「あっという間に初戦だな。」
ロードがギルメンにそう言う。
場所はイベント用トレーニングルーム。場所はかなり広く、1km四方──イスタカイベント用ステージの倍以上──程の広さがあると、露天風呂の広さと比較した波羅渡が言った。
【
「キッヒヒ!!100人もぶっ殺せるなんて最高だな!!ギャハハハハ!!」
『ハービィかっこいい!』
波羅渡とめぐめぐはハイテンションで、
「できる……でしょうか……?」
『行けるところまで行ってみましょう。』
カロネは不安そうに、ヴィオレッタはその不安を取り除くように話しかけ、
「大丈夫かなぁ……?」
『ついてこい、俺があいつらに絶望を見せてやる。』
カフカは珍しく弱気で、グスタフは平常運転で、
三者三様に意気込みを語っていた。
ちなみにドクはいつもバトルでなるように小声でブツブツと何か呟いており、イスタカは瞑想をしていた。
「ま、そんなに気張らなくていいと思うけどねぇ。みんな結構デッキレベル上げたでしょ?」
楼閣が柔らかい表情で皆の緊張をほぐす。
その言葉の通り、【
デッキレベル差の心配はあまりしなくても良いだろう。
「んじゃ、最終確認と洒落込むか。まずカフカ・グスタフとドク・ボイドが前衛。」
「はぁい……」「……はい」
『あぁ。』『ワカリマシタ。』
先頭にいるドクと中央よりの位置にいるカフカが不安気に返事をする。
「俺・セナ、波羅・めぐめぐ、イスタカは遊撃。波羅、好きに動いて全部壊してろ。」
「ギヒヒッ!!
『波羅、落ち着け。』『ハービィかっこいい!!』
波羅渡はR15フェイスで笑っていた。
「私とカロネちゃんは後衛。支援飛ばすよ〜。あと私は前線厳しそうなら飛んでくからねぇ。」
「頑張り……ましょう……!」
『俺に続け!……と言いたいが、今回は、な。背中は任せろ。』
『援護はお任せ下さい。』
最後にゆるゆると楼閣が発言し、締める。確認は済んだ。
余談だが、イスタカは今回、後衛に回っている楼閣が指示を出す。
そのタイミングで【
《それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか》
そして、
戦いは火蓋を切る。
《バトルの始まりです》
両陣営共に戦場へと躍り出る。
───────────────────────
始まった途端、小声で愚痴をこぼす少女が一人。
「うぅ……ロードさんの言ってた策、通じるのかなぁ……?」
『気にしても仕方がないだろう?俺はアイツらに絶望を見せるだけだ。』
カフカだ。
彼女は何かを心配しているかのようにポツリと呟いた。
そんなカフカの心配をグスタフが強気な発言で諌める。何気にいいコンビだ。
【
「……ま、決まらなかったら溶けるだけだし、ロードさんに盛大に「ドンマイ!」ってサムズアップしながら言おっと。」
行くよ、グスくん、とカフカは言う。無責任にも聞こえるこのセリフは彼女が自身を落ち着かせるためにつく嘘、他人のせいにするという宣言で茶化し落ち着くための彼女なりのやり方だ。
そして開始から20秒程経った時、カフカが動く。
「さぁグスくん、突撃だよ!鉄砲玉一号行きまーす!!【秘めたる】!【テレパス】!【ヴァルヴァラ】!」
「うぉっ!?」「はっ!?」「いやマジか!?」
100人規模の軍勢の中央前寄りにカフカとグスタフが到達する。全員で進軍スピードを合わせていた彼らは、少ない人数の敵がいきなり攻めてくるとは思わなかったんだろう。
【ヴァルヴァラ】による奇襲でグスタフの周囲にいた十数人が消し飛ぶ。
その多くはノホなどの貫通持ちやHAで回復ができるジャンヌなどだった。
高火力と高回復で制圧するつもりだったが、その計画はほとんど破綻した。
「クソっ!もっと慎重に攻めてくるもんだろ、普通!!」
「焦るな!総員、ダメカを張って倒せ!【
ただし相手も大手ギルド、すぐに対策を立て第二の計画を想定し、行動してくる。
カフカを囲むほぼ全員がダメージカットのカードを使い、回復も済ませていた。
そして無防備なグスタフに向かい、攻撃を始める。
「【レンジ】!あー、もう無理だぁ〜……ロードさんのアホ〜!だから無理だって言ったんだよ、こんな作戦!」
【花火】と【アンジュソレイユ】──URの持続回復を二枚使っているというのにグングンと減っていく体力ゲージを見ながらカフカがそう愚痴をこぼす。
だが、
「そうでもねぇさ。」
その時【
白い白い衣を纏った
白くて白無垢で白々しい少女の姿を──
「突っ込めセナ!【オルレン】!!」
『おじゃま虫は排除する!!』
「なっ!?」
ロードとコクリコがグスタフの元へと滑り込んで【オールレンジアタック】を叩き込んだ。
直前にグスタフが放った分と合わせてさらに十数人が消し飛ぶ。
