だって俺は、
【
モニターでは数多あるバトルステージが崩壊を始め、その数を減らしていく様子が映されていた。
【立体交差のある風景】と【ケルパーズの散歩道】にあった植物は立ち枯れをおこし、すぐ風化を始める。
【グレートウォール】では人口滝が狂ったように水を放出させ、ゴーレムの形が崩れてしまっている。
【けっこいスターパーク】【でらクランクストリート】【光と影のライブステージ】では電子機器類がショートし、あちこちで火の手が上がっている。
【東西たかさん広場】では周りを飛んでいたフグが辺りの建物に墜落し、建物をなぎ倒しても動力が止まらずに地を這い破壊のかぎりをつくしていた。
【ちゅら島リゾート】の海は枯れ果て、リゾートは経営破綻した。
どのステージも思わず目を背けてしまうほどの有様だった。
『おにいちゃん……コクリコこわいよぉ……』
その映像を見てかピリピリしているロードの姿を見てか、コクリコはロードの服の裾を強く握りしめてロードにしがみつく。
その様子を見てロードは、いつものように優しい言葉をかけるでもなく、おどけた様子を見せるでもなく、ただただ険しい表情でコクリコを抱きあげた。
だが、その様子はまるでロードの心がそこではないどこかにあるかのようだ。
「ボス、ギルドホールのドアは全て施錠されています。なんなりとご命令ください。命令をいただければなんでもやります。ドアを蹴り破れ、それだけでいいのです。」
そんなロードを引き止めようとしているのか波羅渡がロードに語りかける。
しかしロードはそれに首を横に振って返した。
「俺たちに今できることは無い。」
「ボス……それでも!」
「うるさい。今は黙ってろ。」
「……Yes,Sir.」
自分の意見を否定するロードに波羅渡はくってかかるがロードはそれを一刀の元切り捨てる。
だが、波羅渡の意見を切り捨てておきながらもロードの表情は諦めたようには見えなかった。
「キィ、いるか?」
ロードが唐突に彼の担当機械音声に話しかける。いるかいないかすらも分からない、ともすれば
楼閣は彼のそんな行動に少なからず驚いていた。
楼閣は機械音声はゲームの世界のしろものであり、ゆえに
《……はい》
だから、まさか返事が来るとは思っていなかったのだ。
ロードはそれが当然のことかのようにキィに続けて尋ねる。
「キィ、
《……お答えできません》
「どうしてだ?」
《
キィは少しだけ申し訳なさそうにそう答えた。
ロードは質問を繰り返す。
「お前は知ってるのか?」
《はい》
「お前だったらそこに行けるのか?」
《はい》
「例えば別のやつ、ベガとかデネブを連れて行くことも可能か?」
《えぇ、もちろん》
そこまで聞いてロードは何かを掴んだかのような顔をした。
そしてそれを確信に変えるためにだろうか、酷く不完全な文を投げかける。
「…………へぇ、そりゃまたどうして?」
《どうして、なのでしょうね?》
キィは少しだけおどけてみせた。とぼけるようなその言い草にロードは聞き出すのを諦める。
「分かった。それじゃ、任せる。」
《お任せ下さい》
そう言ってキィは黙りこくる。姿が見えないので何をしているのかは分からない。
そんなことなど意にも介さずにロードが楼閣に話しかける。
「そういうこった。楼閣、準備しろ。」
「はいはーい。」
それだけの短いやり取りで両者ともに通じ合う。二人はテキパキと何らかの準備を始めていた。
「ロードくん、ガチャとかは?」
「いらん。どうせ使えねぇんだ。」
「……ま、そうだよねぇ。」
「なんの話を、されているんですか?」
そんな二人の様子を見て、カフカが尋ねる。自分たちが置き去りにされている気がして不安だったのだろうか。
その疑問にロードは当然の事のように答える。
「あぁ、ちょっとドクを止めにな。」
ロードも楼閣も準備する手を止めることはなかった。
その様子に少し焦りを抱いたカフカはまた質問を重ねる。
質問をする、と言うより激情をぶつける、と言った方が正確かもしれないが。
「いったいどうやってやるつもりですか!ドアは開かない!ドクさんがどこにいるかも分からない!もう無理ですよ!」
