なぜ、彼なのでしょう?
彼は悲しい目をしていました。
彼は苦しい目をしていました。
いつものおどけた暴走気味な行動も
今はできる気がしない。
「ふざけるなよ!」
誰かが口火を切った。それはそうだ、ここで存在ごと消えてなくなれなどと言われて誰が受け入れられるだろうか?
その誰かの反応は至極真っ当だったとも言えるだろう。
だからなのか、その火は大きくなっていく
「このまま「はいそうですか」では済まされねぇよな」
「もちろん俺らは抵抗するで、拳で」
「いけるか、マルコス」
「準備して、アダム」
「いくぞ、まとい」
プレイヤー達は立ち上がる。
しかし、彼らはその決意が無駄なものだとすぐに知ることになる。
「管理者権限、ヒーロー、DELETE」
ドクがそう呟くと、辺りを埋めつくしていたヒーロー達が格子状のポリゴンになり、砕けて散った。
#コンパスに来てからの相棒を失ったプレイヤー達は、一瞬何が起こったのかが分からずに呆然としていた。
ここから反撃開始だと思っていた矢先、自らの刃である相棒がいなくなったのだから。
【
ただ、彼らの場合は【自らの相棒が消えていないことに】であったが。
全員が戸惑っているなか、ドクは普段の彼からは想像もできないほど冷たく言い放つ。
「自分でかけたとはいえ、やはり世界線を超えて連れてきたオリジナルのプロテクトは強固ですね。」
『ソレハソウデショウ、ハカセ。ヒーロータチハ、アナタガウシナイタクナイトイッテツレテキテ、ケッシテキエナイヨウニ、ハカセデサエモケセナイヨウニプロテクトヲカケタノデスカラ。』
「そうですね、ボイちゃん。けれど、消すと決めた以上はやり遂げますよ。もしも残しておいたら僕はきっと、これから先ずっと、このことを思い出して苦しみ続けるでしょうから。」
ドクは冷たい目をしていた
ドクは悲しい目をしていた
なぜか、というのを全て理解するのは誰にもできないだろう。誰も彼にはなれないのだ。
「おいコラドク、お前、よくも勝手にペラペラペラペラ言ってんな?」
しかし、そんなことなどお構い無しにロードがドクに話しかける。
ロードは怒っていた。それがどのような怒りかは分からない。
けれど、それは世界の完全消去がどうとかいう怒りでも、コクリコと離れることがどうとかいう怒りでもなさそうだった。
「当たり前でしょう?僕はこの世界の創造者で、この世界の
「それが、お前の名前の意味か。」
「はい。そうです。」
ドクは冷たい目でそう言い放つ。その言葉にロードが反応を示すが、その意味は分からない。
ゲームの名前など、何度でも変えることのできる名前など、意味を持って付けるだろうか?
ドクの一人語りはまだ続く。
「ヒーローが、この世界のあなた方の矛となる存在がいる限り、あなた方は何度でも立ち向かってくる。だから僕はヒーローをデリートしました。」
駄々をこねる子供に言い聞かせるように、誰かを諭すようにドクはそう言う。
「腐った林檎を箱ごと捨てるために、必要なことなんです。」
ドクは苦しそうだった。何かを堪えるように、何かから目を背けるように言葉を絞り出す。
けれどもそれは、プレイヤーが納得出来るものではなかった。
だから、
「おいドク、部屋でジメジメジメジメしてたくせに、口だけはいっちょ前だなァ?え?」
彼が、ドクを頭から否定するのだ。
彼が、いの一番に立ち上がるのだ。
ロードは笑顔だったが、彼が隠そうとしていたであろう敵意は隠しきれていなかった。
ロードはそれを知ってか知らずか続ける。
「【腐った林檎は箱ごと捨てなければならない】……かの有名な独裁者、ポル・ポトの言葉だっけか?なんだよ、お前は独裁者にでもなったつもりか?」
「えぇ、もちろん。ここでは全てが僕の手のひらの上なんですよ?そんな僕を独裁者と言わずして、誰を?」
隠しきれていないどころか溢れはじめたロードの敵意を受けて、ドクもまた喧嘩腰で返答する。双方ともに退く気はないらしい。
