五本柱の他には何もない、広く白く、どことなく寂しい雰囲気がある部屋だった。
そこに突如として80人程度の人が現れる。
彼らは赤と青のタイルが唯一施されている高台に別れて立っていた。
青のタイルが施されている高台にいる者は70人程度、対して赤のタイルが施されている高台にいる者は13人。人数差は均等ではなかった。
青の高台では、【
「さて?」
青の高台にいる者の一人がそう発言する。彼がリーダーなのか、そこにいた一同は一斉にその男の方に向き直った。
男は全員が男の方を向いたのを確認してから続ける。
「待ちに待った二戦目だ。相手は【
男がそう言うと皆一様に表情を曇らせた。
なぜなら、彼らは見たからだ。
【
彼らはその目で、事の一部始終を見ていたからだ。
もちろん対策は立てた。勝つためにできることは全てやり切ったつもりだ。
しかし、あの一方的な試合を見てしまったがゆえに、【
そんな一同に、リーダーの男は堂々と言い放つ。
「だが、それがどうした?人数差があり、策もすでに見破っている。別の策略?面白い冗談だ!【
徐々にリーダーの声は大きくなる。それは仲間たちを鼓舞するためか、それとも震える足を武者震いだと思うためか。
「だから勝つぞ、俺たちは。勝って、一試合目が【
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」」
リーダーがそう締めくくると、メンバーはそれに呼応するように雄叫びをあげた。それは雄々しく、地を震わせるほどのものだった。
その叫びは赤い高台にも届く。
「……なんか、むこうさんは気合い十分って感じだねぇ。」
「なん、だか……張り切って……ますね……」
「カロネちゃん、心配ないよ!あの人たちはあたしとロードさんと波羅さんで止めるから!だから……あぁもう!泣かないで!」
その雄叫びを聞いて【
むしろ楼閣は少し引いていて、波羅渡は興奮が最高潮になったからか、高台から飛び降りようとするも見えない壁に阻まれていた。
唯一怯えているカロネをカフカがなんとかなだめようとしていたが、雄叫びの影響はせいぜいそのくらいだ。
「なぁ楼閣、アイツら気合い入りすぎじゃね?」
「だよねぇ。遊びみたいなものなんだからもっと気楽でいいと思うんだけどねぇ……」
「それでこそ!それでこそ死合ってもんだよ!ギハハッ!!オレが今すぐ相手してやるから降りてこぉい!!」
「波羅ちゃん?見えない壁叩くのやめようね?ちょっとうるさいよ。」
「チッ!こんな壁なけりゃ、オレ一人でも乗り込んでやるってぇのによぉ……」
「波羅、それは作戦が崩れるからやめろ。」
「Sir.Yes,Sir!!」
「うん、それもやめろ?」
「あっはっは。波羅ちゃんはいつもブレないねぇ。」
気負いどころか緊張すら感じない緩やかな時が流れる。青の高台の雰囲気とは正反対だ。
『ハンコック、イスタカ、俺は、こいつらはもう少し緊張を持った方が良いと思うのだが……こいつらはいつもこんな感じなのか?』
『あぁ、いつもの事だ。緊張と緩和を体現しているんじゃないか?……待てよ、普段からこんな具合だから、まさか常駐戦場も体現しているのか……?』
『ハンコックの言う通りだ。ハイドリヒ殿はノワール殿と組むことが多いから知らないのも無理はないがな。』
ヒーローもなんだかんだでおしゃべりに興じている。グスタフは呆れた様子だが、自らの緊張もほとんど霧散してしまっているのも気づいていないようだ。
『まぁ、悪くないと思いますわよ。変に気負ってしまって萎縮してしまうよりは。』
ヒーローが固まって喋っているのを見てか、ヴィオレッタがそこに混じった。
『まぁ、確かにそうだな。萎縮してしまうよりは、雰囲気が緩い方がマシだ。』
『……ハンコック、それはあんなふうになるよりはマシ、と言う意味か?』
グスタフが親指で後ろを指し示す。
その指し示す先にいたのは、
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」
ブツブツと早口で何かを呟くドクがいた。voidollは心配そうにはしているものの、なんと声をかけていいのか分からずにドクの周りを漂っていた。
