「お願いがあります。」
神妙な顔つきでカロネが楼閣に言う。思わず楼閣も居住まいを整える。
しばらくもごもごと口を動かした後、カロネは意を決したように口を開く。
「私を……【
「それはダメ。」
楼閣が即答する。
カロネもヴィオレッタも即答は予想外だったのか、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。
二人とも、まさか即答で──しかも断られるとは──思っていなかった。
「…………理由を……聞いても……?」
ショックから立ち直ったカロネはかろうじてそれだけ返す。
すると楼閣は少し迷いながらも答える。
「だってカロネちゃん、女の子だよ?」
「…………はい?」
カロネは目をぱちくりとする。なぜそのような理由で自分の申し出を断るのか意味がわからない、といった表情をしていた。
それはヴィオレッタも同じだった。しかし彼女は理由に驚いたというよりもそう言った楼閣という人そのものに驚いたようだった。
女性ということでいくつかの楽団に入団を断られた背景ゆえの驚き方だろうか。
そんな驚いた顔をする2人を見て、楼閣はため息をついて説明を始める。
「あのね、カロネちゃん。
「は……はぁ…………」
「万が一何かあったらどうするのさ?」
楼閣はカロネを真っ直ぐに見据えながら真剣な表情でそう言う。
楼閣はカロネに暗に伝えているのだ。
自分が心配ではないのか、と。
自分のパートナーが心配ではないのか、と。
「確かにカロネちゃんは居場所が欲しいのかもしれない。今回の一件で私を信頼して、頼ってくれてるのかもしれない。けどね?そんなに簡単に決めるものじゃないんだよ?特に、一回決めたらもう変えられない選択なんて、慎重に慎重を期して決めるべきだよ。」
もちろん来てくれたら嬉しいんだけどね。と楼閣は言う。
楼閣はカロネだから突っぱねたのではなかった。
楼閣はカロネを慮るがゆえに一度突っぱねたのだ。
「私はね?名目上はギルマスだけどさ、だからってギルメンに対して罰をくだせるわけじゃないし、何かを禁止することも出来ない。心配なんだよ。何か間違いがあった時、私はきっとそれを後悔する。だから、その一時の気の迷いを許容するわけにはいかないんだ。その……一人の成人として。」
楼閣は真面目な顔をして言う。その目には強い決意と少しの寂しさが垣間見えた。
対するカロネは下を向いて小刻みに震えている。
「えっ……あ〜……えぇっとぉ……カロネちゃん?あの……私もそりゃあさ、来てくれたら嬉しいんだよ?だけど……そのぉ……」
楼閣がしどろもどろになりながら小刻みに震えているカロネに向かって弁明を始める。
楼閣の必死の弁明は続いていたが、ある時
「………………ふふっ……!」
「…………カロネちゃん?」
カロネが声を上げて、笑った。そしてその笑いはだんだんと激しさを増していく。
そんなカロネを楼閣は訝しむ。
何がそんなにおかしいのかと。
そう言われてどうして笑い飛ばせるのか、と。
「楼閣さん。」
ひとしきり笑った後、カロネが楼閣を見据えてそう言う。
楼閣もまだ訝しんでいたがとりあえずそれはそれとしてカロネと向き合う。
そしてカロネは、楼閣が想像もしていなかった一言を放った。
「私……他の方、とも……もう、会ってます……よ……?」
「…………え?」
「楼閣、さん……が、倒れた……時に……
「…………え?………………えぇ!?」
楼閣はしばし呆然としていたが、どこかへ行っていた意識が戻ってきたと同時にしこたま驚いていた。
驚きで楼閣が目を回している。
「皆さん……よくして……くれました……ですから……何も、心配……ないです……!」
カロネが楼閣に畳み掛ける。
自分は心配いらない、気にすることは何も無い、と。
それでも楼閣の心配はまだ収まらない。
「カロネちゃんはそれで良くても……ヴィオレッタさんの意見もあるでしょ?」
『わたくしもそれで構いませんわ。』
「あれぇ!?」
楼閣がずっこける。ヴィオレッタまでもが二つ返事で承諾するとは思っていなかったらしい。
『カロネさんは貴方を信頼しています。人見知りのカロネさんが信じて決めたことに、わたくしが口を挟むのは無粋でしょう?それに、貴方はカロネさんを二度も救ってくださったのです。異議なんて、あるはずないでしょう?』
ヴィオレッタはそう言いきる。相棒の決断にも、楼閣の人柄にも、何一つ間違いなどないと言わんばかりに。
そこまで来て楼閣は思った。この気の迷いは、この酔狂は、何をどうしたところで止まらないのだろうな、と。
ならば、この少女の酔狂が終わるまで連れそわなければいけないな、と。
「……それが、私の業なんだろうなぁ。」
楼閣は小声でそう呟く。自身がカロネの思考を、芯を歪めてしまったと言わんばかりに。
ならば、それが終わりを見せる時まで自分が面倒を見なければならないんだな、と考えた。
