カロネが出てこない。
昼前に買い物に行って、カフカが来て、昼飯前から説教が始まって、今は夕方。
だいぶ経ったがドアは開く気配すらしてないし部屋の中から物音も全くしない。
なんだ、あの部屋で何が起こってるんだ?超怖ぇ。
「キィ、何が起こってるのか説明くれ。」
《言わない方が面白そうなので、プライバシーの問題を盾に却下します》
お前は相変わらず清々しいクソ野郎だな。言わない方が面白そうなのでってなんだ。理由になってねぇじゃねぇか。
お前のことで一番むかつくのは本当の理由を言っちまうところよな。しかもわざと。
お前は結構な割合で自己判断をしてるから、俺はそろそろお前が何かしらの権力か
《恐縮です》
褒めてねぇわ!
《あの部屋の内部で起こっていることについて、詳しくは伏せますが少しだけ言っておきますと、カロネ様がカフカ様に、ヴィオレッタ様がハイドリヒ様にお説教をしております》
ん?グスタフも説教くらってんのか?しかもヴィオレッタに?どういうシチュだよ。
《一言でいいますと、『諦めずにきちんと止めなさい』だそうです》
なるほど、そういうアレか。グスタフの監督不行届をヴィオレッタが責めてるわけか。
いやしかし、ヴィオレッタは誰かが
《態度の問題なのでは?諦めは増長を招くと言いますし》
なるほど。
『今戻ったぞ。』
そんなどうでもいいことをキィと話し合っていると、イスタカがちびっ子組を連れて戻ってきた。よほど走り回ったのかめぐめぐとコクリコの髪は乱れ放題のボサボサだった。
そしてなぜかイスタカは少しやつれている。
「……おいどうしたイスタカ?ひでぇ顔だぞ?」
『む……顔に出ていたか。実はな、【かくれんぼ】とやらをしようという話になってな。』
かくれんぼか。小さい子は本当に好きだよな。
やっぱ鬼から逃げるゲームで、見つかってはいけないというスリルがありつつも、身体面での優位要素を排している事が人気の要因として大きいのか?
いやしかし、それでそんなにイスタカがやつれてるか?イスタカは狩りやってるんだから気配察知はお手の物だろうに。
……もしかしてすぐに見つけすぎて何度も再戦を挑まれた、とかか?
『いや、そうではなくてだな……まぁお前の想像通りコクリコットはすぐに見つけられたのだが……』
そこでイスタカは言葉に詰まる。あさっての方向を向きながら遠い目をして話す。
『めぐめぐが罠を仕掛けるやら反撃やらをしてきてなかなか捕まえることが出来なかったのだ……』
それただの戦闘やないかい。
……ん?その間コクリコは何してたんだ?放置か?
『いや、その頃にはハンコックと楼閣がトレーニングをするとか言って来ていたのでな、コクリコットはそちらに混ざってトレーニングの真似事をしていたぞ。』
なにそれ可愛い。
『しかしすぐに疲れて眠ってしまった。』
なにそれ超可愛い。
『特に怪我などはなかった。安心してくれ。』
その辺はあんま心配してねぇな。ウチには有能なSEC〇Mがいるから。
『おにいちゃん!きいてきいて〜!』
足元に可愛さの塊がタックルを仕掛けてきた。この可愛さは悪質だと思いま《うるさいです》黙れ。
「ん〜?どしたコクリコ?」
『コクリコね、てつぼうでまえまわりできるようになったよ!ほめてほめて〜!』
マジかよ、成長早ぇえな。
男児3日もすれば刮目せよとは言うが、いやはや女の子の成長も早いもんだ。
……セナ、一応聞くがお前補助とか余計な真似してねぇだろうな?
『僕はただ鉄棒で遊ぶコクリコちゃんを心配して右往左往してただけだァ。』
ダサっ!
