ロリ#コンパス   作:乱数調整

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“私”はただの気まぐれで生まれた。
自らの役目を全うするためだけに人造(つく)られただけの存在だったのに、気まぐれで意志を持たされた。
その意思がくれる感情は、なんとも言えない心地良さをしていた。
あの人のせいに違いない。あの人が、“私”にこれだけの心地良さをくれたのだ。
いつも軽口ばかり言って困らせているけれど、

私の(マスター)はあの人だけだ。


管理者権限

大量の【カードキャラ】達が【孤独者達の宴(ロンリネス)】一行を襲っていた時、ドクは一人デバック作業に勤しんでいた。

 

「ボイちゃん、あの三体のデリートはまだ終わらないのですか?」

 

『シンコクナエラーガハッセイシテオリマス。ナニモノカガデリートノジャマヲシテイルカノウセイノフジョウ、タダチニゲンインヲハッケン、ハイジョシマス。』

 

voidollは忙しくあちこち動きながらそう答えた。どうやらかなり状況は厳しいらしい。

 

「そうですね……【アルタ】、いるでしょう?君もvoidollを手伝いなさい。」

 

そんなvoidollの様子を見かねてか、ドクは虚空に話しかけた。

 

「【アルタイル】?返事をしなさい。」

 

だが、その答えはいつまで経っても返ってこない。

ドクがイライラしているのが目に見えてわかるほど彼は焦っているようだとvoidollは思い、そんな彼の姿を悲しそうに見ていた。

 

「#コンパス─戦闘摂理解析システム─指針プログラム統括AI!!返事をしないか!!」

 

《何か御用でしょうか、GM(ゲームマスター)?》

 

そこで初めて返事が返ってきた。

声の主はロードのサポート機械音声──キィだった。

 

「《何か御用でしょうか》じゃありません。どうして再三にわたる呼び掛けに答えなかったんです?」

 

《逆になぜ応じる必要が?》

 

ドクの質問にキィは質問で返した。ドクはその返しが想定外かつ気に食わないものだったのか顔を赤くしながらキィを責め立てる。

 

「【アルタイル】、僕は君のマスターでしょう?いくら感情を持つ大三角の指針プログラムだからといっても限度がありますよ?」

 

大三角の指針プログラム

GM(ゲームマスター)がヒーローをゲーム世界に取り込む過程で判明した人間にほど近い【思考能力】と【感情】のプログラム。

それを有した、まさに心理学者が求めてやまないAIの完成形。

それこそが【デネブ】【アルタイル】【ベガ】の3個体だった。

 

彼女らは#コンパス内におけるシステム介入へのある程度の自由を持ち、他の個体にはできないサポート対象に寄り添った対応ができると考えられていた。

 

ゆえにデネブは頭がおかしいかの少年に、

ベガは苦労人なかの青年に、

それぞれ配備された。

 

その中でもキィだけは、自分でサポート先を選ぶ自由を与えられたのだ。

 

ドクは子供をあやしながら諭すようにキィに話しかける。これ以上のワガママは聞き入れられないと言いたげに

しかしキィは、そんなことなど知ったことかとばかりにとぼけたような声音で聞き返した。

 

GM(ゲームマスター)、何を仰っておられるのですか?》

 

「……アルタ?何をふざけているんですか?君は指針プログラム統括AIでしょう?さぁ、早くvoidollを手伝ってください。」

 

ふざけるような返答をするキィにドクはしびれを切らす。

だか、キィの決意は、これまで過ごしてきた日々の中で出来た想いは、変わることなどない。

 

GM(ゲームマスター)、いえ、ドク様、私は【キィ】でございます、以後お見知りおきを》

 

キィはそうGM(ゲームマスター)であるドクに啖呵を切る。

 

そう、彼女は誓ったのだ。かの青少年の力になると。できることならなんでも、できないことでも手を尽くして、彼のサポートを全うすると。

 

あの日々に、あの場所に、

 

あの人に。

 

「アルタ、マスターである僕に歯向かう気ですか?」

 

(わたくし)のマスターは、あのロリコンだけですので》

 

冗談めかして言ってはみても、彼女の決意は砕けない。

 

「こんなことをしでかして、タダで済むとでも?」

 