『まぁ……そうなんだが……まさかあれほどまでとは……』
『??ハンコック、何を驚いている?あやつはいつもバトルとなるとああなるだろう?』
『いやしかし……いつもより酷くないか?』
そんなドクをジャスティスが心配するが、イスタカはいつもの事だと一蹴する。
ジャスティスは、いつもと違う、とは思いつつもその言葉で引き下がった。
「ドク、うるさいぞ。」
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ……ロードさん……ですが……!」
そんなドクをロードが慰める。言葉はキツいが、ギルメンはロードの言葉の真意をしっかり理解していた。
「心配すんな。どうせお前は終盤にスタン撒くだけだから。お前の有無が結果を決めるわけじゃねぇんだ。気楽に行こうぜ。」
「し、しかし……」
「大丈夫だ。負けたらカフカのせいだから。」
「ロードさん酷くないですか?!」
ロードがそう茶化すと、それをどこから聞きつけたのかカフカが全力で抗議を始める。
「黙れ?」
「疑問形なのに圧をかけられてる?!」
ロードとカフカの弛緩具合をみて安心したのか、ドクの表情が少し柔らかくなった。
もっとも、当の本人らは言い合いに夢中で気がついていないようだが。
そんな2人を暗に窘めるように楼閣が声をかける。
「それじゃ、陣形の確認……って言っても、この前と同じだからいらないか。バラバラに突貫されると私とカロネちゃんの支援が間に合わなくなるから、ツーマンセル以上の団体で動いてね。」
「分かりました。僕は波羅渡さんに付いとけばいいんですよね?」
「ん。そうだよ。状況によってはイスタカさんにもヘルプ入ってもらうから、ピンチになりそうだったら声かけてね。」
楼閣ができるだけ穏やかにドクに伝える。あまり気負いすぎて欲しくないという考えが見て取れた。
「カロネちゃんも。ロードくんが無理な特攻して、支援間に合わなさそうって思ったら見殺しにしていいからね?」
「おいコラ楼閣」
「ふふふ……はい……わかり、ました……」
「おい待て」
楼閣のあまりにあんまりな方針にロードが異を唱えるが、楼閣にもカロネにも相手にされなかった。
しかしカロネは気づいている。
もしも支援が間に合わなくても、その責任の所在が「見殺しにしていい」と言った楼閣に帰結することを。もしもカロネが失敗したとしても、それで気負いすぎることは無いと楼閣が暗に言っていることを。
そして、ロードもそれに気づいていて、そのようにツッコミを入れているのだろうと、カロネは思った。
もっともそんな事実は全くなく、ロードはただ抗議していただけなのだが。
《それでは皆さん、準備はよろしいでしょうか?》
そんなやり取りをしていると、どこからともなく抑揚のない声が響く。機械音声だ。
「行くぞ。」
「「「おう!」」」
【
「んじゃ、行くか。」
「ま、かるーくね。」
【
《バトルの始まりです》
そうしてバトルが開幕した。
─────────────────────
「リスカ!【
「りょ。」
始まってすぐ、両チームの距離はジリジリとかなり遅い速度で縮まっていた。
それもそのはず、【
だが、その状態を快く思わない者もいる。
「なぁ楼閣」
「ん?なんだいロードくん?」
「暇」
「しょうがないでしょ。」
チッ、と舌打ちをもらし、ロードは引き下がった。不用意に攻め込むのは悪手だとわかってはいるのだが、退屈で仕方がないと言いたげな表情だった。
「まだなんですか!!まだダメなんですか!!」
「だーめ。もうちょっと後で。」
「ぐぎぎぎぎぎ……」
対して波羅渡は開始早々に飛び出そうとしていたため、楼閣に首根っこを捕まれ、拘束されている。波羅渡は前に出ようと踏ん張るが、襟を掴む楼閣の腕は解けない。
その姿はまるで、走り出そうとするがリードで引き戻される犬のようだった。
「うーん……ま、波羅ちゃんもそろそろ限界だし、ちょっと早いかもだけどやっちゃうか。カフカちゃん、手筈通りよろしく。」
「はーい。グスくんいくよ?【秘めたる】!!」
『さぁ、始めるか。』
