「うー!惜しかったねぇ……」
バトルが終わって広場に戻った私たち。イスタカさんの制圧は、あと1フレームあれば勝ててた、位の位置で止まった。もうちょっとだったんだけど……
「やっぱりあの子上手だねぇ……」
『あぁ、しっかり戦況を把握できている。部下にいれば俺も安心して背中を任せられただろうな。』
あ、やっぱりジャスくんもそう思う?
まぁ、終わったことを嘆いても仕方ないよ。
そんな無駄話をしながら、とりあえず敗北気分を変えるために広場をぶらぶら歩いている。
「あの……すみませんでした……」
「ん?ドクくんどうかした?」
「いえ……初手に妨害に行かなかったのがかなり響いていて……あそこを僕がちゃんとしていれば勝ってたのに……」
あー……ドクくんそういう所ナイーブなんだよねぇ。
まぁ、だから頭冷やすために歩いてるって言うのもあるんだけどさ。
「まぁまぁ。気にしすぎちゃダメだよ〜ドクくん。」
「ですけど……僕のせいで楼閣さんに黒星付けちゃいましたし……煽られても仕方がないプレイをしました……」
うーん……この子、変なところで真面目だからねぇ……正直面倒くさいよ。
「んー……あ、そうだドクくん、【将棋】知ってる?」
「……知ってますけど、今それ関係ないですよね?」
はっはー、めんどくさい子になったねぇ。いつの間にそんなに可愛くなくなったんだい。
「羽生名人が7冠取った時のあの人の戦績知ってる?」
「知りませんけど、タイトル全て取ったんでしょう?全勝してるに──」
「
「…………え?」
「逆に言えば、どんな強いひとでも4割は負けるんだ。【#コンパス】はソシャゲだからもうちょっと高いだろうけど、それでも8割とか9割、全勝ではないだろうねぇ。」
全勝なんて、できる人はいないんだ。どんな人も負ける時は負ける。その割合を努力によって減らしているだけで、全てに勝つことなんてありえない。
「だから、さ。そんなに気にしなくていいんだよ。終わったことを悔やんだり文句を言うよりも、改善点を挙げてその時の最善手を探して、咄嗟にその行動ができるようになってれば、それでいいんだよ。」
「………………そういうものなんでしょうか?」
ドクくんが納得がいかないような顔をしてこちらを見ている。
彼はうかない、どこか焦ったような顔をしていた。
「そういうものだよ。少なくとも、もう1回あのミスをしなければ私は別に文句言わないよ。」
だから私は、強く肯定する。彼が何に悩んでいるのかは分からないけど、断定は大切だからね。
「ドクくんは今、【
「……はい、頑張りま──待ってください、僕スタン2枚デッキなのに【脳筋】って言われてるんですか!?」
「…………(はにかみ)」
「誤魔化さないでくださいよ!!」
「まあまぁ、熱くならないの。」
「誰のせいですか!?」
ドクくんにはちょっと悪いけど、こうやっていじられてムキになってる方がずっとドクくんらしい。
「気にしない気に──アレ?ヴィオレッタさんだ……まといちゃんとアダムくんもいる?」
遠目にそのキャラ達が見えた。何か話してるっぽい?
