意味が無いと理性では分かっているが、本能がそれを止めない。
……アイツが呼んでる。
要件は分かってる。
それじゃ、喧嘩を始めるか。
一番最初のバトル
そこでして以来の喧嘩を。
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!」
誰かが暴れている。感情のままに、激情のままに。
「ひっでぇなぁ……こんなひでぇ暴れ方すんの誰だよ。」
俺はそう独り言をこぼすが、その答えはもう分かっている。
アレは俺だ。
すげぇベタな答えではあるんだが、なるほど、人間信じられないほどキレると案外冷静に物事を見る視点を得るらしい。
まぁ、俺はあそこに介入できんわけだが。
わかりやすく言うと、映画を見てるようなもんだ。真っ暗な場所で、視点だけが四角く切り取られたみたいに動いている。
俺の話なのに、俺の知らない物語で、俺の介入しえない物語がそこにはあった。
『ずいぶんと冷静だなァ?』
そんなことを考えていると、どこからか聞き覚えのある声がした。今までずっと頭の中だけで響いていた声だ。
「セナか?」
『あァ、そうだ……酷い有り様だなァ?』
セナが俺にそう言った。
何についてか、なんて聞くまでもない。
「そうだな。」
『……?ヒーローが消えたのに、なぜ僕がいるのかは聞かなくていいのかァ?』
ただ一言だけを返す俺に、セナは不思議そうにそう訊ねてくる。
コイツは自分で気づいていて、俺が気づいていないか失意の底にいて投げやりになってるかだと思ってるんだろう。
違うさ。
そんな幸せなもんじゃあない。
「知ってるからな。俺も楼閣も、そっち側だよ。」
『そうか。』
セナそれだけ答えた。
暴れる俺の視界とそこから入る音を背景に、俺とセナの間に穏やかな時間が流れる。
『守れなかった、なァ?』
ポツリとセナが悔いるように言う。
「そうだな。」
だから俺も、多くは語らなかった。
ただ、それがまずかったらしい。
『「そうだな」だと!?それで全てを済ませるつもりか!!それで全てを、あの子の未来もろとも全てを諦めるつもりかァ!!』
セナが情動に駆られる。ここまで激しい感情の奔流を、少なくとも俺は見たことがなかった。
セナの激情は留まるところを知らない。
『あの子を守ると言った!あの子の力になると誓った!!お前と僕の関係はそうだったはずだァ!!なのに今、仕方がないからと諦めるのかァ!?お前とは同じ志を持つもの同士だと思っていたが、とんだ見当違いだったようだなァ!!』
ざわり、ざわりと辺りが流動を始める。
『お前は自分が何を言ってるのか分かっているのかァ!?あの子を守りたいと、あの子の力になりたいと言っていたお前がァ!!他ならぬお前がそれをどうでもいいと──』
「どうでもいい訳ねぇだろうが!!」
大きな声にセナが驚く。
驚いた。
俺はまだ、冷静だと思ってたから。
「どうでもいいわけねぇだろ!あの子はなんにも知らないんだよ!どこまでも白くて、白無垢で、白々しい。家族がいないことなんて、ちょっと見ればわかるはずなのに、あの子は兄じゃない俺の事を【お兄ちゃん】だって言ってんだよ!!」
ダメだ、それ以上は。
誰にも言わないように、ひっそりと胸に秘めていたのに。
こんな所で吐露するわけにはいかない。
「この意味がお前に分かるか!?分かんねぇよなぁ!?俺の中にいないアニキの幻影を見てるんだよ!!そんな状態のあの子を、放っておけるわけがないだろうが!!」
『だったらどうして諦めた!?』
「仕方ねぇだろうが!!」
ダメだ、止まれない。セナの激情に煽られるように俺も高ぶっていく。
だったら、全部吐き出してやろうじゃねぇか。
「俺はあそこには行けないんだよ!今お前と話してる俺が何なのかは知らねぇけど、俺は今、あのスクリーンの向こうで暴れてんだよ!!俺じゃアイツを止められねぇんだよ!!」
『………………』
「分かるか?なぁ!?今すぐにでもコクリコを助けに行きてぇよ!!けど、行けねぇんだよ!向こうの俺に任せるしかねぇんだよ!」
『だったら!!』
俺が今抱えていた葛藤を全て吐き出して、無力感に苛まれた時、セナが俺に怒鳴るように言った。
セナは冷静になっているつもりだろうか?少し苛立ち混じりに俺に言う。
『僕にお前の身体をよこせ。お前の方が上手くやれるからと契約をしていたが、どうやら違ったらしいなァ?だったら最初に言ったように、僕の好きにさせてもらう。』
セナが死刑宣告のように俺に言い放った。