「ロードさん!?なんで来たんですか!?」
ロードが助けに入ったことに驚いたカフカがそう訊ねた。三十数人倒したとはいえ、まだ60と少し──9倍程の戦力差がある状況で助けに入ったとしても、犠牲が増えるだけだと思ったからだ。
「あ?【全天】なんか不服か?【バーゲン】」
「いや……助かりましたよ!助かりましたけど!なんでわざわざ死にに来たんですか!?」
「は?何言ってんだお前?【ヴァルヴァラ】!!……っぶねぇ!」
焦るカフカに困ったようにロードが返す。
その周りには無数の敵ヒーロー。
「かなりやられたが、所詮は1度限りの奇策!俺たちを倒すことはできん!」
「【和太鼓】!はっ!陣形崩れて団子状態なのによく言ったもんだ!ダメカも貼れずに太鼓くらってんじゃねぇか!」
「減らず口を……!!」
二人の体力はガリガリと削られるが、ロードが捨て身で【和太鼓】を打ち込む。かなりの人数にそれが当たり、ロードに回復の隙が生まれた。
それでもこの人数差でコクリコが耐えられているのは、攻撃の八割をグスタフが受けているのと、
「【銀ちゃん】!【月夜叉】!!全く!ロードくんはすぐ無茶苦茶な作戦押し付けるんだから!」
「【イノセンテ】!カフカ……しのいで……!」
いいタイミングでカロネと楼閣が全体回復や防御バフで支援を入れているからだ。
今回は楼閣だけでなくカロネも【銀河防衛ロボ】と【月夜叉】を搭載しているため、このような無茶な特攻にも対応できるのだ。
「……!!やってくれたな、雑種!!だが全体回復もそれで終いだろう?総員!この二人を潰せ!この2人さえいなければあとの驚異はガンナーだけだ!」
「お?こっちにばっか構ってていいのか?」
「何っ!?」
リーダーらしき男が指示を出すが、メンバーは少し戸惑う。それは過去の事件の遺恨のせいか、はたまたこの戦力差で未だ溶かせない事実のせいだろうか。
そしてそれは、ロードが言及したように、致命的な隙となって現れる。
「イスタカさん、やっちゃって!」
『畳み掛けるはワキンヤン!死を運ぶはマタンツォ!!』
その声と同時にロードとカフカを中心に円状に矢が降り注ぐ。
「……!?退避できるものは退避しろ!1~5の生き残りは1番に、6~10は2番にそれぞれ集合!体制を立て直すぞ!」
多くのメンバーがロードとグスタフに群がっていたため20人前後のヒーローが【燼滅の天撃】によって倒される。
残りが1/5ほどになってしまい、さすがにまずいと感じたのかリーダーが退避を命じる。
が、それも
「読めてるんだよねぇ。ジャスくん!」
『座標入力完了……てぇ!!』
「この……雑種共がァァァァァァ!!」
【ユニバーサルブリッツ】により一掃される。
距離を取ろうと目立つものに集合させたのが運の尽きだった。
《敵ヒーロー撃破、残り3名……続けますか?》
「いやまさか」「いやだ帰れ」「降参。こっち見んな」
残ったメンバーも、ここから巻き返せるとは思わなかったらしく、大人しく降参を選んだ。
───────────────────────
「すげぇな……」
「終始【
「すげぇ奇襲!【
「いや、あんな攻め方されたら初見じゃ対応できねぇって!」
情報区画のモニターにて、このイベントの試合は中継されていた。
この時間にやっていたのは【
試合を終えて、カフカとロードのありえない奇襲を見ていたもの達は、皆一同に【
「あれはなぁ……初見じゃ無理だって。」
「どんだけ勘が良くてもまさか攻め込むとは思わないしなぁ。」
「さらに人数差で慢心もあっただろ?勝てるわけねぇって。」
けれどプレイヤー達は皆笑顔で話していた。
なぜなら、
「でも、いっぺん見たら対処出来る。」
「あぁ。【
「俺たちの次の相手だ。情報が先にあるのはありがたいぜ!」
奇襲はバレたら意味をなさないからだ。
人数差を縮めるには奇襲で数を減らさなければならない。
ならば、【
負けることは無いと思いつつも、男たちは密かに緻密な作戦を練り始めたのだった。
バトル回です!書くのしんどいです!乱数調整です。
今回はこの章で考えていた唯一のバトル回です!ぶっちゃけ、このバトル引き伸ばして終わろうとすら思ってました!
しかし、それじゃあオチがつきませんのでもう一つ増やしたんですね。そしたらリア友が「え?トーナメントなのに2戦しかしないの?しょぼくない?」と言ってきたのでバトルをもう二つくらい増やしました。多分ふたつです。それ以上やってもいいんですが、やると章構成に無理が出てくると思われます。例えばこの章だけ2〇話になるとか。
しかし問題はあと2つ勝ちパターンが出来るかどうか……
次回:波羅渡、暗躍す(嘘ですごめんなさい)
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。