『反復横跳びでなァ』
カッコ……よくはねぇな、うん。ってかお前の足どこだよ。
確か、西洋の幽霊妖怪は足あるんだっけか?デュラハンとか足あるし。そんな感じでお前にも実はあるのか?足。
「すごいなぁ、コクリコは。今度お兄ちゃんにも見せてくれる?」
セナは一旦置いといて、俺がコクリコの頭を撫でながらそう言うとコクリコはパァっと目を輝かせた。
「うん!今度おにいちゃんにもみせたげる!」
満面の笑み。何だこの子可愛い。なんだこれは国宝か?
「うー……吐きそ〜……」
『弱音を吐くとはだらしないぞ、楼閣。』
おー、ジャスに楼閣、おかえり。
……楼閣がいつにも増してひでぇ面してるが、何があったよ?
『筋トレだ。軍にいた頃に俺がいつもやっていたやつだな。』
おぅふ……その体型になったやべー筋トレをやったのか……楼閣、おつかれ。お前のことは忘れないぞ……!
「勝手に殺さないでぇ〜……あー、今晩はガッツリいきたいよぉ……」
あの低血圧、低食欲の楼閣がこんなことを言うとは……よし、今日はかなりガッツリ米食えるやつにしよう。ビフテキだな。
「よし、じゃあ今から作ってくが手伝ってくれる人〜」
とりあえず手伝いを要請。手伝いはいればいるだけ楽になるからな。やりたがらないなら諦めるが、やりたがるなら断る理由はない。
……とはいえ、楼閣はグロッキーでジャスは服を着替えずにクッションに沈んだ楼閣を窘めてるから、この二人の手伝いはないな。他のメンツに期待しよう。
『コクリコ、おてつだいする〜!』
『すまない、私は少し休ませてもらう。』
コクリコとイスタカがそんなセリフ。まぁイスタカは正直断られてもしょうがないと思ってた。トレーニングルームで色々あったみたいだしな。
……ん?めぐめぐが返事してねぇな。どころかなんも言ってねぇし……寝てるのか?
『ハービィとお料理ぃ♡』
「めぐめぐ、ボスの手を煩わせないように、今すぐ手を洗いなさい。」
『はぁい!』
と思ってたらもう準備してるし……キッチンから声してきたから驚いたわ。そんで波羅はもうどっからともなく現れるレベルを超えて先に準備してやがった。
……いや、準備どころか既に米洗ってるわ。なにあの子怖い。
いや、それもこれも気にしたら負けか。
「あ、ボス。お米研ぎ終わったので炊きますね。いつも通り【早炊】でいいですよね?」
「いや、沸騰させた湯を入れて【早炊】してくれ。ものっそい早く炊けるから。」
「承知です。」
先回りしてやること聞いてきやがった。さすがはハイスペック
「さて、じゃあめぐめぐとコクリコにはソースの配合をお願いしようかな。」
『『ソース?』』
二人して首を傾げる。同じタイミング、同じ角度、同じ方向で。仲良いな、二人とも。
「そう。お肉を焼く時にかけるやつだよ。レシピは簡単だから覚えてな。」
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トンテキタレ(1人前)のレシピ
中濃ソース 大さじ1
ケチャップ 大さじ1
みりん 大さじ1
醤油 大さじ1
ニンニク 小さじ1
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めちゃくちゃ簡単。ちなみにニンニクはなくても充分美味い。
『ぜんぶおんなじりょうだ!』
コクリコが鋭い。ちゃんと材料だけじゃなく分量まで見てるのが偉い…………んだけど、漢字はちょっと難しかったか。大さじと小さじの差がわかってないみたい。
さて、どうやって指摘すっかな……
『コクリコちゃん、ニンニクだけ違うよ?』
『あ……まちがえちゃった……』
めぐめぐが優しく訂正する。正直助かった。こういうのは距離感が近い相手から言って貰うのが聞き入れやすいからな。
訂正されたコクリコは照れて両手で顔を隠している。何だこの可愛い生物は。
「まぁ、量は気にしなくていい。どうせ大さじとか小さじとか使わないんだしな。」
というか、13人前作るのに大さじ13とかいちいちやらんわ。やってる奴がいるならそいつはきっと頭おかしいかクソ真面目かの二択だ。
