ロリ#コンパス   作:乱数調整

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当惑と嵐

「あー……なぁんにもしたくなぁ〜い……」

 

『楼閣……お前、この前の休みからそんな感じだな……いや、バトル自体はさっさと終わらせるって息巻いて普段よりいい動きをしているが……』

 

「だってぇ〜このクッション凄いんだも〜ん」

 

この前出かけてカロネちゃんと話したあと、デパートに行ってこのクッションを買った。

曰く【人をダメにするクッション】らしい。正直もう何もしたくない。ずっとこのクッションで横になっていたい。

 

『いや、本当にダメになってどうする。』

 

『ハンコック、この物体の危うさが分かっていないゆえそのようなことが言えるのだ。』

 

ん〜?イスタカさんは分かるの〜?

 

『あぁ、昨日少し拝借してな。危うく戦士の誇りを捨てるところだった。』

 

いや何してるのさ。

 

『ちなみにマピヤは幼児帰りした。』

 

いやマピヤもかい……

 

『心配ない、今はもう元に戻った。我らは二度とそれには触らん。今度こそ誇りや矜恃を捨ててしまいかねんからな。』

 

いや、そこまで大層なものじゃないよ?

 

『……俺からしてみれば、効果覿面なんだがな。』

 

ジャスくんは深くため息をつく。そんなことないと私は思うんだけどねぇ……

 

「もう私、今日はずっとここにいる〜……」

 

『起きろ楼閣。このままだとダメ人間まっしぐらだぞ。』

 

そう言ってジャスくんは私をクッションからぺいっと引き剥がす。ジャスくんの対応が最近冷たい気がする。

 

「ジャスくんの鬼ぃ〜……」

 

『ほら、いつまでもグダグダしてないで出かけるぞ。散歩のひとつでもしないと身体が鈍る。』

 

現代日本の社畜は、休みの日はなんにもしたくないんだよ〜……

 

『社畜いうな。早く着替えろ。』

 

「仕方ないねぇ……ま、私もお散歩は好きだしいいよ。ジャスくん服とって。」

 

『甘えるな。』

 

冗談だよ冗談。

 

私はいそいそと服を着替える。

……この【着替えたから出かけないといけない】感はなんなんだろうね?

 

「それでジャスくん、どこに出ようか?商店街?商業区?服飾街?それとも広場?」

 

『そうだな……散歩目的ならとりあえず広場だろうな。広場の緑化区画に向かおう。』

 

ジャスくんは緑が好きだねぇ。

やっぱり、戦場で見るのとは違う緑は落ち着くのかな?

 

そんな益体もないことを考えながら行き先を指定して広場の緑化区画に来る。

 

ワープして出てきたのは木漏れ日がちらほら見える森林公園。

 

「…………なんかこうさ、ワープして出てきたら現実世界みたいに【森に来た!】って感じがないよね。」

 

『まぁ……な。しかし区画同士がかなり離れているから、歩いていきたい距離ではないのも事実だ。』

 

それもそうだね。

にしてもここは涼しいよね。夏が過ぎて秋に入ってるみたいだからちょっと肌寒いくらいだけど。

 

薄い上着でも羽織るか。一応持ってきてて良かった。

 

てくてくと緑の小道をジャスくんと2人で歩いていく。

頬を滑る風が気持ちいい。木漏れ日と相まって眠たくなってくる。

 

「んー……いい風……とりあえず噴水に行ってから雲上の魅鐘まで歩くコースでいい?」

 

『あぁ、あの太陽を模した鐘だな。承知した。』

 

森林公園の道をジャスくんと2人でてくてくと歩く。

ジャスくんとなんの目的もなく出かけるなんて今まで無かったんじゃないかな?

 

初めはこっちに来て混乱してたし、仲間をみつけようとか暮らしに慣れようとかしてたし、それが落ち着いたら今度はイスタカさんがやって来てこっちの常識とか箸の使い方とか教えたりして。

 

「大変だったねぇ、ジャスくん。もう2ヶ月くらい経ってるのかぁ……」

 

おっと、柄にもなく感傷に浸っちゃったよ。まだ何も終わってないのに懐かしむのは早すぎるね。

 

♪♪~

 

そんなことを考えているとどこかから音楽が聞こえてきた。

ピアノの旋律に歌声が乗る。これは……たぶんカロネちゃんだね。

 

少し探すとカロネちゃんを見つけた。

 

「あ、久しぶり!」

 

「え……あ……お久しぶり……です……」

 

「それ新曲?」

 

「は、はい……今……考えてる……もので……」

 

「ふ〜ん……そういうの好きなの?」

 

「はい……私じゃない……誰か、の……話……なので……」

 

