「ぅぅぅぅぅぅゥゥゥゥゥぅぅうううァァァァァあぁああああああああ!!」
影は吠えた。天に届けとばかりに、闇よ裂けよ、喉よ焼けろとばかりに。
しかしそこに先程までの威圧感はなく、どこか空虚な空気を孕んでいた。
それにハッとしたのか、楼閣と波羅が動き出す。
「ロード君!落ち着いて!」
「どうしたんですかボス!?」
だが、影は聞く耳を持たない。
ぐりん、と首を廻らせジャンヌ使いの方を見やった。
「!!ジャンヌちゃん、コクリコちゃん連れて隠れてて!!」
『しかしそれでは何の解決にも!!』
《残り30秒です》
「あと30秒で試合が終わる!そうしたらHSも切れる!話はそれからだよ!!それまでコクリコちゃんを頼みたいんだ!」
『は、はい、分かりました!…どうか、どうかご無事で…!!』
そこは流石と言うべきか、彼の行動は迅速だった。
ロリコンの王に助言を貰ってからといい、彼の進歩が甚だしい。
なぜジャンヌ達を隠れさせたかは
「…だってそんな姿、コクリコちゃんに見せるわけにはいかないでしょ。」
との事だ。
彼がなぜそう思ったのかは分からない。けれど、そこには痛みをこらえるような仕草があった。
「…よし、いける。一瞬我を取り戻させるだけ…うん!」
そう言ってジャンヌ使いは一歩を踏み出す。
「……………………………」
対して影は何も言わない。計画を立てたわけでもなく実行した訳でもない彼に思うところはないのだろうか?ただただそこに立っていた。
「そこのジャンヌ使いの子!僕らでここは抑えるから逃げて!このままじゃロード君はコクリコちゃんまで傷つけるかもしれない!!」
出来ません、とジャンヌ使いは思う。自分だってチームの一員だ、止められなかった自分にも非はある、と。
「……?!」
ピクリと影が反応する。それと共に何かを探すような仕草をしていた。
やがてそれは一点で止まる。
【コクリコを抱くジャンヌ】という一点で。
瞬間、空気が爆ぜた。
否、そうと間違えるほどの殺気が影から放たれる。
「コクリコにぃ、触るなあぁあああああぁぁぁぁああああああああぁぁぁああぁぁぁぁあああ!!」
その叫びは怨嗟の叫び。それだけでジリジリとジャンヌ使いが後ろへと押し戻される。
そして影が走り出した。最後の敵であるジャンヌ使いめがけて。
そしてそこに、
「グワッ!?」
波羅が割り込む。
波羅は弾き飛ばされたもののバク宙の要領で着地をし、再び影に相対する。
先回りしていた先見の明と隠密性は普段の
味方には攻撃が出来ずカードも発動できないが味方に触れることはできる。それを利用した着眼点は素晴らしい。
それにしてもただ当たっただけだというのに波羅を弾き飛ばした影の力は相変わらず凄まじいが。
「ア゛ァ゛?てめぇなんのつもりだ波羅ァ…!?」
刹那、殺気が膨れ上がる。味方であっても容赦はしない、絶対ぶっ殺すという意思が影からは見て取れた。もうかなり理性は消えてしまっているらしい。
「ボス!気をたしかに!!これは戦争でも殺し合いでもないんですよ!?」
「そうだよロード君!!試合が終わったらコクリコちゃんは帰ってくるじゃないか!!」
楼閣と波羅が影を諭しにかかる。それに影が答えた。
「本当に?」
「「え?」」
「本当にコクリコは帰ってくるのかよ。」
「そりゃ帰ってくるよ、だってコクリコちゃんは…」
「リス地にも一緒に帰って来なかったのにか!?」
影が怒りを爆発させる。そして続ける。
「アレを鑑みるにコクリコは今敵ヒーローの一部だ!ココがバグっちまったからそのせいでもあるんだろうけどな!!アイツらと一緒でコクリコは泣かねぇのか!!てめぇが保証出来んのかよ楼閣ァ!!」
「それは…」
「保証なんてできるわけがねぇ、んなこと100も承知だ!!俺はあの子に泣いて欲しくない、ずっとずっと笑っていてほしい!!あの子が泣くような世界なら、俺は喜んで世界でも何でも焼いてやるよ!!」
影が雄叫びを上げる。
それこそが、その内容こそが彼の怒りの根幹であり原動力なのだろう。
(……あれ?)
