

(やれやれ、うちのギルメンは頑固な子ばっかりだねぇ。)

 

知っている。そこまで楼閣は愚鈍ではない。

カロネが自分のことを慕っているであろうことなど、ましてやそれが彼女の白昼夢だろうがそうでなかろうが関係ないところまで来ていることを、現実(あちら)#コンパス(こちら)が繋がった時に見た彼女の表情で知っている。

 

(でも、それには応えられない。こればっかりはダメなんだよ。)

 

楼閣は内心だけで、そう呟いた。

 

「いいよ。せっかくの成人祝いだからねぇ。」

 

「…………!!いいん……ですか……!?」

 

「ギルド入った時も同じこと言ってたねぇ。」

 

繰り返し確認するカロネに楼閣は苦笑しながらそう返す。

カロネは机の下で嬉しそうに両手をにぎにぎしていた。

 

「たーだーし、」

 

嬉しそうなカロネに楼閣が水を差す。カロネが不安そうな顔で楼閣の方を見た。

 

「飲みすぎちゃダメだよ。自分の飲める限界なんて、本来は知らなくていいんだよ。限界まで飲んじゃうくらいの雰囲気の中で飲むのは本来はまずいんだからね。」

 

「………………」

 

楼閣があまりに真面目な顔でカロネを慮るものだから、カロネは驚いてしまった。

無理やり自分が押しかけて、断れないようなことを言った時でも楼閣は他人を優先するものだから、カロネは少しおかしくなってしまった。

 

「…………ふふっ……!」

 

「あー、カロネちゃんいま私のこと笑ったでしょ?」

 

カラカラと2人は笑う。

カロネは心の底から楽しそうに

楼閣は場を和ませるために

 

ベガに酒類の買い出しを頼み、2人の酒盛りはゆるゆると過ぎていった。

 

 

───────────────────────

 

「どうしよう……」

 

孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールの扉の前で、少女が一人悩んでいた。

 

否、その少女はもう少女ではない。3年という月日が少女を大人にしていた。

 

「むむぅ……」

 

彼女は少しだけバツが悪そうな顔で扉の前をうろうろしていた。

 

「あーもう!考えててもしょーがない!かやちゃんのためだもん!」

 

彼女はえいっと気合を入れて扉を開けた。

 

「たっだいま帰りましたー!」

 

「おせぇぞカフカ。」

 

カフカが扉を開けると、奥からロードの声がする。

その声は少しだけ怒気をはらんでいるようにカフカには聞こえた。

 

「遅いですよカフカさん。今まで何してたんですか?」

 

「いやー……それは……ちょっと……」

 

波羅渡に訊ねられてカフカは言葉に詰まった。

カフカは知っている。幼なじみのカロネは楼閣に恋情を抱いていることを。

 

そして、初めてお酒を飲むのは、それがたとえ何年かかろうと楼閣と一緒がいいと言っていたことを。

 

「今日はカロネさんの誕生日なんでしょう?あまり遅くまで連れ回したらいけませんよ。」

 

波羅渡のその言葉を聞いて、カフカの肩がひとつ跳ねた。

 

この人たちはカロネを祝うつもりなのだろう。騒がしいのを好まないカロネが疲れない程度に祝うため、あまり遅くまで連れ回すなと言っているのだろう。

 

カフカはそう考えていた。

 

(言いづらいなぁ……)

 

カフカは悩んでいた。カロネが今日、楼閣と酒を飲むために楼閣がいる【トラブルサポートセンター】に向かったことは知っている。誰の邪魔も入らないようにとカフカが助言したためだ。

 

そして、

 

大切な幼なじみのために【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーは何とか丸め込むともカフカは言っていた。

 

だから余計に言いづらかった。

 

「何してんだカフカ?はやくこい。」

 

「あ、はい!」

 

玄関でずっと悩んでいたカフカはロードの呼び掛けでリビングに入る。

 

「……え?」

 

「何ボケっとしてんだ?お前の分のメシ作ったから早く食え。」

 

そこでカフカが見たものは、いつもと何も変わらない日常風景そのものだった。

 

「え?なんで?……なんで!?」

 

「あ?なんでってなんだよ?別にいつも通りだろうが。」

 

カフカが混乱してロードにそう訊ねるが、ロードは「おまえは何を言っているんだ?」と言いたげな表情でカフカを見ていた。

 

「いや、だって今日……」

 

「カロネの誕生日、か?あいつはどうせ楼閣んとこ行って酒飲んでくんだろ?だったら別になんもいらねぇじゃねぇか。あ、もしかしてお前、このこと知らなかったとかか?」

 

てっきりロードがまた張り切って唐揚げやらなにやらを用意しているものだと思った、とカフカは言おうとしたが、それを察したロードはその必要はないだろうと返す。

 

口をパクパクさせて驚くカフカに波羅渡がジト目で質問する。

 

「……もしやカフカさん、それ知らずにカロネさんを一日中連れ回したとかじゃないですよね?」

 

「いやいや!してないですしてないです!」

 

「ならいいですけど……」

 

慌てて否定するカフカだったが、少しだけ疑問が浮かぶ。

 

「……っていうか、なんでおふたりとも知ってるんですか?」

 

「「勘(です)」」

 

少し呆れたような顔をしたロードと好青年な笑みを浮かべた波羅渡が同時に言ったものだから、カフカはおかしくなって吹き出してしまった。

 

「ははははは!」

 

「……あ?どこに笑う要素があったよ?」

 

「す、すみませ……あははははははは!!」

 

カフカの笑いはしばらく止まらなかった。

それは安堵のためだろうか、それともあたふたしていた自分がおかしくなってだろうか。

 

ともあれ、カフカは平静を取り戻したことでいつもの爛漫さが戻ってきた。

 

「じゃあ今日はギルマスいないんで、テレビ見ながらご飯食べましょー!」

 

「いいですね。」

 

「あー……ま、今日くらいはいいか。絶対楼閣には漏らすなよ。」

 

「やったぁ!じゃあ【パパした】のブルーレイ持ってきますね!」

 

「それはやめろ。」

 

「えー!?なんでですか!?」

 

「どうせBLだろ?」

 

3人の夜はゆるゆると過ぎていった。

 

 

───────────────────────

おまけ

盾と夢魔の深酒

 

「……で、なんでだ?」

 

「何が?」

 

「カロネ。どうしてそう頑なになる?」

 

「当たり前でしょ?私は24の院生、あの子は17の高二。7歳差あったんだよ?」

 

「でも、今は4歳差だろ?」

 

「……だったらなおさらだよ。」

 

「いつ言うんだ?」

 

「……言わない。言ったらあの子は、また無茶をするから。」

 

「……ま、いつまでもっての無理だって分かってんだろうけど?」

 

「………………」

 

「あいつが気づくまでにな。」

 

「分かってる。いつか、必ず。」




先程ぶりです、乱数調整です。

なんか投稿したくなったのでしちゃいました。1週間後くらいのつもりだったんですけどね。
だって1週間後にしたら間がそこまであかないからね!(天:おい)

ネタ帳の「月が綺麗だね」をかける形でなんとかしたらこうなりました。全ては楼閣とカロネが好きすぎる私が悪い。

そして絶妙に空気を読めるロードくん。成長しましたね。
これから楼閣はカロネをどうするのか、私が一番楽しみです。だって決めてないもの。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
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