ロリ#コンパス   作:乱数調整

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私を助けてくれたあの人は、悲しい目をしていました。
私を助けてくれたあの人は、何かを決意したようです。
だったら、
私が今やるべきは、その恩を返すことなのでしょう。


楼閣の決断

「待ってください……!!」

 

楼閣とロード、それに波羅渡がギルドホールから出ようとした時、カロネが珍しく大きな声を張り上げて3人を引き止めた。

 

「待って……ください…………」

 

「カロネちゃん、どうしたの?」

 

乞い願うカロネを見て楼閣が理由を訊ねる。

楼閣の声音は優しく、その笑みは聖母のようで、楼閣がカロネを心配し、その不安を和らげようとしていることが見てとれた。

同時に、楼閣は自分の意見を聞こうとしておらず、この問題をロードと二人で解決しようとしていることも、カロネは分かってしまった。

 

それでもカロネは決意を口にする。

 

「私も……行かせて、ください……!」

 

「それはダ──」

 

「あなたに救われるのはもう嫌なんです!!」

 

楼閣の否定を食い気味にカロネは楼閣の拒絶を否定する。

カロネの吐露は終わらない。

 

「楼閣さん、は……私を、助けてくださいました……ヒイラギさん達に、誘われた時も……たくさんの、人達に……囲まれた、時も……」

 

でも、と前置きをしてカロネは続けた。

 

「でも……私、は……あなたに、まだ、何も……何も返せていません……!!」

 

「何かを返してもらいたくて、私はキミを救ったわけじゃない。」

 

しかし、カロネの決意を楼閣は拒絶する。

それでも、そこで止まってやれるほどカロネも物分りが良くはないのだ。

 

「分かって、います……でも……!!」

 

「いいや、分かってない。なんにも分かってないよ、カロネちゃん。」

 

「分かってるんです!!」

 

駄々をこねる子供のようにカロネは叫び散らす。その激情は楼閣への怒りか、はたまた恐怖か。

 

「分かって……いるんです…………あなたが、私を……巻き込まない、ように……していることくらい…………あなたが、私を……自己満足、のために……助けたんだ、って……思っていることくらい…………」

 

「なら、どうして?」

 

楼閣が「どうしてついてこようとするのか」と酷く言葉足らずに短く訊ねる。カロネはその言葉にゆっくりと答える。

 

「それ、でも……!私は、あなたに……救われたんです……!あなたが、私を……あの無限暗夜から……助けて、くれたんです……!」

 

カロネは当時のことを思い出したのか、痛みを堪えるように話し続ける。

 

「あなたは……どれだけ、自分が、傷ついても……私を、助けてくれました……!たとえそれが……あなたの、自己満足でも……私はそれに、救われたんです……!あなたが、いなければ……私は今でも……こんなに、幸せな気持ちを、知らなかったでしょう…………」

 

だから、と前置きしてカロネは締めくくる。

 

「今……私が、あなたに……この恩を、返さないで……いつ、返すというんですか……!」

 

カロネは睨むように楼閣を見やる。楼閣の目には、その目には大きな決意と歪んだ覚悟が滲んでいるように映った。

一人で無理はさせない、ダメと言われても押し通ると言わんばかりの迫力をカロネは醸し出していた。

 

「もちろんあたしも行くよ、ギルマス。」

 

楼閣が是とも否とも答える前にカフカが会話に割ってはいる。彼女もまた、楼閣とロードには業を煮やしているのだ。

 

「異論なんて聞かない。言わせてやるもんか。だってこれは、あたし達【孤独者達の宴(ロンリネス)】の問題だから。自分のギルドの問題に口を挟むのをお門違いだなんて言わせないよ。」

 

勝手に話を進められて、挙句に自分は蚊帳の外。どうして受け入れられるだろうかとでも言いたげにカフカは口を挟む。

彼女もまた、頑固者しかいない【孤独者達の宴(ロンリネス)】の一員なのだ。

 

「だから、あたしも行くよ。あたしだってこのギルドに救われたんだ。このギルドだけが、【腐乱の不死(オーバーフロー)】じゃない、そのまんまのあたしを受け入れてくれたんだ。」

 

だから、と前置きしてカフカは自分の主張の結びに入る。

 

「だから、あたしも【孤独者達の宴(ロンリネス)】に、恩を返すんだ。」

 

カフカとカロネが楼閣を鋭い眼光で見つめる。二人とも、覚悟ならとっくにできているとでも言いたげに、楼閣を見つめる。

 

「ずいぶんと硬い決心なんだね?」

 

「あたり、まえです……!」

 

「もちろん!」

 

楼閣の質問に間髪入れずに答えた二人を見て、楼閣はため息をひとつついて言った。

 

「いいよ、おいで。」

 

「……!はい…………はい……!」

 

「了解です〜!やっぱりあのヒキニートにガツンと言ってやらないとですよね〜!」

 

