風呂が出来た。
施設拡張の内容が決まってからひと月後の事だった。
「思ってたより時間かかったな。」
「いやぁ、どうせタダならいろいろ付け足そうと思ってねぇ。いろいろとオプション付けてたらこんなにかかっちゃったよ。」
楼閣ははにかみながらそう伝える。
「「こんなにかかっちゃったよ」じゃねぇんだよ!その間俺がどんだけ苦労して風呂の順番決めてたと思ってんだ!」
「あはは〜。ごめんねぇ。」
うるせぇ黙れ!とロードはすごい剣幕で楼閣に噛み付くが、楼閣は飄々と躱している。いつも苦労させられている意趣返しだとでも言いたそうだ。
「でもさ、その分ギルメンの意見を反映できたからいいじゃん?カロネちゃんだって、すごく楽しそうに決めてくれたよ?」
「んー……ま、ギルメンがかんでるならいいか。船頭多くして船山に登ったんだろ。んで?風呂はどんなかんじなんだ?」
「ん。じゃあ案内するよ〜。」
そう言って楼閣はロードといつの間にかいた波羅渡を引き連れて大浴場へと入っていく。
ちなみに女湯の方はカロネがカフカとコクリコに内装の説明中だ。コクリコは1人で走り回って怪我をしないようにカロネと手を繋いでいた。
ちなみにめぐめぐが波羅渡について行こうとしたためヴィオレッタに説教をされており、ジャスティス、グスタフはその部屋の出入り口を塞いでいる。
イスタカは祈りの時間とのことで部屋で瞑想していた。
ドクは言わずもがな引きこもりである。
楼閣は、脱衣所の説明は後でね〜、と言って一旦脱衣所をスルーして浴場に入った。
「まずここが大浴場ね。いちばん広いお風呂だよ。左側に洗い場があるからそこ使ってね。」
入ってすぐに一行の目に飛び込んでくるのは大浴場と近くにある洗い場だった。
湯船は大きく、男子メンバー全員で入ってもまだ余裕がありそうだという印象を受ける。
波羅渡がおもむろに湯船に手を漬けると、その手には気泡が次々とついた。
その様子を見てロードがこぼす。
「……炭酸泉か。お前らしいな。」
「これだけはどうしても欲しかったんだよねぇ。疲労回復、肩こり、血流改善にいいからね。」
楼閣は苦笑してそう言う。どうしても欲しかったという言動からはかけ離れた表情だったが、メンバーは真意が分かったらしく「そうだな」「そうですね」と追求はしなかった。
肩こりと血流不順
パソコンなどの座り作業を長時間していると起こりやすい身体の不調だ。
楼閣もそれ以上は何も言わず、その他の説明に入る。
「それから、洗い場の奥の方ににサウナもあるよ。ほら、あそこに2つの扉が見えるでしょ?左の扉は蒸し風呂だからサウナと間違えないようにね。水風呂はここからだと隠れて見えないけど、一応あるよ。」
楼閣はサウナに入るようなことをせずに遠目から説明し、次こそが本番だと言わんばかりに皆を先導する。
「さてさてお立ち会い。これが遅くなっちゃった理由でもあるこのお風呂の目玉、露天風呂だよ。扉が2つあるけどまずはこっちから。」
そう言って楼閣は扉を開ける。
「………………やりやがったな。」
「お見事です。」
一行は中に入って絶句する。
理由は至極簡単。
「【立体交差のある風景】そのフィールドの一部を貰って作った露天風呂だよ。お風呂も大きいし、遠くまで続く森は綺麗で、お風呂に入りながら木光浴気分が味わえるよ。」
【立体交差】のステージがあるはずの場所に繋がったからだ。そこにステージの面影はなく、檜でできた大きな3種類の浴槽があるのみだった。
「……おいキィ」
《なんでしょうか?》
ロードは楼閣の説明を聞き流し、自らの
「お前、今回は何をやらかしやがった?」
《なんてことはありませんが……端的に言いますと、露天風呂にしたかったエリアの2km四方をアクセス禁止にしただけです》
「やっぱお前はやらかしてん……まて、[露天風呂にしたかったエリア]ってことは、ここだけじゃないのか?」
いつものようにロードはため息をついて半ば諦めたように言うが、途中で何かに気づいたようでキィに再び質問を投げかけた。