契約?あぁ、最初のバトルでやったあれのことか。まだ有効だったんだな。
でも、俺は今さらなにもできねぇよ。現状どうしようもねぇんだ。
「あぁ、かまわ──
構わない
そう言いかけた時、急に視界が明転する。
目が見えない。順応が酷く遅く感じられる。
その中で、声だけが響いた。
【盟友!戻ってくるのだ、盟友!!】
「ぶれどら……?」
頼もしい友人の声が聞こえた。なんだか焦っているらしい。
【その力に身を任せるでない!身を滅ぼすぞ!!】
「ぶれどら、」
【管理してやろうなぞ以ての外よ!逆に呑まれるぞ!!】
「ぶれどらァ!!」
俺はぶれどらに叫び返した。ぶれどらは一瞬たじろぐ。
「それでも俺はやらなきゃなんねぇ。なんなきゃどうにもならねぇ所まで来てるんだ。悪魔の力を借りてでも、この身を売り払ってでも、やんなきゃなんねぇんだよ。」
やっと目が見えてきた。ぶれどらは怒ったような、困惑したような顔をしている。
ぶれどらがその顔のまま俺に訊ねた。
【あの娘子は、コクリコ殿はどうするのだ!?】
「どうでもいいんだよ!!」
ぶれどらはもちろん、防衛線を守ってくれている波羅と楼閣も、全員が息を呑む音がした。
【……盟友、貴様本気で言っておるのか?】
「あぁ、本気だよ。だって、どうせ俺は、偽物だから。俺は、あの子の【おにいちゃん】には、なれないんだから。」
ぶれどらが剣呑な目を向けるが俺はたじろがず、自分の考えを吐露する。
空虚な俺の、虚ろな答えを。
【だから諦めるというのか!?貴様はそんなにも諦めの良い人間であったというのか、我が盟友!!】
「んなわけねぇだろうが!!」
怒鳴るぶれどらに俺は感情的に怒鳴り散らす。
「俺がいくら偽物だからって、あの子の本物を諦められるはずがねぇんだよ!!カードが現実化するなら、あの子の家族だっているんだ!!それを叶えるためなら、俺は悪魔にだって、神様にだって喧嘩を売ってやるよ!!」
そう、諦められるわけがない。いくら俺が偽物だろうと、
たとえ、コクリコが覚えていなくても、全然違う思い出になっていたとしても。
【だったら!!】
ぶれどらが俺よりも声を荒らげて俺に言う。
【救い出すのが貴殿でなくてどうする、我が盟友よ!?】
「…………は?」
【「は?」じゃと?笑止千万!!貴殿がいま語ったのは貴殿の決意であろうが!!なぜ貴殿の決意を別の者が果たさねばならぬ!?天使殿のためなら盟友は神にだって喧嘩を売る所存なのであろう!?であれば、貴様が貴様の決意を果たさずして、何が兄だ、何が保護者だ!!決意をするなら最後まで押し通してみせよ、我が盟友!!】
ぶれどらがそう叫んだ。それは絶叫とも咆哮とも言える叫びだった。
「……クカハッ!!カハッ!ハッハッハッハッハ!!ハーッハッハッハッハ!!」
俺は笑っていた。なぜかは分からない。
だけど、ぶれどらのその言葉は俺の胸に刺さっている。
なんだこれ、すげぇ痛い。
【盟友?】
「確かにそうだ。」
突然笑いだした俺をぶれどらが心配するが、俺はもう大丈夫だ。
もう忘れないよ。この決意を、この痛みを。
「なぁぶれどら、くっそ厳しい頼みなんだけどさ。」
【なんだ?】
ぶれどらが俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。
その真摯な態度に、俺も応えなければ。
彼の盟友であるために。
「俺さ、今からセナと喧嘩してくるわ。んで、アイツの力全部分捕ってくる。」
【盟ゆ──】
「それで!……それで、俺の願いを、この誓いを、他ならぬ俺の手で果たしてくるわ。」
クシャッと笑いながら俺は言う。
ちゃんと俺は笑えているだろうか?
【随分と硬い決心なのだな?】
ぶれどらがこっちをじっと見ている。
その盟友は、優しい目をしていた。
「あぁ、やってやるよ。あの子の
【自らの意見を曲げぬところ、いつになっても変わらぬな。ゆくがよい、我が盟友よ!!貴様の背中は我が守ってくれようぞ!!】
ぶれどらが強く背中を押してくれた。
本当に、本当に俺の【盟友】は頼もしい。
「世話、かけるな。」
【気に病むでないぞ。】
『とんだ邪魔が入ったなァ?』
頭の中でセナが話しかけてきた。
けど、俺の決意はさっきまでのものとは違う。
お前になんて頼ってやるものか。
『決心はついたか?』
あぁ、やってやるよ。共闘は終わりだ、セナ。
寂しくて悲しい蠱毒の時間だ。
憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い