楼閣の諦めにも似たその態度に二人は心底嬉しそうに返事をした。

楼閣はそんな浮かれている二人をたしなめるように続ける。

 

「ただし、準備はしっかりしてかないとね?長丁場になるかもしれないからご飯とかも持っていった方がいいんじゃないかな?」

 

「おい楼閣、ピクニックじゃねぇんだぞ。」

 

いつもの飄々とした調子で話を進める楼閣にロードが苦言を呈した。楼閣はそれを盛大に無視して続ける。

 

「ほら!二人とも、時間は有限、余裕はないよ。早く部屋に行って準備しなよ?」

 

「はい……!急ぎます…………!」

 

「グスくんいっくよ〜!」

 

そう言って二人はそそくさと自室へと向かった。

2人の姿が完全に部屋に消えたのを確認してから楼閣はロードの方へと向き直り言う。

 

「さぁ、行こっか?」

 

「はぁ!?」

 

楼閣のその一言にロードは驚愕を隠せなかった。

 

あれほど納得したようなそぶりで、あれほど二人に諭しておいて、

あれほど連れていくという態度をとって、置いていくと言ったのだ。

納得など、できるはずもないだろう。

 

そんなロードにため息をついて楼閣は語る。

 

「ロードくん、彼女たちは違うんだよ?」

 

「……お前は間違っちゃいねぇよ。でもなぁ……」

 

彼らのやり取りはいつも目的語が足りない。あまり人に聞かれたくない話をする時はいつもそうだ。

納得がいかなさそうに唸るロードに楼閣はピシャリと言い放つ。

 

「波羅ちゃんは置いてったら二人を連れてどうにかこっちに来そうだから連れてくけど、あとはダメ。波羅ちゃんは狂信者だからロードくんのことならなんでも納得するでしょ?」

 

「何のお話をされているんですか?」

 

二人の会話に波羅渡が割って入った。自分だけ蚊帳の外というのは彼も気に食わないらしい。

 

「波羅ちゃんはまだ知らなくていいの。ホントは波羅ちゃんにも着いてきてほしくはないんだけどねぇ。」

 

チラリと波羅渡を見ながら楼閣はそう言う。それは言外にそれ以上口を挟むなら置いていくと脅しをかけているようだった。

それを受けて波羅渡は肩を竦め、それ以上は聞かないことを態度で表した。

 

「いいのか?」

 

ロードが短く訊ねる。

 

「もちろん。」

 

楼閣もまた短く答えた。

 

「なら、俺はなんも言わねぇ。キィ?」

 

《準備はできていますが、一度機を逃すと二度目はありませんのでご注意を》

 

ロードの問いかけにキィは注意事項までを含めて手早く返す。

ロードはそれを聞いて自嘲気味に笑った。

 

「そいつは好都合だな。」

 

《……えぇ、とても》

 

なぜだかキィは少しだけ悲しそうな声音をしていた。だから、だろうかキィは少しだけ、楼閣の願いが損なわれない程度だけギルドホールの設定に手を加えた。

 

彼らがあの二人の幼馴染達を置いていく理由が、二人に伝わるように。

 

「それじゃ、行くよ。……カッコつけてもあんまりカッコよくないんだけどねぇ。」

 

「かっこつけろよ楼閣、かっこいいぞ。」

 

「何があろうと、お二人の傍に。」

 

そうして三人は出ていった。

 

キィが勝手に書き記し残した楼閣の手紙を置いて、出ていった。




「ギルマス!準備終わった!」

「いつでも……行けます……!!」

カフカとカロネが息巻き扉を破壊するかのごとき勢いで飛び出してくる。

しかし、開けた扉の先には誰もいなかった。

「……ギルマス?」

「………………?」

二人とも首をかしげて三人を必死に探すが三人はどこにもいない。
彼女らが見つけることができたのはたった一枚の紙切れだけだった。

二人は何かトラブルが起き、楼閣達が先に行ってしまったのか、そしてこの紙に自分たちがどうすれば良いかが書いてあるのかと思い、二人でその紙を開く。

彼女らの予想通り、紙には楼閣からのメッセージが書かれていた。

ただ、それは二人をギルドホールに置いていく、という内容だったが。

「……なにこれ。なんなのこれ!!」

カフカは叫ぶ。怒りをぶつける当人らがいなくなったためか何かに当たり散らすように喚く。

「あたし達だってギルメンなのに!あたし達だって当事者なのに!」

「………………」

喚き散らすカフカとは対照的に、カロネは自分の言葉が伝わってなかったことを静かに嘆く。

一通りカフカが喚いたあと、カフカは寝転がって天を仰ぎ、カロネは小さく座り込んで膝に顔を埋めながら静かになった。
二人の怒り方は対照的だったが、今考えていることは二人とも同じだった。

「また、守られちゃったじゃん……」

「また……守られてます……」
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