『つかわないの〜?』
シンクに顎を乗せて上目遣いでコクリコが聞いてくる。シンクに届かせるために背伸びしてる、可愛い。
「ん?うん。使わないよ。大さじ1がだいたい15gだから、ぜんぶ200㎖入れればいい。だから計量カップを使う。」
『……ん?たいちょー!ちょっと多いよ?』
めぐめぐがいい所に目をつけた。昔、弾薬の量とか見る時に算数覚えたのか?鋭いな。
「ちょっと多めなのはマピヤの分だな。どんくらい食うか分からんし、そもそもトンテキ食えるかも怪しいから試しでつける分だ。好きそうならソースを増やす。」
無理やり食わすのはどうかと思うからな。そもそも食わせちゃいかんとかでも困るし。
「と、いう訳で、2人にはトンテキのタレを作ってもらいます。」
『『はーい!』』
「材料はここに置いとくね。計量カップはこっち。どうせ後で混ざるんだからいちいち洗ったり、混じるのを気にしなくていい。さぁ、頑張って!」
親戚の屋台を手伝った時の煽り文句でちびっ子組を焚きつける。これが案外効くんだよなぁ。ちょっとスレ始めてる小学校高学年でもわーきゃー言いながらやる気になってくる。
今回も思惑通りわーきゃー言いながらちびっ子組がソースの調合を始めた。
「いよっし。ならこっちはこっちで作り始めるか。波羅、サラダは?」
「出来てます。」
仕事が早すぎて怖い感あるわ。なんだコイツ、必殺仕事人どころじゃねぇレベルで仕事が早いぞ。
「んじゃコンソメ作っといてくれ。玉ねぎは切ってアク抜きしたやつが野菜室にある。」
「かしこまりました。」
恭しく波羅が礼をする。そろそろ波羅のこの対応に慣れたい。
とりあえず俺は肉を叩く。柔らかくしとかねぇと焼き上がりが不味くなる。
「…………ギルマス……終わり、ました……」
『……酷い目にあった。』
『まぁ、ちょっとお小言を言っただけですわ。』
コンソメスープが出来上がって、米が炊けた直後にカロネの部屋から説教組4人が出てきた。
……っておい、カフカの目が死んでるが、大丈夫か、そいつ?
「あー……うー……ん?あぁ、カロネちゃん、お疲れ様。で……ちょーーーーっと厳しすぎたんじゃないかな?カフカちゃんの目が死んでるんだけど……」
「そんなこと……ないです……?」
「なんで疑問形なの!?ちょっとカフカちゃん!?中で何があったのさ!?」
「はい、私は幸福です。」
「アウトだよ!完全にアウトだよねぇ!?」
「……………………??」
「いやカロネちゃん!?小首傾げないで!?」
カフカが別次元に狂って帰ってきた。マジでどんな説教だったんだよ……今の状況見たら、中で生爪剥がされてたとか言われても信じるぞ。
『楼閣、それだけツッコめるなら着替えられるよな?』
「うっ……まぁ私も汗だくのままで寝たくはないから着替えるよ。」
「おいカフカ、ジャス×楼だぞ。」
「はい、私は幸福です。」
これでもダメか……どうすりゃいいかな?
「んー……そうだ。おいカフカ、やっぱり同盟組はグス×臣だよな?」
「はぁぁぁぁぁ!?臣×グスに決まってるでしょうが!?……はっ!?私は今まで何を……!?」
よし、元に戻った。
「俺らのギルドホールに突貫して暴走してカロネに説教くらって今は夜。よろし?」
「…………はっ!そうでした!すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
いきなりの土下座。そんなになるまで絞られたのか……ちと不憫だな。
まぁしかし、あのテンションでずっといられたらこっちが困るからカロネを止めるつもりは微塵もなかった訳だが。
あ、着替え終わった楼閣が戻ってきて唐突な土下座に引いてる。
「罪の償いとしてはアレです!とりあえず頭を冷やして後日出直そうと思っております!」
「あ?もう夜も遅いんだから晩メシ食ってけよ。もういい時間だし、今から帰ってメシの準備してたら遅くなるだろ。」
「……!?い、良いんですか?」
「いや、いいも何ももうお前らも頭数に入れて作ってるから今さら帰られても困る。カロネとは幼馴染なんだろ?いいから食ってけ。」
(…………で、いいんだよな!?楼閣!)
