ロリ#コンパス   作:乱数調整

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夜話

玄関のベルが鳴る。

ロードくんと波羅ちゃんはお皿を洗ってて、ドクくんは引きこもってる。

 

それじゃ、私が出ちゃうか。なんでか調子もいいし、何かの受け取りとかだろうからすぐに終わるでしょ。

来客ならロードくんとかに、もしも私の調子が悪くなったら投げることになるけど。

 

「はいはーい、今出るよ〜……っと。ん?カロネちゃん、どうかしたの?」

 

扉を開けた先にいたのはカロネちゃんだった。

こぶしを強く握りしめ、俯いて立っている。

彼女は何も言わない。

 

「カロネちゃん?」

 

『少しお話がしたいのです。上がらせていただいてもよろしいでしょうか?』

 

黙りこくるカロネちゃんの代わりにヴィオレッタさんが私にそう訊ねる。

カロネちゃんは何も言わない。

 

「……いいよ。ちょっと散らかってるけど私の部屋でもいい?」

 

『構いませんわ。それでよろしいですよね、カロネさん?』

 

カロネちゃんは小さく頷く。

彼女はまだ俯いていてその表情は見えない。

 

私はそんな彼女の振る舞いをあまり気にしていないように振る舞いつつ部屋へと歩き出す。

カロネちゃんは何も言わずについてくる。

 

「この椅子に座ってね。私はこっちのベットに座るから。さっきまで寝てたから、シーツがぐちゃぐちゃなのは……目をつぶって欲しいかなぁ。」

 

私がすこし茶化してそう言うと、カロネちゃんがその言葉にぴくりと反応する。

少し上げた顔からは、表情は窺えないけど固く引き結ばれた口が見えた。

 

そしてゆっくりとその口が開かれる。

 

「…………して……」

 

「ん?ごめんねぇ、よく聞こえなかったよ。」

 

「どうしてあんなことしたんですか!!」

 

カロネちゃんは叩きつけるように──あの時見せた激情のように──私にそう訊ねる。

 

その激情の風はすぐに竜巻のように激しさを帯びる。

 

「私なんて放っておけば楼閣さんはあんな酷い目に合わなくて済んだのに、私さえ放っておけばそんなに長い間眠っていることもなかったのに!!」

 

カロネちゃんは止まらない。

彼女の激情のまま猛る魂は、止まらない。

 

「どうしてそんなになってまで私を助けようとしてくれるんですか!ただ何度か言葉を交わしただけの、ほとんど他人みたいな私なんかのために!」

 

カロネちゃんの上体がくずおれる。彼女の目からは大粒の涙が溢れだした。

 

「どうして…………」

 

カロネちゃんは力なく俯く。

気遣いのいきすぎる彼女のことだ、きっとこの二日間いろいろ考えていたんだろう。

 

自分がいなければ

自分がもっとうまくやれていれば

自分でもっと早く解決していれば

 

そんな考えがグルグル回ってたんだろう。

 

けど

それでもその考えは

 

「それは違うよ。」

 

「…………え?」

 

「全然違う全部違う。何もかも、違う。」

 

どういうことですか、とカロネちゃんは訊ねる。

両目が零れそうなほど目を見開いて、手を引く人がいなくなった子供のような顔をして。

 

あぁ、そうだった。

この子は迷子なんだっけ。

どこへ向かえばいいのか分からなくなって、頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃってるんだったっけ。

私の惨状を見て、自己嫌悪に陥っちゃってるんだっけ。

 

私のすぐ側で子供が泣いてるんだ。

 

それなら手を引いてあげなくちゃ。

あの時みたいにしてあげなくちゃ。

 

「カロネちゃんは「なんか」って言えるような人じゃない。みんながカロネちゃんをギルドに欲しがったようにね。私が助けた女の子はそれだけの価値がある子なんだよ?もうちょっと自惚れてもいいんだよ。」

 

「それでも──」

 

「「カロネちゃんは私にとって関係ない」かい?「たかだか数回しか話してない」とかかな?どっちだとしてもどうでもいいよ。カロネちゃんは知らない人とのおしゃべりが苦手だって言うけど、私と話す時は全然そんな感じしなかった。なら、私たちは知り合いだよ。知り合いのあんな姿は見たくない。だから、助けた。」

 

カロネちゃんと向き合って私の自分勝手な、予想という枠組みを超えて、もはや妄想や虚言と言ってしまってもいいくらいの持論を展開する。

 