「まぁ、ドクくんが独裁者かどうか、なんてどうでもいいんだよねぇ。」
その二人の争いの中に楼閣が入り込んでいった。
その足取りは軽く、まるでいつものように二者間の仲裁をするかのようで、当たり前のことをするかのような態度だった。
「正直、ドクくんが
いつもと変わらぬ口調、いつもと変わらぬ態度で楼閣はドクに話しかける。
楼閣は諦念も絶望も抱いていなかった。
「けどさ、それを私たちギルメンに相談しないのってどうなんだい?私たちじゃなくても、信用のある人とかでもいい。私たち全員じゃなくても、ギルマスである私にだけ話してくれても良かったよねぇ?私たちは、そんなに信用がなかったのかい?」
楼閣は睨むように鋭くドクを見つめる。ドクが少しだけたじろいだ。
「……それは──」
「いいよ、なんにも言わなくて。見つけ出してからお説教だからね。」
普段通りに楼閣は緩い言葉を使う。それはどこか、これからも今までと何も変わらないと言外に告げているようだ。
「さぁて、ロードくん?」
「あぁ、乗り込むか。来たいやつは手ぇ上げろ?無理強いはしねぇよ。覚悟がねぇなら来ない方がマシだ。」
そう告げられたプレイヤー達は戸惑う。勝算が見えず、ヒーローがいるプレイヤーはごく一部なのだ。
「key?」
『keyさん……お願いします。』
「わぁってんよ、PR。何としてでも探し出してやる。」
『相棒、俺はいつでもいけるぜ?』
「世界を明け色に染めてやる。」
『血湧き肉躍りチェーンソーが煌めくの……!』
そんな中、【
「なら、俺たちもひと肌脱ぎますか。な、ヒイラギ?」
「当たり前っ!」
『見過ごす訳にはいきませんね。』
『言い訳は聞かないよ!』
【
「だったら俺も出よう。この鍛え上げた筋肉こそ、俺の魔法だ。ウオォォォォ!キミの
『リ、リリカに任せて!』
「俺の【フルカノブラサンバ】の出番だな!サンバのリズムを知ってるかい?」
『ふんっ、貴様の児戯を終わらせてくれる。』
「アタリショックを見せてやるよ…………二つ名は最新機種だけどな。」
『エクストラ突入、だな!』
「……すまない、ルチアーノ。俺は今から、お前の願いを否定する。」
『私に任せろ。報酬は、期待していいんだろう?』
リリカ使いの通称【肉弾列車】と忠臣使いの【ブンブン丸】、アタリ使いの【PS4】、ルチアーノ使いのミカヅキがそれに続いた。
「だったらあたしだって!」
「キャラがいようがいまいが関係ねぇ!人海戦術でアイツの位置あぶりだして、こんな目論見止めてやるよ!」
「全員でかかれば訳ねぇさ!」
次々と立ち上がるキャラクター持ちの勇姿を見て、相棒を失ったプレイヤーたちも立ち上がる。
ヒーローを持たないプレイヤー達もまた、覚悟を決めた。
それを見てもドクは余裕がなさそうないつもの表情ではなかった。
「すごい決意ですね、いつもはあんなに煽りあって貶しまくってるのに。でも、もう遅いです。」
表情は最初から一貫して無表情のままで、なんの感慨もなくプレイヤー達を見ていた。
「私からの話は以上です。部屋に戻っていてください。」
そうドクが言うとプレイヤー達の視点が明転する。プレイヤーが気づいた時、そこはすでにギルドホールだった。
今まで周りにいた人々が消えたことに【
そんな中、ギルドホールの壁に備え付けられたモニターの電源がつく。そこに映っていたのはドクだ。
「誰にも、邪魔はさせません。そこで、黙って見ていてください。」
とても、とても冷たい声音だった。
「ねぇ、陽菜乃」
「……ん?かやちゃんから話しかけてくるなんて珍しいねぇ。どうしたの?」
「……私は、あの人に何を返せるでしょうね?」
「さぁね。」
「そんな無責任な……」
「でも、」
「でも?」
「その時がきたら、絶対に逃さないようにしがみつく。今はそれしか分からないよ。」
「……そうね。その時がきたら、ね。」