「ごめんってドクくん、機嫌直しなよ。」
「そうは言いますけど、結局感想戦しなかったじゃないですか!」
カロネちゃんと試合をした数日後、まだむくれてるドクくんの部屋の前で私は呼びかけていた。
「え〜?ちょっとはしたよ〜」
「ほぼないようなものです!」
むー……ドクくんかなりご機嫌ななめだねぇ……
「バトル行かないの〜?」
「今日という今日は本当に行きません!」
「ブレーカー」
「予備電源付けました!」
…………ドクくん賢くなったねぇ……
「どれだけその言葉で脅されてると思ってるんですか!?」
し〜らない。
「とにかく!今日は僕、この部屋から一歩も出ないので!」
なんてこったい、ドクくんが反抗期だよ。
「だってさ〜ジャスくん。酷いよねぇ〜」
『いや、お前も人のこと言えないと思うぞ楼閣……』
ジャスくんまで私をいじめる……
「ま、そういうことなら今日は休みにしちゃうかな。イスタカさんもロードくんたちの方に行ってるし、私ひとりでバトアリ行ってもだしね〜。」
よし、今日は休みだ。適当にその辺ぶらつこうか。
そう考えながら私はギルドホールを出た。
──────────────────────
「とはいえ、どうしようかねぇ〜……」
突然休みになったから何しようか全然決めてない。
なんか今日はゆっくりしたいから……
「ベガちゃん、一番近い温泉ってどこにある?」
《えっと……一般施設としての温泉はないよ》
え、温泉ないの?
《あのね……たしかギルドホールの拡張に温泉があるから一般施設としての温泉は存在しないの》
あぁ……なるほどね。じゃ、別の暇つぶしを考えようか。広場でリプレイ見るのもいいしね。
「それじゃジャスくん、適当にぶらぶら歩こっか。」
『身体を休めるのがいいと思うが……まぁお前がそれでいいなら俺は構わん。』
「まぁ、楽しむ時に楽しむのは精神を休めるのにはいい事だよ。」
そう言いながらぶらぶらと広場に出てくる。
……ん?あそこになにやら人だかりが出来てるねぇ。
「ジャスくん、ちょっとあそこ行ってみよっか。」
『あぁ、俺も少し気になっていたところだ。』
人だかりに近寄っていくと音楽が聞こえてくる。ピアノの音だ。それに……歌声も?
「ちょっと通してね〜っと……」
『俺は楼閣みたいに細くはないからあれは無理だな……』
人混みをジャスくんを置いてかき分けて行くとその中心にはカロネちゃんとヴィオレッタさんがいた。
ヴィオレッタさんが曲を自前のピアノで弾き、カロネちゃんがタイミングを測っていた。
そしてカロネちゃんがおもむろに息を吸い込むと、歌い出す。
♪♪~
ねぇ誰か教えて
ここはどこで私は誰?
問はいつしか空に溶け
皆口を噤む
誰もが知らずいる
私のことを
誰もが知りえない
私でさえも
~♪♪
よく通る、澄んだ綺麗な声だった。思わず聞き惚れるほどに。
辺にいた観客から万雷の拍手が起こる。ヴィオレッタさんの綺麗な演奏に、美しい歌声。当然といえば当然の結末なんだけど、それでも感心するほどの完成度だった。
「この曲……たしか【
周りの観客が大熱狂でおひねりを投げる中私は密かに感心する。カロネちゃんはそういう才能があるのかもしれないねぇ。
『次の曲に参ります。』
「は、はい……!」
ヴィオレッタさんにせっつかれつつも、カロネちゃんの表情は楽しそうだった。
ヴィオレッタさんがまたも演奏を始める。今度は……えらくアップテンポな曲だよ!?
たしかこれ、【戦闘!ウルトラビースト】じゃなかったっけ?
カロネちゃんポケモン好き……いや、今はそこじゃない。カロネちゃん、こんなイケイケな曲も歌うの!?
♪♪~
Suddenly I was thrown into a strange place.
(突然知らない場所に放り込まれ)
Attacked for some reason but I don't know why.
(わけも分からず襲われる)
Tell me your justice?
(ねぇ、なんでか教えてよ?)
Tell me your idea?
(どんな考えで私を襲うの?)
Everyone raid me without to tell me the reason.
(誰も教えてくれず、私を襲うの)
Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate Retaliate
(報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ報復だ)
Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
I'm not doing anything to anyone!
(誰にも何もしてないじゃない!)
So this is legitimate defense.
(だからこれは正当防衛だよ。)
"If you can't accept my statement,
leave me alone."
(もし受け入れられないなら私を一人にしてよ。)
But my wish disappears like a daydream.
(けど私の願いは夢のように消えるの)
Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.Do my revenge.
(復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ復讐だやっちまえ)
Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!
~♪♪
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」
さっきの曲とはうってかわって、カロネちゃんが荒々しく歌い上げる。その姿に観客たちは沸き立った。
それは、いつもの雰囲気と違うカロネちゃんにだろうか?
それとも歌詞にだろうか?