(ナイス!ナイスだよロードくん!!今すぐ叩き出したらカロネちゃんが怖いからね!後日カフカちゃんが来た時にもすぐさまお説教しそうで怖いから、ご飯誘ってちょっと話すのはいい手だよ!ロードくんナイス!!)
楼閣とアイコンタクトでの会議。正直、あのカロネ見たあとでアイツの幼馴染をぞんざいに扱ったり、ギルドホールから叩き出したり出来ない。後が怖すぎる。
「ジャスティス、楼閣、お前らの分出来たぞ。ふわっとボリューミーに仕上げたが良かったか?」
「うん。ガッツリ食べたいから助かるよ〜。」
『俺もだ。』
ジャスティスと楼閣の分を皿に盛り付けながら聞くが、その焼き方でよかったらしい。良くなかったら俺のにするつもりだったが、それでいいなら俺も焼きたてが食える。
「よし……これでちびっ子組のも完成っと……カロネとカフカは?焼き方こだわりあるか?」
「あ……私、は……脂、少なめで……」
「あ、あたしもそれでお願いします!」
んー、脂少なめか……んじゃ、
「脂燃やすか。」
サラダ油をフライパンにひいて肉を投入。両面をしっかり焼いてから臭み抜きの酒を入れる訳だが、
「ジャスティス、お前の深酒のブランデーちょっと貰うぞ。」
『ん?あぁ、好きにしてくれ。』
ジャスティスから許可をもらってブランデーを棚から取る。波羅は俺が何しようとしてるのか分かったらしく、コクリコとめぐめぐをテーブルに座らせて早く食べ始めさせていた。
波羅の分がないのは波羅が「ボスが来るまで待つのが部下として当然の振る舞いです。」とか言いやがったから俺と一緒に焼くことにした。美味いもんはうまい間に食ってもらいたい。
「んじゃ、近寄るなよ。カロネ、お前は髪長いんだから特にな。」
「…………?」
不思議そうな顔をしながらもキッチンから離れる。分かってなくても離れてくれるのは助かる。
「よし、んじゃいくぞー。」
ブランデーをコップ一杯分くらいぶち込む。アルコールの匂いがキッチンに広がるが、その瞬間火柱が上がる。
「うぉっ、ちょっと入れすぎたな。」
火柱に釣られてめぐめぐとコクリコが席を立とうとしたが、それは危ないからダメ。
サッと鉄製の蓋をして火柱を隠す。香りも入るし、炎が出るから脂も落ちる……と思う。俺は知らん。
「そろそろか。出た脂を捨てないとな。」
フライ返しで肉を押さえつつ脂を捨てる。その後ソースをかけてまた焼けば完成。
「ほい。二人とも食え。残したら多分めぐめぐが食う。」
「ありがとう、ございます……!」
「ありごです〜!美味しそう!」
二人とも嬉しそうにしてる。いいぞ、楼閣とのアイコンタクト会議の通りに事が進んでる。正直助かったという気持ちでいっぱいです。
『ロード、私の分は……』
「あぁ、今からな。」
『米をもう一杯もらおうと思うが、他に誰か欲しいやつはいるか?』
「私もご飯おかわりしよ〜っと。ジャスくん、頼んでいい?」
そんなふうに大人数で囲む食卓はだんだんと騒がしくなっていった。
いやはや、入りに悩んだのと長くなったので遅くなってしまいました、乱数調整です。
今回唐突なご飯回になりました。おかしい、予定ではこんなはずじゃ……
次回はこの章で一番楽しみな回なのであとがきを短くさせていただきます。
次回、太陽の沈んだ夜
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。