《その通りですがなにか?》
「やっぱかお前ぇ……マジで
《黙秘します》
「はいはい、とりあえずそこまでにしてね。今キィちゃんも言ったように、ここから最短でも1km先にしかステージはできないらしいから覗きとかは心配しなくていいよ。」
楼閣はパンパンと手を叩いて意識を集めつつそう補足した。
そして湯船についても説明を入れる。
「3種類の浴槽があるのが見えるよね?真ん中の大きいのが炭酸泉、丸っこいのが集まってるあそこの一帯が壺湯、掛け流しになってるやつが天然泉だよ。」
これは別の露天風呂でも同じだから覚えといてねぇ。と楼閣は締めくくり、1度露天風呂から退出するよう声をかけ、一行をもうひとつの露天風呂へと案内する。
「これがもうひとつ。【ちゅら島リゾート】だよ。例によって2km四方は何も無い。潮風が気持ちいいよ。」
嬉しそうに楼閣は紹介するが、ロードは半ば呆れたように質問をする。
「はぁ……お前、ステージ2つぶんどってこんなもんを……」
《はい?》
やれやれといった具合にため息をつくロードの言葉を、
「いやお前、《はい?》じゃねぇだろうが!【立体交差】と【ちゅら】の2つアク禁してんだろ!?」
《え?いえ、それだけではありませんが?》
「はぁ!?」
ロードが
楼閣は説明の手間が省けたと言いたげに割って入る。
「今キィちゃんが言ってた通り、女湯にも露天風呂があるよ。向こうは【妖華帝都ケルパーズの散歩道】と【グレートウォール】だね。【グレウォ】の滝からはマイナスイオンが出るらしいよ。身体にいいかもねぇ。科学的根拠はないけど。」
しれっと説明する楼閣をロードはただただ唖然として見ている事しか出来なかった。
「お前ら滅茶苦茶しやがるな……」
「ロードくんに言われたくはないけどねぇ。ちなみに男湯の露天風呂は、偶数日には【立体交差】と【ちゅら】、奇数日は【ケルパ】と【グレウォ】になるよ。ラッキースケベを避けるために入れ替わりは午前3時になってるから気をつけてね。」
それじゃ次は脱衣所ね。と楼閣が言って一行は風呂場から出る。脱衣所には特に変わったところはないが、大きな冷蔵庫がひとつあった。
「お風呂から上がったら腰に手を当てて可及的速やかに牛乳を飲まないといけないって言われてるからねぇ。ちゃんと用意したよ。」
「お前それどこ情報だよ。」
そんな小話を挟みつつ、一行の風呂場探索は終わりを告げた。
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「戻ったよ〜。ごめんねぇヴィオさん、メグちゃん任せちゃって。」
『お気になさらず。子どもに教育を授けるのも年長者の役回りですから。』
風呂の案内が終わるとめぐめぐを叱っていたヴィオレッタに楼閣が礼を言う。こういう所律儀なんだよな、コイツ。
「戻り……ました……」
『おふろひろかった!』
女子も戻ってきてリビングにほぼ全員集合する。
風呂に入りながら内装の説明をしなかったのはめぐめぐがゴネたのと、風呂の時間まで時間が空いていたから。
まぁその時間は波羅のバカが【立体交差】の露天で走って行って落ち着かせるのに時間がかかったからだ。
あのバカ一時間近く走り回ってたからな……ガキかよ、アイツ。
「って、そういやカロネ、お前ら遅かったじゃねぇか。なんかあったか?」
「あ……あの、ですね……カフカが、走り回って……」
「あー、皆まで言うな。」
そっちでも同じようなことがあったのか……
「放っておけば、戻ってくるので……コクリコちゃん、と、ジュースを……飲んでました……」
なるほど、浴室にいなかったのはいい判断だ。茹だったらどうしようもないし、ちゃんと考えてるんだろう。
って言ってる間にいい時間だな。声かけとくか。
「それはそうともう結構いい時間だから風呂入っちまおうぜ。」
俺がそう言うとすぐにヴィオレッタが返答する。
『ブランシュさんは私と入りましょうね。』
なん……だと……!?