その歌詞が、作中のウルトラビーストたちに向けられたものでも、今の私たちに向けられたものでも、
それは、とても的を射ているもののように感じられた。
その後も何曲か、既存の曲に歌詞を付けたものをカロネちゃんが歌っていた。
そしてその度に、観客たちのテンションは上がっていく。
天井知らずに上がっていく。
『本日のリサイタルはこれで終了です。また一週間後に、新曲を用意しておきますわ。』
「あ、ありがとう……ござい、ました……」
観客が大熱狂でおひねりを投げ続ける。けれどカロネちゃんはそれが恥ずかしいことかのようにヴィオレッタさんの後ろに隠れていた。
「…………ジャスくん、ちょっとカロネちゃんと話してもいいかな?」
『ん?あぁ、いいぞ。特にほかの予定もなかったわけだしな。』
お前がそんな自分から何かを提案するのは珍しいな、とジャスくんは続ける。確かにそうかもしれない。けど、気になったことは調べておきたかったんだ。
人混みが散っていく。
「…………いなく……なりました……?」
「うん、もう誰もいないよ。」
「!?……あ……楼閣、さん……お久しぶり、です…………」
驚き……ました……とカロネちゃんは続ける。私もそんなにビックリされるとは思ってなかった。
「上手だったねぇ。毎週ここでやってるの?」
「は、はい……その……ヴィオレッタさん、と……一緒に……」
へぇ……凄いんだねぇ。
「い、いえ……すごいのは……ヴィオレッタさん……です……」
『カロネさん、あなたはもっと自分に自信を持つべきですわ。』
「で、ですけど…………」
『わたくしは演奏をしているだけに過ぎません。あれほどまで人々の心を動かしているのは、あなたの歌ですわ。』
「そう……ですかね…………?」
ふーむ……自信が無いと来た。
もうちょっと自惚れるくらいがちょうどいいんだけど……
「そういえば、カロネちゃんはなんでリサイタルを開いてるの?」
「えっと……私……戦いたく、ないんです……けど……戦わ、ないと……生活できない……って聞いて……なら……こうやって……お金、を……集めよう……って……」
「それが、ギルドに入りたくない理由?」
そう聞くと、カロネちゃんは緩慢に首を振る。
「私……人が……怖い……ん、です……知らない……人に……話しかけ、られる……と、怖くて……」
「だから、知らない人がたくさんいるところにはいたくない?」
「…………はい。おかしい……ですよね……?利益……より……私情、を……優先する……なんて……」
カロネちゃんが自嘲気味に笑う。その笑顔は今にも崩れ落ちそうで、弱々しかった。
きっと、過去に何かがあったんだろう。
私はそれを知りえないし、知ったかぶりはできても理解はできない。私とカロネちゃんとでは経験も内面も違う。
それっぽい経験でわかった気にはなれても、100%の理解はできるはずがない。
でも、
「いいんじゃないかな?」
「…………え……?」
「それでもいいんじゃないかな?無理してやることでもないし、誰もカロネちゃんの感じてる怖さは分からない。なら、無理することないんじゃないかな?」
無理して自分の思いを凍らせて沈めて。そうやって心が壊れてしまった人は、たくさんいる。
周りからの心ない言葉は言われた人の心を削る。
折れたのならば 繋 げ ばいい
割れたのならば付ければいい
千切れたならば 結 べ ばいい
縺れたのならばまつればいい
穴が空いたらば 塞 げ ばいい
砕けたのならば集めればいい
凍ったのならば温めればいい
抉れたのならば 塞 げ ばいい
けれど、
削れたものは元には戻らない。
削った末にできた粉をかき集めても、元には戻らないように
削れた心は、二度と元には戻らない。
だから、この子にはそんなふうにならないで欲しい。
周りがなんと言おうと、この子の意思は尊重されるべきだ。
尊重した上で間違いを糺すのが、私たち大人の役割だ。
「カロネちゃんはカロネちゃんの思うようにすればいい。決して無理をしちゃあいけないよ。なんでもゆっくりで、いいんだよ。」
「そういう…………もの……です、か……?」
「うん。そういうもの。」
「はい……!頑張り……ます……!」
「はい、頑張るの禁止〜。無理はダメ。」
「…………はい。」
そう言ってカロネちゃんはふわりと笑う。とても楽しそうに、笑う。
『ねぇハンコックさん、あの方は、不思議な方なのですね。』
『あぁ、優柔不断で飄々としているくせに、あいつの言葉はなぜか響くんだ。……本当に、不思議な奴だ。』
「ちょっとジャスくん!よく聞こえなかったけど悪口は許さないよ!」
ジャスくんはすぐにからかうんだから……
「仲……いいんですね……!」
「ん?うん、相棒だからね。」
カロネちゃんは楽しそうだった。この時は。
この時は、あんなことになるなんて思ってなかったんだ。
カロネちゃんも、私も。
今年の書き納めですね、乱数調整です。
今回はカロネ演奏回でした!ポケモンの曲に適当に歌詞をぶち込んだだけなので、歌詞に特に深い意味はありません。楼閣、お前の予想は外れてるぞ(天:いや、そう言わせたのは誰だよ?)
書いてるのはすごく楽しかったのですが、そのせいか本文の量は短いです(天:おいコラ)
次回、事件が?
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。