ロリ#コンパス   作:乱数調整

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僕を見捨てないでいてくれたあの人は、
今、悲痛な決意を決めている。
僕を理解してくれたあの人は、
大きなものに挑もうとしている。
だったら、
俺が今、その恩を返さないでいつ返すと言うのだろう?


ひと欠片の理性

何も無い、白い部屋があった。

その部屋はトレーニングルームと似たような構造をしていたが、壁の存在も、遠近感も、何もかもがあったようなものではない。

もちろんドアも窓もなく、どこから入れば良いのかも分からないような空間だ。

 

その部屋の中に、GM(ゲームマスター)ことドクとvoidollがいた。

 

「ボイちゃん、ステージの方は?」

 

『ハチワリホドオエテイマス。デスガ、イクツカノステージニロテンブロガテンザイシテオリ、ショリニコマッテイルトコロデス。』

 

「そうですか。とりあえずは上々、といったところですね。そのままお願いします。僕は今、少し手が離せないので。」

 

『ハイ。ショウチシマシタ。』

 

ドクがvoidollとの話を切り上げた時、彼は見つけた。かなり離れたところにいるロード、楼閣、波羅渡の三人を。

 

「よぉ、ドク。ずいぶんとゴキゲンな部屋でたそがれてんなおい。」

 

「…………なぜ、と、どうやって、を訊ねるというのは無粋でしょうか?」

 

「あぁ。答えねぇよ。」

 

両者ともに微笑むような顔をしていたが、目だけは妙に据わっていた。

 

「お前が煽られたからか?それともタイミング的に即死?」

 

「いいえ、どちらでも。」

 

ロードがなぜ今このタイミングでドクが一大決心をしたのかを訊ねる。ドクにもそれは伝わっていたようで、ドクは緩慢に首を振りながら答えた。

 

「なら?」

 

「……いいでしょう。」

 

ロードはその先をドクに求める。ドクもそれを了承したかのような返事をし、言葉を続ける。

 

「理由その1。今このタイミングで決めたのは大規模なイベントが終わったからです。それをひとつの節目として、僕は最終決定をした。

 

「理由その2。身内でも日に日に煽りが激化していったから。味方が、それも一緒に暮らし、助け合わなくてはいけないギルドメンバー同士での争いが激化してどうしようもなくなったから、僕はこの最終決定をくだした。

 

「理由その3。ある一定のプレイヤー達が他のプレイヤー達に奴隷のように扱われていたから。ここでは皆さん平等に半強制的に連れてこられた被害者なのに、一部でそのようなことがまかり通っていたから、僕はそんな人たちを消すことにした。」

 

そこまで一息にまくし立てた後にそして、と前置いてドクは続ける。

 

「そして理由その4。全てあなたのせいです、ロードさん。あなたがヒーローと絆を深め、不可能だと思われていた悪魔との契約を果たした。太古より行ってはならないとされ、今では方法さえ消え失せた悪魔との契約を、あなたがしてしまったからです。」

 

ドクは冷たい目でそう言ったあと、少しだけ表情を柔げて言った。

 

「なんちゃって。理由はどれでも好きなのを選んでください。どれも真実かもしれませんし、あるいはどれも虚実かもしれません。どうせ誰にも僕の苦悩なんて分からないんです。それならあなたが納得できる理由を私の理由にしてください。」

 

ドクは微笑んでいたが、そこには確かな拒絶が浮かんでいた。

熱くなりかねない波羅渡とロードを制して楼閣が別のことを訊ねる。

 

「んじゃ、私からも一つ質問。ドクくんはどこで#コンパスを管理してたんだい?」

 

「自室からです。【孤独者達の宴(ロンリネス)】のギルドホールの中に設えられた僕の部屋で、小型の管理機とボイちゃんを使って管理していました。」

 

楼閣の質問にドクはさらりと答える。楼閣はそれに特に驚くことも無く淡々と別の質問を投げかける。

 

「管理って言うけど、どのくらいのことができたの?」

 

「あらゆる個人の自由を損害しない箇所に設置された監視カメラの映像を見たり、掲示板に書き込んだり、バグを修正したり……多岐に渡ります。」

 