めちゃくちゃだ。

たかだか数回話しただけで相手のことをよく知っているヅラするなんてバカげてる。

言ってる私ですらそう思うくらい、どうしようもなくて同情してしまうほど醜い持論だ。

 

でも、ここで止まってやるほど私の物分りは良くなかった。

 

「それに私は、カロネちゃんを助けたわけじゃない。私は私の自己満足のために、カロネちゃんを利用したんだ。」

 

「……………………ぇ?」

 

カロネちゃんの動きが一瞬止まる。何かを思いついたかのように。

けれどすぐにそれを打ち消すかのように首を振る。

思いついた自分を恥じるかのように、首を振る。

 

私はこんこんと話を続ける。

 

「私にせよあの場でカロネちゃんを勧誘してた人達にせよ、私たちはみぃんな強欲なんだ。手の届く場所にあるものはなんでも欲しがって、そのくせ届かないものまで願って、変えられそうなものはなんでも変えようとして、投げやりで全てどうでもよさげに振る舞うくせに文句だけはたくさん言う、そういうものなんだよ、誰でも。手が届きそうだったから、私は願ったんだ。」

 

こんこんと話をしているつもりが、話しているあいだにだんだんとヒートアップしてくる。話が大きくなってきて、自分でも何を言いたいのか分からない。

 

でも、私の口は止まらない。

 

「私はダメだよ。優柔不断で人任せで、責任の所在を誰でもないどこかへ追いやってしまいたいような人だよ。そんなので何もつかめるわけないのにね?」

 

恥ずかしい。何を言っているんだろう、私は。

自分の話をこれでもかと詰め込んで、自分の恥を撒き散らして。

これじゃあまるっきり先輩風を吹かすだけの害悪でしかないじゃないか。

 

──やめておきなよ──

 

私の理性がそう訴えかけるも、それとは裏腹に私の口は滑り続ける。

どこへ向かうのか分からないまま、滑り続ける。

 

「みんながみんな主人公になれるわけじゃない──そんなこと分かってるのに、分かりきってるはずなのに、私は分かってるふりをしてまだどこかで私がいつか主人公になれることを夢見て、それを信じてたような愚か者だよ。そんな私に誰かを助けるなんて、私には土台無理な話だったんだ。」

 

──堅実じゃなくて、聡明でもない。リーダーにもムードメーカーにもなれないような卑屈で自虐的な私だ。何でもかんでものらりくらりと躱してきたんだろう?

 

なんて、心のどこかで私が囁く。

その通りだ、全くもってその通りだ。

 

分かっているさ、そんな悩みは人に聞かせるべきじゃないことなんて。

 

だから私の口、

早く止まれ、早く。

 

「でも、でもさ、届きそうだったんだ。こんな私でも、結論を先延ばしにして責任をどこかへ追いやるような私でも、掴めそうだったんだ。だから、願った。願ってしまった。」

 

どうしようもない自己満足のためにね、と私は締めくくる。

密かに考えていた私の偽悪を全部ぶちまけて、私の口はやっと止まった。

 

今私は何を言ってしまったんだろうかという後悔だらけだ。

この子にそんな話を聞かせてなんになる?

 

恥ずかしい。いい歳して何言ってるんだろうか、私は。

 

けど、振る舞いは崩さない。

ここで崩したら、この子は後悔の無限暗夜を歩み続けてしまうから。

たとえ今だけでも、この子の無限暗夜の光にならないと。

 

「それ……でも……!」

 

カロネちゃんがか細く呟く。

 

「それでも……!それ、だけで……こんな、こと……なんて……できない……じゃ、ない……ですか……!」

 

「できるさ、自分のためだもん。身勝手な私なら、できるさ。」

 

だから何も気にすることは無い、と私はカロネちゃんの頭を撫でながら声をかける。

このくらいは先輩ぶってもいいでしょ?