「じゃあさ、うちのギルドにおいでよ!」

 

私がカロネちゃんに話しかける前に、別の女の子が彼女に話しかけていた。

カロネちゃんはオロオロしながらもテンポよく質問に答えていく。

 

けれど、最後の一言で凍りついていた。

 

【ギルドに来ないか】それだけなのに。

 

「うちなら環境をいい感じに整えられるよ!バトルしなくてもいいくらいにはみんなで稼げるし、音楽があったらみんなの士気が上がると思うんだ!どう?【紅の狩猟団】に来ない?」

 

「え……っと…………あの……」

 

「うちは女の子ばっかりだから変な心配もいらないしさ!すっごいオススメだよ!おいでよ!」

 

カロネちゃんが気圧される。断る時も相手のことを考える彼女らしい行動だが、この場合は悪手だ。

押せばいけると思われる。

 

「あの……ごめん……なさい…………その……私は……行け、ません……」

 

カロネちゃんが断る。時間はかかったが、精一杯の勇気を振り絞ったのか額にはうっすら汗をかいていた。

 

「…………そっか、気が変わったら──」

 

「だったら!」

 

そう言われて誘っていた子が諦めたその時、別の人がその話に割り込んでくる。

 

「だったらうちに来いよ!俺のとこはガチギルドだけどお前のPSなら誰も文句言わねぇさ!」

 

彼はカロネちゃんを自らのギルドへ誘う。多少強引とも言える口調で、誘う。

 

そして──

 

嵐は起こった。

 

「それならうちの方がいいさ!人数も申し分ないしよ!「いや、ウチに来いよ!タンクがいねぇから来てくれるとありがてぇんだ!「いいやうちだね!うちの方がいい対応ができる!「お前ら、寝言は寝てても言うなよ不愉快だ。明らかに俺たちのギルドの方が良いに決まってる。「喚くな雑種。【不屈の不死(アライブ・ライブ)】は我ら【神に届く白軍(ナイト・オブ・ナイツ)】が貰っていく。「あぁ!?大手だからって調子に乗ってんじゃねぇよ!!「有名な所に所属した方が色々と都合がいいだろう?どうだ?俺たち【壊滅的ナタデココ(カタストロフィロス)】に──「お前バカか?【不屈の不死(アライブ・ライブ)】は【高低熱処理(HAラヴァーズ)】の勧誘断ってんだよ。ウチみたいな中小ギルドの方がだなぁ──「なぁアンタ、ヴィオレッタなんて環境の敗北者みたいなキャラ使ってんだ、俺たちと同じで一番使ってたキャラじゃないんだろ?どうだ?【半端者たちの茶会(セカンドオピニオン)】に来ないか?「いいや、やっぱり大手は地力がちげぇよ。なぁ、【その手に掴み取れ(ライク・ア・シューティングスター)】に──「やっぱり女子が多い方が【不屈の不死(アライブ・ライブ)】的にもいいよね?うちのギルドはどう?「有名、無名、そんなの人の勝手。本当に強いプレイヤーなら好きなキャラで頑張るべき。でしょう?ねぇ、うちの【アニオタの巣窟】に──「【高低熱処理(HAラヴァーズ)】の勧誘を断ったってことは、人数多い方がいいんだろう?だったら【放蕩物たちの茶会(ディボーチェリー・ティーパーティー)】は人数も多いし良いと思うぞ!「おいざけんな!俺が先に勧誘してんだぞ!「あ?順番なんざ誰が決めたんだよ?ぶち殺すぞ?「喚くな雑種ども。最終的にはうちに入るんだ。無駄な争いはよせ「てめぇ、さっきから何様のつもりだよ?「黙って聞いてりゃどいつもこいつも、自分の言い分ばっか言いやがって、本人に聞いてみりゃいいだろうが。「は?うちに入るに決まってんのになんでそんなこと──「どっからその自信は湧いてくるんだ?いっぺんドタマかち割って調べてやろうか?「上等だかかってこいよ「ねぇ、この隙にこっそりうちに入っちゃいなよ。こんな争い不毛でしょ?

 

そこにたまたま居合わせた人達が一斉にカロネちゃんに勧誘を始めた。彼女の答えなんか聞かずに、一方的に。

誰もが利己的で、排他的で、どうしようもないほど醜い争いがそこかしこで起こっていた。

 

そこには確かに伝えたい何かが、あったはずなのに。

 

『カロネさん!ちょっと!通してちょうだい!』

 

ヴィオレッタさんは集まった人々に押され、もみくちゃにされて嵐の外側にいる。

 

「………………い、や…………嫌、です……怖い、のも…………暗い、のも…………いや…………いや…………やめて…………」

 

その嵐の中心にいたカロネちゃんは、その惨状に耐えきれずに耳を塞ぎ、蹲る。

 

親とはぐれた子供のように弱々しく、蹲る。

 

 

真っ黒な場所にいるような感じがする。足元も天地の感覚すらない真っ黒な場所に。

目の前に私がいる。

 

彼は私に問いかける──どうしたいの?