『皆さん、早くいたしましょう。』
「待て!」
俺は一喝してヴィオレッタを止める。
ヴィオレッタはコクリコに手を差し伸べながらも動きを止めてこっちを向いた。
『あら?どうかしましたか?』
どうかしましたか?じゃねぇよ!ヴィオてめぇ……なんて恐ろしいことを言いやがる!!
「コクリコはお兄ちゃんである俺と風呂に入るんだ!」
『でもブランシュさんは女の子よ?今までそうしていたのだとしても、私たちが来たのですもの。認められませんわ。』
くっ……!痛いところを……!!
「いや、コクリコだって俺と一緒に風呂に入るのを喜んでるんだ!」
『……それって、それ以外の選択肢がなかったからじゃないかしら?』
「むぅ……っ!」
こんな……正論なんかに……負けてたまるかぁ……!!
「いや、正論は認めようよ。」
黙れ楼閣!お前に俺が救えるか!?コクリコがいない俺の心を癒すことができるか!?
「いや、無理だけどさ……でも、愚痴を聞くことはできるよ?」
てめぇに聞いてもらう愚痴はねぇよ!後でリビングでゆっくり話し合おう。
「いやあるじゃん。」
『とにかく、男の子たちは男の子たちでお風呂に入ってちょうだい。せっかく広いお風呂があるのだもの、広々と使わないと損だわ。』
パンパンと手を叩きながらヴィオレッタが言う。ダメだ、これはもう無理。俺、完全敗北のお知らせ。
だが、打ちひしがれて真っ白に燃え尽きた俺や、その場の空気を読まずにいつものようにアイツは暴走する。
「三人一緒にお風呂!?ジャスティスも一緒に入るならジャス×楼とロー×波羅、どっちも見れる可能性が……!?あたし、男湯に行きます!!」
「うるせぇ黙れ!!」
この脳みそお花畑!お前は30分に1回BLネタ挟まないと死ぬのか?今度計ってみるか?
『ダメよ。カフカさんも女の子なんですからちゃんと女湯に入りなさい。』
「だ、だけど!」
『ダ・メ・よ』
「うぅ……はい……」
うわ、秒で黙らせた。ヴィオレッタ強え。超強え。
母は強しってこういうことを言うのか。
『さ、ブランシュさん。一緒にお風呂入りましょうね。』
『うん!おっきいおふろでくらげさんするの!』
(`・ω・´)ふんすっ!と可愛く気合を入れるコクリコは可愛かったが、風呂に入れるのは俺ではなくなってしまったのだ。
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『………………??』
その日の夜中、ヴィオレッタは目を覚ました。
自身の周りを見渡して得た情報から推察するに、ヴィオレッタは新曲の譜面を書いていたがコンを詰めすぎて寝落ちしてしまったのだろうと察した。
『……………………』
ヴィオレッタはとりあえず何か飲もうとリビングへと向かう。同室のめぐめぐは熟睡していたので起こさないように細心の注意を払っていた。
ヴィオレッタがリビングの前まで来た時、リビングから誰かが話す声がした。
その重苦しい雰囲気はヴィオレッタの足を止めた。
「Hmm……When did you get it?」
扉の隙間から除くとそこには楼閣とロードが対面して話していた。
言葉は自動翻訳がされているからか、遠くで話しているというのに補正効果でかなりはっきりと聞こえる。
「I did relatively recently. I thought it was suspicious but after all. These days, you were crazy,isn't it?」
目的語が曖昧で、ヴィオレッタには何の話かは分からなかったが、そのただならぬ雰囲気にあてられて、ヴィオレッタはその場を離れることを選んだ。
「Oops……Was I strange?Sure I may have changed recently and──」
ただ、楼閣が最後に言った言葉だけが、ヴィオレッタの頭から離れなかった。
「vice versa.」
ものすごく遅くなってしまいました、申し訳ありません。乱数調整です。
前書きにも描きましたが、全然書けなくなってしまったのでリハビリ用に書いたものです。
そのものは書けるようにはなったかと思いますので、何とか早めに6章に入ろうかと思っております……
こんなご時世ですが、少しでもストレスの捌け口にでもなればと思っております。
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。