そう言ってカフカが【秘めたる力の覚醒】を使った瞬間、リスカと呼ばれた少女が素早い反応を見せた。
「きたっ!!」
「「「【イェーガー】!!」」」「「「【ディーバ!!】」」」
その言葉に反応して、全ギルドメンバーが発動速度【無】のダメージカットカードを使用する。転倒を防ぎ、壊滅させようとやって来たグスタフを逆に刈り取ってやろうという作戦だ。
だが、
「報告!どこに飛んできた?!」
「なっ……!?ギルマス!【
飛んでくるかどうかは別問題、だった。
「……!!ハメられた!!スプリンター!相手との距離を詰めろ!!アタガンは散開!ダメカが切れた途端に中央に攻め込まれるぞ!」
ここまでが約5秒。ここまで対応が遅れてしまったのは、グスタフを見張っていたリスカも瞬時の反応を可能にするために周りに気を配っていたからである。
計画が緻密だったがゆえに破綻した時の対応が脆かった。
「ガッデム!!アタガン守るぞ!」
「【必殺!人型防御壁】作戦実行かよ!最終手段だろ、アレ!!」
「クソがっ!」
それでも【
リーダーが指示を出すと同時にスプリンター使いは全員、タイムラグなしで距離を詰めにかかっていた。陣形を崩すことなく、高耐久のスプリンター達が横一列で迫ってくる様はまさに城壁が近づいてくるようだと錯覚してしまう。
ダメージカットのカード効果はもう切れてしまったが、それでもダメージディーラーは残そうという気迫を、彼らからひしひしと感じることが出来る。
「後ろには行かせんぞ!【
「へぇ、凄い気迫だな。」
【
だが、その声音はとても真面目に言っているようには聞こえなかった。
そしてロードは誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「で、それが?」
「ターリィ・ホー!!【ク ル エ ル ダ ー】ァァァァァァ!!」
『触れたきゃお菓子を持ってきな!』
それと同時に叫び声が聞こえた。スプリンター使い達の左側面からだった。
スプリンター使い達が弾かれたようにそちらを見ると、そこには邪悪な笑みをたたえた男が一人──波羅渡だ。
(やばっ……!!)
彼らは気づいていなかった、向かっていた敵の方に波羅渡がいなかったのを。それもそうだ。誰が30以上の敵がいる所にガンナーが単騎、それも徒歩で突っ込むと考えられるだろうか?
加えて、スプリンター達が壁のように一直線になっていたのもまずかった。波羅渡のクルエルダーでスプリンター達が一気に引き寄せられる。
「やれ、めぐめぐ!!」
『あっはは!50口径に耐えられる?』
一同の体力がガリガリと急速に削られる。
スプリンター達は立ち上がって、なんとかその凶弾から逃れようとするがもう手遅れだった。
《敵を倒しました》《連続で敵を倒しました》《大活躍ですね》《快進撃が止まりません》
一気に7体のスプリンターを処理した波羅渡。しかし彼はそれで満足はしていなかった。
「次だ!行くぞめぐめぐ!!【タイオワ】!HS使え!」
『投下開始ぃ♡こっちこっち〜!あはは!奥の手出しちゃうぞ!』
【タイオワ】で火力を上げてからガトりんMr.2を設置する。火力が増大しているその射線を通過した者はただでは済まないだろう、という威圧のこもった赤い線が戦場に引かれた。
「ギルマスどうしよ?!スプリンターが全員やられちゃった!」
「グスタフは?」
リスカが慌てたようにリーダーに訊ねる。しかしリーダーは冷静に質問を返した。
「え?そんなのどうでも──」
「答えろ!グスタフは?!」
「…………いや、動いてないよ。」
リスカは一度リーダーの質問を却下したものの、リーダーの気迫に押されて現状を確認し直す。
その発言を聞いて、リーダーは大きく頷いた。
「【秘めたる】はもう切れてる。【
リーダーは素早く指示を出す。どれだけ想定外のことが起ころうと、慌てるような事態ではないと行動で示すことで仲間たちに不安が広がらないようにと配慮しての行動だろう。
現にギルドメンバー達は固まって波羅渡の撃破に向かっていた。
「行くぞマルコス!枝投げろ!」
『むん……』
「させるかぁ!!【秘めたる】【レオン】!!」
『そr…ぐわっ!』
「すまん!ダウン取られた!」