助けたいよ──無理だよ。あの子は君のなんなんだい?

知り合いだよ。知り合いのあんな姿は見てられない──へぇ立派だねぇ。でもそれが救済になるの?

知らないよ、そんなの──随分と自分勝手じゃない?

でも、こんなのは間違ってる──じゃ、誰でも助けるの?

それは……──ほら、即答できない。中途半端なんだよ。

それでも、私は私の手が届くところにあるものはすくい上げたい──強欲だね。いつも謙虚を気取ってるクセに。

 

うん。私は強欲だよ。謙虚な皮を被って欲がないフリをして、そのくせワガママで駄々をこねる子供のような存在だよ。

 

でもさ、

 

「私はやるよ。」

 

「……ふぅん。ま、頑張ってね、私。」

 

 

覚悟を決めろ。

これは私の自己満足の塊だ。

どうしようもないほど醜いマスターベーションだ。

 

でも、私が決めたんだ。

こっち(#コンパス)に来て初めて、決めたんだ。

 

「ジャスくん、ヴィオレッタさんを連れて月下の寵鐘で合流。できる?」

 

『楼閣、お前まさか──』

 

「しぃぃー。ちょっと静かに。バレちゃうでしょ?」

 

ジャスくんが驚愕に目を見開き私の方を見る。

何かを言おうとするジャスくんを止めて私は真っ直ぐ彼を見る。

彼の目はある種の激情に駆られているようだった。

 

だけど、今さらここで退けやしない。

 

「あの子はさ、今あそこで一人で戦ってるんだよ。過ぎるはずのない嵐に耳を塞いで目を閉じて、心を凍らせて。誰かが手を引かないといけないんだ。」

 

『だからってお前が──』

 

「ジャスくん」

 

私は彼を真っ直ぐ見つめたまま、キッパリと彼に伝える。

 

「彼女はさ、なんでも抱え込んじゃうんだよ。抱え込んで、考えすぎて、そうしているうちに誰も周りの人は去っていく。だからさ、頼れる人や信頼できる人が少ないんだ。その人たちが今、ここにいる?少なくとも私はいるよ。」

 

ジャスくんは心配で仕方がないという目をしていた。

本当に弱々しく情けない顔を、していた。

 

「ははっ!なんて顔してるのさ!ジャスくんも言ってたでしょ?私はタンク(・・・)だよ?ヘイトくらい、どうってことはないさ!」

 

『…………分かった。だがな、生きて帰れ、これは命令だ!』

 

ジャスくんが私の背中を押す。

同時に私は走り出す。もう、振り返らない。

 

「ヴィオレッタさん!ジャスくんと合流して噴水広場(・・・・)に来て!」

 

『楼閣さん!?分かりましたわ!』

 

勢いを殺さないようにしつつ、大声でヴィオレッタさんにそう伝える。

大声で言えば何人かは気づくだろう。そして噴水広場に向かう。ヴィオレッタさんとジャスくんが向かう場所とは違う所に。

 

その何人かは、今すぐ行動を始める。

だから、嵐が弱まる。

 

「……どいて!どいてよ!…………カロネちゃん!」

 

「いや……いやいや嫌…………!」

 

私は屈むカロネちゃんの手を掴む。カロネちゃんは動かない。

 

「カロネちゃん!私だよ!分かる!?」

 

「いや…………ぇ…………楼閣……さん……?」

 

「【不退の不死(カーディナル)】!横入りか!?ふざけんな!」

 

中心で屈みこみ、カロネちゃんの手を取る。この行動はかなり目立つ。当たり前だ。

気づいた人達は気が昂っているのか私を蹴ったり拳を振り下ろしたりする。

 

でも、諦めてなんてやるもんか……!