「ね、ドクくん、ちょっと行ってみようか?感想戦とか出来たらもっと良くなるだろうし。」
「そんなのいいですから、早く次のバトルに──」
「ブレーカー」
「行きましょう、今すぐにでも!!」
これはいい言葉だね。私は魔法の言葉を手に入れてしまったみたいだよ……フッ
『楼閣……お前はいつの間にそうなってしまったんだ……』
えー?前からこんな感じだったよぉ〜。
まったく、ジャスくんは酷いんだから。
てくてくと私たちが3人に近づいていくと、だんだんと話している内容まで聞き取れるようになってきた。
「ホントにすごいよ!さすがは【
「ほんとにな!俺達も【
「あ、ありがとう……ございます…………」
おぉ……まといちゃん使いの女の人とアダムくん使いの青年大絶賛されてるねぇ……ま、あの子上手いし当然か。
何気に2つ名まで付いてるし。
「ホントに助かった!固定組んでみてここまで相性がバッチリ合う人、今までいなかったよ!!また固定──そうだ!ウチのギルドにおいでよ!」
「おぉ!!そいつは名案だな!【
「えっ!?……いえ…………その……私は──」
『アンタが来てくれるってんなら百人力だよ!アタイなら大歓迎さ!』
『俺も賛成です。貴女に来ていただけるととても頼もしい。』
「あ、あの……私……ホントに……」
「ね!?いいでしょ?だって初めてなのにあんなに連携出来てたんだもん!あたし達、2人だけだからいろんな所に傭兵として雇われてたけど、3人になったらそんなことしなくてもいいしさ!【
「俺たち絶対相性いいって!【
「あの……あぅぅ…………」
あー……あの子あたふたし始めちゃったよ。
あの二人も察してあげればいいのにねぇ……ま、戦力として申し分ないから周りが見えなくなってるんでしょ。
だから私は彼女に話しかけた。道端で偶然にあった知人かのように普通に。
「やっほーカロネちゃん、久しぶりだねぇ。」
「あの…………あ……楼閣さん…………お久しぶり、です……」
「はっはー、今回は見事にしてやられちゃったよ〜。」
「いえ……楼閣さんとの……直接対決、も……なかった、ですし……【お母さん】も……なかった、ので……やりやすかった、です……」
「あー、あのカード、ヴィオレッタさんの特徴を全否定してるもんねぇ。もっと下方してもいいと思うんだけどねぇ。」
「そうなると……嬉しい……ですね……」
少し話すと彼女──カロネちゃんはクスクスと笑う。
すると、当たり前だけどその様子を見て面白そうじゃない人が4人。
「ちょっと【
「そうだぞ!俺達が話してる時に横から入ってきやがって!」
『列の横入りは頂けないよ!』
『順序というものをご存知ないのでしょうか?』
もちろん今まで話してた2人とそのヒーロー達だ。
まぁ、彼らからしてみれば勧誘中に横入りしてきたってことになるから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
「でもね?困ってる子に詰め寄るのはいただけないよ。カロネちゃんの話、君たちは聞いてあげたのかい?」
「そんなの入るに決まって──」
「〈入るに決まってる〉?
それだけ長い間、利益しかないようなギルドに所属してない理由が【合うところがない】だけなわけが無い。
それなら、他に理由があるはずだ。
「でもそれはよ!」
「詭弁?極論?妄言?……そうかもしれないね。でも、話も聞かずに一方的に押し付けるよりはマシだよ。勝手な想像で全てを決めるより、ずっといい。」
100%の善も100%の悪も存在しない。彼らは彼らの善で動いていただけ。それがカロネちゃんの悪になる可能性も考えずに、ただ妄信的に。
それが悪いとは言わない。大抵そういうものだし、私だってちょくちょくやってしまう。
だからこそ、誰しもがやってしまう可能性があるからこそ、気をつけなければならない。
「話はちゃんと聞いたげないと、ね?」
「……悪かったよ。」
ちょっと不服そうだったけど、アダムくん使いの子はそう言って頷く。物分りのいい子は嫌いじゃないよ。
「もちろん私だって勧誘するなって言ってるわけじゃないからね。勧誘するなら相手の意思も聞いたげようってことなだけだから、勧誘したこと自体を否定してるわけじゃないよ。」
