そこは広々とした白い大きなステージだった。
5つの白い柱が点々と、しかし規則的に並んでいる以外は何もない、すこし寂しさすら覚える場所だった。
400人で動き回ってもなお余裕がある程の広さのそこに、キャパシティよりもかなり少ない総勢19人と1羽が音もなく現れた。
彼らは青の高台に6人、赤の高台に13人と1羽に分かれて立っていた。
両者の浮かべている表情にさしたる差はなく、どこか気の抜けた、それでいて楽しそうな表情をしている者がほとんどだった。
これから何が始まるのかを理解していないのか、もしくは理解した上でまだ楽しむ余裕があるのか。
《皆様、準備はよろしいでしょうか》
キィと名付けられた機械音声がそう声をかけるまで、両者の間に音は存在していなかった。
両者ともに、ただじっと相手を睨むでもなく見ているだけだった。
キィのその呼び掛けをうけて両チームは静かに頷く。
そして、その時は来た。
《バトルの始まりです》
その声がかかった瞬間、両チーム同時にに高台から飛び降りた。しかし両者ともにすぐに攻め入るわけではない。
その理由はすぐに分かった。
「よぉ、key。久しぶりだな。驚いたよ、まさか三人でこのイベント勝ち上がるなんてな。規格外にも程があんだろ。」
ロードが全体チャット機能で敵チームのkeyに話しかける。ゲーム時代とは異なり、チャットはdiscordのようにボイスチャットになっているので意思疎通が図りやすいとかなり褒めそやされている機能だ。
それでいて定型文のチャット機能は残っている。サイレントの間は言葉を発することができないという仕様変更に対応するための措置だろうか。
話しかけられたkeyは挑発とも取れるロードの一言に返事を返す。
「お前らもだろ、ロリコンの王。100人規模のギルドに6戦中3回当たってんのに勝ち上がってんだぜ?しかもジャンヌの復活無しでだ。お前らだって充分異常だぞ。」
軽い言葉のジャブから戦いを始める両者だったが、互いが互いを褒めているようにしか聞こえない。
それで油断を誘えるほど相手が甘くないのも知っているだろうに、二人はそれを止めない。
「はっはっは、黙れへっぽこ締め出され野郎。」
「言ってくれるじゃねぇか、ロリコンのクセして。」
訂正。両者ともに軽いジャブから入ろうと思っていた訳では無さそうだ。
「ま、睨み合っててもしょうがねぇな。埒が明かねぇ。お前らせいぜい好きに攻めてこいよ。」
「こっちのセリフだ、ロリコンの王。お前の吠え面を初めて拝めるのが今から楽しみだぜ。」
「それこそこっちのセリフだ。ま、お前らの吠え面なんて見飽きてるわけだが。」
二人が声を合わせて「はっはっは」と乾いた笑い声を響かせたところで両者同時にチャットをガチャ切りする。非常に彼ららしい宣戦布告だった。
「さて、そんじゃ今回の確認をちゃちゃっと──」
ロードがそう場をまとめると同時に異変が起こる。
『遊ぼぉよぉ……!』
『カピッ!?』
通話が切れるとほぼ同時にノホタンが【Telepass】で飛んでくる。餌食になったのはvoidollだ。
「なっ!?」「嘘でしょ!?」
これには今までの戦闘において戦略を立ててきたロードも楼閣も予想外だったらしい。さして周囲が早くもなく、低耐久かつ囲まれた際に逆転が難しいヒーローがいきなり敵陣ど真ん中に飛んでくるとはとても考えにくかったためだ。
1:1交換しても人数不利は変わらず、どころか手数が少なくなる手を敵が打ってくるとは、ロードと楼閣には考えられなかった。しかし【
「チッ、voidollか。めぐかリコ持ってければでかかったんだが……まぁ次善か。ノホ!」
『顧みる返り血最高……!』
『クワッ!?』
【家庭用メカの反乱】によってvoidollの体力がガリガリと削られる。耐久がいくら高いとはいえ、【Telepass】のダメージと合わせて耐えられるものではなかった。
《味方が倒されてしまいました》
「チッ、毒殺不可は勿体ないが、とりあえず一人沈めるぞ。波羅!!」
相手にペースを崩されるのは不味いと身をもって知っているロードは、相手に傾いた状況を最初の状態に持っていこうとそう指示を出す。
だが、それは少しだけ遅かった。
「仰せの通りに!めぐめぐ、【クルエルダー】!」
「ノホ!」
『あったま……いったい……』
『触れたきゃお菓子を持ってきな!』
敵陣の中央に居座り欲をかくのが危険だと理解していたレイアは忘れられがちなノホタンのヒーローアクションでリスポーン地点に戻る。
波羅渡の【クルエルダー】は虚しく空を切った。
「クソっ!!すみませんボス!逃がしました!!」
「あぁくそ!乗せられた!……まぁいなくなったのはドクだから一番安いか。」
「そだね。ドクくんは残念だったけどそこは仕方ないよ〜。みんなリラックスリラックス!」
「ひどっ!?鬼畜しかいないのかこのギルドは!!」
「……ふぅ…………はい……!切り替えて、いきましょう……!」
ロードは相手のペースに乗せられた事に少なからず苛立ちを覚えるが、過ぎたことを悔やんで視野が狭くなるのを恐れてか無慈悲にも取れる事をサラリと言う。それに対して楼閣は他のメンバーを宥めるように勤めて明るく、飄々とそんなことを返した。
それを受けてカフカはギルドに鬼畜しかいないと再確認したと言わんばかりの態度をとり、カロネはその真意を理解して深呼吸をすることで自身の混乱を治める。
波羅渡はロードが間違うことなどあるはずがないと言わんばかりにロードの一歩後ろで静かに微笑んでいた。
【
「チッ、アイツら冷静になるのが早すぎんだろ!【
「今までの作戦は、やっぱりそのままじゃ【
どうやらペースを崩されたのは【
「やっぱり、「負けることはありえない」って思ってる大規模な集団じゃないと視野が広いままか。それに、【
「戻ったぞ。でもボイドを倒せたのは良かったんじゃないか?スタンもほぼ心配なくなったし。」
戻ったレイアが地団駄を踏む二人をそう諌める。できたこととできなかったことを明確化し、落ち着こうとしていた。
「……それもそうだな。【テレパス】を見せてるからHSも溜めにくいだろうし、なんにせよ奴らは攻める以外の選択肢がほぼ失われてるってわけだ。」
keyが落ち着きを取り戻してそう言った。PRHSも「まだ【ドラ花】もバレてないしね」と同意する。
かなり冷静になった【
「さて、詰めていくか。」
「うん。真綿で首を絞めるようにゆっくりと、ね。」
ちょうどいい所で切れたので短めですが投稿しました。乱数調整です。
ついにこの戦いが始まってしまいました。この章〆の話です。人数が少ないふたつのギルドの決戦。どちらも奇襲を行っていたために自分たちの手を警戒するのでなかなか攻め入れなければ虚をつきにくい。はてさてどう進むことやら……(天:お前は分かってろよ)
今回の話で私が気に入っているのは嫌味の応酬部分です。書いててとても楽しかった……!
さてここからどう話を進めるか……
次回、暁に舞う
ではでは、今回はこの辺で筆を置かせていただきます。