 

「ぐっ……!カロネちゃん、ここを離れるよ!」

 

「楼閣さん……!?……なん、で……!?私、なんかの……ために……!!」

 

「はっはー。ガッ!?……なんか、なんて……言っちゃダメ、だよ?」

 

暴徒たちは止まらない。暴力の嵐は時間が経つにつれ激しくなっていく。

 

「でも……!そん、な…………血が……!」

 

「気にしてる暇があるなら走って!とりあえず逃げるよ!」

 

カロネちゃんの腕をぐっと引っ張って立たせる。

その勢いで私は後ろに倒れ込むような体勢になる。驚いた人がそれを反射的に避け、それを見て後ろの人がまた避ける。

それは次々連鎖して、細い道が生まれた。

 

その間をくぐり抜ける。

 

「あっ!逃げたぞ!」

 

「クソっ!【不退の不死(カーディナル)】の野郎!ヴィオレッタ使いが一人しかいないからって【孤独者達の宴(ロンリネス)】で持ってく気か!?ふざけんじゃねぇぞ!」

 

「道無き道を走っている!捜索隊を編成しろ!……楽しませてくれるじゃないか、雑種!」

 

後ろから怒号とも似つかぬ声が響く。でも、気にしてる場合じゃないんだ。

 

道とも呼べないような道を走る走る走る。

カロネちゃんの手を引きながら、割れた額の傷から血を流しながら。

 

そして、月下の寵鐘にたどり着く。

 

『楼閣!』『楼閣さん!』

 

ジャスくんとヴィオレッタさんもそこにいた。ジャスくんは鈍足だけど、ちゃんと間に合ってくれた。

息を整えるためにモニュメントに登って、カロネちゃんを座らせる。

 

「楼閣さん……あの…………!」

 

カロネちゃんが何かを言おうとするけど、その口に人差し指を立ててその先を止める。

 

「カロネちゃん、当たり前だけど、あの人たちは全く納得してないよ。どころかもうちょっとで勧誘できてたカロネちゃんを横から現れた私がかっさらったとすら思ってる。」

 

「ぇ……?え…………!?」

 

カロネちゃんは困惑する。状況がよく飲み込めてないらしい。

でも、彼女のタイミングを待ってる余裕はない。

 

「だから、さ。ハッキリ言わないといけないんだ。どんな答えでも。大丈夫、話を聞く体勢にする策は考えてるから。カロネちゃん的には厳しいかもしれないけど……できる?」

 

私はカロネちゃんを真っ直ぐ見つめる。カロネちゃんはオドオドしていた。

 

「カロネちゃ──」

 

「見つけたぞ、雑種!!」

「ここにいたのか【不退の不死(カーディナル)】!」

「見つけたっ!」

 

もう一押ししようと思ったところで嵐が私たちに追いつく。それはすごい勢いでこちらに迫っていた。

 

「時間がなかったね……ジャスくん!」

 

『了解だ!』

 

ゴォォォォォォォォォォォォォン!!

 

ジャスくんが持っていたハンマーで月下の寵鐘をうち鳴らす。

打ち合わせも何もなしだけど、さすがは相棒、よく分かってる。

 

嵐はその音に驚いてそこで停止する。

 

今しか、チャンスはない。

 

「カロネちゃん、今だよ。今ならみんな、話を聞いてくれる。正直に言っちゃって。忖度とか、傷つけない言葉回しとかは必要ない。考えなくていい。どう思ってるのか、正直に。」

 

私はカロネちゃんの真っ向からそう言う。

そしてカロネちゃんを、一歩前へと押し出す。

 

ここからは、彼女の舞台だ。

 

「私、は……」

 

カロネちゃんは呟く。誰にも聞こえない位の声で。

 

「【不退の不死(カーディナル)】……なんのつもりだ!?」

「俺をコケにしているのか、雑種?」

 

「私は!!」

 

嵐はまた勢いを取り戻しかけていた。そしてそれを止めたのは、初めて見るカロネちゃんの激情だった。

 

「どこのギルドにも所属する気はないです!私は、知らない人が怖い!どれだけ勧誘にこられても、知らないあなた達の所なんて、行きたくないんです!!」

 

その一言に、嵐は収まった。

その姿は、今まで見たどんなカロネちゃんよりも凛々しく、なぜだか彼女が大きく見えた気がした。

 

「勇気出したねぇ、カロネちゃん…………あれ……?」

 

ホッとしたのか視界がブレる。どんどん右に傾いて──

 

『楼閣!?大丈夫か?楼閣ァ!!』

 

身体の右側に床の感覚。そうか、倒れたのか。

でも、やることは出来たよ、ジャスくん。

私は、タンクになれてたかな?

 

そう思って私は、意識を手放した。




あけましておめでとうございます。今年初投稿です。乱数調整です。

いやはや、このシーンが書きたくてこの章のメインキャラを楼閣にしました。
一歩引いた所から飄々と見守る、大人っぽくて頼れるようで、でもちょっぴり腹黒なキャラの激情……
楼閣……お前大きくなったな……私はこの話書いてて泣きそうになったよ……(天:知らねぇよそんなの)

さて、恐らくしばらく燃え尽き症候群で消えると思います。次の投稿はしばらく空くやもしれませぬ。ご了承ください。

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
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