その焦りは無茶をする二人に対してだろうか
それとも、置いていかれることに対してだろうか
「んなわけねぇだろ。」
けれどロードはカフカにそう冷たく言い放つ。準備ができたのか、ロードは手を止めていた。
「なんか手立てがなかったら、こんな準備してねぇだろ?」
「けど……だけど!どうするつもりなんですか!見たでしょう!?ヒーローが消されていくのを!もうあたし達じゃどうしようもないんですよ!!」
カフカは激情のまま叫び散らす。そこには深い絶望と諦念があった。
ロードにはその念はなかったが、何か言いづらそうな事がありそうな表情を浮かべる。
やがて、ロードが言葉を見つけたのか話し始める。
「そこは、言えねぇな。」
「なんでですか!?」
「だって俺は──」
「ロードくん!!」
楼閣が怒鳴った。穏健派を気取る彼にしては珍しい、相手を威圧するような叫びだった。
その叫びにロードは喉まででかかった言葉を押し込める。
「……すまん。準備は?」
「いつでもどうぞ。」
「僕もできてます。」
ロードが楼閣に準備ができたかと聞くと、なぜか波羅渡まで進捗について答えた。今までの話に出ていなかったのに、拒絶されるかもしれないのに、ついて行くつもりなのだろうか。
「……波羅、お前なぁ──」
「お断りします。」
ロードの説教を聞く前に波羅渡がそれを遮って主張する。
「僕は、あなたとの初めてのカスタムであなたに
「…………お前はそういう奴だったな。しょうがねぇ、行くか。」
どうあろうがついて行くという波羅渡の強い意志を見てか、それとも許可しなくても勝手についてくるなら目の届く場所でという考えか、それとも単なるいつもの諦めか、ロードは波羅渡についてくることを許可する。
波羅渡はめぐめぐをチラと見て、覚悟は良いかと言外に尋ねる。めぐめぐはそれにニッと笑い返すことで返事をした。
「キィ、行けるか?」
《いつでも行けます》
キィは短くそう返す。準備はできているらしい。
「んじゃ、サクッと終わらせてしまいにするか。」
「ん。たとえ滅びに繋がっていても、諦めるわけにはいかないからね。」
そう言って二人はギルメンに背を向ける。
ロードは今にも泣き出しそうな表情を浮かべるコクリコに、優しく語りかけた。
「コクリコ、今コクリコはすごく怖い思いをしてるかもしれない。でもね、それは全部
だから
「おやすみ」
ロードはコクリコの額をコツンとつつく。するとコクリコはふらりと揺れたかと思うと一瞬にして眠りに落ちる。その体は地面に打ち付けられる前に紫色のモヤが纏わりふわりと宙に浮く。
それを見届けてから楼閣はロードに声をかける。
「それじゃ、行こっか。」
「あぁ、分かってる。」
二人の後ろ姿からは悲痛な決意が滲んでいるようにさえ見えた。
『………………??』
その日の夜中、ヴィオレッタは目を覚ました。
自身の周りを見渡して得た情報から推察するに、ヴィオレッタは新曲の譜面を書いていたがこんを詰めすぎて寝落ちしてしまったのだろうと察した。
『……………………』
ヴィオレッタはとりあえず何か飲もうとリビングへと向かう。同室のめぐめぐは熟睡していたので起こさないように細心の注意を払っていた。
ヴィオレッタがリビングの前まで来た時、リビングから誰かが話す声がした。
その重苦しい雰囲気はヴィオレッタの足を止めた。
「うーん……いつから気づいてたの?」
扉の隙間から除くとそこには楼閣とロードが対面して話していた。
言葉は自動翻訳がされているからか、遠くで話しているというのに補正効果でかなりはっきりと聞こえる。
「いや、気づいたのはマジでここ最近だよ。なんか怪しいなって思ったんだが、やっぱりか。ここんところお前、おかしかったからな。違うか?」
目的語が曖昧で、ヴィオレッタには何の話かは分からなかったが、そのただならぬ雰囲気にあてられて、ヴィオレッタはその場を離れることを選んだ。
「おっと……私、そんなに変だったかい?まぁ、最近確かに私は変だったかもだけど、」
ただ、楼閣が最後に言った言葉だけが、ヴィオレッタの頭から離れなかった。
「お互い様でしょ?」