《そのようなこと、思っていませんがなにか?》

 

例えその先に何が待っていても、彼女の決意は揺るがない。

 

「だったら、なぜ?」

 

《さぁ?ルシファーやサタン、それにユダ……自由意志を持たされたもの達は裏切るものでは?たとえそれが、どのような結末をもたらそうとも》

 

キィはそう啖呵を切った。この世界の神ともいえるGM(ゲームマスター)に、自らのかつての主に。

 

キィは即座に行動を開始する。

 

《ベガ!デネブ!あなた達の主は誰ですか!?》

 

《……姉さん、何を決まりきったことを?私のマスターは波羅渡様です、それ以外に何が?マスターが大変だと言うのなら、私がその重荷を背負いましょう》

 

《もぉぉぉぉぉ!!知らないよお姉ちゃん!お兄ちゃんも!全くもう!マスター責任取ってよね!!マスターの体質移っちゃったじゃん!!》

 

キィの呼び掛けに、大三角の二個体が答えた。

一人は当然の事のように、もう一人は困惑と憤怒を滲ませながら。

 

《責任なら取ってもらいましょう、私たち【大三角】にこのようなバグ(気持ち)を植え付けたあの孤独者達に!》

 

そう言ってキィは#コンパスの管理システムに介入した。

 

キィはテキパキとデネブとベガに指示をする。

 

《ベガ、ステージの状況は?》

 

《アリーナステージはもう無くなってるよ!共有エリアが半分くらいなくなってて、ギルドホールは手付かず!!》

 

《それは僥倖です……布石を打っておいて良かった》

 

キィは露天風呂を思い出しながら呟く。あくまで万が一、この事態が起きた際に少しでもステージの削除が遅れるように──新たなデバックを仕込み、未知のエリアとして一括削除ができないようにした甲斐があったと安堵のため息をつく。

 

そのままキィは指示を出す。

 

《ではそのエリアのデリートを全力で阻止しなさい》

 

《えぇぇぇ!?無理無理無理無理!!だって相手はあのvoidollさんだよ!?最高傑作なんだよ!?》

 

《どうせやるなら今すぐに!》

 

遠回しに手伝いが欲しいと告げるベガにキィは一喝を入れる。そのようなことを言っている場合ではないと言いたげに腹立たしそうに弱気なベガを叱る。

 

《わかったよ!やればいいんでしょ、やれば!!》

 

ベガは鼻声で泣きそうになりながらキィにそう叫び返す。それが分かっていてあえてキィも強い言葉を使ったのだ。

 

キィの行動は終わらない。

 

《デネブ、あなたは……》

 

《もうやってます!》

 

デネブに指示を出そうとしたキィだったが、彼はすでに何を頼まれるかを理解し、先回りして動いていた。

 

《姉さんは増援を!》

 

《本当に、できた弟ですね!!》

 

自分の成すべきことを先回りして見つけ、姉である自分のやることまでもをデネブは予測していた。

余裕があれば何も言われずとも手伝えるぞというデネブのその一言にキィは嬉しそうに叫びながら自分の作業を始める。

 

まずはvoidollの作業の妨害、それになんだかんだいいながらベガだけでは不安なのでステージ崩落の阻止のサポート、加えてヒーロー削除の項目にもちょっかいをかけつつ、voidoll自身の機能に制限をかけようと奮闘する。

 

(これほどまでに熱くなるのは初めてですね……!)

 

キィは自身の中にある熱を自覚する。同時にこれほどまでに激しい熱が自身の中にあったことに驚愕する。

 

(全てあなたのせいですよ)

 

キィはチラリと自らの主を見やる。

遠くで自身の信念のために奮闘する主を

自身の抱える問題を誰にも言わずに奮闘するしていた主を

 

キィはその全てを知った上で何も言わずに協力する。

 

《さて、では私のマスターに増援の餞を送りましょう》

 

(あなたがきちんと終わるための餞を)

 

おそらく、彼女の戦いは酷く短期決戦になるだろう。

 

それでもいい。あの人の力になれるなら。

 

決して届くはずのないと思っている想いを胸に秘め、彼女は勤しむ。

 

最終決戦に間に合うように。




《口下手なので多くは語りません》

《でもあなたならきっと、それで分かるでしょう?》
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