「うわ、もうこんなに真っ暗だよ。ごめんねぇカロネちゃん、こんな時間まで。」
カロネの誕生日、トラブルサポートセンターで酒を酌み交わし終えた楼閣が外を見てそうこぼす。
「電脳世界、なのに……暗く、なるんですね……?」
楼閣の隣にいたカロネが楼閣に疑問を投げかけた。
カロネも楼閣もほろ酔いとはいえ足元がおぼつかなかったり記憶がなくなったり、何か間違いがあったりするほどは飲んでいない。
2人とも、お互いの会話を楽しめる程度には正気を保っていた。
「あっははー。そこはまぁ、ロードくんがね。私とロードくんは、こうでもしないと日付感覚も曜日感覚も無くなっちゃうから。」
だから「月は現実世界の満ち欠けの周期を再現してるらしいよ?」なんて楼閣はカロネに語りかける。
2人きりで歩いているのはギルドホールへの帰り道。
楼閣の職場であるトラブルサポートセンターで飲み明かした彼らが、自分たちの居場所に戻るための帰り道。
「おっ、今日は満月だねぇ。誕生日に満月だなんて、何かいい事あるかもね。」
そう言って楼閣はカロネに微笑む。
その包み込むような優しい笑顔が暖かくて、カロネの口からつい秘めていた言葉が躍り出る。
「今夜、は……月が……綺麗……ですね……」
不意に発せられたその言葉に、楼閣は驚いて固まる。
視線の先には期待するような、あるいは怯えるような顔をしながら頬を朱色に染めたカロネがこちらを向いていた。
少女の瞳孔は激しく揺れ動き、口元はあわあわと何かを言いたげに動くが言葉が出ない。
しばらくそんな動きをした後、彼女はぎゅっと目を瞑って楼閣の言葉を待っていた。
そんなカロネを楼閣は愛おしそうに、ただ少し寂しそうに見つめてから言葉を返す。
「そっかぁ……月が綺麗、か……うん、そうだよね。月は、もうずっと前から綺麗だったんだもんね。」
遠くの月を見つめながら、楼閣は静かに言葉を紡いだ。
ちらと伺った彼の横顔は何故か儚く悲しげで、カロネはこれ以上何も言えなくなってしまう。
二人の間に、穏やかで冷たい時が流れていた。
「私は、さ?」
しばらく無言のひとときが続いた後に、楼閣が優しい声音で囁いた。
「私は、#コンパスの管理人の1人になったから仕事量も多いし、ロードくんはすーぐ変なこと言い出すし、ポロさんは問題ばっかり起こして回収やら修正やらで時間が取られるし、ずっと働き詰めで寝る時間なんてほとんどないから仕事が一段落したらすぐ寝落ちるし、私がいないと肥大化した#コンパスシステムが回らないってベガちゃんにも言われてるんだ。だから──」
一気にたくさんのことを吐き出してから、楼閣はカロネに告げる。
「だからまだ、死にたくないかな。」
その一言が何を意味するかカロネには分かった、分かってしまった。
申し訳なさそうに笑うその口元が、
優しく垂れるその目尻が、
困ったように八の字を描くその柳眉が、
自分に何を伝えようとしているのか。
「すみま……せん……!あの……えっ、と…………先に、帰り、ます……!」
底抜けに優しい楼閣の態度を見て、カロネは楼閣を直視することができなくなってしまった。
俯いて、顔を赤く染めて、それから身を翻して光の粒を散らしながら逃げるように走り去る。
混乱と悲嘆に暮れ、どこを探しても無くなってしまった自分の気持ちの行き先を探すようなカロネの背中を、楼閣はただ静かに見守っていた。
「……ごめん。でも、ダメなんだよ。」
カロネがいなくなった寒空の下、楼閣は一人呟いた。
「私は、カロネちゃんの隣を歩くことはできないんだ。」
夜空を見上げる彼の表情は、誰も見ることができない。
「あぁ、月はこんなにも綺麗なのにねぇ。」
ただ1つ、夜空の星々を除いては。
楼閣さんの裏(隠れてない)設定から、どうしても楼×カロは悲しくなっちゃう。どうも乱数調整です。
先程のあとがきの続きにはなりますが、1年放置したやつをなんで今さら書いたのって言うと、ぶれどらの実装がきっかけです。
ぶれどらの実装決まった瞬間、私の中のロードくんがぶれどらを#コンパスに実装する光景が見えたので重い腰をあげることにしました。
でもぜんっぜん進まない。なんならぶれどらが実装されても書き終わってない。
「じゃあモチベーションあがるもんを書いたろやないかい!」と書いたのがこれです。なんでモチベ上げるためのやつが悲しくなってんだ。
楼閣さんとカロネちゃんの結末は、いったいどうなるんでしょうか……
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。