自分に謙虚で、自信がなくて、なのに傲慢な自分の考えに楼閣はまだ気づいていない。
楼閣は諦めたように細く長くため息をつく。そして、意を決してカロネに向き直った。
「……分かった。いいよ。」
「……!!本当……ですか……!?」
「いやカロネちゃん、あれだけ頼み込んでおいて信じてないのかい?」
とても嬉しそうな顔をして確認をとるカロネに楼閣は苦笑して返す。その言葉を聞いてカロネは胸の前で手をにぎにぎしていた。
ヴィオレッタが微笑ましいものを見る目でそれを愛でている。
「それじゃ、ギルドを案内しないとね。トレーニングルームとか見たらびっくりするよ。」
そう言って楼閣は自室の扉を開けて外に出た。
そこに二つの影が這い寄る。忍び寄った二つの影が手を上げ、その手を楼閣の背中目掛けて思いきり振り下ろす。
「あたっ!?……ロードくん?波羅ちゃん?どうしたのさ?」
「決断がおせぇぞむっつり。」
「自分は大胆なのに他人に対しては慎重なんですから。」
二人に挟まれて肘でぐりぐりされる楼閣は何が何だかわかっていない。
しかし二人は知っている。カロネがどれだけ楼閣を心配していたかを。
たびたび連絡を寄越してきてはギルドホールに押しかけてヴィオレッタに促されるまで持参した椅子で楼閣の隣に座り続けたことを。
先程までカロネが座っていた椅子が、元々はギルドホールのどこにもなかったことを。
「だからお前はむっつりなんだよ。第一、ギルメン1人増えるかどうかって時に俺たちに相談がないのはどうなんだ?ん?」
「そうですよ。僕らだってギルメンなんですから、お一人でやろうとしないでもっと頼ってください。」
「えっ……ちょっ……まっ……!?」
【ろうか は こんらん している !】
当たり前だ。唐突におかしなテンションで絡まれて平静を保っていられる者などごく少数だろう。
楼閣が回していた目が元に戻った時、楼閣は一つの答えに行きつく。
「……って、二人ともいつから聞いてたのさ!私の事さんざんむっつりむっつりって言ってるけど、盗み聞きしてる時点で二人もむっつりじゃないかい!」
「……あ?」「……はい?」
楼閣が二人に反論するが、二人はおかしなものを見る目で楼閣を見た。
その後二人で目を合わせて首を傾げてから楼閣に言い放つ。
「いや、だってそりゃ
「ヴィオレッタさんがいるとはいえ、何か変なことが起きててもいけませんし……」
「くっ……!」
楼閣が正論を叩きつけられて苦しむ。もしかしたら自身が心配していた出来事が起きているのではないかと二人に思われていたのが心にきたのかもしれない。とんだ死体蹴りだ。
「はいはい。その辺あんま気にしてんな。どうせ今回もやるんだろ?宴。俺は用意に忙しく──」
「あぁ、今回はなしにしよっか、歓迎会。」
「……お?なんでまた急に?いつも新メンバー来たら狂ったようにやりたがるじゃねぇか。」
宴をなしにすると言った楼閣の意図をロードは訊ねる。いつも新メンバーの加入で宴を先導していた楼閣がそれをなしにしようと提案するのはロードから見て特異に見えたのだろう。
「いや「狂ったように」って言うのやめてね?……それはともかく二人も話したなら知ってると思うけど、カロネちゃんは人と話すのが苦手なんだって。そんな子に「パーティーに出なよ」って言って、すぐに出れると思う?」
楼閣はすでに考えていたと言わんばかりにスラスラと澱みなく答える。ともすれば相手の真意を決めつける傲慢な考えでもあるが、そこにはある種の思いやりが垣間見れた。
「………………あぁ、無理だな。」
「でしょ?だからなし。ロードくんも、言葉遣いがちょっとキツいんだからね?ロードくんの言葉の裏を読むのも練習がいるし、今回は懇親会はなし。」
「ま、そっちのが俺は楽だから異論はねぇな。波羅は?」
「僕はボスの意見に賛成しますよ?」
うん、聞いた俺がバカだった。とロードはため息をこぼしながら呟く。しかしその口元は微かに笑っていた。その微笑は諦めか、信頼の喜びか。
そのやり取りを楼閣の部屋で何をしたらいいのか分からず混乱していたカロネが見ていた。
その迷子のように彷徨わせた視線に楼閣が気づく。
「あぁ、カロネちゃん!おいてけぼりにしてごめんねぇ。案内するからおいでよ。」
「………………はい!」
こうして騒動は集結した。
存在してもいいと思える場所を持っていなかった少女は
傲慢で強欲で、しかし自らはそれに気づいていない青年は願いを叶え、
ひとりよがりで歪な関係を結んで、騒動は集結した。
いいペースですね、乱数調整です。
さて、皆さん容易に予想出来たであろうカロネ加入回です!どんどんどんどんぱふぱふっ!(天:擬音を口で言ってて寂しくならねぇ?)
カッコイイ楼閣はこれで終わりです!楼閣……残念だな……私も残念だよ……(天:ならもっとかっこよくしてやれよ)
次回、4章の終わり
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。