「うん、分かってる。ちゃんと相手の意見を聞く、覚えた!それで?【
私が言い終わった後、手でどうぞと示すとまといちゃん使いの子がそう言ってカロネちゃんに聞き返した。
やっぱりまといちゃん使いの子、相当ワクワクしてるみたい。
「あ、あの……私……ギルドには……入りたくなくて……」
「えー!そうなの?なんでなんで〜?」
「え、えっと……それは……言え、ません……」
「えー!なんで〜!教えてくれたっていいじゃん!」
「そうだぞ!理由なく断られても納得いかねぇ!」
「あ、あの…………」
いやはや、カロネちゃんもまといちゃん使いの子もアダムくん使いの子も、みんなみんな若いねぇ。
若いっていうのは強みでもあるけど、視野が狭いから見ててやきもきするよ。
「はい、おしまい。それ以上はダメだよ〜」
「なんでですか!」
「納得いかねぇよ【
一旦話を打ち切ってこっちに注目を向けさせる。
まぁ案の定2人とも食ってかかってくるんだけど。
「察してあげないとダメだよ。理由を言わないってことは、あんまり言いたくない事だって分かったげないと。カロネちゃんも、ギルドに入るメリットは分かってるんだよね?」
「は、はい……」
この子は聡いから、ついつい周りのことを考えすぎてしまう傾向がある、んだと思う。そうじゃないとあんなジャストサイレントなんて決められないだろう。
「メリットが分かってるけど入りたくないってことは、あんまり言いたくないってことだよ。そこをあんまりほじくり回しちゃダメ。」
「…………わぁったよ。」
「あたしも……なんかごめんね?」
「い、いえ……気に、しないで……ください……」
うんうん、これで円満解決だね。
「そう言えば【
あぁ、そういえば感想戦しようと思ってたの忘れてたねぇ。
「感想戦でもしようと思ってたんだよ。まといちゃんの火筒、凄いねぇ。」
「お!それそれ!俺も初めて知った時驚いたわ!」
「あたしもー!打つ位置指定できるんのはちょっと前に知ったんだもん!タメを長くして手前に落とすのがもう刺さりまくりだよ!まといホントに凄い!」
『ちょいと!そんなに褒めないでおくれよ……///』
なるほど……その辺も仕様変更があるのね。まぁ正直言って打ち込む位置が奥に進んでいくのは不自然だもんね。
ヒーローと会話ができれば解決する部分はゲームとかなり変わってるのか。
『理解していなかったとはいえ、ご報告が遅れたことを謝罪しなければなりませんね……』
「いやいや!知らなかったってことを分かってなかったんだから仕方ねぇよ。普通に考えたら当たり前なことをわざわざ言うほどアダムはバカじゃなかったってことだ。」
『……随分とお優しいのですね。』
「おう、相棒だからな。あとアダムがちゃんと分かって動いてくれてるから【
アダムくん使いの子はニカッと人好きのする笑顔を浮かべてそう言う。
それをまといちゃん使いの子が見ていた。
「ん?ヒイラギ、どうかしたか?」
「なっ、なんでもないよ!」
ははぁ〜ん……
「甘酸っぱいねぇ……」
『だよねぇ。アタイ見ててやきもきするよ。』
『俺もです。お二人がこれからどうなるかが少し楽しみですね。』
「「そこ!コソコソ話すなっ!」」
ハモった。仲良いねぇ……
「それじゃ、あとはお若い二人に任せて私たちは退散しよっか、カロネちゃん。」
「え!?は、はい……」
私が甘酸っぱいものを見てツヤツヤしながら振り返ると、そこには死んだ魚の目をしたドクくんがいた。
「あ、ドクくん忘れてた。」
「いや酷いです!?」
長い……回を追うごとに1話が長くなっていってます、乱数調整です。
さて、恐らく今年最後の投稿になりますね。今年も一年お疲れ様でした。
今章は私が書きたかった章のトップスリーに名を連ねている章なので結構サクサク筆が進みます。えぇ、サクサク行き過ぎで序盤で物語が終わってしまいそうです。楼閣にネタは難しい。
カロネがギルドに所属したくない理由とは?
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。