迷子のこの子がこの先迷わずに歩んで行けるように。

 

「………………ぅぁ……ぁぅ……ぇぅ…………!」

 

カロネちゃんはしゃくりあげる。この子もまた、我慢していたものをぶちまけるかのように。

でも、それをぶちまけたくても上手く言葉にできなくて感極まってしまったかのように。

 

「きっといっぱいいっぱい考えて、いっぱいいっぱいになっちゃったんだよね。きっとたくさん自分をいじめたんだよね。今は泣いてもいいさ。だぁれも見てないよ。でも、私は大丈夫だからさ、いっぱい泣いたらちゃんと前を向きなね?」

 

そんなカロネちゃんの背中を私はさする。

慰めになってるかは分からないけれど、彼女の羽を休めるたった一瞬の止まり木にさえなってるかも分からないけれど

 

でも、私のせいで起きたことの始末は、私がつけないと。

 

──かぁっこいいねぇ〜。妬けちゃうよ。

 

あぁ、そう見えるのかもねぇ。だけどさ、決めたから。

 

「ぁぅ…………ぅぅぅ……ぇぅ……!!」

 

カロネちゃんは静かに、けれどおびただしい量の涙を零す。泣いてもいいんだと気付いたかのように。

カロネちゃんは私のシャツを左手で掴む。何かに縋ろうとする赤子のように。

 

その泣き声はだんだんと激しさを増していく。

天井知らずに、増していく。

 

カロネちゃんが泣き止んで手を離すのを、私はじっと待っていた。

 

 

───────────────────────

 

 

「カロネちゃ〜ん?おーい、戻っておいで〜」

 

「あぅぅ……………………///」

 

カロネちゃんが泣き止んだあと、彼女はものすごい勢いで照れ始めた。

まぁ無理もないけどね、向こうからすればあんまり知らない年上(それもロードくんに言わせれば【おっさん】)の前で泣くのは恥ずかしいんだろうねぇ……

 

迷ってうじうじ考えてられるのは若いあいだだけなんだからあんまり気にしなくていいんだけどねぇ……

 

「うみゅぅぅぅ……………………///」

 

『カロネさん、恥ずかしいのは分かりますけれど、わたくしの楽器の影に隠れないで頂けるかしら?お手入れができませんわ。』

 

ヴィオレッタさんの言葉通り、カロネちゃんは私から隠れるようにヴィオレッタさんのオルガンの下でちっちゃく三角座りをしている。涙目のオプション付きで。

 

黒歴史を思い出した高校生みたいだねぇ。

……そういえばカロネちゃんっていくつくらいなんだっけ?聞いたことないや。

 

「ヴィオレッタさん、なんとかならない?」

 

『無理ですわね。』

 

取り付く島もないねぇ……

 

『こういう時は待つのが一番ですわ。カロネさんも放っておけば落ち着くと思います。』

 

クールにドライなんだねぇ……

 

そんなヴィオレッタさんはオルガンを持ち上げながら『カロネさん、どいてちょうだい』とまだオルガンに隠れようとするカロネちゃんをこっちに押し出してくる。

 

……ちょっと手荒過ぎないかなぁ?

 

『よくある事ですので。』

 

よくあるんだ……

 

『それにカロネさん、貴女まだ楼閣さんに用事があるのでしょう?』

 

「…………!?無理……!無理……です……!!」

 

む、まだ何か用事があったのか。あれだけ手荒にしつつも無理に引っ張って帰らなかったのはそれでか。

…………なんかこの一瞬でヴィオレッタさんのイメージがかなり崩れた気がする……

 

『カロネさん、今朝部屋でしていた決意はどこへ行ったのかしら?』

 

「…………!!??見て、たん……ですか……!?」

 

『えぇ。随分と可愛らしいものを見させて頂きましたわ。』

 

「むぅぅ………………」

 

『なんて言っていましたっけ?たしか……「よし……!言わないと……!楼閣さん、に──』

 

「やめてください……!!言います……!言います、からぁ……!!」

 

カロネちゃんが顔を押さえて照れる。耳まで真っ赤だった。

ヴィオレッタさん、火に油を注いでどうするのさ。

 

ともあれそのやり取りで気持ちの整理がついたのか、はたまた諦めるしかないと思ったのか、カロネちゃんは1つ咳払いをすると、私の前に座り直して神妙な顔で私に告げる。

 

「お願いがあります。」




少し遅くなりましたかね?乱数調整です。
さてさて今回は、楼閣がカロネを救う(?)話でした!

……ちょっと待て、構成段階ではそんなものなかったぞ。
なんなら焼肉の下りもなかった。2話増えてるじゃん予定ガバガバか。

さてさて、長かったカロネ回もあと残すところ2話です。やったぁ!ずっと楽しみにしてたアイツがもうすぐ書ける!

次回、カロネのケツイ

ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。
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