「へぇ。カロネちゃんの件、ロードくんから話を聞いてさすがに情報が早すぎると思ったけど、ドクくんだから早かったわけだ。」

 

「そうなりますね。」

 

ドクの返答を聞いてロードも今までの様々なことに納得がいったのか小さく頷いていた。

 

楼閣の追求は終わらない。

 

「なら、私から聞きたいのは次で最後だよ。もしも、もしもの話だけど、ドクくんの部屋の管理機が止まるようなことがあったら?」

 

「その時は緊急事態です。僕ごとこの世界を消して終わります。もっとも、そのようなことは僕が死なない限りはないと思っていたからこその項目だったのですが。」

 

「ふぅん?それで毎回あんなに焦ってたんだ。」

 

「えぇ。僕の安全が保証されませんから。」

 

ドクが苦笑しながら楼閣に返す。

それを後目に楼閣は「何か言うでしょ?」と言いたげにロードを見る。ロードも少し頭が冷えたのか、そんな楼閣の態度に呆れながらもドクに再び向き合う。

 

「お前、バカだろ。」

 

「えぇ、そうかも……ってはい!?唐突な罵倒ですか!?」

 

ロードはなんの脈絡もなくドクを罵倒する。案の定ドクの困惑は激しかった。

 

「結局、お前の言ってることって「ぼくちんあおりゃれた!腹がたつから全員通報してやりゅ!ぼくちんの怒りをおもいちれ〜!!ぼくちんはげーむますたぁなんだぞ!ものすごいんだぞ〜!!」ってだけだろ?あっという間にすぐに沸いてんじゃねぇか。ティファールか。」

 

「なんなんですか急に!僕の気持ちも知らないくせに!!」

 

ロードにボロクソに言われてドクは怒りを顕にする。お前たちは自分の苦悩を知らないのによくもそんなことが言えるなと、なぜそのような態度を取るのかと。

 

「ならお前は知ってんのかよ。」

 

そんなドクにロードは腹に響くような低い声で訊ねた。

 

「お前は俺たちプレイヤー……いや、俺と楼閣、波羅渡とかでもいい。一番身近にいた【孤独者達の宴(ロンリネス)】のメンバーだけでも、プレイヤーの気持ち、分かってんのか?」

 

そう言うお前の方こそ、一番近くにいた自分たちの気持ちを知っているのかと、ドクに訊ねた。

 

「……知っていますよ。どうせ「帰りたい」とか「家族に会いたい」でしょう?あなたやカフカさんに限っては「ヒーローと離れたくない」もあるかもしれませんね。あなたはコクリコットが大好きですから。コクリコットを娘だと言っているんでしょう?」

 

ドクは熱くなっていたことを自覚し、少しだけ間をとって冷静になってからそう返した。

その目は元の冷めた目をしていた。

 

「だからお前はダメなんだよタコ。GM(ゲームマスター)名乗るならもっと周りを見てみろよ。」

 

「そういうあなた達こそ。ろくに周りに目を向けていなかったでしょう?」

 

ドクは話にならない、と言った様子をしていた。そのままドクは作業に戻ったようでロードたちの話を聞くつもりはないようだ。

 

「話にならないねぇ。」

 

「なら、精神分析を拳で代用判定しか無さそうだな。」

 

その様子を見たロードと楼閣も腹を決めたらしい。なにやら神妙な面持ちでヒーローを引き連れてドクの方へと──

 

「っ!!めぐめぐ!!」

 

『腸をぶちまけろぉ!!』

 

【…………!?】

 

向かい始めたその時、波羅渡が何かに気づいてめぐめぐに攻撃を命じる。狙ったのはドクではなくロードの背後だった。

 

「嘘だろオイ……!」

 

「行かせねぇぞってか?」

 

「ふぅん?ろくに周りを見てないのはこっちって、そういう意味かい。」

 

波羅渡が視線を投げた先にいたのは、ロードの首を取ろうと忍び寄り、めぐめぐの凶弾に撃ち抜かれて風穴の空いた【切り裂き魔ジャック】

 

そして虚ろな目をしたカードキャラたちだった。

 

ロードたちはいつの間にか、カードキャラ達に囲まれていた。




まだだ

まだ僕は、あなたになにも返せてはいない

それができるまでは、

それまではせめて、

いつもあなたのそばに
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