そこでジャンヌ使いは違和感を覚える。
そして今度は、リス地に帰って考えなければならなかった前回と違い今度こそはその場でそれに気づく。
目の下の赤い線が動いていることに。
目の下の赤い線が太くなっていることに。
(…そっか。あれはHSでの装飾じゃない、彼の涙なんだ。コクリコちゃんを守れなくて、その手を掴めなくて散々悔やんで、でもどうしようもなくて、それで暴れてたんだ。)
彼は気がついた、ロードが影となって暴れている理由に。
彼は気がついてしまった、何が彼をあんなふうにしたのかに。
(それが分かっちゃったらもう、取れる道はひとつしかないじゃん…ずるいね、あなたは。)
そしてジャンヌ使いは決断する。
「ジャンヌちゃん!コクリコちゃんを連れてきて!!」
『し、しかし…』
「いいから!!コクリコちゃんをあの人に返すよ。」
そこでジャンヌは目を見開く。
『しかし、そんなことをしてはコクリコットさんは…!』
「いいから早く!!バトルが終わったら手遅れになる!!」
そう言われてジャンヌは自らの主とコクリコに何度か視線を彷徨わせた後に意を決してコクリコを地面に下ろした。
『??お姉ちゃんどうしたの?』
コクリコは首を傾げて訊ねた。
その目に怯えの色はないのだが影にはそうは見えていないのだろうか。
「コクリコちゃん、あそこに黒い人が見えるかい?」
『うん、あのまっくろなひとがどうしたの?』
「あの人のところに言ってほしいんだ。」
『それはダメです!!あまりにも危険すぎます!!』
その言葉にギョッとした様子のジャンヌが割り込む。
しかしジャンヌ使いは言葉を止めない。
「あの人のところに行ったらお兄さんが来てくれるはずだから。怖いかもしれないけど、できる?」
『うん、コクリコね、いい子だからね、お兄ちゃんが来てくれるならがんばる!』
「うん、いい子だ。じゃあ行ってきて。」
そう言ってジャンヌ使いがコクリコを送り出すとコクリコは1人で歩み出した。
「!!どけぇ!!」
それに影が気づき波羅と楼閣を突き飛ばす。
両者とも十数メートルは飛ばされていた。
「ああああああああぁぁぁああぁああああああああああああぁぁぁ!!」
しかしそこにいたのは完全に理性を吹き飛ばした影だった。
目は白目を向き、髪は全て逆立ち、身体のほとんど全てを影に侵食されていた。
『ひっ…!』
その姿にコクリコが怯える。無理もない、先程よりも濃密になった殺気を放ちながらこちらへかけてくるのだ。
距離はどんどん縮まっていく。
影はその拳を振りかぶって、
「ダメっ!!」
ギィン、と音を立てジャンヌ使いが盾でその攻撃を受け止めた。
コクリコの右側に立ち左手の盾だけを出して、視線を遮らないように攻撃だけを受け止めていた。
「よく見て!」
ジャンヌ使いが語りかける。
影の攻撃の手は緩まない。
「誰を助けたかったのか、よく考えて!思い出して!!あなたが俺にしてくれたように、ちゃんと考えて!!」
そう言い終わった瞬間、びくりと影の体がはねた。
そして影の攻撃が勢いを失う。
そしてコクリコを見る。
「コクリコ!!」
ブワッとロードの体にまとわりついていた影が霧散した。
それと同時にロードの姿が見える。
そしてロードはコクリコを抱きしめる。それは強く、二度とこの手を離さないと言わんがばかりだった。
『…お兄ちゃん?どうしたの?』
「コクリコ…コクリコぉ……」
ロードは泣いていた。それは先程までのような血涙ではなく、どこまでも透き通るような無色の涙だった。
『お兄ちゃん泣いてるの?』
「………っ!…………ぅ…っ………くっ…!」
『お兄ちゃんがんばったね。がんばったからいい子いい子してあげる!』
「…っああああああああぁぁぁああぁぁぁぁあ!!」
ロードが叫び声を上げた。しかしそれは先程までとは違って安堵に濡れていた。
「ロード君…」
「ボス…」
その声でチームメイトの二人も気がつく。
なぜロードがあれほどまで荒れていたのか、自分たちのやり方のどこが間違っていたのか。
「おい、ロリコンの王にコクリコ取られてんぞ!」
「いやでも動いてないから今がチャンスだろ!やるぞ!!」
そこにオートロックと女装家が現れる。
2人は良くも悪くも勝つことしか考えていないらしく、空気を読まずに突撃をする。
ロードは動かない、動こうとしない。今はこの腕の中から離さないとばかりに。
「よし、お前はジャスティスを任せ…」
そう言いかけてオートロックは口を閉じる。なぜならジャンヌ使いが彼の前に立ちはだかったからだ。
「…なんのつもりだ?」
「どうもこうもないよ。こんなにいいシーンを邪魔するなら俺がここで止めるよ。」
「それになんの意味がある?」
「さぁ?ないんじゃない?でもお前らのしようとしてることよりはいくらかマシだよ。」
二人は見つめ合う。互いの瞳に敵意を湛えながら。
「やめだやめ。お前がそう言うんだ、なんかあるんだろ。その前にギルメンで争ってもなんにもならねぇしな。」
オートロックが諦めたように言う。
「それに…」
「それに?」
「あいつのあんな姿なんてめったに見られるものじゃないしな。」
そう言ってオートロックは快活に笑う。
そうだね、とジャンヌ使いも笑う。
《バトルが終わりました》
「コクリコを泣かせるなら、神でもぶち殺してやる。」
1位はロードだった。
またも長らくお待たせしました…めちゃくちゃあの変態がカッコよくなってるし…
あの~、はい、ぶっちゃけちょっと短くしました。変態とオートロックの戦いなんて誰も見たくないと思いましたので…
次回は!(快活)もっと早く!(宣言)投稿を(普通)出来たら(不安)いいな~(願望)なんて…(小声)
そう言えばそろそろ2000アクセス突破します。皆様応援ありがとうございます。
まぁ最近出てきているコンパスSSには負けてるんですけれども。
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。