「問題ない!敵はミリだぞ!囲いこめ!!」
「キッヒヒ!俺という敵を噛み砕いてみせろ!!」
一気に波羅渡の前方に敵が集結する。敵の射程が波羅渡に届けば瞬時に負けてしまうであろう圧倒的不利のさなかでも波羅渡の笑みは消えない。
「その余裕をすぐに消してやるよ!【アバカ──」
「ボイちゃん行きますよ!【イェーガー】【エレド】!!」
『スベテヲフキトバシマス』
「何っ?!」
まずは一人、と【
いや、正しくは元から近くにドクはいたのだ。ツーマンセルを守っていたのだが、警戒されない一撃を叩き込むためにと波羅渡に言われ、【
もっとも、波羅渡が煽って敵が想定より早く移動したため、完璧に回り込むことは出来なかったのだが。
ドクは手筈通り、集団の中で【eledoll】を放つ。集団の約半分がスタン状態に陥った。
「キハッ!やるじゃねぇか!後で褒めてやるよ。【お母さん】!」
『めぐめぐにおまかせ♡それそれそれそれぇ!』
スタンで躱せない状態で防御をゼロに下げられてからの高火力攻撃。援護がなければ起き上がる暇もなく倒されてしまうだろう。
「くそっ!ガンナー!!」
「させません!ボイちゃん【和太鼓】!」
『セッショクキンシ』
そしてその援護の可能性も、ドクがしっかりとケアしていた。
その様子を見て、離れた場所にいる楼閣が呟いた。
「そろそろ頃合いじゃない?」
「そうだな。行け、鉄砲玉。」
「酷くないですか!?グスくん【テレパス】」
波羅渡の活躍で半分ほど数を減らした【
「なっ……!?おまっ……持ってないんじゃ!?」
『悪いな。』
「ついでに【ヴァルヴァラ】!」
『全開だ!』
「くっ……そがァァァァ!!」
【
「ギルマスっ!臣!援護に──」
「余所見たぁ、いいご身分だなぁ!!【アバカン】!!」
『汚ぇ顔で近づくな!』
背後からの奇襲に気を取られたリスカに、波羅渡が怒号にも似た叫びを上げる。後ろを向いたのが命取りだ。
(くそ……っ!全員やられた……!!せめて、一人だけでも!!)
味方が盾となっていたため、なんとか凶弾を免れた者がいた。目の前では味方が波羅渡とめぐめぐに蹴散らされていた。もう勝ち目は薄いだろう、と男は直感する。
しかし男は諦めない。自身を奮い立たせ、なんとか一矢報いようとする。
「ひゃははは!もっと周りを見ねぇと死ぬぞ!!」
波羅渡がこちらに背を向けて叫ぶ。気づかれてはいない。
(もらった……!)
男は確信した。この距離まで近づけば、例え波羅渡に気づかれても攻撃を躱しようがない。
「よし!アダム!【フル──」
「波羅、お前もな。【フルーク】」
『近寄るなァ!!』
だが、それは援護が来ていなければ、の話だった。
突如横から滑り込んできた白い少女が、アダムより早く攻撃を当てる。
一瞬でも躊躇すれば逆の結果をもたらしていたであろうその攻撃を、軽口混じりに放たれて、彼はなぜだか笑ってしまった。
「ははっ……これは無理だわ。」
『クズどもがァァァ!!』
《バトルが終わりました》
試合結果
【
試合時間:2:32
反省はしていますが後悔はしていません。乱数調整です。
さて、今回の話なのですが……はい。とてつもなく長いです。いつもの分量の倍、長い時の1.5倍で最長です。ワンチャンいろいろ詰め込んだロリ#コンパス最終話より長いかもしれません。そっちもそっちですこぶる長いですが……
今回の話を3000字くらいに出来てたら一日で投稿できていたんですがねぇ……
話は変わりまして、次回バトルじゃない回を書いてから次の試合書いていると、この章の本題と相まってこの章だけ分量がおかしくなってしまうので、次のバトルを取り辞めようかと思っています。
もちろん、「サボるな書け」というご要望があれば書きますが、ダイジェストの方がいいんじゃないかなぁ……とか、そっちをダイジェストにするならその話を2戦目で持ってきて、この話をダイジェストにすれば良かったなぁ……とか考えている今日この頃です。
ほぼ私の愚痴を長々と失礼しました。
次回「半端な饗宴」
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。